Ⅲ.第7話
その夜。
客間でひとり、レストはひたすら念じていた。
指輪の石は頑丈に嵌め込まれていて、幾ら念じても、外れそうな気配は微塵もなかった。
諦めて、ナイフを出す。
最終手段。
それは、ギアが削り過ぎた薄い薄いナイフ第2号だった。
ところが、ちょうど指輪と石の間の溝に刃先が入って、思ったより簡単に外れてしまった。
「なんだよ、念の力は必要なかったのか……」
ギアの怪力に感謝だな。
今頃、ホテルに戻っているだろう仲間たちには借りができた。
いつか、返さないと。
ゼフィアの部屋にそっと入ると、彼女は眠っていた。
方法は分からない。
だが、レストは石をゼフィアの額に向けて祈るように念じた。
「今、これを必要としているのは、君だから」
瞬間、目が眩むほどの、まばゆい光が辺りに広がる。
心配しながら様子を見守っていると、石は、ゼフィアの額に吸い込まれるように収まった。
それを見届け、部屋を出ようとしたところで背後から声をかけられる。
「レスト?! 」
ヤバっ……
まぁ、とにかく、こうして、ゼフィアは力を取り戻した。
どうしてこんな勝手なことを……とは聞かない。
どうせ、「君のため」とか誤魔化すに決まっている。
だから、そう言う代わりに、ゼフィアは微笑んだ。
「あなたは、本当に私の特別な人ね。……冥界だけじゃなく私のことまで救ってくれた。感謝しきれないわ」
レストは彼女のベッドの端に遠慮がちに腰かけ、ただじっと見つめている。
「それなのに、あなたから剣を奪う結果になってしまって……ごめんなさい」
「それに、あなたにまだ報酬を支払ってないわよね」
今後は、王に代わって、ゼフィアがここで魂を管理する。
おそらく永遠に———。
もう王家の剣はないから。
「君の依頼は、オレの記憶が正しければ……確かキャンセルされたんじゃなかったかな?だから、報酬の話もナシだ」
ニヤリとすると、彼女の手をとった。
「オレは……暗殺者を廃業して、ここに残ろうと思ってる」
「できる限り、君のそばにいたいから」
レストは、今まで考えたこともなかったことを口にした。
願っても叶わない思い。
それなら、少しでも彼女と同じ時を生きたい。
それはゼフィアの想いとも重なった。
でも。
彼女は緩やかに首を振った。
「ロードマスターの力は貴重なの。その力を必要としている人もいる。
それに、黒衣の集団による魂の略奪行為も頻発してるわ」
そういえば。と、ギアを襲った黒いやつらが過る。
「もし自分に力があると分かっていたなら、それを使わないわけにはいかないでしょう?それぞれが、自分の立場で物事を考えて動かないとダメだわ。……あなたの力を殺さないで。どうか生かして」
悔しいくらいの正論。
俺に、私欲に囚われることなく、冥界のために働けっていうのか?
それが正しいことだから?
彼女は、俺が想うほどには俺を必要としていない。
その事実を突きつけられたようだった。
俺は目を閉じた。
俺の望みは、ずっと——できることなら永遠に——君のそばにいることだけ。
他の全ては関係ない。
それを邪魔するなら、こんな力なんて、必要ない———……
心は叫んでいたのに!
俺は答えていた。
「分かった」と。
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