第91話 町、初体験
いつも誤字報告ありがとうございます。
本当に助かってます。
「しかし、料理というのはいいもんであるな」
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。めっちゃ真剣に食べてたもんな」
獣人達に振舞ったバターを使った料理を世界樹の精霊さんも無心で食べていた。
量はそんなに食べてないみたいだけど、何度も何度も租借して味わっていたのを見た。
「儂らは火を嫌う種族である。料理には火を使うようだからな」
「そんな事は無いけどね。火を使わないサラダや生春巻きなんかもある。スティック野菜にマヨネーズなんかも火を使わないね」
「なんと! それも料理なのか」
「料理だね。今晩にでも作ってあげるよ」
「おお! それは楽しみだ!」
「町…と言わず、町の近くまで行ければ元の世界の友達も喚べるから料理を手伝ってもらえるよ」
「いや、儂は量は食わぬ、というか食えぬようだ。小量でいいので美味いものが食いたいものだな」
「厳選料理か。僕はそういうのはあんまり得意じゃないんだよね。ある程度凝った料理もできるけど、家庭料理が得意なんだ。今までどんなのを食べて来たの?」
「儂らは食事など摂らん。日光と魔素があればそれだけで成長できる。偶に魔物を狩って腐敗したものを根から吸収したり魔石を取り込んだりするだけだ。口から取り込むなんてせん」
世界樹だもんね。しかも精霊だから世界樹寄りの栄養摂取方法になるのか。トレントの友達と同じようなものかな。
「ところで名前は無いの? 先に言っておくけど僕が名付けはしないからね」
「名など無い。世界樹の精霊、それで十分であろう」
「長いし呼びにくい! 呼びやすいニックネームを考えてよ」
「ニックネーム? なんだそれは」
「本名が長かったり、親しい友達の間で呼び合う愛称だよ」
「親しい友同士とな! それは早速付けて頂こうか!」
「いやいや、それを自分で考えてって言ってるの!」
「ほぉ、愛称とは自分で考えるものであったか」
「え? そうだっけ?」
ニックネームは付けるんだっけ、付けてもらうんだっけ。自分では不本意な場合が多々あるのがニックネームだっけ?
「どうなのだ?」
「自分で付ける場合もあるけど、大体は誰かに付けてもらう場合が多いか。でも、名前があって、その一部を使う場合が多いんだ。使わない場合もあるけどね」
「ならばキズナが付けてくれ」
「わかった。ニックネームなら大丈夫かな」
世界樹…ワールドウッド…ユグドラシル…おじさん…精霊…スピリット…樹…森……
う~ん、よさそうなのが浮かばないね。
「やっぱり名前が無いと難しいね」
「ならば名前を付けるか」
「僕が!?」
「当然であろう」
「いやいや、それだと友達じゃ無くなっちゃうから!」
「何故だ?」
「魔物の名付けって、僕がやっちゃうと従者になっちゃうんだよ」
「それは従属にするというやつか。儂には効かんと思うがな」
いやいや、これだけレベル差があったらなっちゃうでしょ!
「試しに一度やってみんか」
「一度しか試せないんだから、それって試しじゃなくて本番って言うんだよ!」
「なるほど、それは一理あるの」
「一理じゃなくて全部だよ!」
「儂は従者でも構わぬと宣言したぞ?」
「僕が嫌なんだよ。この世界で初めての人間以外の友達なんだから」
「そこまで言うなら無理強いはせん。儂の事は今まで通り世界樹の精霊と呼べばいい」
それが長くて嫌だから困ってたのに……また振り出しに戻っちゃったよ。
「もう面倒だから世界樹の|精(?)霊から『セーさん』でいいかな?」
「無論構わん。『セーさん』だな。という事は『セーさん殿』と呼ばれるのか」
「違うから違うから! さんは敬称だよ。だから『セー』がニックネーム!」
「それはすまぬ。『セー』だな。うむ、ちと短すぎやせぬか」
「ニックネームってそういうもんだよ」
「そう、であるか……」
ちょっと物足りない雰囲気を出してるけど、ニックネームって慣れるまでそういうもんだよ。
で、眷属化はというと、セーフだった。
今までの名付けって魔力が吸い取られる感じはあったけど、今回はそういうのは無し。
逆に言うとコガネマルの時は元々名前があったのに、そこに上書きするように意識して魔力を付与するイメージにして強化・進化させる事ができた。
という事は、魔力の受け渡しさえしなければ名付けも安全にできる?
いやいやいやいや、ノスフェラトゥさんやバンさんやキュラ君の場合は、意識しなくても名付けと同時に強制的に吸い取られたよな。
あの時の事を思い返しても、魔力量だけは調整できたけどON/OFFに関しては自動って感じだったな。
今後、もし名付けが必要な場合は、ON/OFF調整できるニックネームにしよう。
従者と言っても、三人とも自由にやってるんだけどね。
「名前は自分で考えてね」
「必要ないだろ」
「これから町に入ったりするのに必要になるから。町の外で待っててくれるんなら別にいらないと思うけど」
「人間の町だと!?」
「そうそう。僕は町の中を拠点にする場合が多いから、もしセーさんも来るんなら名前はいるよ」
「儂も町には入る!」
「だったら名前を考えてね」
「うーむ……」
まずは試しに鉱山の町マインか、森の最前線の町フロントラインで試そう。
いきなりメイン拠点であるランガンの町でトラブルになると後々困るしね。
僕とセーさんの足は速い。が、移動に走ったり歩いたりする必要が無い。
セーさんのテリトリーでもあるこの森の中なら、自由に何処でも瞬時に移動できる。
僕の転送魔法陣の簡易版だけど、森の中限定であれば準備の時間は短いし移動地点の精度も格段に高い。
僕の転送魔法陣の勝ってるところはテリトリー限定が無いという制限がない事と距離ぐらいだ。
で、まずはランガンの町から遠い方の鉱山の町マインの傍まで転移してもらった。歩いて十分ぐらいの地点だ。
ランガンの町までは旅人や商人や冒険者がよく立ち寄るので馬車も多いが徒歩も多い。
僕達二人が歩いて町に辿り着いたとしても誰も変だとは思わない。
それに、何度か立ち寄ってるので顔見知りという程でもないけど、初見では無い人もいる。
この門兵さんなんかもそうだ。
「おぉ! 先日のAランクからもうSランクに! あ、失礼しました! どうぞお通りください!」
ビシッ! と敬礼をして検閲を通された。
この門兵さんは、僕がAランク冒険者だって事を覚えててくれたみたいだ。
確かにBランク以上になると数も少ないみたいだしね。Aランクになるともっと少なくなるし、それが成人したてにも見えない僕がAランクだと驚いて印象には残るか。
背が低いからってわけじゃないよね? 顔がベビーフェイスだからだよね?
「こちらの方は同行者でしょうか」
「はい、一緒に森から帰ってきました」
うん、僕が帰って来たのは間違いない。
「森から…ですか?」
「はい、森からです」
「では、こちらの方もAランクでしょうか」
「いえ、登録はこれからですが、腕はたちますよ」
「という事は身分証は住民カードですか? 失礼ですが提示をお願いします」
住民カードというのは町や国から発行される証明書で、冒険者カードみたいなものだ。税金などの管理をするのに使われているそうだ。
冒険者ギルドや商業ギルドなど、各ギルドも同様の証明カードを発行していて、どらか一枚持っていればいいそうだ。複数枚所持するのも可能だけど管理をするのが面倒なので、税金用に一枚に纏めて置いておき、普段はどれか一枚持つ人が多い。
しかし、僕がSランク冒険者だからなのか、門兵さんの対応が凄く丁寧だ。
「すいません。このセーさんは森の奥で住んでいて、町には初めて入るんです。だから今から冒険者ギルドでカードを発行してもらいに行くんです」
「そうでしたか。では、キズナ様が後見人として保証して頂けるのですね」
「後見人…そうですね。僕がセーさんが安全な人であると保証します」
「わかりました。では、キズナ様とご一緒ならば冒険者ギルドになると思われますが、本日中にギルドカードか住民カードの発行をしてください」
「わかりました。他には何かありますか?」
「後は、入門時の料金ですが、キズナ様の冒険者カードから引き落としされます。銀貨1枚ですので、もし冒険者カードに入金なさってなければ入金をしておいてください」
「分かりました」
そのまま何の審査も無くセーさんは入門ができた。
うん、お互いによかったと思う。だって、また審査の水晶玉なんて出されたら間違いなく粉々になっちゃうからね。
セーさんのステータスってノスフェラトゥさんやバンさんより絶対高いから。
入門料は銀貨一枚ね。僕の冒険者カードには何桁か分からないぐらいのお金が入金されてるので問題ないね。
あ、前にラピリカさん達と来た時もこんな感じでラピリカさんが代表して全員の保証を見てたのかもしれないな。あの時は僕は冒険者カードどころか馬車から降りてないから面通しすらしてないからね。
入門したその足でセーさんの冒険者登録のために冒険者ギルドに向かった。
何度か来ているから場所も分かっている。
ま、こっちでは水晶玉は出てくるので割れてしまうのはご愛嬌だ。
あれって、いくらぐらいするもんなんだろ。予備が何個もあるのかな?
普通、割れるなんて無いだろうから予備なんてあんまり無いんじゃないかな。
「して、今の玉は何だったのだ?」
「あれは、その人の強さを測るための玉みたい。僕も詳しくはしらないんだけどね」
「人の強さを知りたい道具だったのだな。ならばこういうのはどうだ?」
そう言ってセーさんが二つに枝分かれして葉の生い茂る小枝を出した。
どこから出したのか僕にも分からなかった。
「セーさん、それは?」
「人の強さを知りたいんだろ? こっちの枝は『気力の枝』、こっちの枝は『魔力の枝』、枝分かれした細い方の枝の色が変わればそれだけの力を有しているという意味だ。スキルを持っていれば系統によって、そちら側の葉の表面にスキル名が記される」
おお! 凄い! これなら僕のレベルも分かったんじゃない? もういらなくなったけど。
「キズナは遠慮するのだぞ」
「え? なんで?」
「これは儂の強さを元に作っておる。儂の強さを遥かに超えるキズナに使われると枝葉が飛び散ってしまい暫く使えんようになる」
えー! ちょっと使ってみたかったのにー。
でも、暫く使えなくなるって事は、暫くすれば使えるようになるの?
「魔力の多い場所に置いておけば再生もする。魔石を与えてやればすぐにでも再生するがな」
「へぇ~、便利だね」
「儂には相手の実力がほぼ分かるので必要ないのだがな」
だよねー。僕の強さだって分かってるもんね。
「というわけでスマンかったな。これで代用してくれんか」
「ちょちょちょちょちょーっとお待ちください! すぐにギルマスを呼んで参りますー!」
登録を担当してくれた受付のお姉さんが大慌てで奥へと走って行った。
さっきまでボーっと見てただけだったのに、いきなり慌てて行っちゃったね。
あの奥に二階への階段があるんだよね。前に来たから知ってるよ。
少し待つと、さっきの受付のお姉さんを従えてギルマスが現れた。
ドワーフのブラックスミスさんだ。
「新しい魔道具だと聞いたが、お前達が出したのか?」
「はい、僕…というか、こっちのセーさんが出しました」
「ん? 見た事があるな。お前は…おお! ラピリカといた坊主か!」
「はい、キズナです。ご無沙汰しています」
「あれからも何度か来てたみたいだな。買い取りの奴らは喜んでたが、トールは解体するものがねぇって嘆いてたぞ」
そりゃ解体までやるように癖付けられてますからね。
「しかも、自分より綺麗に解体されてるものを見て自身を無くしてたみたいだぞ。あれもお前がやったのか」
「はい、一応解体も得意な方ですから」
「ま、うちとしては助かるがな。程々にしてやってくれ。で? 魔道具の件なんだが、これがそうか?」
葉っぱ付きの二股に枝分かれした枝を持って尋ねて来た。
「はい、セーさん特有と言ってもいいと思うんですが、今までの【鑑定】より精度が高い道具だと思います」
あの水晶は無いよね。操作できる人も限定されるみたいだし、何よりアバウト過ぎる!
そのお蔭で僕はレベル5認定されてしまったからね。
そう言ってる間にも二股に枝分かれした片側の枝の色が変わって行く。ブラックスミスさんを鑑定しているんだろう。
「お、お、おお? おー! これは凄い! 俺のスキル名まで出てるじゃないか!」
確かにいくつかの葉っぱに鍛冶とか錬金とか槌術って出ているね。
「レベルはどうやって見るんだ?」
「セーさん?」
「うむ、葉っぱ一つでレベル10だ。色が変わってるのが分かるだろ。其方の場合は黄色だな。ならば気力側の葉が四枚目を少し過ぎたところまで来ておるからレベル四〇強だな。もう一方の黒側も二枚目を過ぎておるからレベル二〇強だ。合わせてレベル65弱。63~4ってところだ」
ドワーフだからね。鍛冶のために槌を振るう技も優れてるし、火を使うから火の魔術にでも秀でてるのだと思う。
ドワーフとしてはバランスのいい上がり方かな。
「むぅ、これは凄くいいな。売ってもらえるものなのだろうか」
「さっきこちらの水晶玉を壊してしまったのでな。聞くとレベルを測るものだと言うので代わりのものを出したまでだ。儂はお金というものを持っておらんでな」
「そうか! 売ってくれるか! さすがにこれほど精度の高いものを【鑑定】の水晶玉と相殺というわけにはいかん。差し引いた金額を冒険者カードに振込みでいいか?」
「構わんが、冒険者カードとはなんだ?」
「あ、ブラックスミスさん、すいません。セーさんは登録に来たところで、まだ登録が終わってないので冒険者カードを持ってないんです」
「なに!? このような未知の魔道具を持っているのに、その歳でまだ未加入だと!?」
「はい、セーさんは森の奥で住んでいたので、今まで町に入った事も無かったそうなんです」
色々と人間であるように設定はしているが、森で住んでたという本当の設定は崩してない。
森の何処かまでは言わなくても、奥深くというだけで誰もツッこんで来ないから楽だ。
町に住む人からすれば、森の奥がどうなってるかは分からないからね。
そこから冒険者カード発行までは早かった。よっぽど早く買い取りたかったんだね。
セーさんのステータスを測るのまで忘れられてたよ。
セーさんが基準となってるって言ってたから、葉の数が黄色側が二〇枚、黒側が五〇枚あったから、セーさんはレベル七〇〇ぐらいなんだろう。
レベルもそうだけど、スキルとか見られたら何者なのかバレそうだったから助かったよ。
だって、世界樹のスキルだよ? 回復や育成系が満載だと思う。種子とか株分けとか光合成とか書かれてたら誤魔化せないからね。
無事、冒険者ギルドに登録できた夜は、宿の料理やベッドを堪能したセーさんはご満悦だった。




