第123話 謎の店
ヴァルが言う職人街とは、街の北東にあるエリアの事のようだ。
確かに近づくにつれて、カーンカーンといかにもな音が聞こえてくる。
【って、この状況で鍛冶やってる奴がいんのか】
【でも聞こえてくるのは一か所だけっぽいっすね】
ヴァルが言うには以前この辺りを通った時は、もっと他にも色々な音がしていてやかましかったという。
【まー目印にはなんな。俺が気になっていたのも、丁度音が聞こえてくる方だし】
【コボルドの事っすね】
【それもそうなんだが、実はこの先にはよく分からない反応が一つあってな。それも確かめておきたい】
目指す場所には人族でもないし、コボルドでもゴブリンでもリザードマンでもない。
よく分からない生物の反応がある。
もしかしたら、早速魔族コレクションに新種が追加出来るかもしれない。
【ここ……だな】
やがて辿り着いたのは、なんだかよく分からない店の前だった。
一応店の表にはその店を表す看板が立てかけられているのだが、武器や防具の看板から家具らしきものの看板。
建物……宿のような看板に、ゴブリンの像と思しきものが描かれた看板まで、なんだか統一性がないように思える。
【あー、ここっすか】
【なんだヴァル。知っているのか?】
【前に用事があってきたのはこの店だったっす】
【へえ、なるほどな。で、ここは何の店なんだ?】
【おいらはそん時はおや……以前の上司に頼まれて、装備の修理を頼みに来たんっすけど……】
ヴァルも店自体が何をやってるかはよく知らないらしい。
ただギルガグロスで一番の店という事だ。
【まあ入ればわかるか】
入口の戸を開けて中に入るが、中には誰もいない。
ただそこら中に売り物なのかなんなのか、武器やら防具やら家具やらがごちゃごちゃと置いてある。
【……中に入っても何の店か分からんな】
【こっちの変なツボみたいなのは何っすかね】
ヴァルが言っているのは、壺の形状をしていながら底部分がなくて水が駄々洩れしそうな物体だ。
【これは……武器なのか?】
一緒に入ってきたロレイも、巨大なマチ針みたいなのを見て首を傾げている。
【とりあえず奥に行ってみよう。そっちから気配を感じる】
店の奥には居住スペースらしき部屋があったが、廊下を更に進むと外へと通じる扉がある。
その扉の向こうから、カーンカーンという鍛冶の音が聞こえていた。
しかし扉を開けた先は部屋ではなく外だった。
そこは広場のようになっていて、中央には井戸が設置されている。
そして、中庭のような場所を挟んで向かい側にある建物が、どうやら物を作るための場所らしい。
【こんだけ離れてたら客が来ても気づかないはずっす】
ただでさえ鍛冶の音でうるさいからな。
にしても店番の一人も置いてないのか。
【別に俺たちは客って訳でもないだろ。さ、いくぞ】
今度こそ、当たりだろう。
そう思って離れにある建物の扉を開ける。
すると中にいた人物が、俺たちを見て大声を上げた。
【おうおうおう! 見ての通り、こっちは今テメーらに頼まれた仕事で忙しいんだ。終わったらグシオンに報告に向かわせるから、帰ってくれ】
俺たちに背を向けた状態で吐き捨てるように言ったその人物は、身長が人族の子供位しかない。
しかし先ほどの声を聞く限り、しっかり声変わり……というよりも最早ジジ臭いといっていいような声をしていた。
彼の傍には、俺たちに気づいてこちらを見つめているコボルドがいる。
恐らく俺が感知したのはこのコボルドだろう。
今まで見た事のあるコボルドと比べると、一回り身長が高い。
もしかしなくても進化クラスだと思われる。
【何か人違いしてるようだな。というか、お前に仕事を頼んだ奴はもういないと思うぞ】
【ああん? そいつは一体どういう事だ?】
そこでようやく鍛冶をしていた人物が振りむく。
人族ではない事は分っていたが、その姿を見ればファンタジー通の俺には一発で正体が分かった。
【こんなゴブリンの国の街のど真ん中に、ドワーフがいるとは思わなかったぜ】
【ドワーフ……だと? よせ! 儂をあんなロリコン共と一緒にしてくれるな!】
【ああん? だがお前の見た目はどうみても――】
【確かに人間からは同じに見えるかもしれんが、儂等ドヴェルグはドワーフとは別物じゃ!】
俺が言い終える前に、男から否定の声が飛び出てくる。
ドヴェ……ルグ……?
いかつい顔をした髭もじゃで、背丈は低く横に広い。
見た目はドワーフそのものなんだけどな。
ノスピネル王国にも、数は少ないながらドワーフやエルフといった連中はいた。
俺は興味本位でそういった連中を見に行った事がある。
でも確かに"鑑定"で見てみると、目の前の男と以前見たドワーフとでは微かな違いがある事が分かった。
といっても、王国に住む人族にも似たような感じで別の種類の人族が存在している。
それらの人族同士では子供もできるようだし、見た所このドヴェルグとドワーフの間にも、子供を作ることが出来る位に似た種族のはずだが……。
【ドヴェルグとはどういった種族なんだ?】
【む? よく見れば人間にゴブリンにリザードマンと、よく分からん連中だな】
【んな事はいいから教えてくれよ】
【生意気な小僧じゃが、まあよい。よく聞けよ? ドヴェルグとドワーフの大きな違いは、女の見た目よ】
女?
そういえばドワーフの女は、人間からするとみんな若い女に見える。
というか、背丈が低いのもあって幼女……とまではいかないが、中学生位の見た目だ。
しかも男と違って女は髭がもじゃもじゃ生えたりしないので、言われてみればロリコンと言えるかもしれない。
【儂等ドヴェルグの女は、年を取れば相応に見た目も老けるし、髭も男とは生え方が違うがびっちり生えてきおる。男だって儂らからすれば、見分けは一目でつくわ】
ほおう。
ドワーフの女は一部の人族からは人気が出そうだが、ドヴェルグの方は相当マニアックな奴しか食いつかなそうだ。
【なるほどな。ドワーフなら見た事はあったんだが、ドヴェルグを見るのは初めてだったんでな】
【何じゃと? この辺りにドワーフが住んでいるなどという話は聞いたこともないわい。……それにさっきから気になっちゃいたが、お前らの様子を見た感じだと、そこの人間の小僧が一番偉そうだな?】
え、俺ってそんな偉そうなのか?
別に本人にそのつもりはないんだけど。
【親分はおいらの親分っす!】
【某はこの御方にお仕えしておる】
【……どうやらただの魔民族ではないようじゃ。で、ここへは何しに来た?】
正面切ってそう言われると、何て返せばいいのか困るな。
「あんたを魔族コレクションに加えにきた」なんて言っても、変な目で見られるどころか悪印象を与えるだけだ。
というかそもそも、ドヴェルグって魔族なのか?
【ちょっとした用があって訪ねたんだが……、あんたらドヴェルグってのは魔族に含まれているのか?】
俺の質問に、ドヴェルグの男は肩眉を上げて「何を言っているんだこいつは?」というような目をするのだった。




