第14話 どうしてこうなった
『お前たち、静まれええええい!!』
にわかにざわめきだした兵士達に、ストレイダー卿の鶴の一声が落ちる。
その大きな迫力ある声に、先ほど定番のセリフを吐いたチャラ男も固まっていた。
『ライアリー。これがコゥガァーボーシュだ』
『なんとっ! これが今まで適合者がいなかったコゥガァーでございますか……』
途中から投げ渡し形式になっていた魔甲機装の扱いが、今度はまさしく秘宝だの国宝だのに相応しい扱いに変化する。
「喜べ! お前は栄誉あるコゥガァーボーシュの使い手に選ばれた。魔甲機装についての詳しい説明は後程行うが、お前に渡すこれは中でも一番優れたクラスとなる」
「へー。なんかしんねーけど、あんがとさん」
先ほどはストレイダー卿の喝に固まっていたチャラ男だが、すでに自分のペースを取り戻したようで、ヘラヘラとしながら魔甲機装を受け取る。
「いいか!? くれぐれもその魔甲機装は大事に扱えよ? ……よし、次はリュースイの列に渡していくぞ!」
チャラ男に言い聞かせたライアリーは、引き続き隣の列に移る。
どうやら今のチャラ男がボーシュの列の最後尾だったようだ。
隣の列では黒い札の者たちが並んでいる。
黒は沙織の持っていた木札の色で、彼女は中ほどに並んでいるようだ。
今度の列では、~ボーシュという名前ではなく、~リュースイという名前で呼ばれている。
リュースイ……流水?
発音的には語尾が上がっているので、もしかしたらリューシーかリュースィーなのかもしれん。どこか中国語ちっくな音の響きだ。
沙織は……なんか先ほどのコゥガァーほどではないが、名前を呼ばれた時に、少し兵士たちがザワついていた。
先ほど騎士団長の喝が入ったばかりだから、それほど騒ぎにはなっていないようだが……。
ええと確か、オツァーガリュースイだったかな。
オツァーガというのはこれまでに聞いたことない型番だ。
キーガならキーガボーシュとキーガリュースイってのがいたんだが。
先ほどのコゥガァーと並んで、オツァーガも希少なのかもしれん。
次は白い木札の列……ここが一番少なくて、四人しかいないな。
あの面長のキツネ男もこの列のようだ。
彼は……どうやら『ティーガータンゾー』らしい。
そして次は赤い木札の列だ。
この列にはあの茶髪の女子高生と、やたら厳つい逞しい肉体の男が並んでいる。
その逞しい男の魔甲機装が呼ばれた時、再び兵士に反応が見られた。
そいつは沙織と同じ、「オツァーガ」という種別のようなのだが、沙織の「オツァーガリュースイ」とは別種で、「オツァーガガムシャー」というらしい。
どうも兵士たちの反応がコゥガァーの時と同レベルである事から、今のところスリートップはチャラ男、沙織、巌男といった感じだな。
ちなみに女子高生は「キガータガムシャー」で、兵士の反応はほとんどなかった。
さて、「ボーシュ」「リュースイ」「タンゾー」「ガムシャー」ときて、俺の列は一体どんな名前かなと、少しワクワクしながら先頭の奴が名前を呼ばれるのを待つ。
「よし、次は最後の列だ! まず、お前! お前はシンガーマンサクだ!」
……え?
シンガー万作?
それともシンガー満作か?
いや、そんなのどっちでもええねん。
なんで突然そんな和風なのが来るんだ。
んー、まあリュースイもタンゾーも和風っぽいちゃあぽいが、マンサクに関しては完全に日本語的な発音だったぞ。
日本全国のマンサクさんに他意がある訳じゃあないが、和風にしても少しその……こう、古風すぎやしませんかねえ?
その古臭さと、シンガーという外来語の響きが微妙にマッチしているようで、そうでない。
「次、お前は……オツァーガマンサクだな」
お、来た来た、今のところ兵士の反応トップスリーのうち二名も在籍している、「オツァーガ」クラス。
俺の一つ前でその名前を呼ばれたオッサンは、「オツァーガ」という言葉の意味に気づいていないようで、ペコペコと頭を下げて魔甲機装の玉を受け取っていた。
あれ?
なんか妙に反応がないな。
流石に三回目のオツァーガだから、反応も薄くなってきてるのか?
「次のお前! こちらに木札を見えるように掲げろ!」
おっとっと、俺の番がきたようだ。
俺は慌てて持っていた木札をライアリーに見せる。
「……お前はキガータマンサクだ」
キガータマンサク……きがた万作……木型万作?
なんかよくわからない三段活用が頭に浮かんでしまったが、どうもマンサクの破壊力が強すぎて、どうしても江戸時代だとかの農民の姿が脳裏に浮かんでしまう。
とりあえず俺は、ライアリーから魔甲機装という名の玉っころを受け取る。
それは思っていたような硬質な感触ではなく、ゴムボールのような感覚に近い。
いや、それよりはもっとしっかりとした固さはあるから、うーん…………スーパーボール?
大きいスーパーボールだな、こりゃあ。床に投げたら勢いよく跳ね返っててきそうだ。
「よおおおおし! これで全員に魔甲機装の貸与が完了したな! これより、お前たちには魔甲機装の基本知識を授ける。心して聞くように!」
『で、ではストレイダー様。魔甲機装の貸与は終わりましたので、引き続き魔甲機装の説明に移ろうかと、お、思います』
『うむ、後は任せた。私はこの魔甲機装を元の場所まで戻してくる』
『ハッ! あ、あとは不肖ライアリーにお任せあれ!』
そのようなやり取りを交わした後、ストレイダー卿は再び箱に鍵をかけ、手押し車に魔甲機装の詰まった箱を載せてから、兵士と共に退室していく。
それを恭しそうに見送るライアリー。
ううん、他の日本人の奴らは言葉を理解できてないだろうから、鬼軍曹のような口調のライアリーがヘコヘコしてるストレイダー卿を見て、やばい人物像を想像してそうだな。
彼らの言葉を理解できる俺としては、ストレイダー卿は軍人的な口調ではあるが、真面目で仕事一筋って感じに見えるんだけどな。
「では、お前ら。これから俺が直々に魔甲機装について教えてやろう!」
お、どうやらこの謎の玉っころについての解説が始まるようだ。
……ふむ、まずは名称による区別の説明か。
最初に五色に分かれていたように、魔甲機装は大きく五つの種類に分けられるらしい。
極々稀にしか現れない幻の六種類目、なんてのはないようだな。
次に、その五種類の機装は性能的に十段階のクラスに分別されるらしい。
一番優れた性能を持つのが、あのチャラ男が手にした『コゥガァー』。
二番目に優れているのが、巌男や沙織の『オツァーガ』。
それから、ヘイガー、ティーガー、ボガー、キーガ、コウガーター、シンガー、ジンガー、キガータ、と続く。
……うわっ、俺の魔甲機装のクラス、低すぎ?
確か、キガータって俺の他にはあの茶髪の娘のキガータガムシャーしかなかったよな?
そりゃあまあ、これだけ人数がいれば、誰かしらが最低クラスの魔甲機装になってもおかしくはないけどさー。
しょっぱなの鮮烈なゲロデビューから、最低クラスの魔甲機装貸与ってのは、どうもスタートからケチがついた感じだ。
ライアリーは、名称による区分についての話を終えると、次はそれぞれの機装のタイプについての説明を始める。
それによると、ガムシャーは攻撃に秀でた機装で、五種類の中では最も戦闘力が高いらしい。
それに火属性の能力を持っているらしく、巨大な火の玉を敵にぶつけたりなんて事も出来るみたいだ。
ボーシュは防衛に優れていて、土属性をもっているらしく、土壁などを瞬時に築くことが出来るらしい。
土弾を飛ばして攻撃も出来るようだが、威力は微妙。防御特化の機装という事だ。
リュースイは水属性で、どちらかというと防御向けなのだが、水を生み出せるので、いちいち井戸など掘っていられない前線では、非常に重宝されるようだ。
というかリュースイが水属性となると、やはり流水の事なのか?
まあ、それはひとまずおいといて、次のタンゾーは治癒属性を持っているようで、傷ついた仲間の魔甲機装を修復する事が出来るらしい。
ただし、効果があるのは魔甲機装にだけで、人体の傷などを治すことはできない。
最後にマンサクなんだが……。
特に特殊能力もなく、戦闘能力はかろうじて治癒属性を持つタンゾーよりは上らしいのだが、他のに比べるとハズレ扱いされてる機装らしい。
どうしてこうなった。




