初ダンジョン
「ここが!ダンジョンだ!お前たちが暫くお世話になる所だからな!」
やはり大きな声でダーリネルは叫んだ。ダーリネルの周りには二十人ほどの騎士がいる。
ダンジョンの入り口。8メートルはある大きな小豆色の門だ。なるほど、それらしい入り口である。
だが、クラスメイト達は困惑の表情を浮かべていた。とうるも例外ではない。
その理由は____
「「「「こんな近くなのかーーー!」」」」
毎日通っていた訓練場、その地下にあったのだから。
「別に驚くものじゃないだろう?」
「ダンジョンってのはいろんな魔獣が出るんだろ!?危なくないのか?」
「ダンジョンの浅い層は弱い魔獣しか出で来ないしな。逆に王都の近くにおいておけば魔獣の素材が市場に流通しやすいだろう?王都をここに置いたのもこのダンジョンがあったからだしな」
なるほど、間違っていない。ダンジョンってのは一つの産業みたいなものなのだろう。
ギギギと門が地面と擦れる音がした。
「まあ浅い層はお前らなら余裕だろうが油断はするな。この前教えた陣形を組め!」
二十組のペアがそれぞれの持ち場につく。トウルと広瀬は陣形の後ろについた。ちなみに最後尾は回復術師のペアと後ろを警戒するための近接戦闘系のペアだ。
トウルたちはそのペアの前についた。前衛までは約10メートル。この倍に距離が開いても当てられる。今のところ問題はなかった。
ガンッ!
門が開ききった音が響いた。クラスメイト全員に緊張が走る。
「よし!じゃあいくぞ!」
陣の周りを騎士が囲み、ダーリネルが先行する。
前衛から次々に門を潜り抜ける。トウルもダンジョン内に足を踏み入れた。
ダンジョンは、簡単に言うと洞窟だった。壁にはランプのような明かりがかけてあり、十分な明るさを保っている。広さとしては教室の横幅ぐらいの空間が広がっていた。
「ここがダンジョンだ。理由は知らないが永遠に魔物がわき続ける魔境だな。そら!早速魔物が湧いてきやがったぞ!」
ダーリネルの言葉に前を向けば、緑色の肌をした背の低い小人のような魔物がいた。顔は醜く歪んでいる。手にはこん棒が握られていた。
「ギャッギャッ!」
「あ!」
誰の言葉かわからないが、全員がそう思った。緑の小人は腕を大きく上げるような威嚇を取った後、走って逃げたのだ。
「あれはゴブリンだな。力も弱く、雑魚の部類に入る。だが雑魚の中では比較的頭が回るからな。基本的に多対一に持ちこもうとするんだ。あれは仲間を呼びに行ったな」
「なら早く追いかけないと!」
「大丈夫だ。所詮雑魚。呼ぶといっても10匹ぐらいだ。数でも質でも勝っているこちらが焦る必要はない」
ダーリネルの言葉に納得し周りを警戒しながら進む。50メートルほど進んだときに15匹ほどのゴブリンがいた。
「よし!初戦闘だ!油断するな......は?」
ダーリネルは全員に喝を入れようとするが、どこか抜けたような声が出た。
それもそうだろう。15いたゴブリンのうち、12匹の頭に柄は5センチ、刃渡り10センチのダガーが突き刺さったのだから。緑色の血が噴き出し、女子はその光景にキャッと小さく悲鳴を上げる。
「...すみません。罠が仕掛けられていたので。危ないかと」
それをしたトウルに視線が集まった。その視線には純粋に驚きが込められていた。
「あ、ああ。よく分かったな。そのとうりだ」
「知ってたんですね。何でいわなかったんですか」
「いや、教訓になるかと」
「そうですか」
そういう理由なら咎める理由はない。そのままトウルは無造作に右手をふった。
トウルの右手から放たれたダガーは仲間の最期をみて逃げ出そうとした残りの3匹の足に突き刺さった。
その光景をみて全員が驚愕した。理由は2つ。トウルの投げたダガーがすさまじい回転とスピード、正確性があったこと。それと、生き物の殺害に全くの躊躇がなかったからだ。
「なんだ、あいつ。化け物かよ」「人間卒業してんじゃねえか」「影山ってあんなキャラだったか?」
クラスメイトから恐怖の対象であるかのような目を向けられたが、トウルは気にしない。ゴミから化け物に対する視線に変わっただけなのだ。
「みろ、ここに縄がかけらているだろう。ゴブリンどもはこの縄で転んだ相手に襲い掛かる戦法を好む。ゴブリンには罠!気をつけろ!」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
ダーリネルの説明を素直に聞くクラスメイト。この十日の間にこれ程の絆を築くことは十分すごいことなのだが、あいにくトウルは大抵ボッチだったのでダーリネルに対する尊敬などは皆無だった。
「ダーリネルさん。このレベルだったら僕一人でも大丈夫なんで、みんなの邪魔はしないので別行動でいいですか?」
トウルの突然の提案にその場にいた全員驚いた。
「なに勝手なこと言ってんだよ!」「おい、クソ山。勝手なこといって俺らの邪魔してんじゃねえよ」「協調性はないのか協調性!」「空気読め」「KY]
酷いいわれようだと思ったが、トウルは気にしない。いつもトウルに何をしていたかを棚に上げての発言にこいつらの精神力って実は僕より高いんじゃないのかと思う。
クラスメイトとは対照的に、ダーリネルは深く考え込むような仕草を取った後、黙って首を縦に振った。つまり『許可』だ。
そんなダーリネルに驚きの表情を浮かべるクラスメイト達。
「ちょっ、ダーリネルさん?」「こんなクソ山の言うことなんて気にしなくていいんですよ」「そうそう」
「カゲヤマは誰よりもこのダンジョン訓練に向き合っているようだ。それなら邪魔をする必要もないだろう。序列は四位でも、このダンジョン内で彼ほど優秀な者はいなさそうだしな。カゲヤマ!降りていいのは五層まで。時計は持っているだろう?日が沈む前までに帰って来い」
「わかりました」
ダーリネルの発言に反論できなかったのか、それともただ盲信的なのかわからないが、文句を言う人はいなかった。ただ殺気のこもった視線を受ける。もちろんスルーだ。
だが、トウルは気づかなかった。その視線のなかで純粋に心配する者が居たことに。