Ⅱ.第2話 ギア
ソウルブレイカー:魂を壊す者、暗殺者など
ソウルメイカー:魂を浄化して新しい魂を生み出す者
ロードマスター:ブレイカー、メイカー、どちらにも成り得る者
朝が来たのに気づかなかった。
このぬくもりを手放したくない。あともう少しだけ微睡んでいたい……。
ブルネットのキレーなオネーサンに、抱き枕だと勘違いされている朝は、特に。
なのに、誰かが遠慮なしに部屋のドアを叩く。
この街での宿は、やや広めだからドアまで少し距離がある。
これなら聞こえない振りが通じるだろう。
そんなことを考えていると、叩く音が激しくなった。
音はさらにどんどん激しくなり、このままだとドアを壊す勢いになりそうだ。
鍵なんて付いてない。
もう勝手に入ってくれ。
「おーい。いないのかぁ……って、いるじゃねぇか!」
やけに身体の大きい男が床を軋ませながら、ドカドカと入ってきた。
「……だれ……?」
答えたオネーサンに、やっと状況が見えたらしい。
「おっと。邪魔だったか」
「まぁ、かなりね」レストは苦笑まじりに言う。
「あんた『D』だよな?」
NGワードが飛び出したことに焦って、オネーサンをチラチラ見ながら男に首を振ってみせる。
「ん?『D』はあんたじゃなくて、こっち?」
男はオネーサンのことを見る。
「でも、男って聞いてたぞ」
悪いのは男の察しなのか、ジェスチャーなのか。
「えっ? あなた、『D』だったの?! 」
オネーサンがシーツを奪って仰け反る。
「いや、言ったよね。オレは単なる旅人だって。この人、なんか勘違いしてる」
少し必死になりながら、宥めに入る。
「ちょっと、出て話そうか、オニーサン」
オネーサンに小さく手を振りながら、廊下に出ると声を落として話す。
「……もしかしてメイカーか?」
「ほら、やっぱ『D』なん———」思わず大口を手で塞ぐ。
俺の片手じゃ足りないくらいの口だ。
「ちょっと、声、デカすぎっ……」
「『D』なんじゃないか、おれを勘違いとかなんとか言ってたけど」
一般的な声量レベルにしてもらって会話を続ける。
「待ち合わせのはずだったろ」
「来なかったのは誰だよ」
……!
もうそんな時間だったか。
「……わるい」
「で、どうする?出直すか?今日はもう回収予定ないから」
大男にはこの廊下は狭すぎる。
「外で待っててくれるか?すぐ行く」
「あぁ、分かった。……何か着てこいよ」
男の下りた視線から察した。
俺としたことが……。
部屋に戻って、オネーサンに丁重にお礼をしてから荷物をまとめる。
と、いってもバッグひとつの身軽な装備だ。
そんなに時間はかかってなかったはず。
宿を出ると、大男が黒い服の集団に囲まれている。
昇ったばかりの朝日の下に、目立ちすぎる色だ。
「おいっ」
威嚇のためナイフを投げる。そのどれもが避けられ地に刺さった。
「『D』‼ 気をつけろ、こいつら……」
黒集団は、一斉に闖入者を見る。
「Dっ……」
明らかに名前に反応したと見える。
驚いたような呟きを残すと、コートを翻し、あっという間に集団は去っていった。
「メイカー、大丈夫か?」
「あぁ。でも……」
「どうした?」
「その、メイカーっての、やめてくれるか?」
「えっ? あっ……初めてのメイカーなもんだから、つい……。名前知らないし」
「ギアって呼んでくれ」
一先ず、ギアの泊まる宿で続きを話すことにした。
「こ、これ……宿屋なのか?」
着いた先は、淡いピンク色をした、途轍もない高さの建造物だ。
「この街で唯一のホテルらしい。おれのスポンサーの持ち物でさ」
ホテル?スポンサー?
この街は、俺が巡ってきた中でも一番近代的だ。
まだまだ世界は広い。
俺の場所もきっとどこかにある。
でも、ここじゃない……といい。
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