第158話 グァグァとククルとガースー
ボルトリアは流石ボルドスの王都だけあって、街の内部もこれまでにないくらい発展しているのが分かった。
そりゃあもう、ノスピネルの王都よりも更に人や規模が大きいのだ。
これは鬼族の体格がデカイとかは関係なく、単純に人口などでもこちらのが多いんだろう。
「へぇ、それなりに賑わってるわね」
「それなりってジュリさん。おいらこんな人込みは初めてっす!」
「キャハハッ! ヴァルが東京に来たら、ひっくり返っちゃうかもねー?」
確かに人は多いが、俺達のように自由にしている人族の数は少ない。
あからさまに魔民族に虐待が加えられてる様子はないが、道行く魔民族は基本的に明るい顔は少ないように思える。
「どうしたんッスか? 大地さん」
「いや、なんでもない」
まあ俺がどうこう気にすることでもない……な。
マクイスという存在を知って、少し影響が出たのかもしれん。
「皆さんの宿泊するところは用意してありますので、今からそちらに案内しますね」
アントレア同様に、ボルトリアでもウィスチムがキッチリ宿を確保してくれたらしい。
別行動を取ったりはしてなかったが、護衛の誰かを遣いにでも出してたのか?
大通りには馬車だけでなく、魔獣がひいた荷車などもあって、街並みを見ているだけでもそれなりに楽しめる。
そして街のどこからか、鬼族が喧嘩してるような声も俺の耳に届く。
俺の聴覚が優れているせいもあるが、力自慢な種族だけあって人族よりはこうした喧嘩の数が多い気がするな。
「あ、大地さん。あれはミルワの屋台じゃないですか?」
沙織の指差す方を見つめると、確かに幟には「ミルワの串焼き」と書かれている。
「丁度いい。あそこで少し買いだめしておこう」
「あ、ミルワっすか? いいっすね!」
ヴァルも話を聞いて嬉しそうにしているが、根本と樹里は微妙そうな顔をしている。
「僕はいいッス」
「あたしも」
「無論、儂もいらんぞ」
三人からノーサインが出たが、それならそれで俺の分が増えるので良し。
護衛に囲まれながら屋台へと近づくと、屋台を開いていた魔民族の男がビクッとした態度を見せる。
しかし普通に客だと分かってからは、態度を一変させた。
一見魔民族に見える俺達の方が、逆に周りの魔族や護衛の鬼族を従えてることが分かったからだろう。
「毎度ありー!」
最後には上機嫌な様子で挨拶までしてくれた。
ちなみに幟にはミルワの串焼きとしか書かれてなかったが、他にも別の串焼きが売っていたので、そちらも購入している。
「ミルワは後にして、こっちのグァグァとかいうのを試してみるか」
今回はミルワの他に、グァグァとガースーとククルの串焼きを買った。
もう名前だけ聞いても何がなんだかわからん。
俺の高性能脳内翻訳アプリも、固有名詞までは全て翻訳出来ない。
ただ、ククルだけは見た目で一発でどんな奴か区別つく。
「はー、よかったわ。あのククルとかいうゲテモノを買ってたから、あたしも食べさせられるのかと思った」
「え? ジュリさん。ククルもあれはあれで生でもイケルっすよ?」
「うええぇぇ……。ちょっと、アンタ近寄らないでよ」
「えええ! 何でっすか! 酷いっす!!」
ヴァルとしては何で樹里がそんな態度をしてるのか、さっぱり理解出来ないんだろう。
でもまあ、俺も今回は樹里の気持ちも分かる。
自分で買っておいてなんだが、ククルってのは見た目はでっかい蜘蛛……タランチュラみてーな見た目してるんだよ。
これで成虫なのかどうかは知らんが、10cmちょいの大きさのタランチュラが、一つの串に三つ突き刺さった状態で売られていた。
昆虫系は俺も苦手なんだが、こいつならまだギリいける感じがしたので、今度挑戦してみよう。
だが今はグァグァが先だな。
このグァグァとガースーってのは、見た目は普通の串焼きに見える。
まあそれを言えば、ミルワだって同じなんだけどな。
「どれ……」
俺は先にネタ晴らしをされて食べる前から気分が悪くなるのも嫌だったので、何も聞かずにグァグァとやらを口に頬張る。
「んぐ、うぬ、むぐ……。お、おお?」
これは当たりじゃないか?
いや、ミルワだって味だけでいえば美味いんだよ。
実物見たらイメージ変わるかもしれんけど。
ただミルワと比べると、グァグァは普通に素の状態で肉が美味い。
ミルワは微かに土臭い感じが残ってるんだよな。
一緒に焼いている香草のおかげで大分誤魔化しはきいてるんだけど、多分生で食ったらヤバイと思う。
でもグァグァは普通に肉も美味く、少し脂が乗っているので、脂の旨味も微かに感じられる。
似てるものといえば……鳥肉が一番近いか?
「これはイけるぞ、樹里」
「えー……。ホントーに?」
疑わし気にしながらも、俺からグァグァの串を受け取る樹里。
少し迷っていた様子だったが、肉の匂いに釣られてか、パクリと一口。
「あ、ホントだ! これおいしーわね!」
「へえ、じゃあ僕にも下さいッス」
一応ククル以外は人数分は買ってあるので、全員に渡していく。
ミルワの時のアグレアスのように、グァグァに関しては拒絶反応を示す者はいなかった。
それどころか皆美味しそうに食べている。
「確かに美味しかったッスけど、結局グァグァって何だったんッスか?」
美味しかったせいか、素材のことも気にせず根本も樹里も一本食べきっていた。
というか、こいつらはミルワの時ので凝りてないようだな。
「グァグァというのはこれくらいの大きさのカエルですね。ボルトリアの東には、メッスカッティ大森林が広がってますが、そこでよく獲れるんですよ」
俺達が串焼きを食べているのを黙って見ていたウィスチムが、グァグァについての解説を入れてくる。
「え"っ! か、かえる……?」
その言葉を聞いて樹里は顔を真っ青にし始める。
しかし今回根本は少しだけ顔を顰めたものの、拒否反応は示していない。
かくいう俺も、カエル位なら大丈夫だ。
というか、自分でもグァグァを捕まえてきてグァグァの唐揚げとか作ってみたいな。
「え、ジュリさん。カエルもダメなんっすか? おいらだったら生きたままかぶりついちゃうっすよ」
いや、お前は何でも生で食い過ぎだろう。
その何でも食べようとする辺りが、ゴブリンの繁殖力にも繋がっているという訳か。
「あ、あたし、カエルとかヘビとかそーゆーのがダメなのよおおお!!」
まあ確かに女性だとそういう人は多いかもな。
……沙織は全く気にした様子はないけど。
「何か?」
「いやっ、なんでもない」
沙織はククルでもイけそうな気がする。
というか、俺が食べてって言えば確実に食う。
「ま、小腹も膨れたし、そろそろウィスチムのいう泊まれる所とやらに向かおうか」
「分かりました。では向かいましょう」
本格的に街を巡るのはそれからでいいだろう。
俺達は再びウィスチムに案内されるまま、街中を歩いて行った。




