第126話 何でも屋アグレアス
「……それでその二人を連れ帰ってきた訳ね」
「うむ。中々良い拾いもんだった」
「そんな捨て犬を拾ってきたみたいに……」
コボルドはやたらと野性味の強い顔をしてる奴が多いが、俺が連れてきたグシオンはその中でも大分柔らかい顔をしている。
これくらいになると、樹里の言うように犬に近いかもしれない。
「確かにグシオンは犬に近いかもな」
「そーゆー意味じゃないわよ!」
俺たちの会話を首を傾げて聞いているグシオン。
何を言ってるかは分からないだろうが、自分の名前が出たので気になるようだ。
「とにかく順調に魔族コレクションに二人追加だ。そっちのアグレアスは口調こそ荒いが、鍛冶の腕は確からしい。お前達もなんか作って欲しいもんがあったら、頼むといいぞ」
「それはいいんッスけど、あの人ってドワーフですよね? あれも魔族コレクションになるんッスか?」
「いや、それが奴はドワーフではなくドヴェルグという種族らしいぞ」
「ドヴェルグゥ?」
ドワーフという名前はこういう事に一番疎い沙織ですら、日本で暮らしていた時から知っていた。
しかしドヴェルグという名称は三人共初耳のようだ。
「なんでも昔から魔族と付き合いの深い種族で、男の方は俺らからすれば見分けが付かん。ただ女の方はドワーフと違って見た目が普通に老けていくし、髭も生えるらしい」
「……髭がボーボーに生えた女の人って想像しにくいわね」
「思うに俺たちが顔だけ見ても、多分ドヴェルグの男女の区別はつかんと思うぞ」
「あの、それより大地さん。そこの二人を家に案内しないのですか?」
それもそうだな。
まだまだ部屋に空きはある。
……これから先、どれくらい従魔は増えていくんだろうか。
「ん、そうだったな。あーじゃあその辺は……ヴァル!」
【はい、なんっすか?】
【そこの二人に部屋を決めてもらって、トイレや風呂などの使い方を教えといてくれ】
【ガッテン承知ぃッ!】
……なんだ、その返事は。
ヴァルは元気よく返事すると、早速二人を案内して家の中に入っていく。
俺の作ったこの家は、玄関を入ってすぐのところにちょっとしたロビーがあり、そこから各部屋に通じる廊下が三本伸びている。
以前はコの字型をしていたのだが、今はヨの字型に改造してあるのだ。
西棟と東棟の間に挟まれるように増築された、ヨの字の真ん中の棒の場所には、リビングや食堂などの共用施設を設けてある。
今日の夕食はその食堂で一同に会し、自己紹介などをしながらの食事となった。
【これは美味しいですね。どうやって作ってるんですか?】
【お、グシオンは料理に興味あるのか?】
【興味といいますか、普段親方の食事を作っていたのはぼくだったので……】
【へぇ、そんじゃあ今度から料理する時はお前にも手伝ってもらうか】
今日は作り置きのものを出したが、アイテムボックスの中には素材のままの物も多い。
従魔組の中だと、他の三人は料理出来ないらしいからな。
グシオンには期待するとしよう。
【そうなると、ぼくの役目は料理などの家事全般ですか?】
役目……か。
正直、魔族コレクションを充実させる事しか考えてなかったわ。
でも、そうだよな。
せっかくなら何か役に立ってもらいたい所だ。
【特に決めてはいないが、まずはその辺を頼もうか。後は戦闘員としても働いてもらうぞ】
【え、戦闘ってぼくがですか?】
大分びっくりしているグシオン。
その反応からして、余り戦う事には慣れていない様子だ。
【俺たちは俺以外にも戦える奴が多い。お前にも最低限の力はつけてもらうぞ】
【あの……。でもこれまでろくに戦った事はないんですけど……】
【なあに、心配ない! 初めは誰も初心者よ】
【いえ、あの、確かにそれはそうかもしれないですけど……】
ごちゃごちゃと言うグシオンを押し切り、俺はロレイとヴァルにグシオンの訓練を任せる事にした。
【主命、しかと承った】
【おいらもいいっすよ。あ、でもそれなら訓練用の木製の武具一式があるといいっすね】
【訓練用装備は後で用意しておこう。では二人ともしっかり頼む】
俺が頼むと二人は小気味よい返事をしてくる。
【儂も訓練をしないといかんのか?】
グシオンについて話していると、気になったのかアグレアスが話に加わってくる。
【お前は俺ん中では生産職枠だから、そこまで強さは求めん。ただ、最低限自分の身を守れる位には、戦えるようになってくれ】
【今後旅をしていくなら、そん位はやっとかねーとマズイって訳じゃな。分かった、これでも力には自信がある】
グシオンに比べ、アグレアスは戦う事にはそこまで拒絶反応はなさそうだ。
力に自信があるというだけあって、両腕はかなり太くて筋肉質だ。
【そうなると、メイスみたいな武器が良いのか?】
【自分の作ったもんの出来を確かめる為に、武器を振るう事はよくある。技術ってほどのもんは身についてねーが、一通りの武器を振るえるぞい】
【そんなら自分の好きな武器にするといい】
【だとしたら、やはり最初にダイチが言ったように、メイス系の武器じゃろうな。こりゃあ早速自分用の武器の製作を始めんといかんわい】
大分テンションが上がっているアグレアス。
今にもここを飛び出して、鍛冶場まで駆けだしていきそうな程だ。
そういや鍛冶場で思い出したが、結局アグレアスのあの店は何の店だったんだ?
ちょっと気になるから聞いてみるか。
【ところでアグレアス。お前のあの店は何の店だったんだ?】
【儂は何でも作るぞ? 武器でも食器でも家具でも家でも何でもじゃ!】
【……あの看板は本当にそのまんまの意味だったって事か】
【ワハハハッ! 初めてアレを見た奴は、皆似たような反応をしよるの。ま、同じドヴェルグでも、儂ほど多方面に手を出しとる奴は少ないがの】
元の世界のように職業が細分化されてないとはいえ、流石に幅が広すぎるな。
でも店の売り物を見た感じ、素人目にだがどれもかなりの出来に見えた。
こいつは今後、色々と役に立ってくれそうな予感がするぜ。
【そういえば最初に名乗った時に、ドヴェルグクラフトマスターとか言ってたな】
【そうじゃ。ドヴェルグクラフトは数多いが、ドヴェルグクラフトマスターともなると、ガルダッシュでも数える程しかおらん】
【ガルダッシュ?】
【ここよりずっと西の少し北に行った所にある、ドヴィリンガル山脈を根城とする我らドヴェルグの王国よ】
へー、そんな国もあるのか。
けどドヴェルグは既にアグレアスをゲットしたからなあ。
【俺たちの目的地は西にある帝国なんだが、その途中でその国を通過する事はあるのか?】
【帝国を目指すなら主に北か南のルートになるが、そのどちらでもガルダッシュ領に足を踏み入れる事はなかろう。何せ儂等は山の民じゃからの】
ふむ、アグレアスは多少この辺りの地理に詳しいようだ。
ヴァルは国外となるとよく知らないらしく、ロレイも軽く話を聞いた程度でそういった情報には疎いらしい。
俺はその後もアグレアスからこの辺り――南部魔族領と呼ばれる地域の情報を聞きだした。
そして今後の大まかな進路を決めるのだった。




