朝練
「はあ!」
ストトト!
日が大地を照らし、暖めようと顔を覗かせ始めたまだ静寂に包まれている早朝。そんな音が王宮の一角で響く。
トウルの右手から放たれた三つのダガーは、一つはまっすぐ的に、一つは山なりに、そして最後の一つは驚くことにダガーがブーメランのように回転しカーブしながら、十五メートルほど離れた的の真ん中に寸分違わず突き刺さった。
だが、驚くのはまだ早い。トウルは袖口に忍ばせていたダガーを微かに腕を振るわせるだけで両手の指と指の間に、親指以外の八本の指の間にはめる。そして自分の肩を抱くような構えを取った後、目にも止まらぬ速さで両腕を振り切る。
空を駆けるのは六本。それぞれが独立したような別々の軌道を描き、それでもすべてのダガーは吸い込まれるように的の中心に突き刺さる。
的に刺さった刃物の数は計九本。しかしトウルの腕は止まらなかった。地面に立っていた槍を引き抜き、大きく腕を弛ませ、放つ。どんな投げ方をしたのか先ほどのブーメランのような横回転ではなく、錐もみのような、駒の先端のような、そうでありながら周りの空気を巻き込むほどの凄まじい回転をしていた。
当然、大気を切り裂くほどの回転をしている槍の貫通力は先ほどのダガーとは比べ物にならない。的に一切の抵抗を許さず、こぶし大の穴をあけていった。
カンカンと的から落ちたダガーがぶつかり合う音が響いた。
「こんなもんか。まあ及第点かな」
トウルは慣れた手つきで壊れた的とダガー、地面に深く突き刺さっている槍を片付ける。
こんな「朝練」を始めてから十日が経っていた。異世界に召喚されてから数えれば十一日経っている。
魔王と戦う。召喚された理由を考えればそれは避けられないだろうと考えトウルなりの訓練を始めたのである。効果は上々といったところか。場所は王宮の東端、迎賓館から徒歩二十分程の場所である。周りに施設が少なく、その割には広い余った土地なので自由に使っていいとダーリネルから言われたのだ。
壊れた的をいつもトウルが休憩するときに使う桜に似た花をつけた木の近くに放り投げた。すでに二十近くの的の残骸が捨てられており、ちょっとした山を作っている。
ダガーを六本は袖の下に忍ばせ、残りは腰につけている革でできたポーチに入れた。槍は地面に刺しておく。
「ステータスは...上がってないなー」
トウルのステータスは三日前、[泥棒]と[投げ師]が合成し、[忍]というジョブになってからステータスが上がりにくくなった。ゲームと同じなのだろう。最初レベルを上げるには少ない経験値で足りるが、後半になると多くの経験値を手に入れる必要のあるアレだ。
トウルは年中咲いているらしい桜もどきの木の下で寝転がった。ちなみにこの王国の気候は年中、同じ季節らしい。日本で一番近いとすれば春だろうか。生暖かい風が頬を撫で、途端に眠気を誘っていく。
訓練が始まった日から毎日ペアでの訓練が続いていた。トウルと広瀬のペアはダーリネルのつけたペア序列で二位。二十組いるペアの中では間違いなく上位ペアに入る。個別の序列ではトウルが四位、ヒロセが二位とそれぞれがもともと上位者なのも関係している。
ヒロセは光魔法の練習していた。基本トウルはボッチで練習していたので知らなかったが広瀬は相当熱心に練習していた。おかげでダーリネルと模擬戦をしたとき、光の矢が現れた時は相当ビックリしたものである。
トウルは暫く夢と現実の間を行き来したが、日が完全に地平線から出たのを片目で確認して立ち上がる。眠気を振り払うため頭を強く振った。
迎賓館に帰る前に気配遮断を発動した。これは訓練半分、トウルが強くなったことに嫉妬した不良組に見つからないため半分である。いくら序列四位でもトウルは後衛向きだ。近接戦闘特化の斎藤や福島達に一対一ならともかく、複数で来られてはまず勝てない。距離が離れていたら別だが。
相手の意識に干渉するこのスキルは強力だ。相手の頭の中では見慣れた風景、日常の背景になるのだから。
「そういえば今日はダンジョン探索に連れていくとか言ってたな。そこでステータスが上がればいいんだけど」
トウルはため息を一つついてから朝食をとるために歩き始めた。
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名:トウル カゲヤマ 男性
年齢:17
役割:ハッカー、プログラマー、博士、忍、[空き]
称号:復習に燃えるもの、異世界からの戦士、神を驚愕させたもの、高みを目指すもの、勝利欲の体現、知識欲の象徴
加護:神からの加護
能力値:
筋力:1000
体力:1000
防御力:2000
魔力:1100
速力:1500
知力:3000
精神力:27000
固有スキル:ハッキング、プログラミング、気配遮断、言語理解
アクティブスキル:盗みLv2、鍵開けLv2、投擲Lv3、解析Lv2、小太刀術Lv2、太刀術
パッシブスキル:器用Lv4、演算Lv2、超思考Lv3、記憶、聞き耳
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ステータスはあまり気にしなくてもいいです。トウルが強くなったことだけ分かっていただけたら。今度比較対象として羽柴あたりを出そうかと。