Ⅲ.第6話
ゼフィアを王宮まで運んで休ませる。
王宮内には既に喧騒はなく、いつも通りの静けさを取り戻していた。
暴君の崩御を悲しむ者はいない。
レストは、彼女のベッドの横に椅子を付けて座り、声をかける。
「もう、終わったんだ」
彼女は頬に微笑を滲ませた。その表情から、彼女の安堵が伝わってくる。
「君の言う通りだった。オレなら簡単だって言ってたろ」
「そうだったわね」
弱々しく微笑む口元に、彼は顔を近づけた。
まだ少し血の味がする。
「もう君を離したくない」
彼女は驚いたようだった。
花の効果はもうないはずだから。
「謝らなくてはいけないことがあるの」
ゼフィアは微かに潤んだ瞳を彼に向けた。
「……私も実は、愛してるわ」
今度は、レストが驚く番だった。
ゼフィアは語るつもりはなかったが、彼は知りたかった。あの日の拒絶の理由を。
誰から拒絶されても構わない。自分の記憶を探れば、そんな経験は掃いて捨てるほどある。実際、捨ててきたし、これからもそうするだろう。
慣れてるし、傷つくこともない。
それが、ゼフィア以外の誰かなら。
「ゼフィア、頼むよ……」
懇願した。
これ自体、今の彼には珍しいことだったが、たぶんこのとき彼は、レスト至上最高に甘やかな瞳で訴えていた。
「でないと、君を……」
ゼフィアに顔を寄せると、耳元で囁く。
レストの言葉は掠れていて、彼女以外にはよく聞こえなかった。
彼の好きな色……ゼフィアの頬が僅かに色づく。
そっと頷くと、彼女は王家の石について話し始めた。
ゼフィアの額にあった菱形のような石は、無くなっていた。
「父に壊されたわ。それで力を失ってしまった……」
「元々、父に封印されていたから、そんなに力はなかったのだけど」
彼女は寂しさを払拭するように微かに笑う。
力を取り戻すためには、石が必要だった。
「これは使えないのか?」
レストは、指輪の石がゼフィアの額にあったのと似ていることに気づいた。
「それは母の石なの」
ゼフィアは母の死の経緯を話した。
そして、母に、『王の暗殺以外のことに心煩わせることはしない』と誓ったことを。
「ごめんなさい……」
目を伏せた彼女の肩にそっと手を置いて、親指で撫でる。
「謝らなくていいよ。君は、誰にも頼らず自分で使命を果たそうとした。そんな君の覚悟をオレは全然分かってなかった。……でも、言ってほしかったよ。頼ってほしかった」
レストは、ゼフィアを包むように抱きしめた。
彼女は目を閉じた。それから、彼の背中にそっと手を回して言った。
「私もそうしたかった……」
「オレにできることをさせてくれ。もしこの指輪の石が使えるなら、君のために使いたい。君のお母さんのなら、なおさらだ。オレが持ってるよりずっといい」
でも……とゼフィアは言う。
「その剣は、あなたを必要とする人のために使って」
レストは、何事か考えを秘めた瞳でゼフィアを見つめながら、黙って聞いている。
「それに、それが私を思い出すものになるなら、持っていてほしいわ」
「分かったよ。……もう疲れたろ?そろそろ休んだ方が……」
「レスト?」
彼女の隣に横たわった彼に、ゼフィアが咎める声を上げた。
レストの指は彼女の頬に触れそうな位置にあった。
「言動が合ってないようだけど、休ませてくれる……のよね?」
「あぁ。もちろん」
彼は少し残念そうに笑いながら起き上がる。
「その場所から君を眺めてみたかったんだ、ずっとね」
いつか見た夢を記憶から呼び起こす。
俺の愛しい……
ゼフィア
彼は、そっとその唇に触れた。
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