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第89話 幼馴染み

いつも誤字報告ありがとうございます


 皆を送還した後、森の分岐点に転移した。

 ノスフェラトゥさんの城から入り江まで真っ直ぐに来てしまうと前回の様にまた魔力が高い地点を通って行くんだけど、また目当てとしている魔力の高い人と出会えなくなってしまう。

 魔物なのか人なのか精霊なのかは分からないけど、一度見ておきたいんだ。

 今なら周囲の魔素も使って自衛もできるだろうし、目の赤い魔物なら排除しておきたいしね。


 転移に関しては簡単だ。

 もう慣れたというのもあるし、転移先に関してはある程度の距離と方向を決めてイメージすれば簡単に行けてしまう。

 もちろん、人がいないという前提の場所に限るけど。

 人のいる町なんかだと、町の近くまで転移できれば走ってもそう時間は掛からないしね。


 で、この辺りが魔素の一番濃い場所だから、どっちかに行けばいいんだけど、どっちも濃さは変わらないよね。

 右か? 左か? どっちがいいんだろ。

 こういう選択ってよくはずれるんだよなぁ。


 そうだ! こういう時は妖精の誰かを喚んで……あ、魔素が濃すぎる場所では喚べなかったっけ。

 だったら両方行くしかないな。まずは右からだ。


 直線距離で分かるところまで探知を伸ばし、限界まで行ったら転移。転移したら周囲で一番強そうな奴を探す。

それを何度か繰り返すと、とうとう目当ての魔物を見つけた。


「これって、昨日のケートスなんて比較するのが可哀想なぐらい魔力が大きいぞ」


 さてどうしよう。どんな奴なのか見たいだけだったんだけど、視界に入るところまで行けば、向こうからも見られてしまう。

 結構レベルも上がってるはずなんだよな。そう思えば何とかなりそうな気はするんだけど、はっきりと自分のレベルが分からないから躊躇ってしまう。

 自分のレベルが分かっていれば保険としておけるかと考えてみたが、相手のレベルも分からないので結局は保険にならない。

 だったら、相手の魔力量だけである程度の判断するしかないか。


 最悪の場合、逃げる手段も考えておかないといけない。

 そうなると一人では危険だから誰かを喚んでおいた方がいい。

 森の中を逃げるとなれば足の速いイダジュウさんか樹の精霊のドライアさんかエンダーさんが候補というところか。

 だけど魔力量だけ見ると、その三人では心許ない。それ以上のクラスを喚べるかどうかも分からないし、イダジュウさんクラスで適した人はいなかったか……


 そうか! まずはそういった相談をできる人を喚べばいいんだ!


【クロスオーバー】ジョアン!


「キズナ様、お喚び頂き、誠に重畳にござりまする。此度は如何様なご用件でござりまするか」

「うん、久し振りだねジョアン。相変わらずの話し方だけど、もう少し砕けた話し方はできないのかなぁ」


 相変わらず固いしゃべりをするのは、母さんの側近でもあるジェミーの弟のジョアンだ。

 生真面目すぎるジョアンだけど、相談相手には適任の頭脳を持っている。

 ただ実力的には僕より下だし格的にも中級の精霊より少し下ぐらいだから、引かれる経験値的にはまぁ許容範囲だ。


「何を仰りまするか。キズナ様は我が女王の実子の中でも唯一の男子にござりまする。全生物の頂点に立つマリア様の長男と言えば次期王でもござりまする。砕けた語り振る舞いなど以ての外でござりまする」

「全生物の頂点?」

「い、いえ、あの、その、少しばかり大袈裟に過ぎました。そう! 『クロスオーバー』の全生物の頂点にござりました」


 何を言い訳しているのか、何故焦っているのか分からないけど、こうやって偶に脇の甘い部分も見せてくれるので、小さい頃よりよく一緒に遊んだり勉強もした仲なのだ。

 ピッピ達の次ぐらいに古い仲なんだよ。


「ふ~ん」

「……(あせ汗アセ焦汗)」

「なんか汗をよくかくようになったんだね」

「そそそそうにござりまする。最近はよく汗をかく体質になりました!」


 何を焦ってんだか知らないけど、今日はそんな話をするために喚んだんじゃない。

 現状を説明し、ジョアンに妙案が無いかと尋ねてみた。


「一番良い方法としては最上位精霊クラスの方をお喚びすれば解決です。私としてはこの案を一番に推します」


 安全を第一に考えるなら僕もそう思う。

 だけど、そうしたくない理由があるんだから、他の案があれば聞いてみたい。そのためにジョアンを喚び出したようなもんだしね。


「二番目の案としましては、中位精霊を十人喚ぶ事です。最悪の場合、精霊に殿を任せキズナ様には逃げて頂きます」

「そんな事するわけ……」

「存じ上げております。キズナ様が友を見捨てて逃げない事は承知で具申しております。逃げる際には近くにゲートを出してから逃げれば、最悪精霊も『クロスオーバー』に逃げ還れますので」


 そういう事か。ゲートをバレない場所に出しておいておけば精霊はいつでも逃げれるってわけか。

 でも、そんな猶予があるんだろうかね。


「三番目は、本当は私としては一推しなのですが、そんな魔物には関わらずに無視する事です。ですが、キズナ様がそうなさらないのは分かっておりますので、この案は無しにして四番目の案です」


 さすがジョアンは僕の事をよく分かってるね。


「四番目として、相手を見て何者かが分かれば、相手と同じ種の友を喚ぶ事です。同じ種同士で戦えば戦いは拮抗します。その隙にキズナ様が倒してしまえばいいでしょう」


 それはいいかも。ただ問題は、そんな時間があるかどうかだね。

 いきなり戦闘が始まってしまうと、喚び出す時間があるかどうか。


「五番目としては、空を飛べる者達で相手の射程外からの攻撃です」


 相手の射程範囲が分からないので微妙だな。もしかしたら相手だって飛べるかもしれないしね。


「六番目としては……」

「七番目としては……」


 結局、十個の対策を練ってくれたが、僕としては二番目と四番目だな。二番目の殿を務めさせるってのは違うパターンを練らないといけないのと、中級十人はちょっと痛手だな。


「あと、あのさ、【鑑定】をできる人っていないの?」

「【鑑定】ですか……私もできますが」

「えっ!? ジョアンって【鑑定】できたの!?」

「はい、中級に上がってすぐにできるようになりました」


 中級って……そういやジョアンって精霊枠なんだか魔物枠なんだか知らなかったな。何枠なんだろ。ジョアンの事をずっと人だと思ってたけど、人なら中級って言わないよな。


「ジョアンって精霊だったの?」

「え? 知らなかったのか?」


 やっぱり精霊だったんだ。となると、何の精霊なのか気になる。【鑑定】が第一優先なのにそっちばかりが気になってしまう。


「あ、いや、た大変失礼しました。私は本の精霊です」

「へぇ~、そうだったんだ。言葉遣いは前のままでいいよ。だから謝る必要は無いって」

「いえ、そうは参りません」


 体裁がございますので、と言うジョアン。


 誰に対しての体裁なんだろうね。

 昔みたいに気軽に話してくれればいいのに。


「僕は気にしないって言ってんのに。そもそも王になんてならないと思うし。まぁいいや、候補としては二番目と四番目がいいかな。二番目の方は殿を置かずに全員で即時撤退って感じで」

「それではキズナ様に被害が及ぶ恐れが……」

「いいの。僕の足の速さは知ってるだろ?」

「ま、はぁ、たしかに……」

「作戦としてはこうだね。樹の精霊の誰か…ドライヤさんあたりと一緒に隠れながら相手を確認する。バレずに観察できれば同じ種の友達を喚ぶ。バレれば即時撤退。ドライヤさんがいれば障害物となってる樹も関係なく見通せるし、相手が僕より目がいいとは思えないでしょ?」


 僕は視力にもちょっと自信があるんだ。


「それは存じておりますが、視認せずに気配だけで攻撃される恐れもあります。盾となる者も喚び出した方がいいのではないでしょうか」

「でも、盾役が出来る人って足が遅いよね?」

「はい、確かにそうですが、送還用のゲートを近くに配置しておけば逃げ遅れる事も無いでしょう」


 ふむふむ。それはいいかも。でもなぁ、盾役が出来る人って、ホントに足が遅いんだよなぁ。

 ゲートまで無事に辿り着けるかが問題だよな。


「ところで話を戻しますが、そんなに強い魔物がいるのでしょうか。私には全く感知できないのですが」

「え? 分からない? 【鑑定】が出来るんなら探索なんかも得意なのかと思ったけど」

「はい、仰る通り、探索は得意な方です。少し先に大きめの魔力も感知しているのですが、キズナ様が警戒するほどのものなのかと」


 何言ってんの? ダークバレーヌより更に強大なケートスとも比べ物にならない程、更に強大な相手だよ?


「もちろん私では到底敵う相手ではありませんが、今のキズナ様なら問題ないかと」


 はぁ~? ジョアンっていつもこうやって僕を持ち上げるよね。時と場所を選べっての。

 そんなのを信じて突撃しちゃったらこっちが大怪我するって! 下手したら死んじゃうよ?


「相手を確認するのも大事だけど、現在の僕のレベルも知っておきたいんだ。調べてくれるかな?」

「『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』流石はキズナ様、よく勉強なさっておいでです」

「一緒に勉強したよね。それで、今の僕のレベルは?」

「はい、レベル832でございます。ステータスは私には分かりませんが、相当なものになっているはず。この世界の者でしたら、誰が来ようとキズナ様に負けはございません」

「はっぴゃく!? そりゃ凄いね。はは……」


 我が事ながらあまりのレベルの高さに驚いた。

 いや、ジョアンの事だからヨイショが重すぎて盛りすぎたんじゃないかと考えを改めた。

 ヨイショを差し引いて500ぐらいかと脳内修正して予想してみた。

 それでも凄いな。上位精霊であるシャードルさん達を喚び出す前ぐらい程には戻って来た。あの時は700オーバーだったか。

 それならどんな相手でも、勝てないまでにも負けないのでは? と思ってしまう。

 最悪でも逃げ切れれば、また再戦すればいいんだからな。


「じゃあ、負けない?」

「はい、手加減しても勝ちは揺るぎません」

「でも、相手の力量はまだ分からないよ?」

「この世界の精霊や魔物の頂点はレベル500です。今のキズナ様に負ける要素はございません」


 なら何故消極的な案を出した?


「安全策を出せと仰いましたので、より安全で確実な方法を愚考致しました」


 確かに愚考だね。同じレベル500でも、僕は友達を喚ぶ事でレベルリセットみたいになってるからね。

 そうする事で更に基礎ステータスが嵩増しされてるから、倍のレベル差があってもいい勝負ができると思う。

 だったら僕一人で行くのが良策かな?


「ジョアンを護りながらでも問題ない?」

「はい。主君に護られるのは許容できませんが、自分の実力は自分でよくわかっております。今の私ではお役に立てないでしょうが、キズナ様の実力があればそれも可能でしょう」


 だからこその愚作十点だったのかな?


「どのぐらいまで近付けば相手の【鑑定】ができる?」

「相手の顔がハッキリと見える位置まで近付ければ種族とレベルは分かります。もっと近付けば、相手のレベルが格下という条件で詳細も分かります」

「最低でも相手の顔が分かる位置か……」


 それって絶対相手からも把握されるよね。

 通常の【鑑定】ならそれでいいんだけど、隠れて偵察も兼ねるとなると使い勝手が悪いよな。


「じゃあ一緒に行こう。五〇メートルでも相手の顔は分からないと思うけど、そのぐらいの距離から警戒レベルを最大にしておけばジョアンの事も護れそうだし、そこから徐々に近付いて行って、ヤバくなったら逃げればいいよね?」

「はい、五〇メートルでは分からないと思います。相手の大きさにもよりますが、三〇メートル以内には近付かないと【鑑定】できないでしょう」


 ボーダーラインは三〇メートルか。二五メートルプールちょいプラスの距離だな。

確かにそれ以上の距離になると身体や服の色や輪郭は分かっても初見の相手の顔の詳細までは無理か。

 僕なら一〇〇メートルでも見分けられるけど、ジョアンには無理だろうな。


 そして、目的地に行ってみると、三〇メートルより更に近づかなくてはならない事に気付いた。


「ジョアン?」

「はい、申し訳ありません。これでは【鑑定】できません」


 ここは森の中心部だったよ。

 樹が邪魔で視界が見通せない。魔素が一番濃い場所を中心に直径十メートルぐらい、周囲が更地になってるのはここまで見てきたので同じだと思う。

 だけど、半径で言うと五メートルだ。鬱蒼と茂る樹々が邪魔しない見通しのいい位置取りをしたとしても一〇メートルってところだろう。


「これは困った。ジョアンの提案はどれも使えないね」

「申し訳ありません。私も初の喚び出しに舞い上がっていたようです。ここは第四案の撤退……」

「とりあえず行ってみようよ。僕だったら楽勝なんだろ?」

「いや、しかし……」

「僕だけで行っても【鑑定】はできないし、話ができる相手だったらいいんだけど、そうじゃない場合は殲滅戦になるしね」


 これはこの世界に来て例外無し。皆、目が赤いしね。

 ん? 例外、あるよね!? ノスフェラトゥさん達も目が赤かった。あれは吸血鬼という種族特有の目の色でもあるんだけど、吸血鬼達は話せてたよな。

 一人喧嘩腰で来てた人もいたけど、長であるノスフェラトゥさんの言葉は聞いてたみたいだ。なんでだろ?

 あと、もうひとつ今思いついたんだけど……【鑑定】に関する事で……!!


「そうだ! さっきジョアンが【鑑定】使った時、魔法陣が出てたみたいなんだけど、【鑑定】って魔法だったの!?」

「え? ええ、【鑑定】魔法という魔法です」

「いや、そんなはずないって。メイさんと合体ユニオンしてた時は魔法陣なんて出なかったよ?」

「メイさんと……? あ、メイさん達が使う【鑑定】はダンジョン限定でございましたね。ダンジョンの方達が使う【鑑定】はスキルですので魔法陣は出ません。他にも【鑑定】スキルで使う方も魔法陣は出ませんし、【鑑定】の魔道具の場合は魔道具内で魔法陣を発現させますので外に魔法陣は発生しません」


 スキルか! でも、【鑑定】魔法もあるんだ。


「ジョアン!」

「は、は、はい、なんでしょうか」

「もう一度僕に【鑑定】魔法を使ってみて!」

「は、はい、わかりました」


 これで魔法陣を解析できると思うと前のめりにお願いしたのでジョアンが少々引き気味だったけど、僕に【鑑定】魔法を使ってくれた。

 【鑑定】の魔法陣は複雑、というより今まで僕が使ってきた魔法の魔法陣とは分類が違うようで、全然馴染みの無い形を象った魔法陣だった。

 それで違和感があったんだけど、レベル800オーバーで驚いて頭から抜けてしまっていた。

 【鑑定】の話に戻ってようやく思い出して何度も【鑑定】をかけてもらってるけど、中々覚えられない。


 自分では結構飲み込みの早い方だと思ってたけど、馴染みの無い魔法陣だから中々頭に入って来ない。

 自分にかけてもらったり、周りにある樹々に【鑑定】をしてもらったりしてなんとか物にする事ができたのは二時間以上経った後だった。


 その間も、魔物の襲撃は何度もあったが、その都度僕が対応して魔物を退けていた。

 そのせいで時間を取られたのもあり時間がかかったけど、【鑑定】魔法を覚えられたのは大きな収穫だった。


「よし! これで今後は計算して友達を喚べるようになったよ。今までは経験値が足りないんじゃないかと不安で博打みたいなとこがあったから凄く助かったよ。ありがとうジョアン!」

「いえ、お役に立ててなによりです。それでキズナ様? このゲートはどういう意味でしょうか」

「え? もう用は済んだから還っていいって意味だけど」

「そんな……」


 だって、これから行く相手のとこにジョアンは連れて行けないわけだし、ここで待っててもらってもジョアンだと力不足の感はあるし、だったら安全な『クロスオーバー』に還ってもらうのが一番だよね。


 『また喚ぶから』と言って半ば強引にジョアンを還らせ、この森の主っぽい相手の下へ向かうのであった。



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