第85話 実験の結果
いつも誤字報告ありがとうございます
「なぁぁああああああ! なになになになにー! なんでこんな大物が死んでるの!? キズナ様がやったの!? 何したの!?」
ピッピが慌てるのも無理は無い。っていうか、さっきから慌てまくりな気はするけど。
そこには、巨大な魔物の死骸があった。
熊の魔物で、名をジェアンウルス。体高五メートル越えの巨大な白熊のような魔物だった。
ジュアンウルスの胸元には大きな穴が開いており、その穴から今でも血が流れ出ている。
「あっ! キズナ様、あれ!」
「うん、間違いないみたいだ」
ピッピの言うアレとは、さっき僕が魔法陣に投げ入れた石の事だ。
というのも、転送先は自分でも分かっていた。近場で一番魔素の濃い場所だ。
その中でも一番濃い場所として選んだ場所が魔石の位置だった。あれだけの魔石だ、魔力が濃くないわけがない。
結果を見た後の感想としては予想通りなんだけど、こんな術式を組んだ覚えは無い。
僕が想定した術式は瞬間移動、若しくは転移の魔法陣だ。
だけどこれだと相互間転移になってしまう。つまるところ、石を転移させた先が偶々この魔物の魔石部分だったので、石の代わりに魔物の一部が転移されて戻ったのだと思う。
結果だけを見ると多分合ってると思うんだけど、逆にその方が難しくない? ん? そうでもないのか?
この結果の方が当然なのか? 物を転送するには物体が移動するだけじゃなく、転送先のものと交換になる?
僕は転移には二種類あると思っている。一方通行と相互間通行。
一方通行だと行きっぱなしで転送先にあるものを押しのける。その場合、転送先に何も無ければいいけど、壁や樹などの障害物があった場合、押しのけられればいいけど押しのけられなかった場合は一体化してしまったりするんじゃないかと思ってる。
あくまでも推論だけど、身体の中に石や土や樹が合体したりするかもしれない。
その点、相互間通行だと、行った先のものと交換になれば、障害物が障害では無い。
ただ、今回のように魔物の身体の中だったり、壁だと嵌まったりしてしまうかもしれない。
それでも一体化するよりはずっとマシだ。
身体の一部が石や樹のままなんて耐えられそうにない。
という事は、これでいいのか。相互間転送…いいかもしれない。でも、今回のように転送先に生き物がいるのは頂けない。生き物がいない場合限定だね。もし人間だったら殺人だからね。
「でも、キズナ様。石の大きさと魔石の大きさが全然違う」
「たしかに。魔石の方が石の十倍ぐらいありそうだね」
ただ、相互間通行だと、魔法陣の大きさが戻って来た魔石の十倍も無い。
という事は、戻りは等倍なのか。それとも、そもそも行きも等倍で、往路の勢いが強くて、その勢いに押されて十倍の容量の魔石が戻されたのか。
一番可能性が高いものとしては、僕が向こう側の魔力範囲を認識した範囲というのが濃厚な気がする。
この辺は追々実験して確認だね。
やり方は分かったし、今後も沢山使いそう。検証をしないと安全には使えないし、これからは魔力も無尽蔵に使えそうだしね。
「ちょっと実験してみたら使えそうだね。この魔物は解体して収納袋入りか」
「解体するの? いる?」
「う~ん、いらないと思うんだけど、冒険者カードってログが残るんだよ。僕がいらなくても冒険者ギルドが欲しいって言えば出してあげたいしね」
もうお金は十分にあるけどSランクになった事だし、冒険者ギルドにはある程度貢献しないとね。
「じゃあ、この近くにいる魔物も倒すの?」
「それはどうしよう。この地からあまり移動しないみたいだし、態々倒す必要もないと思うけど」
「だったら、先に進む?」
「そだね。でも、ここって今空白地帯になってるから、やりたい実験をしてみてから移動するよ」
そう、あと空間魔法も実験したいんだよね。
この収納袋も何度か使っている内に、なーんとなく分かってきた。これも複合魔法陣が使われている。
皆が後から追加で付与してくれた分を見て、なんとなく違和感があった。
皆、簡単に付与してたんだ。シャードルさん達、上位の精霊がいたとしてもちょっとおかしい。
もう完成した魔道具に上乗せするのって中々できる事ではない。なのに、僕より付与魔法が下手な下位精霊でも簡単に付与を上乗せしてた。
加護の亜種―――劣化版かとも思ったけど、あれは付与魔法だった。
という事は、初めに上乗せ前提で魔道具を完成させれば作れるんじゃないかと思ったんだ。
空間把握はもうできるようになった。ならば、あとは空間指定して、そこに入れられるようにして、後から大きくしたり個人認証したりすればいい。
その入れる空間も転送魔法で把握できた。
空間魔法って、位置指定した後に別空間から入り口を取り付けるみたいな感じなんだ。
その別空間だけを指定して、起点となる…例えば鞄を入り口にして指定した空間と繋げて固定してやれば、できると思う。
という事はだね。指定された空間が分かれば盗り放題? いや、しないけどね。泥棒する予定は無いから。
それからは実験を繰り返し、一晩掛かったけど転移と収納が出来るようになった。
収納に関しては媒体もいらなくなったけど、折角みんなが付与してくれた記念の収納袋だから持っておくことにした。
転移に関しては僕の把握できる場所には一瞬で行けるようになった。
把握できる場所―――魔素のある場所になるので、この世界なら何処でも行けるかも。
但し、全方向というのは流石に辛い。ある程度俯瞰して分かるけど、それでも一〇〇メートルを超えれば把握できない。
幅を五〇メートルぐらいにして一方向に定めれば相当先まで分かるようになったけどね。
転移に関しては僕の推論が合ってた。指定範囲との相互交換だった。
移動先の状況もある程度わかるようになったし、事故は起きないと思う。
ある程度というのは、種族や人数や動作に関してはわかるんだけど、顔や服装なんかの詳細までは分からないってだけ。
ただ、個別の魔力濃度が分かって来たから(この世界じゃ肉眼でも見えてるしね)知ってる魔力濃度ならある程度特定も出来るようになった。(自称、正解率九五%)
という事で、今まで出来なかった周辺探知と瞬間移動と収納魔法が出来るようになった。
本当なら一晩も掛からず出来てたんだけど……
「本当に多いわね」
「うん、場所が悪かったかな?」
「どの魔物もこの場所を目指してる感じではあったわね」
「ここが一番濃い魔素が湧き出てるからね。でも、そのお蔭で魔力が枯渇する事も無く色んな実験ができたんだけどね」
「ほんと……キズナ様の魔力って規格外だわ」
あとは【鑑定】だけど、どうやったら修得できるのか全然分からない。
今までも【鑑定】無しでやってきたんだし、無ければ無くてもいいんだけど、異世界の三種の神器だもんな。修得できるんなら取っておきたいかな。
「まだいけるって!」と言うピッピを、一日経ったので念のために送還した。
代わって二番手カゲールくんを喚び出す。
「あれー!? キズナ様、強くなってる?」
「ん? あーそうかも。一晩で結構な魔物を倒したからね。レベルは上がってると思うよ」
「じゃあ、うちの兄ちゃん喚ぶ? 還ったらいつも言われるんだよ。キズナ様に言って喚んでもらってくれってしつこいんだ」
「カゲールくんのお兄さん? でも、ばあちゃんは喚んだでしょ?」
「シャードル大ばあちゃんだろ? だから余計なんだよ。なんで俺だけ喚んでくれないんだって!」
カゲールくんのお兄さんって中位精霊でも中ほどの実力者だったよね? 節約するって決めたし、中位以上はあんまり喚び出したくないんだけど、一人だけ喚ばれないのも可哀想か。
でも、もうちょっと経験値を節約したいんだよなぁ。
「今回は……」
「そうそう、カゲゾウ兄ちゃんが最近【鑑定】の魔道具をもらってたっけ」
「喚びましょう!」
「ホント!? ありがとうキズナ様! これで兄ちゃんに文句言われずに済むよ」
【鑑定】の魔道具ってどんなだろ。期待値が上がるなぁ。
【クロスオーバー】カゲゾウ!
「おお! キズナ様! やっと喚んでくれましたか! 感激です!」
そうそう、こんな細面のイケメンだったね。
先生になってもらった事は無かったけど、何度か一緒に遊んだ覚えがあるね。
「カゲゾウさん、久し振り。今は中位だったよね」
「はいキズナ様! 先日、【鑑定】の魔道具を手に入れまして、色々と情報の幅が広がったので行き先が増えましてね。そのお蔭もあって移動距離と移動範囲が増えたので中位のお墨付きを頂きました」
移動先が増えたって、どういう事? 『クロスオーバー』の世界で潜入するようなような仕事って無いはずだけど。
「私も他の世界で活動するようになりました。初めて行った先の世界で、偶々ダンジョンに潜って鑑定のアーティファクトを手に入れたんです。それからは引く手数多とまでは言いませんが、お呼びが掛かる事が増えました」
おお! 【鑑定】のアーティファクト! 欲しい!
「それって今持ってるの?」
「いえ、大事な商売道具ですから、大切に家に仕舞っています」
ダメじゃん! 全然ダメじゃん! 喚んだ意味無いじゃん!
「じゃあ、見せてもらえないの?」
「はい、たとえキズナ様と言えどもお貸しできません」
「僕を鑑定してもらうとかは?」
「それはいいですが、今は持ってないので出来ません。え? そんな役目で喚び出されたのですか?」
ガッカリだよ。鑑定に関する何かが分かればいいかと思って、節約してたのに態々呼びだしたのに。あーザンネン。
「それで、今日は何のご用でしょうか」
キラキラしためで問いかけてくるカゲゾウさん。
特に用は無かったとも言いにくかったので、鑑定スキルについて聞いてみた。
「カゲゾウさんの【鑑定】って何処までわかるの? レベルだけ?」
「私の持ってる【鑑定】の魔道具では、レベルと名前と年齢と性別、あと職業ですね」
「職業?」
「はい、農民ですとか商人ですとか。貴族なら爵位ぐらいは分かりますね」
職業じゃねーのかよ! それ聞けば大体教えてくれるものだから!
職業だって大体教えてくれるけど、敢えて聞きにくいし隠したりする人なんかもいるからね。
「それで、何をしましょうか」
何を…か。もう聞きたい事も聞いたから還ってもらってもいいんだけど、折角経験値の無駄使いをしたんだから何かしてもらおうかな。
「そうだ、僕とカゲールくんは森の先に進むんだけど、カゲゾウさんは少し手前の村の動向を見張っててくれないかな?」
「見張りですか。そんな簡単な事でいいんですか? なんでしたら露払いを致しますが」
「いえ、現在の村の動向の方が気になるから、そっちをお願いしたいかな。僕が見張るとバレるかもしれないし。別にバレるとダメなわけじゃないんだけど、今は静観したいと思ってるから」
「ほぉ、それは敵の根城ですか?」
「違う違う。以前に助けた人達なんだけど、自立できてるかなって。僕がいると思うと頼ってくるかもしれないし、カゲゾウさんに任せたいんだ」
「そういう事でしたらお任せください。何日見張ればいいでしょうか」
特に決めてなかったな。現状が分かればいいんだし、一日もいらないか。
「今の暮らしに不自由が無いか確認できればいいよ。少し見た感じだと食事にもあまり困ってる様子は無かったけど、一日一食とかだったら少しは手助けしないといけないしね」
「分かりました。私は五~六日は滞在できますので、それまでに結果を出します」
「そこまで綿密な報告はいらないけど、もし困ってそうなら少し手助けしてあげてほしいかな」
「わかりました」
「どのぐらいになるか分からないけど、森の奥の様子を見たら戻って来るから。たぶん三日ぐらいと予想してる」
行きの時間だけだけどね。帰りは一気に転移だね。




