Ⅰ.第5話 ゼフィア
ゼフィアは中庭をひとりで歩いていた。
レストが夢に見た、あの中庭だ。
王宮では、父の目がいつも光っている。
力の殆どを封印され、彼女は王の傀儡だ。
冥界の王家は、本来、ソウルメイカーやロードマスターから浄化済み魂を預かり、チェックして、天界に戻すのが仕事。
その魂を王は着服し、身体を与えて奴隷にしたり、自分の食事にしたりしていた。
王の命を奪う唯一の剣は、母が特別に作らせた。
自分の命を使って。
あの指輪の石はゼフィアの母のものだ。
父の暴挙を止める手立てを他に考えられなかったのだろう。
これで王を暗殺せよと、死の間際、密かにゼフィアに託した。
ゼフィアは、王を殺すまでは王を止めることだけ考えると母に約束した。
父の耳に入る前に、力ある暗殺者に預けたい。
王宮へ頻繁に出入りするロードマスターたちは、前々から『D』の噂をしていた。
常に死を纏い、その左目には悪魔が宿っている。彼が依頼を受けたら、誰も死からは逃れられない、と。
父の隙を見ては、内密に調査をした。
『D』は、確かに暗殺の腕は間違いないようだった。
でも、悪魔でも死神でもない。
女性と子どもがターゲットの依頼は決して受けないという。
所詮、ただの人間……
王宮には、白い花があちこちに植えられている。
魂に安らぎを与えるというが、効果は媚薬に近い。
ブルー・スプルースに似た香りで、体内のホルモンを増やすという。
「私に魅力があればよかったけれど、念のため……」
ゼフィアは花を数本摘み取り、準備のため部屋に戻った。
明日、『D』と会うために。
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