第120話 ギャー、トカゲだー!
パラパラッと壊された牢の破片が周囲に飛び散る。
一応普通のゴブリンなら壊せそうにない感じの牢だったけど、結構あっさり壊したな。
【リザードマンというのは皆そんな感じなのか?】
【そんな感じとは?】
【そのパワーだよ。木製とはいえ簡単にぶち破ってたけど】
【一般的なリザードマンではこうは行かぬだろう。某はこれでもノーブルリザードマンジェネラル故、リザードマンとしては武に優れている方なのだ】
【ふーん。ゴブリンでいう所のゴブリンエリートのようなものか】
話しながら外へと出る俺達。
明るいところで見ると、ロレイは身長が二メートルくらいで結構ガタイが良い。
体を覆っている鱗も硬そうに見えるし、尾の部分も攻撃に利用できそうな感じがする。
【鱗の色は青系なんだな】
なんとなくリザードマンって緑のイメージがある。
もとは爬虫類だろうし。
【これはノーブルクラスの特徴だ。通常は緑色だ】
よく見ると爪なんかも結構鋭くて、武器がなくてもあの爪だけでも十分戦えそうな感じだ。
見た感じはあんまデフォルメされた感じではないから、蛇とか爬虫類が苦手な人が見たらビビリそうな外見をしている。
背丈もでかいしな。
【……確かに小鬼共の気配がせぬな】
普通こんだけの規模の街なら、どっかしら何かしらの音が聞こえてくるもんだ。
それが今はほとんど聞こえてこない。
時折屋敷の内部から聞こえてくる音は、樹里たちが家探ししてる音だろう。
【まだこの街にも数百体位は残ってると思うんだけどな。街中を堂々歩いて来たが、誰も襲ってこなかった】
【そもそも何故これ程ゴブリンが少ないのだ? ここはギルガの首都。某が連行された際には多くのゴブリンで賑わっていた】
【ここを目指す途中でゴブリンの大軍とドンパチやってな。それで粗方処分したんだ】
【ど、どんぱち……?】
【そう。こう……俺の魔法で派手にパーっとだな……】
身振り手振りで説明を試みるが、さっぱり理解出来ていないロレイ。
俺の身ぶりを真似て身体を動かしてる姿が、ちょっと可愛い。
【ううむ……よく分からぬが、ダイチ殿が魔法の使い手だという事は――】
とそこまでロレイが言いかけた時、近くにあった勝手口の戸が開き中から樹里達が姿を現わした。
「あ、大地じゃない。さっき中でこんなものを見つけたんだけ……ギャー、トカゲだー!」
しかしロレイの姿を見るなり、樹里だけ出て来た勝手口から中へと戻った。
残った根本とヴァルは驚きはしてるが、樹里ほどの反応は見せていない。
「あのー、その方は一体……?」
【妙な気配を探ってくるって言ってたっすけど、リザードマンだったんっすね】
根本は少しビビってる感じだけど、ヴァルは元々リザードマンについては知っていたらしい。
【む? そこなゴブリンはダイチ殿の仲間なのか?】
【ソイツは仲間ってか従魔のひとりだ】
【従魔? という事はこのゴブリンはダイチ殿が従えているという事か】
そう言って興味深げにヴァルを見つめるロレイ。
【……ただのゴブリンではないようだな】
【そっちこそただのリザードマンじゃないっぽいっすね】
ロレイは少し警戒? したようにヴァルを見るが、ヴァルの方はいつもの態度のままだ。
思えば目の前で同朋を虐殺した俺に対してもそんなに態度が変わってなかったし、案外こいつは大物なのかもしれない。
「笹井さん? そこで何をしてるのですか?」
勝手口の戸は開けっ放しになっているので、建物の中の声も聞こえてくる。
どうやら沙織もこの場に合流したようだ。
「しーっ、しーーーっ!」
「え、あの……?」
少しすると戸惑った様子の沙織が奥からこっちに向かってきた。
てか、樹里が「しーっ」っていう声がこっちまで聞こえてるんだが……。
「笹井さん、どうなされたんですか?」
「ああ、これだよ」
そう言って俺はロレイの方に顔を振る。
「……あら。可愛いトカゲさんですね」
「一色さんはこういうの平気なんッスね」
「……? 何の事ですか?」
樹里とは違って、沙織は爬虫類が平気なようだ。
というか、沙織ならGですら普通にはたき潰しそうな感じがする。
【ダイチ殿。何を話しているかは分からぬが、そこにいるのがお主の仲間達か?】
【そうだよ。一人奥に引っ込んじゃった奴と、従魔のヴァルを合わせて五人で旅をしている】
【……最後に奥から現れた人族のメスは只者ではないな?】
【沙織の事か? まあ……そうかもな】
【なるほど……。ダイチ殿が彼らを率いているのか?】
【そんな所だ】
【そうか……】
そう言ってなんか考え込み始めるロレイ。
ってか、いい加減樹里は出てこないのかな?
まあとりあえず成果を尋ねてみるか。
「で、中はどうだったんだ?」
「さっき笹井さんが魔導具らしきものを見つけてたッス」
「私の方は武器庫と思しき場所を発見しました」
「へえ、んじゃまずは武器庫とやらに案内してもらおうか」
「あ、それならすぐそこの階段降りてくと、地下の部屋に食糧庫があったッス。そっちのが近いッスよ」
勝手口から入った先はどうやら調理場のようで、そこには地下の食糧庫に続く階段があるようだ。
「んじゃあ行くか」
「あの、大地さん。そこのトカゲさんはどうするんですか?」
「ん?」
見ればまだ何やら考え込んでいる様子のロレイ。
だが俺が視線を送るとそれに気が付いたのか、ようやく反応を示した。
【ダイチ殿、話があるのだが】
【どうした?】
【某もダイチ殿の旅とやらに同行させてもらいたい】
【え、どうした急に】
【今故郷に帰っても、某を罠に嵌めた者に命を狙われる事になる。いくら某がノーブルリザードマンジェネラルとはいえ、多勢に無勢だろう】
リザードマンの中では強い方だけど、相手の数が多いと勝てないような強さって事か。
ファンタジーな世界といえど、量より質といえるような奴はそんなにいないのかもしれない。
【だが俺たちの旅の目的も聞いていないだろう。俺たちが目指してるのは、西にある人間の支配する帝国なんだが】
【帝国か……。噂には聞いたことがある。それならば、そこのゴブリンはどうするのだ?】
【勿論連れてくぞ。俺の従魔だからな】
【親分……っ!】
なんかヴァルが感動したような目つきでこっちを見てるんだが、別にそんな大したこと言ってないよな?
【ならば某も従魔とやらに加えてもらいたい】
【……従魔の意味が分かっているのか? 俺に従わないといけなくなるって事だぞ?】
【元より某はゴブリン達に従わされる立場にあった身。そこを解放して頂いたダイチ殿には恩がある。ただ……】
そこでロレイは一旦言葉を切る。
そして少し言いにくそうに続きを述べた。
【某が仕える相手として、初めに手合わせを願いたい】
【手合わせだと?】
【ダイチ殿は魔法使いと伺ったので、相手はそこのメスでも構わない】
そう言ってロレイが視線を送ったのは沙織だった。
【見た所かなりの使い手。彼女の実力を見せてもらえれば、某も納得してダイチ殿の麾下に加わろう】
【俺本人じゃなくてもいいのか?】
【ダイチ殿がこの群れのリーダーというならば、このメスもダイチ殿に従っているという事であろう? ならば問題はない】
んーむ、なんか考えが古風な感じだな。あとちょっと動物的というか。
一応本人も言いにくそうにしていたから、俺がダメだと言えばそれはそれで従魔になってくれそうだが……。
【わかり、ました。しょうぶ、うけます】
俺が少し迷っていると、拙い魔族語で応える声があった。
「沙織……。お前、魔族語大分理解出来るようになったんだな」
その声の持ち主は、丁度ロレイとの話の話題になっていた沙織だった。




