第145話 拐かし
待ち時間が暇だったので、俺はアイテムボックスから取り出した素材を元に、簡単なボードゲームを作った。
いや作ったってのは、違うか。
再現した……ってのが正しい。
こっちに来てからは、開いた時間は魔法やらプラーナやらの訓練でろくに遊んでる暇がなかった。
けど、根本らも魔族語を覚えて戦えるようになってきてるし、そろそろこういった遊びもいいだろう。
そう思って俺が作ったのは、〇×ゲームの発展形のようなボードゲームだ。
大中小の三種類のマトリョーシカのようなコマは、三つが一つに重なるような大きさで出来ている。
相手が中央に小コマを置いても、その上に中コマや大コマで上書きが可能だ。
更に通常の〇×ゲームとは違い、コマを移動させるというアクションを取る事も出来る。
〇×ゲームの基本ルールはそのままに、もう少し高度に発展性をもたせたこのゲームは、特に複雑なコンポーネントも必要ないので片手間に作る事が出来た。
「ええっと、じゃあおいらはコイツをここに置くっす」
「ほい。じゃあ俺はこいつを移動させて、チェックメイトな」
「うわああああ、まじっすか!? そこは見えてなかったっすうううう!!」
このゲームにヴァルは勿論、他の面子も興奮しながら遊んでいる。
一対一の対戦ゲームなので、更に二セット用意してやったら全員で遊び始める有様だ。
「ふむ……。これは戦闘の駆け引きのように、相手の手を何手先も読む必要があるのだな」
「うわあ、これ面白いです! ダイチさんって破壊だけじゃなかったんですね」
何気にグシオンが失礼な発言をしているが、目の前のゲームに夢中になっているせいか本人は気づいていないらしい。
ってか、そんだけ褒められても別に嬉しくはねえんだよな。
元の世界にあったゲームをそのまま作っただけだし。
しかしそんな俺の気持ちとは別に、初めてテレビゲームを買ってもらった子供のように、こいつらは遊び続けた。
根本だけは元日本人だけあって、それほど大きくはしゃいでた訳でもなかったんだが、それでも久々の遊戯を楽しんでいるようだ。
「親分、もう一戦お願いするっす! 今度は勝ってみせるっす!」
ヴァル……、その言葉もう何度目だ?
グシオンやロレイ辺りはともかく、ヴァルは毎回何も考えずにやってるから、改造前の俺であっても余裕で勝つ事が出来るレベルなんだよなあ。
俺達がゲームを遊んでいたのは宿の食堂で、昼過ぎという時間のせいかかなり空いていた。
それでもたまに宿泊客だか食事目当てにきた客だかが来て、俺達が遊んでるのを遠目に見てくる。
「ほらっ! 早く! 次は親分の番っすよ!?」
「……ああ。ほい、これで終わりな」
アイツら声でも掛けてきそうだなあ、とか考えつつヴァルに止めの一打を送る。
その一打にヴァルはまだ自分が詰んでいるとは気づいてないようで、ウンウン唸って考えている……そんなタイミングだった。
俺達に声を掛けてくる者が現れたのは。
「ダイチさん! ダイチさん、いますかッ!?」
大声を上げながら宿に入ってきたのは、俺達も知っている白鬼。ウィスチムだった。
「どうしたあ? いつになく慌ててるみたいだが」
奴の手の者が、この食堂内で客に扮して紛れている事は知っている。
怪しまれないようにか、時折別の者と入れ替わりで宿に出入りしていた。
俺達がゲームで遊んでるのを見てた奴の一部は、ウィスチムの部下達だ。
……まさか、このゲームの話を聞いて自分もやりたくなったとか?
「あの、それが……ですね……」
言いにくそうにしているウィスチム。
なんだあ? やっぱゲーム仲間に入れてほしいのかあ?
「おい、別に気にしないから素直に吐けよ」
いい加減ヴァルの相手も飽きてきたから、こいつに変わりにやらせよう。
「ほ、本当ですね?」
なんだ?
こいつの腰が低いのは前からだが、これはゲームに参加したいとか……そんな感じじゃなさそうだぞ。
ただここで何か言っても話が進まんので、俺は黙って頷く。
「ではお伝えします……。先ほど私の部下が監視していたジュリさん達なんですが……襲撃を受けました」
「……で?」
「その時丁度、二人の距離が離れていたんです。そこを狙っていたんだと思われます」
「襲撃を受けた所で、沙織がいれば問題ないはずだ。……だがお前の様子を見る限り、そうではなかったんだな?」
無事に問題が解決出来ているなら、ウィスチムがこんな真っ青なツラになる訳がない。
……もっともこいつはよくこんな青白い顔をしてるから、これがデフォルトのように思い始めてるが。
「仰る通りです。賊はサオリさんを魔法か魔導具のようなもので捕らえた後、ジュリさんを無視して去っていきました。確実に狙いを絞っていたように思います」
沙織を狙う?
確かにその二人で厄介なのは沙織かもしれないが、樹里の魔法も集団相手ではかなり厄介だ。
単独での戦闘能力も以前より大分向上しているし、何故沙織の方を……。
「樹里はそれからどうしたんだ?」
「私の部下が制止を呼び掛けたんですが、賊の去っていった方向に走っていきました」
「チッ、あのバカ……」
大方自分とはぐれた隙に沙織が攫われてしまった事で、責任を感じたんだろう。
「聞いてたな、お前ら? ゲームはこれまでだ。出るぞ」
「仰せのままに!」
「姉御を攫われたとあっちゃあ、黙ってられないっす!」
先ほどまでゲームに熱中していたのが嘘であるかのように、立ち上がる俺の従魔達。
俺はテーブルの上にあったゲームを、アイテムボックスへと収納していく。
そしていざ宿を出ようとした所でウィスチムに声を掛けられる。
「待ってください! 私もついていきますので」
「……いいだろう。好きにしろ」
そう言うなり俺達は宿を飛び出す。
他の連中に合わせているので、一人で移動するよりは大分遅いんだが俺はそのまま突き進む。
その場で害すのではなく攫ったという事は、何かしらの意図があるはずだ。
恐らくすぐに殺される事もないだろう。
それでもいざとなったら、俺一人でかっとんでいくつもりだ。
一瞬で体全体を喪失でもしない限り、俺が全力で回復魔法を掛ければ治せる自信はある。
「あの、大地さん。二人の居場所が分かるんッスか?」
俺が迷いなく走っている事に疑問を持ったのか、根本がそんな事を尋ねてくる。
「ああ。お前らには俺のナノマシンを移植してあるだろ? それで位置情報はすぐに掴める」
今の位置関係でいうと、ここからは樹里の方が近いな。
先にこちらから回収していこう。
沙織に関しては、一番最初に能力を明かした時にはナノマシンの移植は出来ないと断っていた。
火星人仕様のそれと、ミャウダ人仕様のそれとでは大分異なっていたからだ。
だが……、
「私も……私にも、大地さんの身体の一部を入れて欲しいんです」
って鬼気迫る表情で迫られて、俺は勢いに飲まれて了承してしまった。
最初は少量を投入し、沙織の体内で自己増殖しないようになど、幾つか制限を加えての試験導入から始まった。
今ではミャウダ人が改造した肉体部分を上手く活かしつつ、ミャウダ人のナノマシンと上手く融合するようにして、徐々に沙織の身体に俺のナノマシンが溶け込みつつある。
……まさかこんな事態に陥る事など想定していなかったが、それが活きる事になるとはな。お陰で沙織の位置も特定する事が可能だ。
と、そんな事は今はどうでもいい。
樹里の反応はすぐそこだ。
「え、あ? 大地! ちょっと大変なのよ!」
「ああ。分かってる。今から捕らわれのお姫様を助けにいくぞ」
俺達が樹里に追いつくと、慌てた様子で話しかけてくる。
俺は手早く答えると、樹里の返事も待たずに走り始めた。
樹里も慌てて後を追ってくる。
樹里と合流した俺達は、沙織の反応を追って更に街中をひた走る。
すると、段々と閑静な住宅街……というか、鬼族基準で見てもデカイ豪邸が立ち並ぶエリアに差し掛かった。




