夏ホラー 口減らしの住む駅
ほのぼのかも
「すまねえ。すまねえ。」
誤り続ける男。その手にはすやすやと眠る赤子を抱き抱えていた。川原のそばに来ると覚悟を決め、一歩また一歩と川の中に進んで行く。中程まで行くと男は立ち止まる。一呼吸おき、赤子を抱いている手を降ろす。赤子は静に川へを下っていく。川下へ向かうと赤子は段々と川底へ沈んでゆく。男は誤り続ける。
飢饉のため食べるものに困った大人たちは赤子を川に流した。
大人たちは自分たちの無力さ、いい加減さに嘆いた。その供養のためにお盆の15日に川に送り火を流す。これが祭りの由来だ。
幼いころ父にそう言い聞かされ育った私はこの祭りが怖かった。今はただの観光行事に成り下がっているこの祭りが。そんなことはつい忘れ、彼と地元でこの祭りを楽しむ。
両岸には人の山が出来、皆川を眺める。その先には火の付けられた船が勇壮に流れる。幻想的な光景に若者は画像取りをインスタ等にアップする。船の火が大きく燃え上がると同時ぐらいに、別の場所から花火が上がる。この街の夏の終わりを告げる。
美香は彼氏の廉と川岸を腕を組んで駅の方向へ歩いていた。廉とは遠距離恋愛。祭りが終わる前に新幹線に乗り仕事場へ帰って行く。美香は彼のために、着なれない浴衣を着ていた。彼はそのまま直接帰るため普段着で帰宅の荷物を背負っていた。
一週間だけ地元への帰省。恋人立ちの時間。盛り上がった二人は毎晩、寝床を共にした。
駅のホームで美香と廉は別れを惜しんだ。
「美香、またな。」
廉が美香に抱き着く。
「もう。次はいつ帰ってくるの?」
美香はまんざらでもなさそうだ。
「さっきもいったけど。正月まで無理かな。」
「廉ちゃん仕事大好きなんだから、構ってくれないと浮気しちゃうよ。」
「はい。はい。」
じゃれあう二人。彼は仕事場へと戻って行った。
(いっちゃった。)
無気力感に襲われる美香。見送りなど誰もいない夜のホーム。
とぼとぼ歩いていると前方に浴衣を着た男の子の姿が見えた。
年は小学校の低学年ぐらいに見えた。
(あんな子いた?)
今日は祭りの夜だ。出店も出る。
美香は浴衣の彼を街に繰り出して迷子になったものだと思った。
彼女は男の子に声をかけた。
「僕。どうしたの?迷子かな?」
彼はこちらに振り向き返事をしてくれた。
「違うよ。捨てられたの。」
彼の発言にぎょっとしたが、大人の対応をする。
「迷子ね。駅員さんの所まで一緒に行こう。」
手を差し出すと男の子は私の手を取ってくれた。
彼の手をぎゅっと握り返す。彼の手は水に浸かっていたように冷たい。
「お母さんありがとう。」
男の子は嬉しそうに答える。
「え?違う。違う。おねーちゃん。僕、お名前は?」
「わすれたの?悠太だよ。」
その名前は美香の頭の中に確かにあった。
「そうだったね。ゴメンね。悠太。」
自然と言葉でる。
「忘れないでね。」
その言葉は彼女の喉奥に突き刺ささる。
(忘れてた。)
「悠太は誰かのお見送り?」
「お父さんの。初めて見た。」
「誰と来たの?」
「お母さん。」
美香のことを指差す。
「私はおねーちゃん。」
「お母さん。」
訂正しても彼はそれでもお母さんと声を掛けてくる。彼女は諦め彼の呼び名を認めた。
長いホームを二人で歩く。その先に駅員の姿を確認した。
「すいません。この子迷子なんですけど。」
「誰が?貴女が?」
「この子」
「いませんけど。」
美香も振り向く。悠太の姿はなく彼女の手は異常に冷たかった。
「お母さん、僕のことは気にしなくていいよ。仲間達いっぱいいるから。」
どこからかそんな声がが聞こえた。
不思議な体験をしてから9月に入るころ、女友達からひとつ動画が届く。それは男女のまぐあいと美香への誹謗中傷が入っていた。まぐあいの相手は美香の彼氏、廉とこの動画を送り付けて来た親友の愛だった。すぐに愛に電話をかける。
「愛!どういうつもりなの!」
「遊ばれているの可哀想だから教えてやったのよ。廉は私の旦那だから。」
「はあ?」
「今年の7月に入籍したの。いつまでも粘着しないで。廉が困ってるでしょ。」
「はあ!な、何を言ってるの!廉と私の、高校から付き合ってるの知ってるでしょ。」
「ふん、大学の時、浮気したでしょ。」
「それは、廉の誤解だって、何度も話したわ。」
「残念ね。もう廉は私の旦那だから。」
そう言うと愛は電話を切った。すぐに廉に電話をかける。彼との連絡は取れなかった。
美香は廉に会うため駅へ向かった。新幹線を待っていると後ろから声をかけられた。
「お母さん。」
はっと。振り向く。先日あった悠太の姿がそこにあった。こないだの浴衣とは違い、普通の洋服を来ていた。
「悠太、こんばんは。あの時いきなりいなくなってびっくりしたよ。今から用事があるんだ。またね。」
美香は悠太が消えた日、どうして消えたのか理由を考えていた。考えた結論は彼は地元民で保護者と一緒に来ていて、その保護者を見つけたため、いなくなったと考えていた。悠太が地元民であることが今日証明された。
「行っちゃダメだよ。」
「行かないとダメなの。」
「行くとお父さんもお母さんも不幸になるよ。」
淡々と引き留めをする悠太。誰のことを指しているかは謎だった。
「私が彼に会うと悠太のお父さんとお母さんが不幸になるの?」
「そうだよ。」
苦笑した。それではまるで美香と廉が悠太の親のように聞こえる。
「それでも、いかなきゃダメなの。」
「帰ってこれないよ。僕は諦めるかさ。行かないで。」
悠太を振り切り新幹線に乗る。ホームには彼の姿はなかった。
新幹線の乗車時間、一時間。冷静になる時間があった。今さら彼に会ってどうする?悠太と話をしてさらに落ち着いた。美香は彼の家に向かうことなUターンして地元へ帰った。
廉から連絡が入る。正式に別れ話が来た。悔しかったが諦めるも、ついた。
地元の駅へと戻る。悠太が浴衣姿で出迎えてくれた。彼の姿に涙が出てきた。
「ただいま悠太。」
「お帰り、お母さん。」
もう、彼の発言には突っ込みを入れない。ただ毎回新幹線ホームで会うのだけが気になった。
「悠太君は新幹線好きなの?」
「好きだよ。」
「なんで?」
「川に流されているような速さで楽しいよ。」
「川下りが趣味なの?」
「そうだよ。」
毎年、川をボートで下るイベントを思い浮かべる。暑い時は楽しそうだ。
「私も乗ってみたいな。」
「お母さんはダメだよ。」
強く否定される。なぜたかはわからない。
悠太は手を出して来た。美香も自然と手を繋ぐ。相変わらず手は冷たい。それでも彼は嬉しそうに笑う。駅員の近くまで来ると、やはり彼はいなくなっていた。
その晩、美香は家で1人やけ酒を飲んだ。悔しさと悲しさと絶望を忘れるために。いつのまにか眠っていた。目を覚ますと体か動かなかった。彼女の上には着物の来た男の子が乗っていた。
「うっうう?」(悠太?)
口を動かそうにも動かせない。うなり声しか発っせられない。間違いないなくその子は悠太だと思った。その男の子はすーと私の中に入り消えた。
この体験が何度か続き起きたため寝不足で体調不良になった。
10月の始め、美香は睡眠薬をもらうため病院へいった。吐き気などもあり風邪と寝不足のダブルパンチ。と思っていた。
「妊娠ですね。」
医師にそう告げられた時、彼女は頭が真っ白になった。間違いなく廉との間の子だ。別れた男の子。降ろすのが自然かも知れないが躊躇した。この子は間違いなく悠太と思えたからだ。妊娠を意識してからは夜の金縛りからは解放されていた。ほっとする反面残念な気持ちになった。悠太と話したい。
美香はみたび新幹線ホームへと足を運ぶ。ここにいれば悠太に会えると思いからだ。ひたすらホームで待つ。駅員にけげんされるが一切無視した。最終の新幹線がホームを出る。何も起きなかった。諦めホームを出ようとしたとき待ち人を見つけた。
「お母さんダメたよ。体か冷えちゃうよ。」
美香はその人物を抱き締めた。
「悠太。」
話をしたいことがあったはずだったが何も言えなく、ただただ彼を抱いていた。その状態で悠太は語りだした。
「お母さん。あのね。僕は仲間たくさんいるから寂しくないよ。だから安心して。」
美香はふと顔をあげる。
彼の言葉通り仲間がホームを埋めていた。大半が服を着ぬ赤子。そしてガリガリに痩せた子供たち。
美香はいつの間にか、産婦人科の病室で寝ていた。あのあと倒れたらしく、駅員さんの通報で救急車が出動していた。
駅での情景を思い出し涙を流す。
(たくさんいるのね。生きたくても生きられない子供。)
彼女はお中の子を育てる決心をした。
ケジメのため、またホームへと向かう。ホームの一番端にある喫煙コーナー。そこから、二本の川の合流点が見えた。送り火を流す、あの川た。線香に火を付け拝む。皆の分までこの頑張って育てると誓いを立てた。
一本の新幹線がホームへ入って来る。
いつの間にか悠太と手を繋いで歩いていた。冷たい手にも、もう慣れた。その笑顔が愛おしい。
「お母さん、お父さん帰って来たよ。今のお母さんなら大丈夫。お父さんを信じて上げて。」
悠太にそう言われた。
新幹線の降り口に廉の姿があった。こちらによってくる彼。
「美香ゴメン。俺、美香にヒドイこと言った。もう一度俺にチャンスを下さい。」
躊躇する美香。
「大丈夫だよ。信じてあげて。」
もう一度そう悠太がつぶやく。彼の手を握り返した。相変わらず冷たい。でも全てが癒される感じがした。
廉とやり直すこととなり、妊娠と不思議な体験談を彼に話す。座敷わらし?と彼は言っていた。
5月になり美香は赤ちゃんを生んだ。可愛らし女の子だった。名前に悠太と名付けたかったが、女の人だったため、悠と名付けた。
6月、駅に鈴の音色が響くころ美香は悠を連れて駅のホームへ立っていた。悠太が気になったのだ。
悠は常時機嫌が良かった。ニコニコしかしない。
「あ。」
諦めかけた頃、悠太が姿を表した。
「悠太こんにちは。」
「母さん。早く帰って。悠が消えちゃうよ。」
悠太は怒っていた。
「すぐ帰るよ。悠太と少しお話したかったの。」
「僕はないよ。妹に、頼まれた役割終わったし。」
彼の言葉で疑念が核心に変わった。
「悠太って私の息子だよね。」
「そうだよ。」
「死んでいるんだよね。」
「そうだよ。」
「ごめんなさい。」
「仕方ないよ。僕は望まれなかった。ただそれだけ。」
「ごめんね。」
「妹を大事にして。」
「ごめんね。」
「大丈夫、仲間はたくさんいるから。」
笑いながら悠太は浮かび上がりスーっと消えていった。
大学の時、愛の言う通り浮気をしていた。そして望まない妊娠をした。浮気相手に妊娠したと話すと、降ろせとしか言わなかった。彼の言うことを聞き私は子どもを降ろした。その彼とはそれが理由で別れた。
私は悠太の生命を奪っている。
すいません。怖いの書けませんでした。
書いたんで載せるだけです。
あの駅にはいるよ。