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この異世界に明日なんて無い  作者: チョコモナカジャンボ
6/8

笑顔

木々の合間を縫って洞窟に入り込む日差しで目が覚めた。


俺の頭がおかしくなっていなければ、こちらの世界で五日目の朝だ。


寝息がする方向に目を向けるとレティシアが眠っている。


洞窟の入口に背を預け、水を飲んでボンヤリと昨日のことを整理しながら、クリアファイルと紙を鞄から取り出す。


挟まったA4紙を四つ折りにして、クリアファイルを下敷き代わりにしながら、読めるギリギリの小さな文字で「おいしい」と「ありがとう」の異世界語発音を記した。


この二言が最初に覚えた異世界語というのは、なんか幸先が良い気がする。


四つ折りにした紙が文字で真っ黒になる頃には、異世界語をそれなりに喋れているだろうか。


眩しさに目を細めて空を見上げると、思っていたよりも日は高い位置にあり、時間にして九時か十時といったところ。


昨日は夕方過ぎに洞窟に着いて、トイレに行って、レティシアが泣いて、それからすぐに寝たから半日くらい寝てるはずなんだけど、隣の少女はまだ気持ちよさそうに眠っている。


相当に疲れてたのか。木の洞で寝てる時も俺が無理やり起こしちゃったし悪いことをしたな。


そういえば、服はあの時に漏らしたまんまなら洗った方がいいか。白い服だしシミになるのはイヤだろう。


今まで自分の服の匂いはあまり気にならなかったが、注意して嗅ぐと何となく塩気のあるすえた臭いがする。


今日の予定は蟹を食べたら二人で服の洗濯、その後は異世界語のレッスンにしよう。


連日山を歩き回った分、今日は動かないことが目標だ。レティシアも相当疲れただろうし。


ガサリとレティシアが身じろぎをして目を覚ましたのか、急に上半身を起こして真っ暗な奥を見回す。


「おはよーっす」


振り返って俺を認識すると何が起こったのか分からないような表情になる。


人形みたいに整ってるから呆けた顔が逆に面白い。


ペットボトルを投げて渡すもキャッチできず、緩慢な動きで拾って水を飲む。


『……****、タチバナ』


ボトルを空にして大きな息をつくと、こちらに向かって何か言ってきた。


さっきのは朝の挨拶か、油断してるとすぐに忘れそうだ。


レティシアが急に立ち上がってこっちに来たと思ったら、そのまま素通りして森へと駆け出していく。


「おーい、どこいくん……」


『****!』


朝から一体なんなの。トイレか?


一分ほどするとすました帰って来た。やっぱりトイレだったか。


「レティシア、えーと、洗濯、朝飯。川に行こう」


大仰なジェスチャーを交えて言うと、レティシアは顔を傾げる。


「川行くよ、ほら」


空っぽのペットボトルを持ち、洞窟から出て手招きをすると、意味が分かったのか外に出てきてくれた。


それから沢へ降りて二人並んで水を飲みおわると、レティシアは蟹を探し出す。


「あ、レティシア、ストップ。待って。先に洗濯しよう」


こっちを振り返るレティシアに向かって、シャツを引っ張った後にゴシゴシこする仕草をしてみる。


『あー、あー』


伝わったような納得したっぽい顔の動きだ。日本の首を縦に振る動作とはちょっと違う。


スウェットとTシャツを脱いでから上半身裸でレティシアを見ると、なんかすごいイヤそうな顔をしていらっしゃる。俺が変なことするとでも思ってんのか。


「全裸にはなんねーし。パンツ一丁にはなるけど」


そう言いながらジーンズを脱ぐと、レティシアは俺から五メートルほど離れた。


「リアルに手を出すかっつーの、失敬な」


それにしても三十歳を超えてから出てきた下っ腹がヤバいな。でも前より少しは腹回りが痩せたような気がする。まぁ蟹しか食ってないし当然か。


靴下を脱ぐと臭いがヤバい。靴も同じレベルだ。靴下は念入りに洗っておこう。


後ろのレティシアは気にせずにジーンズを川に浸け、雑巾を洗う要領でゴシゴシと布地を擦り合わせていく。


特に泥で汚れているところは念入りに揉む。手が冷たいけど我慢我慢。


大体全体を擦り終わったら、ざっくり水を切って、大きい岩の上に広げる。ある程度水気が落ちたら木に吊り下げて干そう。


振り返ってみると、レティシアはさっきと同じ位置で固まっている。いつの間にかペットボトル持ってるし。


「おい、それだけはやめろ。レティシアもその服だけでも洗っとけよ。見られんの嫌ならアッチでいいから」


少し離れた岩場の向こう側を指差してやると、こちらと向こうを見比べてから岩場へと歩いていく。なんでペットボトルを持っていく必要があるんですかね。


大丈夫だろうか? でも覗くのはダメだし、まずは自分の分を済ませてから見に行こう。


上着とTシャツ、靴下もジーンズ同様に洗っていく。どっちも所々に血がついてるけど、時間が経ってるし全然落ちないな。


シャツは襟周りの汚れが結構ひどい。やっぱり一週間近く着てたらこうなるか。


洗い終わったら、ジーンズ近くの岩に洗った上着とシャツを広げる。


パンツも洗いたいけど、出会ったばっかりの少女の前で全裸にはなれないし、明日にしよう。


さて、そろそろ向こうも終わったかな?


「レティシアー、できたー? 蟹捕るぞー蟹ー。」


反応がない。まさか逃げたのか?


「ッ! レティ……」


焦りから声を上げようとしたとき、視界を遮る大岩からヒョコリと少女が顔だけ出した。


『******。*******』


何言ってるかわかんねぇよ。まぁいるならいいけどさ。


顔が引っ込むとその方向からバシャバシャ音がする。どうやって洗ってんだか。


パンツ一丁で蟹を探していると、レティシアが無言で戻ってきた。


上はタンクトップ。下はトランクスみたいなパンツ。どっちもお揃いで白地は薄っすらピンク色をしている。


ちゃんと靴下も洗ったのか足元は白い素足だ。


『*、***』


いかん。まだ小さいとはいえど、女性の下着姿をジロジロ見るもんじゃないな。っていうかレティシアがなんか恥ずかしそうにしてるからこっちまで気になるんだよ。なに色気付いてんだ、十一歳のくせに。


「あ、おわったか。蟹探して。蟹はもう分かるだろ」


気にしないフリをして、捕まえていた蟹を一つ摘んでみせる。


『*****。「カニ」*』


おお、やっぱり蟹の単語は理解してくれるのか。


それから二人で三十匹の蟹を捕獲した。レティシアは蟹を締めきれないのか、捕まえる度に俺の方に持ってきていたが。


適当に生木の枝を折って串代わりにして、一本につき数匹蟹を刺していく。見た目は焼き鳥ならぬ焼き蟹か。


レティシアは苦戦して蟹をボロボロにしている。その蟹もう足がないじゃん。


全部刺し終わったら、集めておいた枯れ木の山にライターで火をつけ、生焼けにならないよう丹念に焼いていく。


毎日やっているだけあって、自分でもなかなか手馴れてきたと思う。


しっかり焼いたら、比較的大きいサイズが刺さっている串が俺用、食べやすい小さい方がレティシア用で分けていく。


川で手を洗い、ペットボトルを満タンにしたら実食。


「いただきます」


一言呟いて串から外した蟹を口へ放る。


バリボリと音を立てる俺を見て、レティシアも食べ始めた。


食べる前のお祈りとかはないのか。そういえば宗教とかどうなってんだろ。ま、喋れるようになったら聞けばいいか。


焼いた蟹を一つ摘む。


「カニ」


『「カニ」*。****』


「カニは、こっちの言葉でなんて言うの?」


『*********? ***************。**************』


なんか淡々としゃべってるけど全然分からん。訊き方が悪かったか。


目の前にあるペットボトルを持つ。


「これ、ペットボトル。これ、カニ。これ、石」


『ペトボトル、カニ……**、****!』


『カニ*、「シャル」******。「シャル」』


「シャル?」


『**、「シャル」*』


「おお、カニはシャルなのか。その前に言ったのがは『イエス』って感じか。あ、じゃぁこれは?」


『それはね……』


それから蟹を食べおわるまで、レティシア先生の異世界単語のマンツーマンレッスンを堪能した。




さて、腹は膨れたし、食後の歯磨きでもしてみるか。


今までは一人だったけど、二人になるとどうしても臭いを気にしてしまう。


当然歯ブラシなんてない。昔の人はどうやって歯を磨いていたんだろうか。


どうにかして自然から作るしかないけど、思いつくのは生木の枝を使うくらいか。


串代わりにした枝を半分に折り、先端部分の木の皮を爪と石で削っていくと、木の繊維が少しほぐれて柔らかくなる。


これでどうにかそれっぽい感じの棒にはなったけど……。


咥えてみて、歯のザラつきを磨く。思っていたより変な味はしないし結構いい感じだ。


磨いた部分を舌先で確認すると、ツルツルした感触がはっきり分かる。いいね。歯の隙間までは無理だけど表面ならこれで十分綺麗にできるな。


レティシア用に同じものを削っていく。地味に手間がかかるから使い捨てじゃなくて、壊れるまで使わないとな。


「おーい、レティシアー。こっち来てー。」


洋服の乾き具合を確かめに行っているレティシアを呼ぶと、洗い終えたワンピースを着た姿でこちらにやってくる。


「えー、それまだ生乾きだろ。ちょっと触らせて……うわっまだ干さないとダメだって」


両腕でバッテンを作って首を振りながら言う。もちろんイヤそうな顔も忘れない。


不満なのか口をとがらせるレティシアさん。メッチャ可愛いな。でもダメです。


「ダメ、脱いで。ほら、風通しのいいとこに干すから」


俺も大岩の上に干していた洗濯物一式を持ってきて、陽の当たっている枝を物干し竿代わりにして干す。


「ほら、こうすると早く乾くから。レティシアも脱いで」


納得していないのか、しぶい顔をしたままワンピースを脱ぐレティシア。最初の恥じらいはどこにいった。


預かった生乾きのワンピースを近くの枝に干してやる。風も少しあるし、ジーンズ以外はすぐ乾くだろう。


「よしっと。レティシア、歯磨きするよ、歯磨き。わかる?」


自作の木製歯ブラシもどきを拾って歯を磨く真似をすると、意味が分かったようなリアクションだったのでもう一つの歯ブラシもどきを渡す。


それから五分ほど、川の流れをBGMにして念入りに歯を磨いた。


その後は服が乾くまで手持ち無沙汰になったので、次の焚火用に流木や枯れ木を一か所へ集める。


レティシアはペットボトルの何が面白いのか、川に浮かべたり水を入れたりして一人で遊んでいた。




「うっし、いいぞー、コレ」


乾いたワンピースをレティシアに渡し、俺も干していた物を全て着る。ジーンズはやっぱりまだ乾いてないから上に戻ってから干し直すか。


勾配のある坂を上り、洞窟まで戻って天を仰ぐと、太陽は真上を少し過ぎて……二時か三時といったところか。


日が暮れるまであと三、四時間の間にやっておくべきことは、トイレの説明と、晩飯。意外とやることないな。あと洞窟の落ち葉をもっと増やしとくか。


「レティー、ペットボトル、洞窟においてから着いてきて」


分からないだろうなぁと思いながら言うと、レティシアは首を傾げながら俺にペットボトルを差し出してくる。おしい。


ペットボトルを洞窟の入り口に置いたら立て掛けておいた杖を持ち、二人でトイレの方向へと歩き出す。


「この辺だったけど……あ、あった」


洞窟から二百歩の位置でこの前作っておいたトイレ群を発見。


「あー、これ、トイレ。こうやってっと。うんこしたら、埋める。オッケー?」


トイレの穴の下にしゃがみ込み、葉っぱを糞に見立てて埋める動作で例える。これで分かってくれるか?


レティシアは真剣な表情で頷いてくれた。


「よし、で、穴はこれの杖で自分で掘る。こうやって、大体このくらいの深さでいい」


新たに穴を掘って実演すると、なぜか両手を差し出してくる。杖をくれってことか。


杖を渡すとレティシアはさらに遠くへ歩き出した。なんで?


どこまで行くのかと心配になって声をかけようとしたところで立ち止まり、そこに穴を掘っていくレティシア。


ああ、なるほど。俺と共用は嫌ですよね。わかる。


俺を襲った村人の野蛮性から考えると、異世界人はかなり原始的な脳筋だと思っていたが、レティシアを見ている限りは日本でいうところの一般的な知性とデリカシーがあるらしい。


トイレを掘り終えたレティシアが戻ってきたので、戻る方向の目安になる木を教え、歩数を声に出しながら洞窟へ戻った。




「じゃぁ次は落ち葉集めな。ほら、この箒っていうか木で、こうやって集めるの」


洞窟周りはすでに落ち葉がほとんど無いので、少し離れたところから一気に洞窟の入り口へ落ち葉を掻き集めていく。


「んで、この落ち葉を中に入れるっと。よいしょ。あ、この下の方は土とか混ざってるから入れたらダメね、わかった?」


レティシアに箒の木を渡すと、少し重そうにして引きずりながら周りを歩き出す。


頑張って掃きながらこっちへ戻ってくるが、やはり成果はイマイチのようだ。


うーん、まぁ毎日やる作業でもないし、これは俺がやった方がいいか。


「オッケー。ありがと。あとは俺がやるからいいよ」


一仕事終えてちょっと自慢気な顔をしたレティシアから木を受け取る。


それから二山分ほど、落ち葉の山を作ってから洞窟内へ入れていく。落ち葉を入れるのはレティシアの作業だ。


小一時間ほど頑張って、最後に洞窟の中で葉っぱをなるべく均等に分散させていく。


ライターで火を点け、自分が寝る場所は多めにするようにジェスチャーすると、ごっそりと周りの葉っぱを持っていきやがった。


外に出るとそろそろ夕方に差し掛かるといった時間帯。


「あ、そうだ」


今日の会話で覚えた言葉をメモしておこう。こういうは時間が経つとすぐ忘れるし。


洞窟の外壁を背にして座り、鞄から四つ折りにしたメモ用紙とシャーペンを出したら、資源節約のため細かい字で単語と発音を書いていく。


「よし、こんなもんか」


じっと隣に座っていたレティシアを見ると、どうやらペンが珍しいらしくこちらの手を凝視していた。


「シャーペン、ん、シャープペンだっけ? まぁ書くヤツだよ。先っぽはとがってるから気を付けてな」


カチカチと芯を出し、ひっこめてから渡してやる。


『シャーペン……』


恐る恐るシャープを受け取ると、陽に透かしたり色んな角度から見た後、カチカチして芯を出す。


『……****、***************』


「芯出しすぎて折ったりすん、あっ」


『あっ!』


レティシアは伸び出た芯をそっと触ったつもりだったのだろう。しかし、無慈悲にもか弱い芯はぺキリと折れて地面に消えてしまった。


「あーもったいねぇ。この辺に……あー、ダメだわ見つかんないわコレ」


下を少し探ったものの、土と落ち葉に紛れて折れた芯は見当たらない。


レティシアの方を見ると、この世の終わりみたいな顔で口をポカンと空けて俺を見ている。心なしか顔色が悪い。


すると大きく開かれた瞳が潤いを増し、ついにはぽろぽろと大粒の涙をこぼしはじめた。


『*、***、******。*****、***……』


「えーっ、いやいやいや、大丈夫だって! マジで! ちょっ、泣かないで!」


オロオロする俺、シクシクに泣く少女。なんだこれなんだこれ。


ペンケースから詰め替え用の芯ケースを取り出してレティシアに見せる。


「ほら! まだ全然あるから余裕だって。ほらいっぱいあるから!」


シャカシャカと芯ケースを振ってから中の芯を手の平に数本出して見せると、ようやくレティシアの涙が止まった。


『***。***************。*************?』


なんて言ってるか分からないけど、きっとシャーペンを絶賛してるんだろう。


芯を戻して、シャープペンもペンケースにしまう。


「あとコレ、企画書。ホッチキス取ってるから」


鞄からクリアファイルに挟んだ企画書を渡すと、さっき以上に仰々しく受け取るレティシア。


そうか、透けているクリアファイルからしてこの世界だと珍しいのか。


ぶつぶつと何かを呟きながら、少女はゆっくり紙をめくっていくが、ふと、その手が止まる。


ヒロインキャラである女の子の紹介ページだ。全身とバストアップのイラストをメインに文字が添えられてある。


『****……****、**********』


やっぱり女の子ってこういう絵が好きなのかね? まぁ一部の大人の男もこういうの大好きなんですけど。


以降もイラストのあるページを見つけては穴が開くほどに見つめ、そろそろ夕飯にしないとまずいと思って声をかけるまでレティシアは企画書を離さなかった。


名残惜しそうにするレティシアを後目に、企画書を戻してから立ち上がる。


「よし、飯にしよう。カニだ、カニ。あ、『シェル』だな」


『カニ!』




それから二人で沢を降りる。


捕まえた蟹を焼いていると、どこか行ったレティシアがワンピースのスカート部分を広げて戻ってきた。


「え、またもらしたの……おおっ!」


広げられたスカートの上には、オレンジ色をした小さな粒の房がいくつも転がっている。木の実の大きさはブルーベリーくらいか。


「お、おおお、これ食えるの?」


衝撃に震えながらそう尋ねると、地面に座ったレティシアが木の実を下に置き、その一つをパクリと口に入れた。


その表情はやさしく、さっきの問いに対する答えでもあった。


真似をして房を一つ摘んで口に入れて噛みしめると、ほのかな酸味と甘みが弾けて口の中を潤してくれる。


甘い。酸っぱい。独特の味だが、うまい。これは木苺的なものだろうか。


なによりも酸っぱいということはビタミンがあるはずだ。体が欲していた栄養素をこれで補える。


最近は、沢蟹ばかりで味に飽きて水で流し込むことが多くなっただけに、この木の実は本当にありがたい。


『おいしい、ありがとう。レティシア』


昨日覚えた異世界でお礼を言ってみる。


『********。*************』


「あ、そうだ。これ、どこに、生ってたの?」


頭の上で両手を合わせてニョロニョロ伸びるジェスチャーをしながら問いかけると、俺の手をとって立ち上がり歩き出す。


『****!』


お互いに弾むような足取りで川原を進んでいくと、その場所はすぐに見つかった。


鬱蒼と茂る細い木には、まだ沢山のオレンジ色の木の実がいくつも実っている。


周りをよく見てみると、群生しているのか同じような木がいくつもある。ただ他の木に生る実はまだ青い。


スウェットを脱いでから地面に敷き、綺麗なオレンジ色の木の実をもいでは、その上に並べていく。


レティシアも手伝ってくれて、目につくオレンジ色の木の実を両手いっぱいになるくらい回収できた。


蟹を食べたあとのデザートにしてもいいし、明日の朝食にするのもありか。


スウェットで包んだ木の実を大切に持って戻ると、焚火が消えていたので火を点けなおして蟹を食べる。


木の実のおかげか、いつもよりおいしく蟹を食べられた気がする。


その後、レティシアが先に採ってきた分とスウェットに包んだ分の木の実を合わせて、デザートとしてレティシアと俺で一粒ずつ食べる。


夕日に照らされながら二人で今日一番の笑顔を見せあったあと、洞窟へと戻った。




洞窟に着いたら大きめの葉っぱを何枚か採り、洞窟内の日が差し込みやすい位置に並べて置き、そこに木の実をまとめた。


レティシアには明日食べるからと伝えたかったが、どう言っていいか分からないので、また一粒ずつ食べて寝ることにした。


太陽が沈むと月明りだけが頼りになる。洞窟内まで光は届かず真っ暗だ。


俺とレティシアはそれぞれ自分の寝床に転がる。落ち葉を多くした分、岩の凹凸が軽減されていい感じになっている。


レティシアの方はがっつり落ち葉を独占してたから、さぞ良い寝心地になっているだろう。


寝っ転がったままライターに火を点けて、レティシアの顔を確認する。


「おやすみ、レティシア」


『……「おやしみ」、タチバナ』


レティシアのやわらかい笑顔を見つめたまま火を消して、そっと瞳を閉じた。

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