表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この異世界に明日なんて無い  作者: チョコモナカジャンボ
2/8

一日目

ガサッ。


頬にあたるチクチクとした感触に目を覚ます。


少し開いた眼に飛び込んできたのは枯葉の絨毯。


「……は?」


ガバッと上半身を起こして周りを見回すと、まるで森、いや森の中そのものだった。


急な覚醒と混乱の中、どこか冷静な自分がいる。


地面に積もった枯れ葉と、緑を揺らす木々を考えれば、時期的に春かその少し前くらいか。


鳥の声や風にそよぐ自然の音が耳を撫でる。


(ここは……どこ?)


傾斜がある森、まぁ普通に考えれば山の中だろう。


拉致、健忘、夢遊病、そんな可能性が頭を過ぎる。


服は所々に土や葉っぱを纏っているが、特に怪我しているところはない。


あと、右手に仕事用の鞄。


いつもの重さだし、開けてみれば飲みかけのペットボトルなど中身はちゃんと入っている。


鞄の中からスマホを探しながらここにいる経緯を考える。


機能は仕事帰りに電車に乗って、うっかり寝過ごして、そこからどうなった?


変な駅で老人みたいな化け物に騙されて電車に乗ったのは夢で……いや、夢だったのか?


電車、老人、恐怖、闇、そして……死?


ついさっきまで頭に浮かんでいた夢の中身が、時間と共にとパラパラと溶けて単語の断片だけになっていく。


ただ死ぬほど恐かった悪夢だということだけしか思い出せない。


もしかして電車から逃げ出してここで倒れたとか?


ストレスが原因で頭がどうにかなってしまったという可能性もあるかもしれない。


鞄から取り出したスマホはボタンを押せども画面は暗いまま。


電源ボタンを長押ししても……反応はない。


「オイオイオイ、うっそだろ」


どこか楽観していた意識が吹き飛び、身体の芯が冷たくなる。


財布を取り出して中身を確認する。所持金は一万四千円と小銭。


周りを見回してもあるのは樹海のように木々が生い茂るばかり。


とりあえず山道か人を見つけるしかない。


どこだか分からない山の中で食い物が全くないのにじっとしているわけにはいかない。


頂上まで登って現在地を把握した方がいいのか迷ったが、鞄の取っ手を持ち、下る傾斜に沿って歩きはじめる。


山で遭難したら動いてはいけないと聞いたことはあるが、そんなことはこの際どうでもいい。


この場所が山かどうかも分からない状況では進むしかない。


ザクザクと落ち葉を踏みしめる音に、まるでこの世界に自分独りしかいないような気がしてくる。


まるでテレビで見た富士の樹海のようだ。


本当にここはどこで、俺はどうなってしまったんだ。


本当に頭がおかしくなってしまったのか……?




三十分くらいは歩いただろうか、さすがに脚が痛くなってきた。


キーボードとマウスしか持てない現代人に山はきつい。


学校を出てから碌に運動をしていないため、並み以下というか脆弱なのは自覚している。


ひたすらに山を下りつづけているが、下っているつもりなのに途中が登り坂になっているところもあって、下っているのか上っているのか分からなくなりそうになる。


登山道もなければ川もない。もちろん人も。


見つけたものと言えば木の上のリスや鳥くらいか。


木の枝から枝へ軽快に動くリスを見たときは少しだけ和み、写真を撮ろうとスマホを出したところで充電切れだったことに気づいて凹む。


顔を上げるとまだ日は高いのか、枝葉の隙間から日が差し込む光景は一幅の絵画のようだ。




体内時計でさらに三十分、暫定で都合一時間ほど歩いたが道もなければ人も見当たらない。


ただ、前よりも傾斜が緩やかになっていることに気づく。


下っているつもりが登りの方向だったり、水平方向に山をグルッと周っているだけで、完全に遭難するという最悪の可能性もあったのでこの発見はでかい。


さらにもう少し歩く。


さすがに脚が痛いので、杖代わりになりそうな太めの枝を拾ってみたりもしたが、半端な太さで重いだけだったので結局すぐに捨てた。


杖からなんとなくRPGゲームを思い出して、ふと今の自分を当てはめてみる。


最近腹が出てきた壮年真っ盛りの32歳。体力は中学生以下だろう。


職業はゲーム開発だから一応IT系の会社員……まぁ商人が一番近いか。


装備品は、下からスニーカー、ジーンズ、上着セットは、まぁ布の服か。あとビジネスバッグというか鞄。


鞄は盾扱いか?


まぁ、もし熊とか野犬に遭遇したら一巻の終わりだな。


手ごろな杖か棒くらいは欲しいけど、どこの山だか分からんしそろそろ山道くらいは見つかるだろ。




……そんなふうに考えていたが甘かった。


さらに三十分くらいあるいても道がない。人もいない。普通の山でこんなことってあるか?


記憶喪失中の間にもしかして個人所有の山に入り込んだとか?


やっぱり頂上まで登って状況把握が正解だったか。


本日何度目かになる屈伸とウロ覚えの体操もどきをして再び歩き出す。


山の傾斜は段々緩やかになってるはずなんだから大丈夫だと自分に言い聞かせる。




遭難そして死。


そんな漠然とした言葉だったものが、時間と共に近づいてきている。


時間……。そういえば今何時だろうか。


日の傾きから十五時から十六時くらいか?


今どきスマホがある時代に腕時計なんて無用の長物だと思っていたけど、まさか持っていないことをこんなに後悔する日が来ようとは。


歩き続ける間にこの状況の原因を考え続けて、「おそらく自分はストレスか頭の病気で突発的に狂ってしまい、個人所有の山に迷い込んでしまったところで正気に戻った」という結論に達した。


他の可能性は消去法で潰したが、心のどこかで自分の考えに見落としがあって、もっといい方向に事態が好転しないかと思う自分がいる。


例えばテレビのドッキリ企画とか……うん、それは無い。これはもう人権侵害どころじゃ済まない。もしそうなら精神的苦痛で頭がおかしくなって多額の賠償金を請求してやる。


そんなことを考えながら歩くと、少し先に木々が開けて岩場のようになっている場所が見えた。


鬱蒼と茂みが続く森はもう勘弁してくれと念じながら、すっかり重くなった足取りでゆっくりと近づく。


そして、そこに広がる光景は歩き続ける間、望んで止まなかったものだった。


切り立った地からは、山の麓から地平線を見渡すことができた。


麓にはあまり規模は大きくないが村が見える。


助かった。


そろそろ野宿という可能性も考えていただけに、今までの疲労がスッと軽くなるような気さえする。


麓の村は本当に田舎という言葉がぴったりの集落が……。


「はぁ?」


違和感に気づいて思考が途切れた。


集落。かなりボロい集落だ。


結構遠いので確信は得られないが、かなりボロいという表現さえ生ぬるい藁葺き屋根らしき家々が集まっている。


さらにその集落の周りには道らしき道がない。車もない。


麓より遠くを見渡すが、小高い緑の丘や森林が広がるばかりで、ビルはもちろん、集落以外に家が一つもない。


あるのは柵に囲まれた畑らしい耕された土地くらいか。


集落はとても現代の日本とは思えない程度の低さで、原始的な風貌をさらけ出していた。


今どきの日本にこんな集落が?


秘匿された部落地域なのか?


もしかして海外、中国とかの未発達地域か?


当然こんな場所は記憶にないし、仕事で海を渡ることもない。


ここはどこなんだ。一体何なんだ。俺はどうなってしまったんだ!




頭を抱え込み混乱極まる中、暗くなる前に村へ向かうことが先決だと思い直し、ひたすらに山を下りた。


時々迷いつつ、もうかれこれ三時間は歩いただろうか?


空は茜色に染まり、夜の帳はもうすぐ下りようとしている。


全身は限界が近く、立ち止まれば太股はガクガクと震え、踏み出せば足の裏が脳へ悲鳴を上げる。


最初こそ枯れ葉がカサリと音を立てれば、蛇か獣かと恐怖に身構えていたが、今では精神も磨耗してしまいそんな気力すらない。


昼間は何も思わなかったカラスらしい鳥の鳴き声も、今では俺が死体になるのを待ちかのような、不吉な禍々しさを帯びて聞こえる。


もし、あの村が本当に差別部落で、よそ者お断りだったとしたらどうしたらいいんだ?


泣きながら土下座して頼み込んだら迎え入れてくれるだろうか?


万が一、日本ではない海外の村だったら……。


そんな混沌とした考えが頭の中を駆け回るが、どちらせによまずは行ってみるしかない。


野宿なんてしようものなら野犬か猪に襲われて死んでしまうだろう。


熊だったら苦しまずに逝けるだろうか?


得体の知れない土地の人間に会う怖さと、助かりたいという希望が混ぜ合わさり、村に近づくごとに鼓動が速くなる。


もうすぐ、あと少しで村だ。




そして、遂に村の前へと辿りつく頃には夕日が落ちかけて、既に辺りは薄暗い。


遠くから見えた通り、どこの民族だと言いたくなるような家ばかりだ。


村の入り口らしき柵までは直線距離で二百メートルくらいだろうか。


柵には二人の男が立っているのがなんとか見える。


あれはやはり門番ということなんだろうか?


もしかして俺が警戒されてたりするのか?


なんとなく行くのが恐くなってしまって木陰から覗き見ていたが、結局このままでは埒が明かない。


思いきって一歩踏み出し、片手を大きく振りながら声を上げる。


「すみませーん! 山で迷ってしまったんですがー!」


柵前の二人はすぐこちらに気づくと、立てかけてあった棒を構えた。


内一人は柵の内へ大声で何かを叫んでいる。


これはやばい。


奥から男が一人駆けつけて門の横にかがり火が焚かれた。


「すみませーん! 山で迷ってしまいました! 日本人です、アイムジャパーニーズ!」


そう叫びながら歩みを進めると、柵の奥から松明をもった人が次々に出てくる。


二人から三人、四、五、六人へ。


引き返すのはマズイ。これは逃げると逆に怪しまれるパターンだ。


腹を括って同じ言葉を繰り返しながら歩を進め、村まで残り百メートルくらいになっただろうか、外に出ている男の一人が大きな動作をしたかと思うと、数秒後に足元から一メートルくらいの地面にトシュッと小気味良い音が刺さった。


それは細い棒であり先端には羽らしきものがついている。


一般的には矢と言われるもの。そう、狩猟などで使う弓矢だ。


「うおっ!?」


理解した瞬間、もし連続で矢が飛んできたらと思って後ろに飛ぼうとするも踵が石らしきものに躓いて尻餅をついてしまう。


すると柵の方から雄叫びが上がり、顔を上げると槍や斧を持った男たちが喚き散らしながらこちらへ向かってきていた。


「ヒィッ!」


強烈な殺意に驚愕しつつ、尻餅をついた状態から急いで立ち上がり全力で逃げ出す。


捕まったら間違いなく殺される。


その恐怖だけが疲弊した身体を突き動かす。


右手に掴んだ鞄が暴れて腕や体にバシバシ当たるが気にしている暇なんてない。


死ぬのか俺は。こんな訳の分からないところで蛮人に殴り殺されるのか。


死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!


いやだいやだ、死ぬのだけはいやだ!


逃げる逃げる絶対逃げるんだ!


振り返ることもせずただひたすらに走り続ける。


辺りはすっかり暗くなり途中で何かに躓いて転びそうになるが、火事場のクソ力でふんばりが効かせてなんとか転倒を回避する。


とにかく前へ前へと走り続けて森へ分け入り、顔に当たる小枝を気にもせず藪をかき分けて逃げ続ける。


どれくらい走っただろうか?


十分、十五分、いや、二十分くらいだろうか、時間の感覚が分からない。


ふと殺気を伴った雄叫びが遠くなっていることに気づいて振り向くと、二百メートル以上離れた森の外辺りにかがり火が幾つか見える。


心臓は爆発するんじゃないかというくらいに跳ね上がり、ゼイゼイと息をするのが精一杯だ。


かがり火が森の中へ入ってこないことが分かると仰向けに五体投地で倒れ込む。


目がチカチカと明滅し、体は限界を超えるような心拍数を刻み続けている。


もし火を焚かずに男たちが森に入ってきていたら気づかずにそのままお終いだ。


どうせもう身体が動かないから、その時はその時だ。


目を瞑り口を開けてとにかく酸素を身体に取り入れることだけに集中する。




それから少し経ってどうにか呼吸を落ち着ける。


上半身を起こして篝火のあった方を確認すると、暗闇が広がっているだけで火や人の姿は見当たらなかった。


助かった……のか。


なんだったんだ、あの男達の殺意は。


普通、丸腰の男一人にあんなことするか?


思い返してみると、奴等が叫んでいた言葉に日本語らしさは皆無だった。


きつい方言でもあそこまで理解できないレベルじゃないだろう。


極めつけに弓矢。弓矢ってなんだ、いつの時代だ?


おかしいだろ、絶対おかしい。


まず間違いなく日本じゃない。


海外の奥地にワープしたという可能性とは別の可能性が浮かび上がる。


もしかして弥生時代あたりにタイプスリップした、とか……?


記憶がブッ飛んで知らないうちに海外のとんでもない未開の土地に一人旅をするのと、弥生時代にタイムスリップするのは可能性としてはまぁ前者が有力だろうけど、どっちにしても状況はほとんど変わりない。


正に絶体絶命。


肉食の獣に遭遇しても死ぬし、水や食い物を見つけられなくても死ぬ。


汗が乾いて火照った体を冷やしているが、このまま寝て風邪を引いたり、足を骨折しても動けなくなって死ぬ。


まだ程遠いところにあったはずの「死」がすぐ目の前にいる。


さて、そんな状況でこれからどうすべきか……。


とりあえず村に戻る選択肢はない。殺されるだけだ。


そうなると当然、山の中で野宿という選択肢しかない。


獣のことを考えると木の上とかがいいんだろうけど、身軽で木登りして遊んでいた頃とは違って体も硬いしバランス感覚もないだろう。


それに全身を蝕むこの疲労を考慮すると、とても木に登れそうもない。


今は少し風を感じるくらいで涼しいけど、夜が更けると間違いなく寒くなる。


そんな状況で地べたに寝たとして体調を崩さずに明日を迎えられるだろうか?


落ち葉を集めて布団代わりにしても厳しいだろう。


土を掘って塹壕を作るというのも無理だ。せめてデカいシャベルと時間があったら……。


そんなことを考えながらとりあえず山を登り始める。


あまり村に近いと朝に捜索されて寝ているところを捕まえられるだろうし、出来る限り離れたい。


ジンジンと足裏が痛み、鉛のように重たくなった足をどうにか動かす。


最悪、寝ているときに雨が降る可能性も考えると大きい木の下とかがいいかもしれない。


ゆっくり歩いていると、段々と目が夜に慣れてきた。


すると、下りた道を戻っているつもりだったが、木々の数が少しずつまばらになっていくことに気づく。


その代わりに背の低い小さな木が増えて進みにくい。


たまに腕で除けるとチクチクする木もあるので、服の袖を伸ばし掴んで直接手に触れないよう気を付ける。


この場所は通った記憶が……多分ない。月明りだけだから自信はないけど。


木を迂回し、退けられそうな木は手で除けながら山を登る。


途中でウサギかイタチっぽい小動物を見つけるがすぐに逃げられた。




三十分くらい登ると少し遠くに一本の大きな木が悠然と佇んでいた。


屋久島の杉のような壮大な大樹だ。


いや、さすがに屋久島の杉よりも小さいか。


しかし、今までに見た木の中では一番大きい。


見惚れて足を止めると両脚がガクガクと笑いだす。


もうダメだ、この木の下で野宿だな。


心身共に最早限界だった。


大樹に近寄ると、根元あたりが暗くてよく見えない。


腰の位置くらいにまるでぽっかりとアーモンド状の闇が浮かんでいるようだ。


目の前に来ても暗いままなのでそこに触れようとすると何もない。


「あ……」


そうか、これって木の洞か。


洞の中に手を入れて何もないことを確認する。


中は結構広いようで、肩口まで手を突っ込んでも奥には当たらなかった。


入口はサイズ的にギリギリ大人が入るくらいか?


洞の中は多分大丈夫だろう。


念のため小石を拾って洞に放るとすぐに地面に当たった音がする。


この中ならかなり安全に夜を越せるかもしれない。


熊とかに見つかったらアウトだけど。


落ち着いたところで鞄からペットボトルを取り出して一口弱だけ水を含む。


水はあと……五分の一くらいか。


ペットボトルを上に掲げて月明かりに照らして確認する。


空上では星と満月から少し欠けた月が夜を綺麗に照らしていた。


それにしても水源を見つけないとまずい。


人間は水無しだと三日間くらいしかもたないとか、そういう話を聞いたことがある。


逆に水さえあれば何も食べなくても一か月はもつとかどうとか。


まずは寝て、夜が明けたら川を探さないとな……。


よし、今日はとりあえず洞に入って寝よう。


そう決心して腰くらいの高さにある洞の下部に足を掛けようとするが、足が上がらない。


身体が硬いというのもあるけれど、それ以前に疲れが溜まりすぎて、あと少しというところで足が全く言うことを聞いてくれなくなる。


プルプル震える足を全体的に揉んでみてもどうにもならず、一旦脚を戻して頭を抱えてしまう。


どうしたものかと思ったところで、隣の木の下に人の頭より少し大きいくらいの岩を見つけた。


持ち上げて少し動かそうとしたら手に力が入らず、転がすようにして洞の下まで運ぶ。


「よし……!」


達成感に思わず声が出る。


深呼吸、背伸び、屈伸をしてから岩に乗って洞に足を掛ける。


さっきより大分いい……あと少し……届いた!


そのまま片足を引っ掛け、洞の横を掴んでもう片方の足もどうにか洞の中に入れる。


洞の縁に腰掛けた状態になって中を覗くが当然真っ暗で何も見えない。


擦れて太腿の裏と股関節がジンジンと痛いが、後は洞の中に飛び込むだけだ。


さっき小石を入れて大丈夫なのは確認しているが、いざ飛び込もうとすると、下が底無し沼みたいになってなっていたり、中が狭くて一度入ると抜け出せなくなるのではと恐くなる。


どうせもうこの体勢から戻すことはできないし、どっちにしろこの中に入らないと安全に夜を越せないんだ。


大丈夫、うまくいく、絶対うまくいく!


そう強く思って尻をスライドさせて飛び込んだ。


トスッ。


……普通に着地できた。


飛び込んだ際に擦った背中をさすりながら、外に出ていた頭も中に入れる。


洞は外観からほぼ想定した通りのサイズで、手を広げて測ってみると幅と奥行きが七十センチ程度。高さは思ったよりもあって百五十センチ程度か。


結構広くて中に居ながら向きを変えられるというのは凄くありがたい。


野趣溢れる自然の匂いがして、洞の中から外を見るとなんだか鳥にでもなったような気がする。


腰を屈めて眠れば外から見えないだろうし獣に発見される可能性はかなり低くなるだろう。


匂いを辿ってここまで来られたら、それはもうどうしようもない。


安心した途端、急に身体が重くなる。


しゃがみこんでなるべく収まりの良いポジションを探りつつ、靴と靴下を脱ぎすてる。


「はぁ、疲れたぁ」


瞼が落ちる前に零れた独り言は、洞の中でよく響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ