第130話 ライトニングジャッジメント
おおう。
まるで隕石が落ちたみたいな感じだな、こりゃ。
ぽっかりと開いたクレーターに、炎上する付近の家。
位置的には空に浮かばせている連中にもキッチリ見えているはずだ。
しかしまだだ……。
まだ終わらんよッ!
「今さっき、街の外からこの街を我が物にせんと、魔民族の集団がやってきた」
俺は魔法を使い、街全体に均一に声が届くようにして声を上げる。
無論その声はこの場にいる全員にも聞こえていた。
「そいつらは、この俺に武器を突きつけ襲い掛かってきた。先ほどの爆発はその愚か者どもに対する戒めの為に行った事だ。そして、これから起こる破壊も全てはそいつらの短慮な行動の結果である」
ここで俺は更に、予め考えていた対都市用大規模魔法、|ライトニングジャッジメント《神々の戯れ》を使用した。
これは万雷と同じ雷系の範囲魔法だが、範囲の広さが段違いに広い。
その分一つの地点に対する攻撃力は薄くなってしまうが、落雷の一発一発が普通に強力なので問題ないはず。
そこら辺のテストも兼ねてのこの魔法を使ってみた。
一応街に残っていた連中と、アグレアスの工房付近は範囲から外しておいた。
「――ッッ!!」
真上からリサールとその取り巻き連中の、叫びとも悲鳴ともつかないような声が聞こえてくる。
奴らは街中に襲い掛かる落雷の雨を前に、意識を保つのも精一杯といった様子だ。
なお今回の|ライトニングジャッジメント《神々の戯れ》は、万雷の時の反省を活かして予め音量を押さえるように工夫してある。
ただ今回の魔法は威嚇目的というか、恐怖を与えるという効果も持たせたかったので、それなりの轟音は残す事にした。
広範囲で連続的に起こる落雷がしばらく続く。
樹里やヴァルなんかは、万雷で慣れていた事もあって耳を塞いだまま何時終わるのかと平然としている。
しかし、俺の魔法能力を初めて目の当たりにしたロレイ、グシオン、アグレアスの三人は、恐怖で震えあがっていた。
あの気の強いアグレアスまでああなるとは、ちょっと刺激が強すぎたかな?
魔法の規模はこれまでになく広かったが、雷が降り注いでいた時間は万雷と同じくらいだ。
再び上空からの視点で眺めてみると、ゴブリンの建築した建物はほぼ全てが崩壊、または炎上しているのが見えた。
対都市用大規模魔法としての役割を果たしていたが、対象がゴブリンの建造した建物だからなあ。
これが人間の暮らす石造りの街だったら、こうまで破壊出来たかはわからない。
いつか、もう少し堅牢そうな場所で確かめてみるとするか。
そう思いながら、俺は念動力で持ち上げていた連中を地面へと下ろす。
「さて、オロンゴ君と言ったかな? どうだ? この力があれば、ゴブリンの大軍だろうがゴブリンエンペラーだろうが、軒並み塵にする事が出来るとは思わんか?」
「ヒィッ!」
一歩前に出ると、頭を抱えてその場で蹲るオロンゴ。
オロンゴだけでなく、取り巻き連中は皆同じような状態だ。
中には既に気を失ってる奴も数名いる。
周りが全員そんな状態の中、リサールは一人震える体を押さえようと必死だ。
そして何を思ったのか腰に佩いていた剣を右手で抜くと、それで自分の左腕を切りつけた。
「グッ、グゥッ!」
しかし一度では切断しきれず、リサールは二度、三度自らの左腕を切りつけて、ようやく左腕の前腕部分から先を切り落とす。
「ど、うか、これで……。これで、矛を収めてもらえないか!」
切断面から血を垂れ流しながら、必死の形相で訴えてくるリサール。
「……お前、何か勘違いしてないか?」
「――っ。これで足りぬなら、右腕もダイチ殿の手で落としてもらっても……」
「そうじゃなくてだな。俺はお前達の命は見逃すと言っただろう? 別にそんな事せんでもいいぞ」
俺はリサールに近づいていって切断された左手を拾うと、切断面と合わせてから回復魔法を使う。
すると一瞬で左腕が元通りになった。
回復系の魔法は使い慣れていないので、練習に丁度よかったな。
どういった仕組みであのように切断されたものがくっつくのかは、相変わらず謎だけど。
「ほれ、動かせるか?」
「こん……な……」
切断した腕が元通り動かせるようになり、驚いた様子のリサール。
ノスピネルにいた時に調べた本によると、部位欠損を治すのはクラスⅧくらいが必要とか書いてあったから、あんまり使用出来るやつがいないのかもしれん。
「俺が東の王国からギルガに入ってきて思ったのは、魔民族の連中は誰しも覇気がなく、奴隷根性が染み付いてるなというものだった」
呆然と左腕をにぎにぎしているリサールに話しかける。
「そういった連中を手っ取り早く使えるようにする為に、なんぞ強力な思想教育でも行ったのかもしれんが、こいつらの様子だと東の人間の国と接触しても悪い結果になるだけだぞ」
「…………」
「それに、予想以上に俺達が派手に暴れてゴブリンを蹴散らしたから、東の王国の力を借りずともお前達だけで生き延びる事が出来るかもしれん。この街に来る前に、十五万程のゴブリンを屠ってきたからな」
「じゅ、十五万……ですか。なるほど……」
「そういう訳で、さっさとこの場所から立ち去れ。それか、永遠の安らぎを求めるというなら、俺が救ってやってもいいぞ?」
「い、いや、それは遠慮しておこう……」
ここぞとばかりに俺は救いの手をプッシュしたんだが、リサールに丁重に断られてしまった。
何故かリサール本人からではなく、背後にいる樹里から「そんなの断るに決まってるでしょ!」という声が飛んでくる。
「オロンゴ、ギュリスタ! 聞いていたな? すぐにこの街から引き上げる!」
「え、あ、その……リサール、様。あの、この街はともかく勧誘の方は……?」
「先ほどのダイチ殿の言葉を聞いていなかったのか? 街の住人の憎悪は我々に集まっているのだぞ!」
ギュリスタと呼ばれた男がつっかえつっかえ質問すると、そんな事も分からないのかとリサールが大声を上げる。
あー、なんかすげー前途多難って感じだな。
「で、では我々はこれで失礼する。それで、その……ダイチ殿は今後どうされるのだ?」
「俺か? もう少しここに滞在した後は、鬼族の国ボルドスへ向かう予定だ」
「そうか……。もしかしたらギルガ領内で、また私か私の部下に出会うかもしれぬが、その時は寛容な対応をお願いしたい。無論、部下には改めて強く言い聞かせておく」
「別にいいぞ」
「感謝する! では、これにて」
そう言ってリサールは取り巻きを引き連れると、すたこらサッサと引き返していった。
「ふう、やれやれ。まったくしょうもないようないちゃもんを付けられちまったなあ」
みんなの方に振り返りつつ、今しがたの出来事の感想を述べると、ヴァルを除く従魔達の様子がおかしい事に俺は気づいた。
まずロレイは地面に仰向けになって、大の字に寝っ転がっている。
そしてグシオンは四つ足で立ちながら尻尾を足の間に挟み、低姿勢のままこちらを見上げていた。
アグレアスに至っては、両ひざ立ちの状態で左腕を胸のところで水平に構え、右腕を天に突き出すようにして上げている。
これは一体何のポーズ何だ?
変身でもすんの?




