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第98話 終戦

いつも誤字報告ありがとうございます。

本当に助かってます。


 ブラッキーさんとホワイティさんは砦の屋上にいるようで、何度か声は聞こえて来るけど場所は移動してないみたいだ。

 声や物音から察するに、中央から両翼を見て、形勢に応じて小威力の火弾を放ってるようだ。

 負傷者も中央に運ばれているようで、恐らくホワイティさんを中心とした治療師達が治癒をしているんだろう。

 数の上では劣勢みたいだけど、こっちは攻めずに守りを固めているから戦況としてはかなり優勢のようだ。


 僕達も出口まで来て見える限りの戦況を確認しようとしたんだけど、両翼に展開していた味方兵士が徐々に帰って来ていて外の状況は見れなかった。

 でも、魔素を介しての探索では相手方が徐々に減って来ているのがアリアリと確認できた。


 ドゴオォォォォオン!


 戦況を探索していると、中央付近から爆発音があがった。バンさんがいた辺りだ。

 何かが急に現れて、そしてその何かにバンさんが吹き飛ばされた。

 それしか分からなかったが、バンさんが吹き飛ばされたと分かっただけで、すぐにで駆けつけたい気分になる。

 しかし、戻って来た兵士達が多すぎて通路を推し戻されてしまっていて出口に向かえない。

 しかも負傷兵が多く、そこかしこに無造作に寝転がってしまっているので踏んで行くわけにもいかず、身動きが取れない状況になってしまった。

 後ろには何とか行けなくもないけど、戻ってしまったら出口に辿り着くのが更に遅くなる。

 まさか、こんなに多くの目がある場所で砦を飛び越えて行くわけにもいかない。

 何かいい対処法は無いかと思案しているとセーさんが声を掛けてきた。


「キズナ、大丈夫だ。吹き飛ばされた者は大事無い」


 セーさんに言われて探ってみると、僕には大きな魔力を持った人が動かないのが分かるだけで、状態や生死は何も分からなかった。

 出口が近いから探索は出来る。でも、元々セーさんほど精度は無いから、僕には存在の有無と魔力量ぐらいしか分からないんだ。

 でも、セーさんが言うのだから間違いないと思う。傷は負ってるかもしれないけど、命に別状は無いんだろう。

 ただ、動いてないって事は、それだけ重症を負っているのか、それとも気絶しているのかだろうな。


「それより気になるのは攻撃をした方だの。かなり強いぞ」

「たしかに……」


 こっちも言われて探ってみると、若干バンさんよりも魔力量が多い人みたいだ。

 だけど、いつ何処から現れたんだろう。さっきまでこんなに強い人はいなかったはずなのに。


「もしかして転移?」

「違うぞ、キズナ。彼奴あやつは走って来たようだ」

「えっ!? 走って来たの!? 急に現れたみたいだけど」

「うむ、速かったの」


 えー! まさか僕より速い!? いやいやいやいや、僕は『クロスオーバー』で一番足が速かったんだ(子供限定)。

 そんな僕より速い? いやいや、そんな事はないって!


「セーさん、向こう側に行けないかな」

「ふむ、行けなくは無いが、この場は森から少し離れておる。儂の魔力だけだとちと厳しい。キズナの魔力も貸してもらうぞ」

「うん、問題ない。いくらでも使って!」

「ふむ、いざ」

「……ちょっと待つ」


 移動前にハナノエさんが何か言いかけてたみたいだけど、あの毎回タイミングが遅れるので、言い終える前に僕とセーさんは転移した。

 僕が魔力を貸し与えると、縄張りの森で無くともある程度は転移できるみたい。

 もう少し早く教えてくれてれば何日も馬車で移動しなくて済んだのに。

 馬車移動が好きなセーさんが言うはずもないか。知ってたとしても断固として馬車移動を主張してただろうしね。

 移動中だって瞑想してるだけなのに、馬車移動の何がいいんだろうね。

 おっと、それどころじゃなかった。


「バンさん!」


 運がいいのか悪いのか、バンさんは戦場脇の森の中まで吹き飛ばされていたので、セーさんの力で森に転移した僕とは非常に近い位置にあった。

 恐らくセーさんが気を使ってくれたんだろう。


「……」

「少しの骨折と打撲だ、儂が治しておこう。キズナはあっちの方が気になるのだろ?」

「うん、ブラッキーさん達がヤバそうだ。セーさん、頼んだよ!」


 バンさんを吹き飛ばした存在が砦にゆっくりと向かっている。

 両翼から攻めていた敵兵が砦に沿って中央に進軍しているため、バンさんを吹き飛ばした存在もゆっくりとしか進めないようだ。

 それでも強者の存在に気付いた敵兵が、通路を開けるように中央に道ができつつある。

 通路ができてしまえばブラッキーさん達が危ない。

 僕は急いで砦に向かい、ブラッキーさんの前に踊り出たかった。

 でも、敵兵が邪魔なのは僕だって同じだ。敵兵の目印でもある鎧を着てなければ余計に目立つし攻撃もされる。


 ここは手伝ってもらうか。

 まずは全貌の確認。


 敵側はザッと見渡した限りだと、およそ千人ぐらいか。

 1学年6~7クラスの高校の全校生徒数ぐらいだな。

 装備や馬などで嵩増しになってるけど、校庭に全高生が集まればこれぐらいだろ。

 その1/3程度だし、ちょっと撹乱すれば何とかなりそうだね。

 だったら誰を喚ぶか……


 ムルムルさん達三人は期限いっぱいいてくれただろうし、還ったばかりだと疲れてるだろうから別の人だな。

 護りと撹乱だったらこの三人か。


 【クロスオーバー】シールダー! シルフィーナ! イダジュウ! ついでにメタスラン!


 二メートルはある大盾を持った全身甲冑の鎧魔のシールダーさんに何度か来てもらってる風精霊のシルフィーナさんと僕並みの脚力を誇る韋駄天のイダジュウさん。

 それと体長は二〇センチ程度だけど、強固な身体に超瞬発力を持つメタルスライムのメタスランを喚んだ。

 因みにイダジュウさんは韋駄天神だけど下位の天神みたいで、クラスは中級精霊並である。イダジュウさんの父親はすごいらしいけどね。


「みんな、早速だけど、僕はあの砦の中央に行きたいんだ。周りの兵士を撹乱して道を作ってくれないかな」

「御意! お任せを!」

「わかってるわよー。みんな吹き飛ばしちゃうー」

「任せろ。状況は分かってる。走り回って撹乱してやる」

「(コクコク)」


 またみんな覗いてたんだね。話が早くて助かるけど、暇な人が多いんだね。


 まずシールダーさんが僕の前に進み出て大盾を構えてゆっくりと前進を始める。威風堂々とした重騎士の歩みだ。

 周囲の兵士も横合いから突然現れた大盾にギョッとするが、小隊長か中隊長かが命令を叫び近場の兵士からこちらへ向き直った。

 その隙にシルフィーナさんが上空へと舞い上がり敵兵に向かって風の範囲魔法を放つ。

 吹き飛ばされるほどではないが、土埃も舞って視界を阻害された敵兵たちは前へと進めなくなる。

 そのタイミングでイダジュウさんが敵兵の間を派手に駆け回りながら、敵兵を拾った小枝で軽く叩いて回る。

 ダメージは全く無いが、突然の風に舞い散る土埃、凄い速度で駆け回る気配に何やら得たいの知れないものに攻撃されている現状とあって、敵兵たちは隊列を維持できなくなり混乱に陥って行った。


 メタスラン? あ、彼は返事と同時に当然のように逃走したよ。

 ザザザザザーって一瞬の内に逃げちゃった。速かったよー。

 メタルスライムだからね。得意技は『逃げる』だしなぁ、仕方ないね。


 ガッキイィィィィィン!!


 敵兵が混乱してる間に歩調を速めたシールダーさんの後をついて行ってたら、シールダーさんの大盾に剣戟が入った。

 大盾は壊れなかったものの、二メートルはある鎧の塊のシールダーさんが少し後退した。

 どんだけの威力だったんだと大盾の裏側を見るが、大盾の裏側には損傷はなかったので一安心した。


 この戦場でこれだけの攻撃力を持った人間なんて限られてる。バンさんを弾き飛ばした奴だろう。

 シールダーさんの脇から前を覗き見ると、黒髪黒目の高校生ぐらいの男の子がいた。

 今は僕の方が年下だけど、前世もあるから僕の方が年上で、高校生ぐらいだったら男の子呼ばわりしてもいいだろ。


「あっ! 君! 君も召喚者か!?」


 目敏く僕の事を見つけた敵側の強者が僕に向かって叫んだ。

 君も召喚者かって言うぐらいだから、相手は召喚者なんだろう。

 という事は…勇者か!?


「なんで君は魔物に護られてるの? 召喚者なのに……まさか、魔王か!」


 なんかとんでもない事を叫んでるけど、そういう予想的なやつはもっと小声で話さないか?

 ほら~、敵兵の中で魔王って言葉が伝播していってるじゃないか。


「ひと暴れできると聞いてやって来た甲斐があったかもな。この勇者ワタルが成敗してくれる!」


 ワタルって言うんだね。勇者って僕の話は聞いてくれないのかな? っていうか、この人が敵国のローゼンハルツ王国に他の大陸から招待されたからハナノエさん達が帰国しなければいけないって話だったよね。

 だったら、ここにハナノエさん達を連れてくれば状況が改善しないかな。

 さっきの状況を考えると通路から出て来れないから連れて来れないか。

 でも、同郷(日本人)かもしれない人と戦いたくないな。

 僕は『クロスオーバー』で生まれたキズナだけど、日本に記憶も持ってるんだから。


「あのー……」

「あ――――っ! いた――!」

「え?」

「あれは僕の獲物だ! 誰も手を出すんじゃないぞ!」

「え?」

「待てー! メタルスライムー!」


 メタスランが逃げるのに飽きて戻って来てたみたい。

 勇者ワタルはメタスランを見つけた途端、森の中へと消えて行った。

 ……えーと、この状況はどうしたらいいんだろう。


 勇者ワタルの行動に呆然としていたのは僕だけじゃなく、敵兵も唖然と勇者を見送るしかなかったようだ。

 だが、味方は違った。

 恐らくブラッキーさんの指示だろうけど、勇者ワタルの出現で不利になった正面は守りに徹して前に出ず、こちら側サイドのみ魔法や弓矢などの遠距離攻撃を集中してきた。

 当然、味方の中には僕が喚んだ三人も含まれていて、勇者ワタルの行動など一切無視して自分の仕事を遂行していた。


 という事は、シールダーさんは僕の前からはとっくの昔にいなくなっていた。僕の指示通り中央に向かってるんだから当たり前なんだけど、直接対峙したんだからあの予想外の行動にはもう少し動揺してほしかった。

 じゃないと、どうせ見てるであろう『クロスオーバー』の人達…特に先生達からダメ出しを食らうじゃん!


 僕は慌ててシールダーさんの後を追う。

 敵兵は乱れてるしシールダーさんも速度は上がったとはいえ徒歩の速度だ。余裕で追いつく。


 イダジュウさんは中央から逆サイドへ進行を始めて、徐々に混乱に陥れている。

 シルフィーナさんもイダジュウさんに合わせて大風を送りつけている。

 二人とも全力の半分も出してないように見えるのは何故だろう。長丁場になると考えてのペース配分なんだろうか。


 そんな戦況を見る余裕があるのはシールダーさんのお陰なんだけど、結局僕って三人プラスメタスランを喚んだだけで何にもしてないな。


 ピピィィィィィィ! ピピィィィィィ!


 笛が二度吹かれ、敵兵が撤退を始めた。

 そりゃ、これだけ大崩れをしたら勝機なんてないからね。当然の判断だと思う。

 だけど、ここまで深く押し入ってからの全軍撤退って……


「突撃ィィィィ!」


 味方である砦兵が追撃を開始した。

 当然だね。これは殿を務める人がいないと全滅もありうるぞ。

 こっちとしては最大の戦果だけど、いいのかなぁ。

 この場合の第一勲功者って、勇者ワタルを戦場からの追い出しに成功したメタスランになるんだろうか。誰も知らないだろうけどね。


「キズナ! 私達は行くけどあなたはどうする?」


 どさくさに紛れてカーシマシープラスワンの四人が出て来ていた。この混乱に乗じてローデンハルツ王国に戻るつもりなんだろう。

 さてどうしよう。

 僕の目的はブラッキーさん達の援軍だし、彼女らの目的はローデンハルツ王国に向かう事。そもそも目的が違うのだ。付いて行く事はない。

 だけど……


「……キズナ…行こう」


 ハナノエさんが僕の袖を掴んで離さないんだ。

 ここにはシールダーさんがいるから皆怖がって避けて行ってるのに、立ち止まってるのは僕達だけだよ?


「いや、僕は砦に用があって」

「……だったら私も砦に戻る」

「何言ってんのよ! 王様からの呼び出しなのよ!? 残れるわけないじゃない!」

「そうだぞ、ハナノエ。流石に我らでも庇えん」

「また戻ってくればいいじゃないですか。一度王城に行って戻って来ましょうよ」


 もう一度言うがここは戦場真っ只中だ、悠長に話ができる環境では無い。


「……無理。残る」

「もう! 仕方が無いわね。テルーエ、行くわよ!」

「行く? ハナノエはどうするのだ。こうなった時のハナノエが頑として動かないのはいつもの事だが……」

「この際ラッチに身代わりになってもらいましょ」

「ラッチに、か?」

「私! ですか!?」

「どうせハナノエの顔なんて王城の誰も知らないんだから、同じ色のローブを着せておけばバレないでしょ」

「ふむ……」

「そんな! だって私、軍の人間ですよ!? バレますって!」

「バレるって、誰によ! 軍関係者だってあなたの顔なんて知らないでしょ?」

「い、いえ、そんな事は……」

「あるのだな」


 確かに事務方の、しかも一兵卒の顔なんて軍関係者でもかなり近しい者しか知らないだろう。

 特に自分などは事務処理係で、いつも奥に居たので関わりのある兵士も少ない…というか、ほとんどいない。

 その事に思い至ったラッチは大粒の涙を流すのであった。


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