第133話 ボルドス到着
あれから俺は今後加わるかもしれない従魔の事も考えつつ、いつものように魔法で家を建てた。
今回は部屋数も増やしてあるうえに、廊下や天井のサイズも大き目に取ったので、面積的には相当膨らんでいる。
建てる際に使った魔力も、今までの二倍以上はあった。
「はえー……。なんかお城みたいッスね」
苦労して建てた家を見て根本がそんな事を言っていたが、石造りだから余計圧迫感のようなものが強いのかもしれない。
家を建てたあとは、とりあえず誰かが中に入る前に一旦収納できるかどうかを確認したんだが、問題はなかった。
それから一週間ほど、俺達はそのゴブリンの街に滞在することになる。
今回の滞在は、街を漁るとか訓練期間とかいう訳ではなく、俺が魔導具を作るためだ。
「石屋敷」と名付けられたこの建物に合うように、照明や大きな風呂の魔導具の研究に勤しむ俺。
他の連中は、街中に資源を漁りにいったり、訓練に励んだり、鍛冶をしたりとめいめいが好きに過ごしていた。
そうして一週間ほどの滞在は、アッと言う間に終わる。
とりあえずの目標だった魔導具は完成したので、そこからは再び旅路へと戻り、更に二週間。
俺達はようやく鬼族の国『ボルドス』にたどり着いた。
「この先一時間程歩いた先に町が見えるが、町中を歩いてる連中の感じからして、あれは鬼族の町っぽいな」
「ようやく着いたのね!」
うむ、ここまで意外と時間がかかってしまった。
どうやらゴブリン村を潰して回ったせいで、大分フラフラしてしまったようだ。
真っ直ぐ直進していれば、ここまで時間はかからなかっただろう。
ちなみに、両国のあいだにそれと分かる国境線はない。
しかし目と鼻の先に鬼族の町があるんだから、ここはもうボルドス国内で間違いなさそうだ。
「けどよく見えるっすね? こっからだとおいらは、ちょっと町の建物の様子が見える位っす」
今歩いている場所は、少し前までなだらかな登りの荒れ地になっていて、今は頂点を超えたのか逆になだらかな下りの斜面になっている。
そのお陰で、遠目に町の外観を確認する事は可能だ。
「それでも大分強化されてきてるはずだぞ」
「言われてみるとそっすね。前はこんなに見えなかった気がするっす」
俺の送ったナノマシンによる肉体強化は、視覚や聴覚といった五感に関しても強化する事が出来る。
しかし一気に改善する訳でもないから、誰かに言われないと自覚しにくいかもしれない。
「町の様子からして、大手を振って歩いてる人族は少ないが、鬼族以外にもいくつかの種族が歩いているようだ。ゴブリンも普通に混じってるな」
「鬼族はおいら達ゴブリンと違って、そこまで繁殖しないっすからね。ゴブリン以外の魔族の国は、程度の差はあるけど大体そんなもんらしいっす」
「ゴブリンと比べれば大抵はそうだろうよ」
大体の感覚でいうと、町を歩いている住人の五割から六割位が鬼族のようだ。
どいつもこいつも逞しい肉体をしているな。
肥え太ってる鬼族はいまんとこ一人も見かけていない。
「それで大地さん。このまま正面から鬼族の町に乗り込むのですか?」
静かな口調で訪ねてくる沙織だが、どうも俺にはこれからカチコミをかけに行くか尋ねられたように聞こえてしまう。
……沙織なら命令すればためらいもなく実行しそうだから、そんな風に聞こえるのかもな。
「乗り込むといっても、別に初めから襲撃をかけるつもりではないからな? ただいつでも戦えるように身構えてはおいてくれ」
ギルガに関しては、すぐ隣にノスピネル王国があるから派手にやってみたという側面がある。
それで無双気分はそれなりに味わえたし、王国から遠いこの国ではわざわざ暴れる必要もないだろう。
そういうのは魔王プレイする時の為にとっておこう。
「はい、分かりました」
俺がそう言うとあっさり引き下がる沙織。
そうしてトコトコと歩く事、一時間。
俺達は門で足止めされる事もなく、すんなりとボルドス最初の町へと進入を果たした。
「……思ってたより注目されないね?」
「逆にうちらの方がジロジロ見ちゃってるッスね」
「ああ。俺も魔族コレクションに相応しい鬼族がいないか、つい目が移ってしまうな」
「やっぱレアなのを狙ってるんッスか?」
「まーそうだな。あとは俺のフィーリングが重要だ」
町を行く鬼族を見ていると、アグレアスからの事前情報通り赤い肌をして黄色の角が一本生えている『赤鬼』と、青い肌をしてオレンジ色の角を二本生やした『青鬼』がかなり多い。
後はたまに黄色い肌の鬼もいるが、赤鬼青鬼と比べると総じて体格が小さい。
とはいっても、それでも男だと二メートル近くはある。
こうもタッパのある奴が多いと、子供だった時の視線の高さを思い出す。
あの頃は人込みなんかに飛び込むのに、ちょっとした勇気が必要だったもんだ。
「……にしてもアレッスね」
「なんだよ根本。アレって」
「いや……、なんというか、こう……。思ったより普通な感じッス」
「普通……か」
ノスピネル王国では、かなり魔族について過大に悪く言われていた部分はあったと思う。
それは敵対種族に囲まれているという状況では、仕方ないと言える。
しかしいくら魔族だからといって、国という社会を築いて暮らしてる以上は、秩序というものも必要だ。
ただノスピネル王国では、建前としては国法や慣習法によって秩序が保たれていたのに対し、魔族の国ではそこに"力"が大きく関わってくる。
"強さ"という、単純で至極分かりやすいものこそが、魔族領内では一番の武器となるのだ。
だからこそ人族やゴブリンのような、基本的に戦闘向けではない種族にとって、この町は住みづらいのだろう。
今も視界の端にある裏通りに入ってすぐの場所では、一人の魔民族の男が鬼族に囲まれて殴る蹴るの暴行を受けていた。
「ひ、ひぃ! た、助けてくれええ!」
「誰がお前のような奴を助けるものか。大人しく出すものを出してもらおうかあ!」
魔民族の男を恫喝しているのは、身長が二メートル四十センチ位はある、大柄な赤鬼の男だ。
「ねえ、大地。どうすんの?」
裏通りの事は、俺以外の奴らも全員気づいてはいた。
しかし最初に言っていたように襲撃をかけにきた訳ではないので、先走って手を出す者はいない。
「どうするって、事情もわからねえんじゃどうしようもないだろ。放っとくぞ」
魔民族の男はしこたま暴行を受けている割に、すぐにくたばる気配を見せない。
あれは囲んでる鬼族の連中が加減してるんじゃなくて、あの魔民族の男が打撃を受ける際に微かに体を引いて、衝撃を押さえているからだ。
そんな戦闘技術を持っている以上、ただの魔民族への暴行って訳ではなさそうだが……。
「え、でも……」
俺はさっさと視線を前に戻して、そのまま通り過ぎようと先に進もうとする。
しかし、暴行を受けていた魔民族の男がモタモタしている樹里に気づいたようだ。
「ああっ、セリーヌ! 良い所に通りかかった! 見ての通りヘマをして捕まっちまったんだ。助けてくれ!」
先ほどまで暴行を受けていたとは思えない程の大声で、魔民族の男は樹里を見つめながら呼びかける。
「ああ? なんだぁ、お前ら。コイツの仲間なのかあ?」
そしてガタイのいい赤鬼の男は、俺達へと視線を向けてくるのだった。




