第162話 王都案内
「テメェッ、一体何をッッ!?」
自身もプラーナを扱うだけあって、俺が気を練り始めると即座に反応を見せるギュスターヴ。
「なあに。俺は魔族の国を旅してきて分かったんだが、お前らは力を重視する。神聖視しているといってもいい。だから、俺は敵意を送って来る相手には、力を見せるようにしているだけだ」
ペイモンやギュスターヴなど、顔を見知った鬼族からは特に感じなかったのだが、初めてみるような顔の鬼族たちからは、先ほどから強い敵意の視線を向けられていた。
昨日軽く力を見せただけでは、やはり安心はできないようだ。
なんせここは鬼族の国の中心にして、最重要区画といっていい場所。
渡る世間は鬼ばかりってね。
「見ての通り俺はプラーナも扱えるし、魔法だって街を一つ吹き飛ばす位の魔法が使える」
俺の言葉に、敵意の視線を送っていた者達の顔が青ざめてくる。
「そして、素の身体能力だけでもそこの王様を軽く捻りつぶすことが可能だ。その事実をお前達は、よーーく理解しておく必要があると思わないか?」
最近練習中の精神魔法の応用で、相手に対して強い恐怖心を与える魔法を、視線を送ってきた連中にくれてやる。
すると、面白いように全員が泡を吹いて倒れだす。
「貴様!」
「ペイモンッ!!」
泡を吹いて倒れる鬼族を見て、ペイモンが席を立ちあがる。
だがすぐにギュスターヴの制止の声が飛ぶ。
「ちっ、全く話が始まる前からこれじゃあ、たまんねえなあ」
王とは思えない柄の悪い言葉遣いだが、それがとても自然な感じに見える。
見た目がまさにそのスジの人って感じだしな。
「それはこっちのセリフだ。せめて話をしたいなら、敵意をむき出しにした連中をズラッと並べるなよ」
「あー、そればっかはそうそう上手くいかなくてな。どいつもこいつも頭が固ぇんだよ」
俺みたいな存在は、これまで見たことなかったんだろう。
あの連中からしたら、魔民族相手に下手に出るというのは論外なんだからな。
ああした態度に出るのも仕方ないってところか。
「首脳部がそんな調子じゃあ、俺のさっきの対応も間違っちゃいねえんじゃないか?」
「ハンッ! 確かにそうかもしれねえな。国だ王だなどといっても、俺達鬼族の大元は戦いを好む種族だからな」
「魔族ってのは大体そうなんじゃないのか?」
「……そうでもねえさ。クラックオンの連中は何考えてるかわからねーし、吸血鬼の連中は俺達よりも人間に近い」
吸血鬼ねえ。
ちょこちょこ話には聞いているが、奴らはファミリアというのを形成する為に
魔民族の存在が必要不可欠だ。
だから、他の魔族の国よりは大分魔民族が優遇されていると聞いている。
「んな世間話はもういいだろ。本題にもどすぜ?」
「ああ、さっさとしてくれ。この王都が数時間後に無事残っていれば、俺は買い物したり美味そうな食いもんを探したりしたいんだ」
「とんでもねー脅し文句をサラッと挟みやがって……。そんな脅しをするまでもなく、俺としてはお前らに危害を加えるつもりはねえ!」
そう言いながら近くのテーブルを握りこんだ拳で叩く。
別に全力で叩いた訳でもないだろうが、あの馬鹿力で叩いても壊れてない様子を見ると、かなり丈夫な材質で出来たテーブルのようだ。
「昨日は……ちいとばかし頭に血が上ってあんなことになっちまったが、お前達に害意がないことを、ボルドスの王としてここに誓う!」
ビシャリと言い放つギュスターヴ。
そこだけ切り取ると王様っぽい感じがする。
意識が残っている他の鬼族は、ペイモン以外は不満はなさそうだ。
「分かった分かった。別に俺らもこの国に居着こうって訳じゃないんだから、そう改まるな。ただ、せっかくの王都なんだから色々楽しませてもらうぜ」
「ならペイモンを連れていけ」
「なっ、父上!?」
「ペイモンなら王都の事にも詳しいし、余計なちょっかいを出してくる奴もいねえだろう」
「何故私がこのような不埒な男を、案内しなければならないのですか!」
「コイツはその気になれば王都を一瞬で消し飛ばせる力があるって、何度も言ってんだろうが! 無防備にその辺歩かせるわけにはいかねーんだよ!!」
人のことをまるで歩く最終兵器みたいに……。
まあ、間違っちゃあいないんだが。
「だからお前が防波堤になって、この王都を……この国を守れ!」
「……分かりました、父上」
うなだれた様子で俺たちの方に歩いてくるペイモン。
目と鼻の先まで移動してくると、屈辱にまみれたような表情で言った。
「父上の御命令だ。お前たちに王都を案内して……やろう」
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結局他に込み入った話などはないようで、俺たちはそのあと予定どおり王都を満喫した。なんだかんだでウィスチムも一緒に同行している。
そしてアグレアスやナベリウスの求めに応じて、各種金属や貴重な素材などを買い漁ったり、街で評判の屋台の店で大量に購入したりしていった。
「お姫様の割には、下々の食事情にも詳しいんだな」
「舌に貴賤などない。美味いものは美味い。我はただ単に、美味いものがあると聞けば、それを自分の舌で確かめたいだけだ。庶民料理であろうとなんだろうとな」
「ふうん。その姿勢はいーんじゃない? ゲテモノ料理を紹介されんのはゴメンだけど」
「まだゴルストアのことを言っているのか? 食べもせずに避けるなど、愚かなことだと思わぬのか?」
「んな事言ったって、ムリなものはムリなのよ! せめて原形のままじゃなければいいのに!」
樹里とペイモンが言い合っている。
ゴルストアとは十五センチほどの食用の芋虫のことだ。
ペイモンに案内された先の屋台で、木の棒に巻き付けられるようにして売られていた。
それを見た時の樹里の反応はかなりのものだった。
まあでも確かに樹里の言うように、原形をとどめたままだと心情的に喰いづらいのは分かる。
「でも味は悪くなかったぞ」
「そうだ。あれを一度でも味わえば、あの店のリピーターになること請け合いなのだぞ」
俺も最初は少し抵抗あったが、一度食べなれればそんなに気にならなくなってくる。
肝心の味の方は、あの白い芋虫みたいな見た目をしていながら、少し酸味のある甘みがあった。
あの見た目の割にデザート的な扱いらしい。
「いくら説得したって無駄だかんね!」
「まあ、無理してお勧めするほどでもなかったから、好きにすればいい」
「何……? ダイチ貴様、あの味の良さが分からぬと申すか!」
「俺の舌は、日本人の食い物への執着心によって肥えているんでな」
「訳の分からぬことを言いおって! そこまで言うのなら、貴様が美味いというものを我にも食わしてみろ」
「おう、いいぞ」
「……何?」
まさか二つ返事してくるとは思わなかったのか、ペイモンが一瞬間を挟んで疑問形で返してくる。
確かに俺はこの王都に来たばかりで店などはろくに知らないが、俺にはアイテムボックスというものがあるのだ。
今日は何件も店を渡り歩いたが、ペイモンの反応が良かったのは甘いものだ。
なら……これにするか。




