#1 クロス・ワールド
5月19日 火曜日
『ザっザっザっザっ』
いまにも絡まりそうなツタの上をなんなく走り抜ける少年が1人
その後ろには
『ズダンっズダンっ』
と地響き響かせながら
追いかける怪物
それは、頭は牛
体は人間で構成されていて、この世のものとは思えない図体をしていた。
『ザっざっ・・・・・キキッ』
少年は逃げるの諦めたのか、走るのを止め怪物の方を向いた。
さらに腰に装備されている剣を抜き構えた、
そう少年は怪物との戦いを決意したのだ。
怪物も追い詰めたと判断したのか、少年からある程度の距離をとり様子をうかがっているようだ。
そして、次の瞬間いきなり怪物がなぐりかかってきた。
少年も剣を振り上げ始めたが、完全にタイミングが悪かった。
『バゴッッッ』
少年の頭上に68の数字が現れ、なれた口調のようなうめき声をだし倒れてしまった・・・・・・・・・・・・
「つよっ!
ミノタウロスめちゃつよっ!!」
画面には血で塗られたように
『gameover』
と描かれてあった。
「やっぱ、8レベルでこのステージはきついなぁ」
そう言いきかせながらタイトル画面からコンテニューを選び再スタートした。
この少年の名は
柊 健二
ヒイラギ ケンジ
今年で17歳の現役バリバリの高校生である。
ガララッ
健二の部屋のふすまが開いた
その先には健二の母
柊 美子
ヒイラギ ヨシコ
が立っていた。
「ケンジ、またゲームかい!?それになんだい現役バリバリってのは?」
健二の顔がはてなになる。
「現役バリバリってなんのことだよ!」
「あんたには聞こえない天の声だよ!それにしたってよく言うよ!今日だって頭痛いだのいって学校、仮病してるのにさ全く!!」
母のガミガミ説教が始まった。
語尾に、『全く』がついたら説教の合図だというのは健二の長年の経験により解明されていた。
しかも、決まって最後の方はゲームに関することなのだ。
健二はゲームが大好きなのだが、両親はというと大のゲーム嫌いなのだ。
母は、ゲームなんて時間のムダ、それよりやらないといけないことがあるなど・・・・・
父は、子供は外で野球をして遊ぶのが基本なんだという昭和魂がある。
そんなゲーム嫌いな2人のDNAから生まれたゲーム大好きな健二。
化学変化とは怖いものだ。
「わかった?!明日からは学校いかせますからね!明後日から試験なんでしょ!?ったくぅ・・・・・」
そういうとふすまを思い切り、ピシャッとしめて健二の部屋を出ていった。
高校生になって2年を過ぎ3年生を迎えた健二。
入学当初に比べると比較的、休む回数が増えていった。
その内の理由がたいてい、腹痛、頭痛、自己判断的体調不良・・・・・・
つまり仮病である。
学校ではねくらな性格でおり、それゆえ周りからはオタク目線を向けられていたのであった。それが嫌で仮病という手段で学校を休んでいたのであった。
しかし友達がいない訳ではない。
数少ないようだが、同じ共感を持ったゲーム仲間がちらほらいるのだ。
そんな感じの健二。
時は進み・・・・・
次の日の朝がきた。
「ふぁーあー」
なんの前触れもなく健二は目が覚めた。
枕元の目覚まし時計を確認すると、6時15分を指していた。
目覚まし時計の設定よりも5分も先に起きてしまったようだ。
とりあえず、ベッドから身体をお越し今日の授業の準備はじめた。
今日の授業は、
1時間目は数学
2時間目は体育
3時間目・・・・・
とまぁ、いたって普通の時間割のようだ。
「・・・・2時間目、体育かよ」
健二にとって体育は苦手の教科の一つであった。
さらに授業内容はというと、最も苦手なスポーツのサッカーであった。
そんなこんなでため息1つ、頭に過るは仮病の二文字であった。
ドタドタドタ
地響き響かせながらやってきたのは、健二の母、美子であった。
「あら・・・・起きてたの?今日はやけに早いわね」
そういうと、ちょっとガッカリしたような顔で健二の部屋を後にした。
出番がほしかったようだ・・・・・・・
とりあえず、支度をすまし制服に着替え、健二は学校に向かった。
健二の通う学校は家から徒歩で15分と何気に近く、大半のほかの生徒も地元の子らが多かった。
つまり、中学の時に同じ生徒で極端に頭いいか極端にバカな奴以外は、ほとんどこの学校に入学していた。
「よぉー、ケンジ」
ちょうど曲がり角で同じクラスの、
立石 良太と遭遇した。
「お、おはようリョウタ君」
良太とは、中学で二回も同じクラスになっていたから、しゃべり慣れはしていた。
が、健二はあまり好きではなかった。
なぜなら、こういった感じで2人同士なら何もしてこない良き知り合いなのだが、周りに人がいるときは健二を踏み台にし笑いを取るタイプなのだ。
特に女の子の前になると扱いようはとてつもなく酷いものだった。
「昨日、学校来てなかったよな!?」
来てなかったよな・・完全には言い切っていない、自信がないのか興味がないのか、どちらにしろ同じクラスだから知っているのが常識なのだが・・・・
「昨日は休んでたよ。ちょっと頭痛が酷くてさ・・」
ふーんと頷き、大事にしろよと言って、良太は1人で学校に向かって言った。
はぁーー
また、ため息ひとつ・・・・
学校につくと、毎朝のように校門前で野球部が挨拶をしていた。
そのまま校門をスルリと抜けると、なんだかホッとした。
道なりに進んだ先に3年生の靴箱がある。
3年生の靴箱は他の学年のとは違い生きいきとツヤがでていた。
なぜなら、1ヶ月ほど前に塗り替えられたばかりであった。
校内用のシューズを履き替えようとした時、隣でパタンと可愛いげな音がした。健二が横目でチラリ見ると
なんと
そこには真希ちゃんが校内用シューズを取り出していた。
真希ちゃんとは
本名(小川真希)
肩までかかったサラサラな髪型に大きくはっきりとした二重に、くすみのないキレイな肌。
間違いなくこの学校で1位2位を争う可愛さだ。
普段呼ぶときは勿論、真希ちゃんではなく、小川さんだ。心の中だけで真希ちゃんと呼ぶのだった。
そんな真希ちゃんが、校門用シューズに履き替えようと片足を手に届く所まで上げていた。
スカートが膝の上の10cmほどまでしかない丈を太ももに持ち上げられ、今にもパンツが見えそうになっていた。
それに気づいた健二はサッと下を向き赤面するのを感じた。
(ヤバいよ・・横目で見てたのバレたかな?見えそうになった時に下向いたなんて誰も信じてくれないよ・・・・・・・)
そんなことを考えてるうちに、真希はスタスタと行ってしまっていた。
健二は急いで校内用シューズに履き替え、教室に向かった。
健二のクラス(3-4)は中央の階段を二階に上がってすぐの所にあった。
階段を上がってる最中に何人かの生徒が健二を抜きさっていった。
教室の前に来ると、一呼吸いれ中に入った。
朝っぱらから室内はガヤガヤしていた。
高笑いする奴もいれば、何人かで先日あったテストの復習をしている。
窓際の列の前から三番目が健二の席であった。
カバンを机に置きイスに腰掛けると、2人の男子生徒が近づいてきた。
1人は
オシャレのつもりでかけてる黒ブチメガネにボサボサの短い髪。
細いからだは、貧弱そのものであった。
もう1人は
ポッチャリとしたまんまるい体に、うねっとした髪が妙に気持ち悪い。
「おはよう」
健二が机の中に教科書を入れながら言ったが2人は自分達の話を勝手に喋りだした。
「まぁ黙って耳を貸せ、昨日の放課後に拓也と2人でオラクルに行ったらさ・・」ポッチャリな方がウキウキしながら話はじめた。
オラクルとは、近所にある新品・中古も扱うゲームショップのことである。
「中古コーナーにスゲェ品があったんだぜ」
隣で拓也と呼ばれた黒ブチメガネがウンウンと頷きながら聞いていた。
「2000万だ!!」
「何が?」健二があきれた様子で聞き返す。
ポッチャリ体型が
ニヤニヤしながら焦らした。
そんな様子を見て、次は黒ブチメガネの拓也が話を続けた。
「こうちゃん!数値だけいってもわからないに決まってるだろ!値段だよ」
「だからなんの!!」声に重みがかかった。
「ゲームだよ!ゲーム。
オラクルはゲームショップってのはみんな知ってるぞ。藤坪さん意外はな!」
拓也が、分厚い教科書を読んでる、オカッパヘアーのメガネを掛けた女性生徒をアゴで指しながら言った。
「に・・・2000万!?ゲームが・・?拓也もこうちゃんも何言ってんだよ!
2000万なんて・・馬鹿げてるよ」
健二が信じられないと疑ってるのを見ると、2人は顔を見合わして、またもやニヤニヤし始めた。
それから十分ほど2人の話を聞いていたが、先生が来たので中断した。
担任が出席をとり始め、健二の名前が呼ばれ返事をした。
「いたのかよぉ!」
周りの誰かが叫ぶと、みんなが笑ってるのが分かった。
その誰かとは、登校中にあった良太ってことは声を聞いただけでわかった。
しかし、健二の頭の中は2人から聞いた
(2000万で売ってあるゲーム)
それでいっぱいだった。
いったいそんな物が本当にあるのか
いまだに信じられないでいた。
売れるものなのか?
自分の目で見ないとなんとも言えない。
なので、放課後に3人でオラクルに行くことになった。