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プロローグ

 昨晩の雨も上がり、道の両方に広がる森の葉っぱからは、雫が垂れる。太陽が元気に光輝き夏の訪れを教えてくれる、とても良い天気だ。


 そんな森の中を俺は一人、季節を感じながら歩いている。


 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ。と、軽快なリズムでゴブリンに、こん棒で攻撃されながら。

 元の世界(地球)ならとっくに死んでいるが、全く痛みは無い。殴られても音がするだけだ。


 なぜならば、今の俺は【最強】だから!


 俺はマゾでは無いので、好きで殴られ続けているわけではない。こればっかりは仕方のない事なんだ。

 俺には仕事が無い。いや、正確には仕事が出来ない。護衛も、師範代も、農家すらも。


 ⋯⋯それにしても、今日のゴブリンはあまりにもしつこい。

 俺からは攻撃(・・・・・・)が出来ないのでシカトして歩いているが、俺にくっついて攻撃をしてくる。


 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!


「⋯⋯しつけーよ!」


 ブシュー!


 思わず裏拳をゴブリンの顔にヒットさせてしまい、ゴブリンは顔と胴体が別れる。たった一撃でゴブリンを殺してしまった。


「あ~⋯⋯もうっ! また死んじまう(・・・・・)じゃねーか!」


 俺の意識はそこで潰えた――――


 ******


 喧嘩なんて生まれてから一度だってしたことが無い。

 物心つく前からオヤジに空手道場に通わさせられていた俺は、死ぬ(・・)前日まで空手一筋で育てられてきた。オヤジの口癖は、


『お前の拳は凶器だ。人助けなら使っていいが、それ以外はダメだ』


 だった。


 オヤジの言う通り、俺は強かったんだろう。道場では負けなしだったし、地方大会に出れば必ず優勝していた。全国大会は人目が多すぎて恥ずかしかったので、毎回辞退していたから全国でどの程度かは今となってはわからずじまいだ。


 そんな俺が17才の誕生日まであと一週間のある日――――




「キャーーー!」


 女性の悲鳴声が聞こえた瞬間! 声の方へと振り向き、俺は荷物を投げ捨て走り始めていた。


 女性との距離はおよそ5m。二秒もあれば届く!


 事故を起こした車の片方が操作出来ずに女性へと進路を向けていた。走りながら見えた女性は、悲鳴をあげるだけでその場から動くことが出来ていない。間に合え!


 女性を突き飛ばした瞬間に俺の左太ももに激痛が走った。イデッ⋯⋯。


『今日はみっちり左足を酷使したから、三日は安静にしなさい』


 そういや、ガードからの一撃必殺の稽古を先程までしており、太ももがパンパンに腫れているのをすっかり忘れていた。そのせいで判断が一瞬鈍り、呆気なく車の下敷きになってそのまま死んでしまった。

 もっと強ければ俺は死なずに済んだのに――――


 薄れいく意識のなかでそれだけを思い続けていた俺の頭へ声が届く


『⋯⋯お前の望みは強さか?』


「あぁ、そうだ。何にでも対応できる最強の強さだ」


『⋯⋯それさえあればいいのか?』


「あぁ、他には何もいらない最強がほしい」


『ならばお前の望みを叶えよう。次の世界(異世界)では上手く立ち回れよ』


「⋯⋯えっ?」


『与えられる力に応じて代償は受ける。気を付けよ』


「⋯⋯はっ?」


『誰にも負けぬ力を与えた代償は、誰かの命を奪えばその都度お前は死ぬ』


「えっ⋯はっ⋯なんだって?」


『では⋯⋯』


 ルール説明は先にしてくれよ――――


 ******


 目を覚ますと石造りの台の上で目覚め、体を起こし右手を握っては開き、握っては開きを繰り返してみるが正常だ。ストレッチもかねて体を隅々まで調べてみるが特に変わったところは無い。むしろ、痛めていたはずの左足も正常。ただ漠然と睡魔が襲ってききているのはわからなかった。


「フォフォフォッ。生き返ったばかりだというのに元気がいいのぅ。今時にしては珍しい」


 ⋯⋯っ!


「だれだっ!?」


 声を聞くと同時に声の方へ向きフォームを整える。


「誰だとは。ちと失礼な奴じゃ、お前さんも転生者かのぅ?」


 目を向けた先には、焦げ茶色のローブの用な一枚布で体を覆い、両手を腰の後ろで組んでいる老人。


「⋯⋯転生者?」


「そうじゃ、ここにはモンスターに殺れた冒険者だけでなく、ごくごく稀に転生者が復活する場所でもあるのじゃよ。まぁ生き返ったばかりじゃ反動で睡魔も凄いだろう? 記憶のおぼろげじゃろうて扉の向こうにベッドがある。まずはそこで寝て落ち着いたら話そうかのぅ」


「何を言ってんだ? わかるように説明してくれないかな」


 石造りの台から降り、老人に近づくと後ろから眩い光が立ち込める。


 ⋯⋯っ!


 光が落ち着くと、腰に剣をさした漫画などでよく見る冒険者の格好をした男がガックリと肩を下ろしながら、俺の横を通りすぎる。


『バイザー爺、やっぱダメ⋯⋯、アイツってマジで強すぎるわ。しばらくは背伸びせずに東の森で、自分のレベルに合ったモンスター相手にしているわ。じゃあな!』


 冒険者は「気を付けるんじゃぞ」と励ましの言葉を背中で聞き、片手を軽くあげそのまま出ていった。


「⋯⋯あれなんだ? 急に人が現れたぞ! いったい⋯⋯ここはど⋯⋯こで⋯⋯、どうな⋯⋯って⋯⋯い⋯⋯」


「だから言わんこちゃ無いのにのぅ。転生者は決まってここに着たら寝るんじゃからな」


 俺はどうやら異世界らしい所へときてしまったようだった――――

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