第88話 入り江の安全のために
いつも誤字報告ありがとうございます
巨大なクジラ型のダークバレーヌが入り江を封鎖してた件に関係があるかもしれないケートスが沖にいる。
そのケートスを追い払うか討伐するためにサンダーバードのダーバさんの背に乗り沖へと向かっている。
喚び出した魔物の子達が探知できる範囲にいられると、おちおちゆっくりもできない。
『クロスオーバー』にいるケートスのケーさんは温厚な性格で有名だけど、絶対に怒らせるなと皆が厳命されている。
というのは、怒らせると手が付けられないからだと言われている。
未だに怒った所は誰も見ていないけど、上位種の大人たちは子供達にそう教育していた。
かくいう僕もそう教えてもらった。
だからと言って、腫れ物に触るような付き合いでは無かった。
普通に、話もするし遊んだりもした。
一度も怒った事が無いんだから本当に温厚な性格だと思ってたんだから。
『クロスオーバー』ではケーさんが怒ったという事件も無かったけど、こっちじゃどうかは分からない。
そもそも温厚な性格かどうかも分からないんだから。
こっちの魔物で温厚な性格って見た事は無いけどね。
この世界ではスライムですら襲ってくるんだから、凶暴だと言われているケートスだと無理だろうな。
「じゃあ、軽く一発お願いしていいですか?」
「お? キズナ様がやるんじゃねーのかい? こういう一撃目って好きじゃなかったか?」
「ぐ…す、好きなんですけど、ちょっと今、加減が分からなくなってて」
「へぇ~、魔力操作の練習ばかりやらされててオレよりずっと上手いはずなのに、それがどうしちまったんだい?」
「ちょっと新しい事を始めてて、思ったより威力が上がってしまうんです」
「ほ~ん、よく分からねーが、オレがやってもいいんならやらせてもらうぜ」
さっきみたいに高威力になりすぎてしまったら危ないからね。
こっちに注意を向けさせるだけのはずが、急所に当たって致命傷って事になりかねない。
恐らく赤目をしてるとは思うけど、しっかりと確認だけはしておきたいからね。
ここは素直にダーバさんにお願いしておこう。
「まずはサンダーレインからだな」
僕のやった魔法だ。ちょうどいい、どのぐらいの差があるか見ておこう。
ピカッ! ゴロゴロバリバリー! ドッシャーンンンン……
海面に降り注ぐ雷の雨。
十本の細い雷が海面に吸い込まれて行く。
海面には僅かにピリピリと静電気が漂っていた。
う~ん、僕もさっきはこの程度の威力にしようと思ってたんだ。
魔力量を見る限り、僕がやろうとしてた量と同程度だったし、魔法陣の大きさも同じぐらいだ。
周囲の魔素を同時に使用するとあそこまで威力に差が出るのか。
という事は、転送魔法陣で使ってる魔力って、自分の魔力だけじゃ賄えないのかも。
周囲の魔力を使う練習として使ってたけど、正解だったみたいだ。
周囲魔力を使ってばかりいたせいで自前の魔力との差異が分からなくなってたのは誤算だったけどね。
BAOHOOOOOoooooooo!!
こちらの目論見通り、雷魔法が苦手だったのだろう、巨大な魔力の主が海面から姿を見せた。
すこぶる機嫌が悪そうだ。
「こりゃ思ったよりでけぇ。オレの雷魔法じゃ嫌がらせ程度にしかならねーな」
「そんな事はないでしょ。ダメージは与えられると思いますよ?」
「ある程度はな。致命傷になるまでに、こっちの魔力が持たねー」
「それでもここからいなくなってくれればいいんですけどね」
「そりゃ無理だな。ケートスの奴らは執念深いからな。一度引き下がっても、またリベンジに来るぜ」
「それは困りますねぇ。じゃあ、僕の最近のマイブームで倒しちゃいます。幸い、目も赤いみたいですし」
そう言って、スラ五郎を構えて周囲の魔素を集め始めた。
「おお? そりゃアレじゃねーか! キズナ様はそんな事もできるようになってたんですかい? おいおい聞いてねーぞ」
「え? 見てたんじゃないんですか? 最近よく使ってますよ?」
「いやいや、キズナ様が魔力を使ってる時はノイズが酷くてね。何やってるかちゃんと見れねーんだ。まさかこんな事をやってたとはな」
自前の魔力でも周囲の魔力でも、僕が魔法を使うなど魔力を使ってる時には見えてないのか。それはいい事を聞いたぞ。
でも、声にノイズは入らないそうだ。
「まだちょっと加減が上手くできないんで注意しててください」
「お、おぉ」
さっきのダークバレーヌを倒した時の五倍増しの魔力を周囲から集める。
ついでに自分の魔力も上乗せして、雷魔法を放った。
【アトミックサンダー】!
ジュッ!
ズゴオォォォォォォォオン!!
バチバチバチバチバチバチバチ
「キ…キズナ…様……?」
「ありゃ? ちょっとおっきすぎちゃった? う~ん、まだちょっと加減が甘かったかな?」
「ちょっとって……ありえねーから! ちょっとで見渡す限りの海面に魔物やクジラがプカプカ浮くってありえねーから!!」
「はは…たしかに」
もう、見渡す限り海面が生き物で埋め尽くされていた。
ケートス? ケートスは直撃だったから黒焦げで跡形も無くなっちゃったね。
ケートスの直近には多分魔物や魚は近寄ってなかっただろうから消失してしまったのは少ないだろうけど、雷により電気の影響が酷いね。
でも、これって……
「すごーいキズナ様ー!」
「すごいすごーい! キズナ様カッコいい!」
「ねぇねぇねぇねぇ! それ何て技!?」
ちびっ子三人が浜から泳いでやって来た。
まだ少し静電気がパリパリ見えてるんだけど大丈夫なの?
「みんなは大丈夫? ピリピリしない?」
「ちょっとチクチクするけど大丈夫!」
「うん、これぐらいなら平気!」
「ねぇねぇなんて技なのー!」
凄いねこの子達。さっきより海面に静電気が走ってるのが見えるのに平気なんだ。
ひとり不穏なセリフを言ってる子がいるけどスルーだスルー。
「じゃあ、また浮いてる魚を集めてくれる?」
「いいよー!」
「でも多いねー」
「ねぇねぇ、やっぱりスラ~?」
言うな! 技名なんて無いから!
「え? スラ?」
「スマッシュ!?」
ほら、他の二人も食いついちゃったじゃないか!
「す~ら~」
「「スマーッシュ!」
きゃはははははー
「スマッシュ!」
「え?」
「え?」
ダーバさん! あんたもかい!
だいたい今のは雷魔法だからスラスマッシュとは全然関係ねーし!
「いや~、今大流行なんだ。だからオレもつい、な」
「大流行? どこで?」
「そりゃ『クロスオーバー』に決まってるじゃねーか」
いや、全然決まってねーし! やっぱり当分帰りたくねー!
「「「今のはなんて技~?」」」
だから技名なんて無いし! ただの雷魔法だし!
「それはオレも知りてーな」
「いやいやダーバさんは知ってるでしょ! 今のはただのアトミックサンダーですって」
「あとみっく?」
「さんだー?」
「アトミック」
「サンダー」
「アトミーック」
「「サンダー!」」
きゃははははは
「サンダー!」
なんでダーバさんまで一緒になって言ってんだよ! 普通に魔法名じゃないか! あんたも使えるだろ!
「はぁ~、もういいよ。全部集めたらポットちゃんとパンくんも喚んで料理を手伝ってもらうから皆で食べよう」
「やったー! じゃあ、急いで集めてくるー!」
「うん! 早く集めよう!」
「よし! じゃあ、行くぞ。アトミ~ック」
「「サンダー!!」」
「サンダー!」
きゃははははー
だからダーバさんまで言わなくていいから!
「いや~、これは中々楽しいな!」
僕が楽しくないから! ゴリゴリなにかが削られて行ってるから!
手前からちびっ子三人が。遠くから僕がダーバさんに乗って収納魔法で集めて回った。
その間もちびっ子達は『アトミック・サンダー』ごっこで大はしゃぎで叫んでた。
ちびっ子達が叫ぶたびに僕の何かがゴリゴリ削られて行く。何故こうなるんだ……
ダーバさんがいてくれたからかなり沖合いの魚も手早く回収でき、思った以上に回収は早く済んだ。
で、お待ちかねの食事タイムだ。
【クロスオーバー】ポット! パン!
最近、食事といえばポットちゃんとパンくんに頼る事が多くなった。
だって僕より料理上手なんだもん。僕一人なら自分で作るけど、振舞うとなったらより美味しく食べてもらいたいからね。
「キズナ様ー!」
「二人とも、また頼むね」
「まかせてー」
「アトミ~ック」
「「「サンダー!!」」」
「サンダー」
きゃははははははー
……もう知ってるんだ。ダーバさんも参加は確定なんだな。
精神的に結構なダメージを受けつつ、ポットちゃんとパンくんに海鮮系の料理をお願いし、僕も料理を手伝う。
その間も、ちびっ子三人は海で海産物を回収に回ってくれ、ダーバさんは他に危険な魔物がいないか見回ってくれていた。
「ポットちゃん、パンくん、二人ともまた腕上げた?」
「えへへへ~、わかる?」
「キズナ様と一緒にいるからレベルが上がったみたいなんだ。それで使えるレシピが増えたんだよ」
ほ~、レベルが上がる事で料理の幅が広がったと。精霊や妖精だとそういうのもあるんだね。
僕達人間とは違うんだな。
二人の鍋の妖精から更なる美味しい調理法を盗むべく料理の手伝いをし、素材集めと偵察に頑張ってくれたちびっ子三人とダーバさんに料理を振舞った。
みんな大変喜んでくれて、お返しにと朝まで見張りをしてくれた後、『クロスオーバー』に送還した。
お蔭で宿で寝るぐらい、何も気にせずぐっすりと寝る事ができた。
さて、今日は森の探索の続きだな。
さてさて何が出るのやら。




