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Ⅲ.第2話 誤算

 

 こんなにも、誰かの感情に触れたいと思ったのは初めてだった。


 思えば、彼女は会った時から謎だらけだ。

 強く惹きつけられる美しく魅惑的な瞳。

 あの瞳は全てを見透かすようなのに、俺には何も見せてはくれない。

 いつも何か言いたげに微笑み、翻弄するだけ。


 彼女だけが、俺をこんな気持ちにさせる。

 胸間に湧き上がるような形容しがたい感情。


 会いたいと思うのは、彼女に触れたいからだと思っていた。

 この切望の元をたどれば欲望に繋がっていると。

 でも、

「それだけじゃない……」

 俺はゼフィアを———愛している?


 不透明な視界から、急に(もや)が取り払われたようだった。

 居ても立っても居られなくて、急いで部屋を飛び出す。

 長い廊下が煩わしい。

 彼女のように移動できたらいいのに!


 彼女は中庭にいた。

 覚えがある……夢で見た場所だ。


「ゼフィア」

 後ろから呼びかける。

 自分の鼓動がやけにうるさい。


 彼女は振り返った。

 深呼吸して、そのそばに寄る。


「君を……愛してる」


 そこに、いつもの優しい微笑みはない。

 ただただ、悲しげに揺れる瞳がレストを見つめる。


 ゼフィアにとって、一番恐れていた事態。

 もし、彼がそれを言葉にしたら……もう欺くことはできないだろうと思っていた。


 彼のことも自分のことも。


 否が応でも、この気持ちを認めなくてはいけなくなる——決して気づいてはいけない感情——彼を愛していると。


「私は……あなたを、愛せないの」

「……あなたのそれは、間違った感情なのよ」



 レストには確かに聞こえていた。

 でも、その言葉の意味を理解するのを彼の脳は拒否していた。


「依頼はキャンセルするわ」


 ゼフィアは拒絶することを選んだ。

 彼に真実を伝えることもできなかった。

 この弱い心のせいで。




 レストはどうやって戻ったのか、記憶がない。

 土砂降りの雨が彼を打ち付けていた。

「レスト?」

 ちょうどホテルに入ろうとしていたギアは、倒れるレストに気づいた。

 そして、彼を抱え上げると部屋まで運んで行った。








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