第15話 着装テスト
「……という訳で、魔甲機装に関する大まかな説明は以上となる! まだまだ細かい説明もあるが、まずお前らには着装テストを行ってもらう!」
ハズレ機装の最底辺の機装を割り当てられ、ゲンナリとしていた俺だったが、ライアリーによる説明はまだ続いていた。
というか、一旦説明は中断して起動テストのようなものを行うらしい。
先ほどと同じく、左端の最前列から順にテストを行うようだ。
「いいかッ!? 魔甲機装を発動させるには、お前らの手にしている魔甲玉という物に手を触れながら、『着装』と唱えろ。この時、きちんとイメージしておかないと発動しないから注意だ」
着装って……なんかどっかで見た戦隊モノにありそうな設定だな。
まあ、言葉自体は確かに間違っていないから、同じ言葉になっても仕方ないのかもしれんが……。
なんて事を思ってると、早速一番左の最前列の若い男が、魔甲機装を発動させる。
「ちゃ、着装!」
その言葉が発せられると共に、魔甲玉とやらから黄色の光が迸る。
といっても、そこまで眩しい光ではない。
太陽を直視出来る俺のような特別な目じゃなくても、普通に見る事が出来る程度の、ちょっと明るい位の光だ。
それからあっという間に若い男は卵型の繭のようなものに包まれ、その繭の外郭の部分が次々に金属質な鎧……というより機動兵器のような形状に変形していく。
てか、変形ってレベルを超えてるな。
なんせ何もないように見える、繭の外郭部から次々と金属のボディが形成されていっているのだ。
あの繭の部分は、恐らくはコックピットなんだろう。
その部分を守るように、ボディが形成されていくのがよくわかる。
そして三十秒もしない内に、変形が完了した。
俺はその完成形態となった魔甲機装に、"鑑定"を掛けてみる。
全高、四メートル二十五センチ。
重量は……きゅ、九百二十五キロぉ?
あのいかつい外見の割に随分と軽いな。
あの見た目で軽トラより軽いのか。使用されてる金属が軽いのか?
つか、そもそもこの玉っころの状態では、スーパーボールみたいな重さなんだ。
ファンタジーや超科学の世界に、一般的な物理法則などは無意味だな。
などと俺が分析をしていると、周囲にいた奴らも初めて目にした魔甲機装に、驚きの表情を浮かべている。
中には、自分もこれが扱えるようになるのだと、よからぬ顔をしているものもいるようだが。
「どうだッ! これが我が国が誇る魔甲機装の真の姿だ! 見ての通り、金属の装甲を纏っており、専用の武器などなくても敵を打ち滅ぼす事が可能なのだああ!」
そりゃー、まあ、あんなのに殴られたら普通の人間はお陀仏だわな。
あ、でも魔法なんかもあるファンタジー世界みたいだし、あれと生身で遣り合えるような奴もいるのか?
そういえば、そもそも戦力としてアレのパイロット用に呼ばれているんだから、パイロットの数が足りてないって事だよな。
ううむ、見た目的にはドラゴンでも殴り殺せそうに見えるが、それでもあれを身に着けても負ける事があるという事だ。
「よし、お前! お前が今いる魔甲核の中に、魔甲玉があるだろう? それに手を触れながら、腕を動かすよう意識をしてみろ!」
ライアリーが指示を出すと、人型の機動兵器の腕部分が動き出す。
「動作も問題ないようだな! では魔甲玉に触れたまま、『脱装』と唱えろ。そうすれば、魔甲機装の状態から解除される」
「わ、分かりました。脱装!」
若い男の声が発せられると、今度は先ほどの映像を逆再生したかのように、繭……魔甲核とか言ってたか。
その外郭部分に金属装甲などがニュルニュルと仕舞われていく。
こちらもかなりの速さで、三十秒ほどでその場にはさっきの若い男が魔甲玉を手にした状態で立っていた。
「手順は理解できたな? ではこれより着装テストを行っていく! 見ての通り魔甲機装の姿となると場所を取るので、着装前は周囲の者は退避しておくように!」
こうして魔甲機装の貸与に続き、起動のテストが始まった。
この起動テストの最中にも、ライアリーの解説が時折入っていく。
「ちゅうううもおおおおおくっ! この魔甲機装は先ほどと同じボーシュタイプであるが、見た目が異なっているな? これはキーガとかシンガーだとかのクラス分けによる違いではない!」
確かに二体目、三体目と、一つとして同じ形がなかった。
てっきりクラスによる違いかと思ったが、そうでもないらしい。
「全く同じ機装でも、着用者によって個性というものが出るのが魔甲機装だ! そしてその個性の差は性能にも直結してくる」
今テストしてるのはボーシュの四体目なのだが、これまでの機装にはなかった、角のようなものが額の辺りから生えている。
「この角付きタイプは、攻撃能力が高いという特徴を持つ。まあ最も、元々防御型であるボーシュと相性がいいかというと、微妙な所だがな」
その後もテストは続き、パイロットによる機体の形状の差と、それについての説明が適宜挟まれる。
尻尾のついたものは機動性に優れていて、外装の一部に鱗のような形状があるものは防御に優れているらしい。
後は大きさそのものも微妙に一人ひとり異なっていて、大きいほうが耐久性に優れているそうだ。
なお、特にこれらの特徴を持っていない奴もいる。というか、そっちの方が多数派であり、特徴のある方が少数派だ。
その後も順番に着装テストが行われる中、部屋の入口から再びストレイダー卿が現れた。
大分偉い立場の人物らしいが、最後まで見届けるつもりなのかな?
そうこうしている内に、俺のマンサクの列のテストが始まる。
ボーシュ、タンゾー、リュースイ、ガムシャー。それとパイロットによる個性はあれど、タイプが同じだと外装の色も同じ色になるし、形もある程度は似通る。
それで言うと、マンサクの形状は……ううん、どことなく農民臭さがにじみ出ているような気がする。
大きさは大分でかいが、あれで鍬や鋤を持たせたらよく似合いそうだ。
「あんたぁ、おらがテストさするんで、そこどいてくんろー」
「ん、おお。スマンスマン」
いつの間にか、俺の前のオッサンまで順番が回ってきていたようだ。
確かこのオッサンはオツァーガマンサクだったな。
つまり、我らマンサク族の中でも期待の星。
さあ、見せてもらおうか。
マンサクに秘められし力とやらを。
などと勝手に期待を込めていたのだが、その俺の期待に応えるかのように、オッサンは周囲の度肝を抜いた。
「うわ、でかっ!」
「あれ何メートルあるんだ……?」
「頭が天井まで届きそうだぞ!」
日本人の騒ぐ声が聞こえてくるが、その内容の通りにオッサンの魔甲機装はでかい。とにかくでかい。
"鑑定"によると、全高八メートル四十三センチだそうな。
「うわ、うわわわっ!」
「おわっ、ちょ……」
でかい分だけあって、オッサンの視界も大分高い位置にあるのか、慌てて体を動かしてしまったようだ。
オッサンも慌てているが、近くに並んでいた俺も慌ててしまったわ!
「なぁ!? おい、お前! 早く『脱装』するんだ!」
「ほああぁっ、はぁっ、えっと……えっと……、脱装!」
慌てた様子ながらもかろうじて声は届いたようで、オッサンが『脱装』と口にすると、すぐさま元の魔甲玉の状態に戻った。
しかしでかいだけあって、魔甲玉から魔甲機装の状態になるまでの時間も、通常より長かった。
「よおし、よおおおし。……お前は次に着装する時は、もっと開けた場所でやるように! そこで機装時の感覚を掴んでおけ!」
「は、はい。分かりましただ」
「では、次ッ!」
とうとう俺の番か……。
俺の後にはもうマンサクが数人しかいない。
例の反抗して魔法をぶち込まれた奴も、その中に含まれている。
そんな奴がこの魔甲機装を着装したらどうなる事か。
でもそれよりはまず、俺の魔甲機装がどうなるかだな。
ハズレ機装の最底辺という事で、変な期待をせずに、俺は着装を行うのだった。




