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第09話 合体魔法【ユニオン】

「合体魔法!」

「「【ユニオン】!」」


 説明しよう! 合体魔法【ユニオン】とは、【クロスオーバー】で喚び出した友達と融合する技である。

 本体となるのはキズナであり、友達の能力を加算させるため、見た目も特徴が現れる。

 今回の場合は、ピッピの透明な蝶のような羽がキズナの背中に生えていた。もちろん、キズナのサイズに合わせたものが、だ。

 ピッピの能力は、索敵(中)・気配遮断(中)・飛翔・風魔法(下級)・精気吸収だ。

 だが、キズナもピッピもレベルは低い。身体能力の高いキズナにとっては大した追加能力ではないが、キズナの能力にピッピの能力が加算されるため、レベル30のキズナの能力よりは上の能力を得た事になる。

 ピッピのレベルが低いためレベル31相当と大差はないのではあるのだが。

 それでも無いよりはマシである。しかもピッピの能力が使える。

 それに、今回のメリットは能力上昇より、経験値倍化にある。もし、戦闘になれば加護で上昇率の上がった取得経験値が更に倍になるのだから。



「あっちだな」

 吸収合体されたピッピは【ユニオン】中は休眠状態となり、会話はできない。

 ここからはキズナの意思のみでの行動となるのだ。


「ここまではっきりと分かるのか。『クロスオーバー』の世界では殺気というか邪気というか、こういうものを【ユニオン】中に探知する機会は無かったからな。ピッピって優秀だったんだな」

 答えは無いと分かっていても、つい口に出してしまった。

 それほどの衝撃を受けたキズナであった。


「さぁ、行くよ」

 誰に声を掛けるでもなし、ただの確認のように声を出し走り出すキズナ。

 森の中を移動する速さは、キズナが『クロスオーバー』の森では一番だったと自慢した通り、異常なほど速い。

 しかも、今はピッピとの【ユニオン】によって滑空も行なえるため、更に速さが増していた。


「そろそろだな。まずは気配を殺して様子見だね。ハーゲィさんは無事かな」

 ピッピの能力である、気配遮断|(中)を使い慎重に近付くキズナ。

 すると、聞き覚えのある声が響き渡った。


「ぬおおぉぉぉぉぉぉ! こんなところで死んでたまるかぁー!」


 ドドドドドドドドと地響きと共に、そんな叫び声が聞こえた。


「ハーゲィさん?」

 見ると、必死の形相で形振り構わず掛けて来るハーゲィさんが確認できた。何かから必死で逃げてるようだ。

 その何かはすぐに分かった。

 オーク…だね。だけど、多すぎない?


 オークとはファンタジーでお馴染みの二足歩行型の豚系の魔物だ。それが、軽く見積もっても二〇体はいるのだ。

 ハーゲィさんも人としては大きな方だと思う。ま、僕から見れば成人男性は全員大きいんだけど、それでもハーゲィさんは180センチ以上あると思うけど、オークはそのハーゲィさんより頭二つか三つは大きい。恐らく、二メートル半ぐらいあると思う。


 動きが人より遅いので雑魚扱いされる事が多いが、膂力は人の二~三倍はあり、殴られただけでもよくて骨折、悪ければ再起不能、最悪の場合は殺されてしまうような危険な魔物である。

 これは魔物全般に言える事だが、魔物は一般に生息しているの動物よりも強く好戦的で凶暴である。もちろん武器も持たない人間では太刀打ちできない。

 オークにしても例外では無く、その一撃は必殺の威力を持つのだ、動作が鈍かろうと何度身を躱そうとも、一撃でももらうと一気に形勢逆転するのだ。

しかも、相当な武闘家でも無ければ、その身体に覆われた分厚い脂肪に阻まれてダメージを入れる事もできないだろう。


 それは雑魚の代名詞であるゴブリンにしても同じ事だ。

 力や動きは一般人のそれと変わらないゴブリンだが、凶暴性は人間の比では無い。

 力が同等であっても、気が狂ったように一心不乱に襲い掛かって来られれば負ける可能性は大だ。

 しかも奴らは群れる。

 連携などは無いが、我先にと襲い掛かって来る様子は更に恐怖心を煽る。そして恐怖心に囚われてしまえば普段の動きができなくなる。結果、実力が出せないまま負けてしまう事もあるのだ。

負ければ死が待っているのだ、それはゴブリンの苗床とされる女でも同じだ。出産後は殺されてしまうのだ。そんな魔物に自ら関わろうとは思わないだろう。

 だから普通は、雑魚の代名詞のゴブリンを見掛けるだけで一目散に逃げるのが常識となっている。


 というのが、僕の習った他の世界の魔物についての知識なんだけど、オークにもゴブリンにも友達を持つ身としては複雑な気分だった。

 でも、『クロスオーバー』の世界のダンジョンでの経験で、意思疎通のできる魔物と、そうでない魔物の違いについて経験はしているから判断を間違える事は無いだろう。魔物の醸し出す空気感なんかは全然違うし、明らかに違うのが目だ。凶化している魔物のめは赤いんだ。


 そして今、ゴブリンより数段格上のオークが群れで押し寄せて来るのだ。それも、僕の判定では意思疎通のできない方の魔物だ。

 先頭には必死の形相で逃げるハーゲィさん、追う真っ赤な目のオークの群れ。走力はハーゲィさんがやや上か。しかし、体力ではオークが上だ。


こういうのって何て言うんだったか……これも習った覚えがあるんだけど……


「トレインだ!」

 ハーゲィさんてトレインマンだったのか。


「キズナー! 待ってろよー! 俺が助けてやるからなー!」


 予想外のその言葉に驚く僕。

 え? 僕を助けてくれる気だったの? どう見ても僕を巻き込むようにしか見えないんだけど。

 でも、今はそれどころじゃないね。このままじゃハーゲィさんが捕まりそうだ。もう息も絶え絶えだから、僕がいたとこまでモタないだろうな。

 よし、【ユニオン】中の今の僕なら何とかやれると思う。やってやるか!


 僕は気配遮断|(中)のまま茂みに隠れてハーゲィさんをやり過ごす。

 ハーゲィさんは気付かずに目の前を通り過ぎて行く。もう周囲の状況を見る余裕も無さそうだ。

 統率が取れてるようには見えないが、二列になって追いかけてくる。道が狭いので仕方がないのだろう。二列でも窮屈そうだ。


 そして僕は先頭のオークの横から思いっきり飛び蹴りを食らわした。

 今ならピッピと【ユニオン】中だから身体能力も上がってて、イケルと思ったんだ。

ヤバくなったら、飛翔の力も使えるからさっさと逃げればいいよねと考えての行動であった。


 しかし、そこでもキズナの読みは甘かった。

 今のキズナはレベル30。母マリアによる基礎身体能力の底上げのお陰もあって、オーク程度なら五割も力を込めたパンチを放てば、腹に風穴を開ける事など造作も無くできる程ステータスが上がっているのだ。


 そんなキズナが全力でオークの顔面に放ったキックが炸裂!

 二メートル半のオークの頭に目掛けてのハイジャンプキック! 

 すると、極太の首で支えられていた頭が吹っ飛んで行った。


「え……」


 しかも吹っ飛んだ首が、偶々綺麗に併走していた隣のオークの首まで吹き飛ばしてしまった。

 首の無くなったオークは、そのまま前のめりに地面にダイブする。

 二体のオークの巨体に道が塞がれてしまうが、後続がいきなり止まれるはずもなく、次々にクラッシュして行く。


 その頃にはキズナは飛翔を使い上空待機していた。逃げる用意をしていたのだ。

樹の高さより低い低空での待機だが、クラッシュには巻き込まれずに済んだのは僥倖だった。

 オークの群れは大事故の様相を呈していた。


 こんなチャンスを見逃すような教育を受けていないキズナは【スラ五郎】を構えると、一体一体オークの頭を潰して回った。

 所要時間十秒。倒れてるオークの頭を超重量の鉄棒で潰すなど簡単な作業だった。

 こうしてキズナの奇襲攻撃を受けてから一分と経たずに全滅した。数にして二四体いたオークの群れが一瞬でキズナ一人に倒されてしまったのだ。


 そこでキズナは思う。やっぱり【ユニオン】で合体すると強くなるなぁ、と。

 全くの勘違いである。ピッピとの【ユニオン】で上がったステータスはたったのレベル1程度。ほぼ変わりない状態だったのだ。


 そして今回のオーク撲滅でレベルは一気に100に達した。が、それもキズナの与り知らぬところである。


「さあて、どうしよっか。まずは【ユニオン】を解こうか。【リリース】」


 【ユニオン】が解除され再び現れたピッピ。


「ありがとうピッピ。とても助かったよ」

「そう? それほどでもないわよ?」

 【ユニオン】中のピッピには、その時の記憶は無い。だからキズナの言葉にも曖昧な答えになってしまうのだ。


「さて、戻ろうと思うんだけど、さっきハーゲィさんとすれ違ってね。後を追ったらいいのか、先に薬草を取りに戻ったらいいのか迷ってるんだ」

「だったら両方でいいんじゃない? 薬草を取りに戻って、その足で追えば?」

「そうか、そうだよね。そうするよ」

「ちょ、ちょっと待ってキズナ様」


 早速出発しようとするキズナにピッピが待ったをかけた。


「え? どうしたの?」

「このオークの死骸はどうするの?」

「どうって、どうする事も出来ないよ。一体ぐらいは持てるだろうけど、薬草を運ぶのに邪魔になるし、このまま放置するしかないよね」

「なんで!? そんなの勿体無いでしょ!」

「でも、仕方ないじゃないか。僕にも出来る事と出来ない事があるんだよ。出来る事は結構多い方だけど、流石にこれは無理だよ」


 たしかに母マリアの教育のお陰で、キズナが出来る事は非常に多い。出来ない事を見つける方が難しいほどだ。

 だが、キズナは【鑑定】【収納】【転移】といった転生チートの三種の神器は持ち合わせていない。このオークの死骸はキズナにはどうする事もできなかったのだ。

 そこで、ピッピから提案を受けた。


「キズナ様は聞いてないの? これって『クロスオーバー』の世界に持ち帰れるんだよ。私には無理だけど、運べる子がいたじゃない。その子を喚び出せば、一旦『クロスオーバー』の国で保管できるんだよ。マリア様から聞いてない?」


 そんなの聞いて……あ、専用地を用意したとか言ってたのは、この事だったのかな?

 倉庫も用意したって言ってたと思うけど、こういうのを預かってくれるのかな?


「なんか聞いたような聞いてないような……でも、できるんだね?」

「そうよ、スラちゃん達ならできると思うわよ」

「分かった。だったら喚び出してみるよ」


 【クロスオーバー】スランチ! スラピー! スラポン!


 再び地面からゲートが現れた。今度は三つのゲートが出てきた。


 これだけのオークを倒したんだから、レベルが5は上がってるんじゃないかなと思って、豪勢に三人同時に喚び出してみた。

加護もあるんだし、10は上がってる気がするんだけど大事を取って5で見積もったんだけど……大丈夫だよね?


 ゲートからはそれぞれスライムが現れた。

 現れたスライム達はポヨンポヨンとキズナに跳ねてくる。


「よく来てくれたね」


 スライム達はじゃれるようにキズナにポヨンポヨンと体当たりする。と言っても攻撃力ゼロの体当たりだ、友好の証のようなものだ。スライム達は話せないからね、こうやって表現してくるんだ。

 そんな、放っておくといつまでもじゃれ合いそうなキズナ達を見てピッピが一言。


「キズナ様? 時間が無かったんじゃないの?」

「あっ、そうだった。僕、急いでるんだった」


 じゃれ合いが終わり寂しそうにするスライム達にキズナから話しかけた。


「スランチ、スラピー、スラポン。お願いがあるんだけど聞いてくれる?」


 キズナのお願いと聞いてポヨンポヨン跳ねて喜びを表現するスライム達。


「そこにオークが死んでるだろ? それを『クロスオーバー』に持ち帰ってほしいんだよ。頼めるかな?」


 ポヨンポヨン跳ねて同意を示すと早速行動に移るスライム達。

 自分の身体を薄くして大きく広げ、オークの死骸を包んでいく。

 一体包み終えるとそのままゲートに向かいそのまま中に入って行く。そして、すぐ様戻って来ると同じ事を繰り返す。


 凄いなぁ、こうやって運ぶんだ。

 キズナが感心してると、またピッピから声を掛けられた。


「キズナ様? 時間が無いんじゃなかったの?」

「あっ、そうだった。でも、このままにはしておけないだろ?」

「いいよ、ここは私が見てるから、キズナ様は行って」

「そう? だったらお願いしようかな」

「私も運び終えるのを確認したら、この子達と戻るわね」

「うん、わかった。ありがとうピッピ、助かったよ」

「そう思うんなら、また喚んでねー」


 笑顔で喚んでと言うピッピの言葉に対して少し返事に詰まってしまった。


「うーん、そうだね。また何か倒して経験値が溜まったら喚ぶね」

「キズナ様? また何か忘れてない?」


 ピッピの指摘に思いを巡らすキズナ。しかし、忘れ物など思い浮かばなかった。持ってるものが殆んど無い状態なのだから忘れようが無いのだから。


「いや、何も忘れてないと思うけど……薬草はこの後で取りに行く予定だけど……」

「はぁ、やっぱり忘れてる。さっき私と【ユニオン】したでしょ? 私の分の経験値も入ってるはずなんだけど」

「あっ!」


 そうだった、【ユニオン】での戦闘の場合は合体相手の分も入るから経験値は倍になるんだ。だったらレベルは10ぐらい行ってるか。

 いや、待て。スランチ達を喚んだから、その分を引いたとして7ぐらいか。

 いやいや待て待て、そうじゃない。これって今後も同じだから、【クロスオーバー】で喚び出したら【ユニオン】すれば二回喚べるって事じゃないか! すごいすごい、一度で二度美味しいって正にこの事だな!


「その顔は、今思い出したみたいね。今回は【ユニオン】で手伝ったんだから、次も喚んでよね」

「うん、わかった、絶対喚ぶよ。じゃ、僕は急ぐから後の事を頼んだよ!」

「ええ、分かったわ。こっちは任せて」

 ポヨンポヨンポヨンポヨン


 ピッピ達に見送られて移動を開始するキズナだったのだが。

 キズナは【ユニオン】での戦闘時の経験値が倍になる事を喜んでたが、加護の事が完全に抜けていた。

 超過保護な加護によって、今回のオーク戦での経験値入手により、キズナのレベルは既に100になってるのだ。ステータスの方もHPは六桁、MPは八桁、攻撃力・防御力も六桁になっていた。ピッピ達レベルなら千回でも余裕で喚べるだろう。

 しかし【鑑定】を持たないキズナのおかしな計算では、現在レベルが7、【クロスオーバー】があと七回使えるとしか思ってない。

 しかも、今後も【クロスオーバー】で喚んだ友達と【ユニオン】すると、倍になるとだけ思い込んでいる。


 そんな勘違い状態のキズナだが、この状態はキズナにとっても不都合は無い。逆に都合がいいぐらいだ。

 何故かというと、【クロスオーバー】を使えば使うほど、短剣が成長するのだ。

 既にキズナ自身、忘れかけているが、今回の異世界渡りの目的は、【クロスオーバー】を多用し短剣を育て『クロスオーバー』の世界に帰る事ができれば本懐を遂げられるのである。


 レベルが上がると自身の能力で解決する方法を選びがちだが、レベルが上がってると気付いてないキズナは、今後も【クロスオーバー】を多用する事になるだろう。その方が【ユニオン】を使えて、その効果で身体能力が上がるのだから。


加筆しました。

オークの大きさが二メートル半程度としました。

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