スキル『器用』
「おい!どうなってんだこれはぁ!」
福島の怒鳴り声が、大広場に響き渡った。理由は言わなくても分かるだろう。
不良組を筆頭にクラスメイト全員が疑問と不安と怒りがないまぜになったような顔を浮かべながら周りの騎士?に迫っていた。
その光景を見ながら静かに予測と推測を重ねるトウル。とりあえず自分に何ができるのかを試すことにした。
スキル。ゲームでは技や能力等を試す技だ。先ほどステータスを見るときに『ステータスオープン』と唱えたのでこれらも同じではないだろうかと推測し、検証してみた。
まずは、演算から試してみよう。名前から考えて高い計算能力だと思う。
「『演算』」
小さく呟く。先ほどのように視界が変わるわけじゃなかった。
とりあえず、適当に58×679と計算しようとした。
すると、視界に58×679=39382と、計算式が浮かび上がる。
(なるほどな。こんなふうに使えるのか。つねに電卓を使えるような物か。テストにつかえたらなぁ)
他のスキルは、ハッキングとプログラミングだ。適当に唱えるが何も起こらない。一体どんな場面で使うスキルなのか。自前でパソコンを準備しなければ使えないかもしれない。あちらの世界では超便利だが、The中世のヨーロッパっぽい世界でどう使えと。
スリは使う相手がいないので諦めた。斎藤辺りなら死ぬほど使うのにと人知れず落胆する。
(それにしても騒いでるな。ここはStayCoolでいこうよ。ステイクール)
いつまでもギャアギャア騒いで騎士達を困らせているクラスメイト、特に福島にため息をつく。
普通の反応としてはあちらが正しいはずなのだが、精神力が高いせいだからかあまりにも冷静なトウル。周りよりだいぶ心にゆとりがあるせいか、やれやれだぜ、とでも言うように肩をすくめた。
そんな余裕をかましているトウルに後ろから控えめな声がかけられる。
「あの、影山くん?ちょっといいかな?」
振り向いた先にいたのは、広瀬だった。やはりこの状況に不安に思っているのか、形の整った綺麗な眉は力無く下がっている。
「おお、広瀬さんか。どうしたの?」
「その、なんかよくわからない状況なのに、影山くんは冷静だなって」
「ああ、別に僕もそこまで冷静なわけじゃないよ。わからないことだらけだしね」
「そうやってわからないことを考えているだけでもすごいと思うよ。えっと、やっぱり自分が混乱したときは冷静な人の近くにいたら自分も冷静になれるかなって」
不安が相当大きいのか、目を若干潤ませている広瀬にかける言葉に困るトウル。とりあえず先ほどお姫様?に教わったことを伝えることにした。
「えっと、ステータスオープンって唱えてみて」
「う、うん。ステータスオープン」
恐らく視界にステータスが映ったのだろう。広瀬はキャッと可愛らしい悲鳴をあげた後、それが宙に浮いているものだと勘違いしたのかおずおずといった様子で手を伸ばす。手が何もつかまないことに再度驚いていた。
「それがステータス。自分の状態や能力について表示している物らしいよ」
「うん。ロール?スキル?うーん」
この後、トウルはドレスを着た少女から聞いたことを聞き慣れない単語にクエスチョンを浮かべている広瀬に苦労しながらも説明した。眉を寄せながらうーん、うーんと可愛らしい声をあげる声に可愛いと思ったのはトウルの秘密である。
ちなみに広瀬のステータスは以下のようだった。
名:ミナミ ヒロセ 女性
年齢:17
役割:聖女、聖霊使い、聖魔術師、祈祷師
称号:恋する乙女、異世界からの戦士
加護:神からの加護
能力値
筋力:1300
体力:1400
防御力:900
魔力:2000
速力:800
知力:1800
精神力:2000
固有スキル:
聖女の威光、予知夢、聖霊誘惑
アクティブスキル:
聖属性魔法、光属性魔法、聖剣召喚、占い、聖霊契約
パッシブスキル:
四大属性耐性、闇属性耐性、影属性耐性、運上昇、勘、魔力収縮、聖属性魔法強化、光属性魔法強化、聖霊隷属
チート?(トウルの心の声)
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クラスメイトが混乱し、王女と騎士達による粘り強い説明が終わってから小1時間。ようやく状況が飲み込めたクラスメイト達とともに来賓館と呼ばれる建物に案内された。一人一部屋使わせてもらえるという好待遇である。
(それにしても、クラスメイトは全員来たけどなぜ、後輩までくっついてきたんだ?)
先ほど王女(メリシアスタという名前らしい)が夕方になったら夕食と詳しい説明をすると言われたが、その時5人ほど後輩がいたのだ。
見当はついている。うちのクラスは35人。この国が40人の勇者を望んだとしたら僕がいるクラス、2のAでは五人足りない。その分を後輩5人で補ったのだろう。
「『情報を制するものが戦いを制する』だっけか、とにかく情報収集だな」
若干意味が違うが。
トウルは改めて自分のスキルを試していく。
相変わらずハッキングとプログラミングは使えない。逃げ足とスリはこの場では使えないだろうし、演算はさっき試した。次は器用と気配遮断である。
「『器用』」
トウルの視界に変化はなかった。これも使えないのか?と疑問に思うトウル。
いや、諦めるのはまだ早いと自分に活を入れ、推測する。
器用、ということは文字どうり器用になるということだろう。ならば何か細かい作業をすればいいのだ。
トウルは腰掛けていたベッドから立ち上がり、部屋の隅に置いてあった机に足を向けた。
机の上を眺め、おもむろにペンを手にする。そして、よく斎藤がやっていたペン回しをしてみた。
「!」
(なん...だと...!)
なんとペンは、トウルの中でクルクルと回りはじめたのだ!一回転?まだまだ甘いぜ!とでもいうように二回転したり、手の甲を滑るように回ったり、挙げ句の果てには小指だけで回していた。右手の指がすごいを通り越し、気持ち悪い動きをしている。
クルクル くるくる くるくるくるくるくるくるくるくるくる きっと来る~~♪
(スキルってすげえ!!!)
トウルは異世界に来てから初めて興奮した。