第164話 捕縛されるペイモン
「樹里……。ツッコミにしてはソレは激しいんじゃないか?」
俺は握り拳で殴りかかってきた樹里のパンチを、ヒラリと避ける。
そのせいでバランスを失いかけた樹里がたたらを踏む。
「わっとっと……」
「ちょっとお! こういうのは避けないのがお約束でしょ!!」
そして訳分からない理論を振りかざしてくる。
「そんなお約束など知らん」
もしかしたら樹里は関西の方の出身なのかもしれない。
あちらにはどつき漫才というものがあると聞く。
きっと樹里もそのノリだったんだろう。
「あの……、彼らは無礼を働いているのではなく、ペイモン様を抑えてくれているんです!」
俺と樹里が関係ないことを話していると、ペイモンの護衛がフォローを入れてくる。
影が薄かったが、先ほどプリンで買収した成果は出たようだ。
「なんだと! どういう事だ?」
それから護衛が兵士の指揮をしている一番偉そうな鬼に、先ほどの顛末を話し始める。
「――つまり、ペイモン様は奴らに操られた状態だと?」
「はい。今もあの男が抑えていなければ、すぐにでも暴れだすかと……」
「……分かった。心苦しいが、ペイモン様には一度暴れださないように枷をつけさせて頂く」
状況を理解した偉そうな鬼が、周りの兵士に指示を出していく。
その指示に従い、兵士たちは俺が足蹴にしているペイモンの手足を縛りつけていった。
「これでいいはずだ! さあ、その汚い足を除けろ!」
兵士の物言いに一瞬靴裏を舐めさせてやろうかとも思ったが、ここは大人しく引き下がる。
「ウガアアァアァァァッ!!」
その途端、手足の縄を強引に振りほどき、ペイモンはそれを成した兵士へと襲い掛かる。
服従状態にあるペイモンは、先ほどの魔民族の男の命令を頑なに遂行しようとしていた。
「ペイモン様、おち、落ち着かれよ!」
さっきの偉そうな鬼が慌てふためいている。
その声を聞いたペイモンは、次にその鬼をターゲットにしたようだ。
体内で魔力が活発化していくのを感じると同時に、魔法の詠唱が始まった。
「天の怒り、一つ所に集いて我に歯向い――」
「マズイ! ペイモン様は銀鬼なのだぞ! 魔法を使われては……」
とか言ってる間にも、ペイモンは魔法の詠唱を続けていく。
俺も初めて見る魔法だから、詠唱がどこまで続くのかは分からない。
……そろそろ止めておくか。
「はい、そこまで」
俺は再びペイモンを地面に組み伏せ、足蹴にして魔法の詠唱を強引に止める。
だが発動間近になっていた魔法が暴発したようで、俺もろとも中途半端な状態で雷系の魔法が発動してしまう。
「ガガガガガッッ……」
視覚的に、バチバチッとした電気が見える程の強力な魔法。
まさか自爆するとは思っていなかったペイモンは、その強力な雷系の魔法を受けて気絶してしまう。
「大地ィ! 大丈夫なの!?」
魔法を使える樹里には、今の魔法の威力が想像できたんだろう。
いつも以上に心配気な声を張り上げる。
「強力な雷系魔法か。平気、これくらいじゃあなんともない」
「これくらいって……」
別に強がりでもなんでもなく、本当に特に何も感じていない。
心配そうにこちらを見てくる、樹里や沙織になんか申し訳なくなるほどに。
「ペイモン様は……気を失っておられるのか?」
「ああ。今使おうとしていた魔法を、自分で食らっちまってな」
「では今のうちに城へとお運びせねば」
偉そうな鬼が指示を出して、気絶したペイモンを再び縛り付けていく。
更に今度はどこから取り出したのか、枷のようなものまで取り出してペイモンに取り付けていく。
あれは……、ナベリウスが使っていた魔導具ではなく、単なる金属の枷のようだ。
「あー、それでは私たちも付いていきましょう。いいですよね!? ダイチさん!!」
今にも目から血の涙を流しそうな勢いで、俺に懇願してくるウィスチム。
いや、別にそこまでせんでも別にそれ位構わんのだが。
「別に構わないぞ」
「はぁぁ、良かったぁぁ」
もう全て問題は解決したとばかりに、思いっきり息を吐いて力を抜くウィスチム。
力が抜けすぎて、そのままヘロヘロと地面に倒れるのかと思う程だ。
けど問題はまだ残ってると思うんだがなあ。
そんな俺の考えを他所に、俺たちは最初のメンバーにプラスして多数の兵士に囲まれながら、城へと帰還した。
「ぬわああああああにいいいいいッッ! ペイモンが隷属状態にされただとおおおおぉぉぉッッ!!」
城へと戻り、城内に努めている魔法使いがあれこれとペイモンのことを調査した結果、重度な隷属状態であることが判明した。
更に捕らえた魔民族に尋問した結果、隷属する相手は複数設定されていることも明らかとなっている。
それも数名レベルではなく、少なくとも十名以上もいるらしい。
また、これまでに解呪の為の魔法や魔導具などが粗方試されており、その全てに効果はなかった。
どうやら相当強力なものらしい。
ただ原因の方は比較的すぐに特定されている。
ペイモンが胸に着けていた、紫色の宝石がついていたペンダントがそれだ。
その宝石は今はヒビが入っていて、軽く叩いただけでも割れそうな状態になっている。
このペンダントそのものに、すでに隷属させる効果は残っていない。
一度効果が発動したことで、内包されていた魔力を全て使い切ってしまったからだ。
しかしこのタイプの使い切りの魔導具は、その分強力なものが多い。
これと似たようなものはダンジョンから幾つも発見されているので、恐らくはこのペンダントもそうしたものの一種だと思われた。
――といった内容が、今俺たちの目の前でギュスターヴに説明されている。
最初城の魔法使い達は、ギュスターヴにバレる前に自分たちでペイモンを何とかしようとしていた。
しかしアレコレ手を尽くしても事態が動かず、こうして遅ればせながら報告されているという訳だ。
……何故か俺達も一緒に。
今俺達がいるのは城の会議室のような場所なのだが、俺達の他にギュスターヴと眠りについているペイモンがいる。
これは一旦目覚めたペイモンを、魔法薬で眠らせた状態だ。
そして久々に見るエルヴェツィオに、やたらと渋いイケおじのヴィシュム。
もちろんウィスチムも巻き込んで連れてきている。
その他にも城の魔法使いなど、知らない顔の奴が何人かいるが、みんなギュスターヴの癇癪を恐れてるのか、静かに黙って遠くから様子をみていた。
「は、はい……。このクルメリアから献上されたペンダントに、その……強力な呪いがかかっていたようでして……」
だが一人ギュスターヴに報告している魔法使いだけは、報告のために泣く泣く近くで報告を続けている。
「その呪いはどうにか解除できねーのかああ!!」
「で、ですから、先ほど申し上げました通り、すでに八方手を尽くした状態でして……」
「言い訳など口にするんじゃねえ。出来るか可能かのどちらかで答えやがれ!」
「そそ、そんなことを仰られても……」
あーあ。
報告してる魔法使いの体中から汗がたれ始めたぞ。
極度の緊張状態って奴だろうな。
「ねー、なんであたしらコレに付き合わされてんの?」
「いや、まあ一応僕らと一緒の時に襲われたんだし……」
「それは襲われた件でしょ? あの呪いにはあたしらかんけーないじゃん」
樹里達が小さな声でボソボソと話している。
俺も全くその通りだと思うが、なんかヴィシュムに残ってくれと言われたんだよな。
アイツだけ妙にシリアス路線にいるから、なんとなく雰囲気的にいうこと聞いてこの場にいるけどよ。
いい加減そろそろ部屋に戻ろうかな……なんて思ってたら、話がこちらに飛び火してきていた。
いつの間にか、魔法使いからヴィシュムへと話し手が変わっていたのだ。
「あのペンダントは、一度クルメリアでマクイスに奪われた後に、奪い返したもの。恐らくその際に、別の見た目が似ている隷属の魔導具へと入れ替えたのでしょう」
「それがどうしたってんだ?」
「そこに、その時マクイスに指示を出していたエルヴァンの女がおります」
ヴィシュムはそう言い放つと、何らかの魔導具を使用する。
その魔導具の効果によって、俺の掛けた幻影の魔法が解かれ、エルヴァン姿のナベリウスが現れた。




