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Ⅲ.第11話 罠

 

 手段を選ばない、非道な罠だった。

 ただの暗殺者に、ここまでするかってほどの。

 とにかく、俺は絶体絶命だった。




 指定場所は、鬱蒼(うっそう)とした樹々に囲まれていて、人目に付きにくいところだった。


 壁の漆喰(しっくい)は剥がれ、壊れ、破れた屋根が今にも崩れ落ちそうな、見るからに廃墟。 


 教会であったとしても教会()だ。

 よく見ると壁には、黒い文字や記号のようなものが書かれている。


 ただの教会じゃない。

 遠目で確認しただけでも、嫌な予感しかしなかった。


 あの中に標的がいるのか?

 いたとして、一体、何をしてるっていうんだ?

 怪しすぎr……

 そう思った時、女性の声が聞こえた。


「だれか、誰か、たすけてー!」

 姿は見えない。でも、あの中にいるらしい。


 標的は女性なのか?

 それとも一緒に囚われている?


 急いで中に入ると、予想は見事に間違っていたことが証明された。


 大ぶりのナイフを手にした男。

 縛られた状態で椅子に座る女性。

 そのどちらもフードのついた黒衣姿。


 ここはやつらの教会だったのか……。

 それを見た瞬間、全てを理解した気になっていた。


 レストが入ってきたのを知って、男は女性の喉元にナイフを当てた。

 ふたりとも一言も発さず、こちらを見ている。

 その瞳は、一方は狂気に満ち、もう一方には、なぜか恐れがなかった。


 信じられないような光景。仲間じゃないのか……?



 男は一見して素人と分かる。

 造作もない。

 ナイフを叩き落とし、腹部を蹴り飛ばす。

 男は壁まで吹っ飛んだところで項垂(うなだ)れるように失神した。


 ギアを襲った黒服とは力量差がありすぎる。もしかして……こいつは捨て駒か?



 女性に向き直り、手足を縛る紐を切る。

 彼女が立ち上がろうとすると何かが落ちた。


 それを拾おうとして、背中に異変を感じた。


 彼女を見ると、ナイフを手にして笑っている。

 刺された痛みだと分かった。


 立っていられなくて、俺は膝をつく。

 その隙に彼女は火をつけた。


 マジかよ……

 そのために香油が撒かれていたのか。


 あっという間に炎が燃えて広がる。


 彼女はナイフを拾うと、勢いよく自分に突き立てた。

「やめろ———」

 だが、間に合わなかった。


 火は勢いを増して教会を飲み込んでいく。


 標的はいなかった。これは、おそらく俺への挑戦。


 無駄な死を増やしたくはない。

 俺は失神男を抱えると、出入口まで走った。


 炎の舌は俺に触れ、俺を求めて襲い掛かってきたが、きわどいところで何とか(かわ)した。

 だが、火はしつこく二人の衣服にしがみついていた。

 もう余力はない。


 俺はそのまま、裏にあった池に飛び込んだ。

 沼じゃなくてまだ良かった……。


 だが、傷は深く、尋常じゃない痛みに、俺は次第に意識を手放した———。




 教会の前で、その様子を黒いコート姿が見ている。


「『D』……随分あっけないじゃないか。残念だよ」


 シルバーブロンドの長い髪がフードから覗いている。

 呟きを残し、樹々の狭間に姿を隠すように消えていった。








ありがとうございます!

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