Ⅲ.第12話
静かな話し声が聞こえる。
言葉は空気中を漂う粒子と結合して、幾筋にもなって落ちてくる。
意味を失い、ただの囁きとなって。
感覚的な意識は、緩やかにほどけて、次第に広がっていくようだった。
突然。
切り離されていた身体の意識が急に繋がった。
押し寄せてきた激しい痛みが、意識全体を支配する。
痛みを伴って、何かどろりとしたものが身体を走る。
視覚的意識はまだ全て覚醒していなかったが、それが吐血だと分かった。
レスト
誰かの声。
俺の……名前?
混濁した視界。
完成していないパズルのように抜け落ちて見える。
彼女だと分かった。
いつだって、どんな姿だって彼女のことは分かる自信がある。
でも、何が誰が君をそんなに悲しませてる?
徐々に記憶が戻る。
教会、黒衣、ナイフ、女性、炎、池……
はっきりと聞こえないのは中耳腔圧平衡が不完全なせいだ。
俺は、水は苦手だから……。
溺れていた俺を、彼女が助けてくれたのか?
力の戻ったゼフィアは、何だってできちゃうからな……俺より強いかも……。
呼吸のたびに傷が痛む。
ここまでか……。
ふと思った。
それでもいい。
俺は望んでいたものを手に入れたから。
額に、やわらかい唇の感触。
痛みから逃れたくて閉じていた瞼を、開けた。
そばに、悲しげな彼女が見えた。
俺は微笑みたかったけど、うまくできなかったかもしれない。
ゼフィアは、自分の首から月を象ったアクセサリーを外した。
「今まで、父に封印されていたんだけど……父が死んだことでその封印が解けたみたいなの」
言いながら、そこから光を取り出す。
「ごめんなさい。……レスト、許して……」
光はレストに吸い込まれ、彼を包みこんだ。
圧倒的パワーのエネルギーに押し流され、意識を掴んでいるのが精一杯だった。
身体の内側が引き裂かれ、引き剥され、捥ぎ離されるような感覚。
熱に晒された息苦しさが、痛みを上回った時———。
———全ての重苦から解放された。
ゼフィアはただ見守っていた。
彼の呼吸が止まったのを……。
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