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リド・ワールド     作者: あおねこ
全ての始まり
5/33

静寂のひと時

トウルはスキル、器用を使ったペン回しに感動し、そのあともいろいろ試してみた。


超細かい模様を描く、洗面台に置いてあったカミソリで投げナイフ、部屋の鍵をピッキング、etc.etc...


精神力が平均の50倍以上高いはずのトウルだがちょっと、いやかなり興奮してしまった。


だが、その興奮も驚きへと変換される。部屋の鍵をピッキングしたとき視界に文字が表れたのだ。


『鍵開けの経験を確認。スキル取得を実行します。...成功。スキル[鍵開け]を取得しました』

『三個以上の窃盗系スキルの入手を確認。役割(ロール)の進化を実行します。スキル取得を実行します。...成功。役割(ロール)[スリ師]が[泥棒]に進化しました』


トウルは瞬時に冷静さを取り戻した。そして頭を回す。トウルは異世界に来てから2時間も経っていないが、そんな短い時間でも一つのモットーのようなものを持ちはじめていた。それはつねに考える、だ。


ここは異世界。前の世界にはなかったことが溢れている未知の領域だ。そこで考えるのを放棄したらいつまでも適応できず、負けだ。


前の世界でスクールカースト最底辺、負け犬だったトウルは、ここで挽回できると思っているのだ。常人では考えられないほどの精神力と意思力をただ、負けたくない、勝ちたい、その勝利欲に変える。


ヒロセのステータスはチートだった。だから周りの奴らもチートかもしれない?お前のステータスはヒロセに比べて低い?そんなの関係ない。いままで何も持たず搾取される側だったトウルにとっては、この反則級に高いであろう精神力と四つのロール。そして、ステータスの進化について恐らく誰よりも早く知った事。トウルにとってはこれだけで十分である。


さらに日の傾き具合からまだ夕方まで時間がある。それまでの時間でできることはやっておくべきだ。そう考え、トウルは思考する。


トウルの頭がフル回転する。スキルとジョブの進化、進化の条件、スキルの強化。これらが脳内を埋め尽くしていく。


『思考の加速が確認されました。スキルを取得します。...成功。スキル[超思考]が手に入りました』

『非常に高い向上心が確認されました。称号[高みを目指すもの]を取得しました』

『非常に強い勝利への執念が確認されました。称号[勝利欲の体現]を取得しました』

『非常に強い知識欲が確認されました。称号[知識欲の象徴]を取得しました』

『称号[知識欲の象徴]が確認されました。役割(ロール)[数学者]の進化をします。...失敗。称号[勝利欲の体言][高みを目指すもの]も利用し、再度進化を試みます。...成功。役割(ロール)[数学者]は[研究者]に進化しました』


視界が文字に支配された。視界に映る文字にトウルは驚くことはなく、逆にそこから得た情報からさらに推測する。


(なるほど。スキルの取得はロールに関係する経験をすることで手に入るのか。称号は...よくわからないな。ロールにも進化があるのか。)


「ステータスオープン」


トウルの視界にまた文字が浮かび上がる。先ほど開いた時とは、若干異なっていた。いや、進化していたの方が正しいか。


名:トウル カゲヤマ  男性

年齢:17

役割(ロール):ハッカー、プログラマー、泥棒、研究者

称号:復讐に燃える者、異世界からの戦士、神を驚愕させた者、高みを目指すもの、勝利欲の体言、知識欲の象徴

加護:神からの加護

能力値


筋力:500

体力:700

防御力:1500

魔力:1000

速力:800

知力:1850

精神力:26000


固有スキル(ユニークスキル)

気配遮断、ハッキング、プログラミング、言語理解

アクティブスキル:スリ、逃げ足、鍵開け

パッシブスキル:器用、演算、超思考


トウルは無意識にニヤニヤしていた。恐らく異世界に来てからここまで成長しているものは僕だけだろうと、ここで進化すればもうあいつらに下に見られることはないだろうと考えたのだ。


さらにステータスを強化しようと様々なことを試しそうとした時、ドアがコンコンとノックされた。


本当はまだまだいろいろなことを試したいのだが、無視するわけにもいかない。仕方ないのでドアを開けた。


「あっ、影山くん...」


ドアをノックしていたのは広瀬だった。やはり怖いのだろうか、顔が赤く見える。


「広瀬さんか。どうしたの?」

「あ、ええと、あの、ね、ちょっと怖いから、その、影山くん冷静だし、落ち着いた人の近くにいれば私も落ち着けるかなって思って」


今、言おう。顔を赤らめ、瞳を濡らし、上目遣いで頼ってくる美少女のお願いを誰が断るのだろうか。本人に自覚がないだろうが、トウルは一瞬でノックアウト!された。


恋愛経験どころか初恋もまだ来ないトウルには効果抜群だった。トウルは羞恥で顔を赤くしながらも、広瀬を部屋に招き入れた。自慢の精神力はサボっているらしい。


広瀬はベッドに腰掛けた。隣に座るにはトウルの勇気が足りないので机から椅子を引っ張りそれに腰掛ける。


「...」

「...」


ピチュピチュ


部屋には外からの鳥の泣き声しか聞こえない。お互いに黙り込んでしまったのだ。トウルは広瀬に視線を向けるのもどうかと思い、外に目を向ける。


外には、広い庭とその向こうに城壁があった。城壁には見覚えのない旗がかけられ、兵士が巡回しているのが見える。


「日本じゃ、ないんだね」


広瀬はトウルと同じく窓の外を見ていた。その表情には不安が消え去っていたが、変わりに形容しがたい表情を浮かんでいる。


「そう、だね」


トウルはかける言葉を見つけられなかった。彼女の心にはどれほどの重圧がかかっているのだろう。トウルは前の世界など糞食らえだと思っているので、異世界転移万歳!状態なのだが他のクラスメイトは違う。例えるならばいままで水槽の中で育てられてきた魚が突然、川に放されるのと同じだろうか。トウルのように新たな世界に希望を抱くものもいるが、大多数は未知の領域に不安を覚えるのだ。


「帰れるのかな。日本に」

「...」


トウルは広瀬の顔を見ることができなかった。そのかわりに自分を恥じていた。なにが出し抜く、なにが勝ちたいだ!彼女のようになにがなんだか分からず、不安に思うしかない人たちに自分勝手な理由で一方的に勝ち負けをだすとは。そんなの、反抗すると多数で襲ってきたあいつらと同じではないか!


「でも、よかった」

「...なにが?」

「一人じゃなかっただけでも。ううん、影山くんみたいに頼れる人がいてくれただけで」

「僕が頼れる?羽柴くんや武田さんの方がよっぽど頼りになると思うんだけど」


羽柴とは優等生に超がついても足りないんじゃないかと思うほどの優等生だ。テストでは学年一位は当たり前、バスケ部の部長でありエース。町を歩けば誰もが振り向くほどのイケメンでもあり、超大企業の社長の一人息子。さらにそれらを驕らず、努力を忘れず、人望も高い。嫉妬するのもおこがましい次元の違う存在である。


武田さんは、こちらも超がつくほどの優等生。学力、運動、性格、家柄どこをとっても文句なしな存在である。


羽柴、武田、広瀬、この三人は雅山高校屈指の優等生なのだ!スクールカーストでいうトップである!


ちなみに中間、期末試験での順位は上から羽柴、武田、広瀬と続き、四位はたいてい影山である。家柄は良くないが、顔も性格も運動もそこそこいいと思うのだが、カースト順位最底辺。謎である。


「うん、あの二人も頼れるけどね。私は影山くんの方が頼れると思うんだよね。ほら、あの二人、手に届く範囲はみんな守りたいって人でしょ?」

「手が届く範囲が狭いもんで」

「いや、そういう意味じゃなくて...よくわかんない。えへへへ」

「よくわからないんだ」

「うん。でも、ね」


ね、の意味は分からなかったが、それでも広瀬が今の会話で楽になったようなのでよしとする。別に、ね、の時の顔が可愛かったから見とれていた訳じゃない。


視線を外に向けた。横目で見ると広瀬も窓の外を見ていた。


「...」

「...」


静寂。だが、決して居心地の悪い静寂ではない。トウルは何か安心感を覚えていた。


どれほど経ったのだろうか。傾いた日が部屋を窓から覗き込む。広瀬は一人でなければいいらしく、ただ黙って外を見つめていた。


コンコン


ノックが聞こえる。トウルはゆっくりと立ち上がり扉を開けた。


ノックをしていたのはメイド?だった。後ろには他に何名かクラスメイトがいる。


クラスメイト達は中に広瀬がいたことに驚いたのか、大きく目を見開く。そのあと、男女問わずトウルのことを睨みつけた。


(はぁ。お前らが思っていることなんてしてないよ)


トウルは小さくため息をついた。




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