僕の日常は
暴行シーンあります
キーンコーンカーンコーン。
やっと終わった。地獄のような学校が。
次は家という地獄。その学校と家の間、通学路が僕の唯一の平和な時間だ。
さっさと学校を出よう。これ以上クラスメイトと顔を合わせるなんて苦痛でしかない。
(誰も俺に気づきませんように)
そう念じながらそっと教室の後ろのドアから出ようとする。
だが、そんなささやかな僕の願いはあっさりと裏切られた。
「...おいおい影山くーん。帰るのはまだ早いんじゃねぇ?」
またか、もういい。
僕は黙って財布を取り出す。と、横から伸びた手がサッと僕の財布を取ってしまった。
「さすがぁ影山くんじゃん。これ、明日まで借りるわぁー」
俺のクラスメイトの一人、斎藤は僕の財布を片手に小悪党グループの方に行った。
それを横目に黙って教室から出る。今日は徒歩、か。
「あ!影山くん!忘れ物だよ!」
ドンッ!
「ぐ!...ぁぁぁ」
振り向いた瞬間。腹パンをくらった。
教室の入口でズルズルと崩れる。
「...ちッ。一発で終わりかよ。つまんねぇな」
そのまま、声の主は離れていく。
今度こそ本当にいなくなったことを確認して立ち上がる。
まだ教卓にいる先生をちらりと見ると、こちらの様子を見ていた。
目が合う。と、あちらがすぐに視線を外した。
そう。僕に味方なんていない。できることはひっそりと息を殺し、ねずみのように視線にビクビクするだけ。
痛む腹をさすりながら、玄関に向かう。靴箱には目を向けず、バックから外靴を取り出した。なぜかって?察してくれ。
履き替えた上履きを靴入れにしまい、バックに入れる。今日は早く帰ろう。電車が使えないから時間がかかる。
玄関を出る。すると上からゴミが落ちてきた。そうだった。僕の教室は玄関の上の上。狙えば当てられる。
上からクスクスと押し殺した笑い声が聞こえたが構わない。構っただけ損。それどころか相手を喜ばせるだけである。
これでもマシな方だ。ひどいときはトイレの水が落ちて来るのだから。
肩に付いているゴミを払いながら、急ぎ足で校門にむかった。あいつらの声なんてもう聞きたくない。
だが、今日は月曜日。まだ一週間は始まったばかりなのだ。
できる限り気配を殺し、校門をでた。
「影山くん!」
いきなり声がかけられた。ビクッと肩を震わせた後に激しく後悔する。こういう反応を見せると決まって奴らは___
「影山...くん?広瀬だけど」
「あ、ああ。広瀬、か。どうした?」
「さっき教室でうずくまっているのが見えたから...大丈夫かなって」
声をかけてきたのは長くて綺麗な黒髪を下ろした美少女、広瀬南だった。
広瀬は成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、で性格までいいという非の打ち所のない美少女である。この学校で誰が一番綺麗ですかって百人に聞いたら百人彼女だと答えるだろう。一人二人は自分の彼女と答えるリア充や、自分だと答える猛者がいるかもしれないが、それでも学校で一番綺麗なのは彼女だ。
「別に大丈夫だよ。ちょっとものを落としただけ。広瀬さんがいちいち気にするような事じゃないから」
「そう、なんだ。なんか困っていることがあるなら言ってね。影山君なら絶対力になるから」
「別に困っていることなんてないよ。広瀬さん、部活はどうしたの?部長なんでしょ?」
この雅山高校は夏休み中に三年生は部活を引退する。今は十月。僕達二年生のなかには部長になっているものがいるはずだ。
「あ、うん。そうだった。じゃあね影山くん。また明日」
「うん、また明日ね」
お互い軽い挨拶をすまし、別れる。
また明日...か。
明日もこの地獄にこいと言うのか。
広瀬の言葉にそんな意味は含まれていないだろうが、それでもそう思ってしまう。
僕はゆっくりとした足取りで家に帰った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ただいま。」
キィィィと、建て付けの悪い玄関のドアを開ける。
返事はない。いつもの事だ。異様に酒の臭いがするリビングを避け、2階に、自分の部屋に向かう。
部屋を開け、すぐにドアに鍵をかける。
(今日は寝ているのかな。よかった。このまま朝まで寝ていてくれれば)
どんどんどんどんどん!!!
「帰ってきたのか!とうる!」
「帰ってきたよ!とうさん!」
「ならいますぐ出てこい!」
今日はよく裏切られる日だなと、ぼんやりと思いながら扉を開ける。
瞬間
ゴン!
頬に固く、強い衝撃。
「ちょうどよかった。今日はいらいらしてたんだ。ちょっと憂さ晴らしに付き合え!」
ドッ!ガッ!!ドンッ!!!
腹に、顔に、頭に、父親の拳がめり込むのを感じた。
ガゴンッッッッッ!!!!!
「あっ...うぅ」
腹に何か致命的なものが入った。急激に意識が遠退いていく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「っ...あぁ」
目を覚ましたとうるは、痛む腹をさすりながら起き上がった。よろよろと力無く立ち上がり、壁に手を着きながら開きっぱなしだった扉を閉め、ガチャリとしっかり鍵を閉める。
「ふうぅぅぅ...」
ゆっくりと息を吐いたとうるは、おもむろに自分の横に立てかけてある所々にひびやサビがある姿見に目を向けた。
姿見に写る自分の姿は、酷いものだった。体中に痣が付いており、切り傷も多い。正直、よく立っているものだと自分を褒めたくなる。
とうるはおぼつかない足取りで机まで移動する。3メートル程しか離れていないはずの机がとても遠く感じた。
ドサッと椅子に腰掛け、はぁぁとため息をつく。机の上に置いてある置き時計に目を向ければ、デジタルな数字は、3:37 と表示していた。帰ってきたのは午後6時頃。ということは9時間も寝ていたらしい。
もう寝る気にもならないので、苦労しながらも身を屈め、机の下からノートパソコンを取り出す。
一年生の時、必死にバイトして買った物だ。とうるの唯一の娯楽でもある。
ノートパソコンを起動し、画面の中心にロゴが映るのを確認しながらささやかな趣味を楽しもうとおもった。後5時間後までに学校にいかなければならないことなど、頭から追い出した。