Killed
草いきれがまとわりつく。
しかし青臭さは無かった。
眼鏡によく似たディスプレイがプレイヤーに見せる幻。
しかしその細かさには目を見張る物が有った。
コントローラーをぐっと握りしめる。
長い悲鳴。
ログに記された言葉を罵声が塗り潰す。
フィールドではまさに今、処刑が始まった所だった。
哀れな死体をさらす熟練者を恐らく初心者であろう双剣士がおろおろしながら見た。
その周りには10数人のPK。
双剣士は格好だけ双剣を構えてはいるが、それ以上の動きは無い。
これがネットゲームだからこそ。
死の悲しみは薄い。
何人ものPKが自らの得物を手ににじり寄る。
なんというかリアルのいじめのようだ。
1人を多勢でなぶる。
斬刀士が双剣士に斬りかかった瞬間に、それまで全てを見ていた影が飛んだ。
斬刀士の首筋を押さえて地面に倒した。
「モンスターか!?」
地に押さえつけられた斬刀士が声をあげる。
PKたちが乱入者をターゲットした。
それは白きドラゴン−−……。
「こいつは……!」
声を張り上げた斬刀士の喉元に喰らい付き爪で引き裂いた。
逃げ出したPKの眼前にひらりと舞い降りたのはドラゴンではない。
銀髪の青年である。
青年は身近に居た重槍士の首を掴み、左手で巨大な剣を振るった。
重槍士が地に倒れる前に次の的を絞る。
コントローラーをはじけば、青年は巨剣を振るい、PKを殺していく。
「PKK−−碧眼の白竜−−……ルシアだ!」
気付いたらしいPKの声に親玉が顔を向け、忌々しそうに大剣を抜いた。
双剣士はルシアと女撃剣士を見比べ、困惑している。
常人離れした反応速度でルシアは撃剣士の放つ攻撃をかわしていく。
「ちいぃぃぃぃ!」
「カァッ!!」
撃剣士が間合いをとった瞬間、ルシアの姿がかき消えた。
「なっ……!?」
きょろきょろと辺りを見回す撃剣士の上空でルシアは卑しい笑みを浮かべる。
本来の武器『炎獄竜』に一瞬で持ち変え、振りかぶると、シュウシュウと唸る風を蹴って撃剣士の頭に容赦なく刃を叩き込んだ。
「弱々ですなw」
灰色の死体が転がる中心でルシアは大きく息を吐いた。
「あ、あの……」
おずおず、といった感じで双剣士の少年が近付く。
ぎろり、と睨まれ、確実に数歩下がった少年を横目で見ながら歩き出した。
肩にかつぐのは炎獄竜ではない。
初心者向けの大剣である。
「ルシアさん……僕は……!」
何も言わずに右手を上げ、ゲートアウトしていく。
「僕は貴方みたいに強くなりたい!!」
誰も聞く事のない決意と共に、彼はルシアを追うようにしてゲートアウトしていった。
一話完結式で一本筋を通した話を書こうと思い、本能に従って書きました。
原文は携帯のメモ欄に埃を被ったまま忘れ去っていたネトゲものでした。
拙くて申し訳ない。