第81話 解散
いつも誤字報告ありがとうございます
ギルドの中はお祭り騒ぎだった。いや、ダンジョン攻略の情報はたちどころに町中へと広がり、ギルドどころか町中大騒ぎだ。
その主役は、もちろん【三叉槍の魔法使い】である。
今までの最高踏破記録を塗り替えた事は、前回戻って来た時に既に報告済みだ。
今回、少しでも進めば記録更新なのだから、戻る度に町は盛り上がるはずだったのに、一気に踏破してしまったものだから、ランガンの町全体でのお祭り騒ぎとなってしまった。
ただ、そんな町の雰囲気とは裏腹に盛り上がらない人たちがいた。
【三叉槍の魔法使い】の当事者達だ。
最後が最後だからね、不完全燃焼なのは否めない。
ただ、それを僕のせいにされるのはおかしい。三人が恨みがましい視線をちょくちょく向けて来るんだ。悪いのは僕じゃなくてティアマトさんなんだからさぁ、面と向かって本人には言えないけど。
ブラッキーさんとホワイティさんは一応、愛想笑い程度の対応はしてるけど、バンさんに至っては不機嫌そのものだ。
僕? 僕は平常運転だよ。だって、何もしてないもん。
ダンジョンの中をただ歩いて、夜番して料理を作っただけだもん、達成感なんて何も無い。
パーティで戦ってないのって僕だけだから。
それでも三人で八〇階層までは踏破したんだから、三人とも大したもんだよ。ホント凄いと思う。もう何年何十年と最終階層が更新されてなかったんだから、それをいきなりダンジョン制覇だもん、人はこれを偉業と言うんだろうね。
冒険者ギルドに入り報告のため訪れた受付カウンターから、そのままギルドマスターの部屋へと通された。
待ち受けるのは魔術部門の統括ギルバートさんと武術部門の統括アルガンさん。
それと、お茶の用意をしているラピリカさん。あくまでも裏方の振りを貫き通す体のようだ。
バンさんは論外としても、ブラッキーさんとホワイティさんはラピリカさんがギルマスだとは知らないのだろうか。
「皆様、この度の快挙、おめでとうございます。特にブラッキーとホワイティは魔術部門の在籍者としてよくやってくれました」
まずは魔術統括のギルバートさんが口を開いた。
続いて武術部門のアルガンさんがバンさんと僕に向かって声を掛けてくれた。
「まぁキズナとバンがいれば問題ないと思ってた。この後ヒマなら修練場でちょっとやるか?」
修練場でちょっとって、なんでこれから模擬戦をする流れになるんだろう。脳筋の考える事はわからないよ。って、バンさんはオッケーしちゃったの!?
それから最終階層は何階だったのか、各階層ではどんな魔物が出たのか、罠はどんなだったか、戦利品はなど……淡々と報告をした。
それはもう淡々と、事務的に盛り上がりもなく、本当に淡々と。八二階層以降、戦闘らしい戦闘が無かったのがここまで響くとは……
一時間ほど話をしてようやく解放された。
その間、ブラッキーさんとホワイティさんも呼び捨てにされてたけど、王女と聖女候補なのにいいのかと心配してたら、ラピリカさんが問題ありませんよと教えてくれた。
冒険者の時には呼び捨てでもいいんだって。メリハリをつけてるのかな?
意味があるんだか、ないんだか。
大量に回収した魔石は冒険者ギルドに納品した。売上金を四等分しても金貨百枚以上になった。
他にもドロップ品や宝箱からの回収品も全て買い取ってもらった。
あ、一つだけ手元に残している。ダンジョン脱出石だ。
前回使った時もそうだったんだけど、もう少しで解析できそうな気がするんだ。
だから手元に置いて研究したかったので査定額を聞いて、その分は僕の分から引いておいた。
収納袋(中)がひとつあったので、それはバンさんが買い取った。
残りはすべて買い取ってもらったら一人頭金貨五〇〇枚にもなった。
後は、薬草と鉱石だけど、これについては完成品の特級ポーションを十個ずつ三人に渡して、残りは僕のものになった。
戦利品の分配も終わり、これからの相談という事で冒険者ギルドの会議室を借りて四人で話し合う事にした。
外に出ると揉みくちゃにされるのが分かってるから、出る前に今後の方針を決めておきたいとブラッキーさんから提案があったのだ。
「キズナ、ありがとう。ダンジョン制覇できたのは貴方のお蔭よ。最後は締まらなかったけど、それでもダンジョン制覇の実績が積めたのはキズナがいたからこそ。本当にありがとう」
「私もブラッキーも貴方に出会わなければここまで魔法を操れるようにはなりませんでした。最後は薬草採取と鉱石掘りしかしてませんが、私達の魔術向上やレベルアップはキズナ無しでは語れません。ありがとうございました」
どうしても最後の二〇階層ほどの事が引っ掛かるんだね。
気持ちは分かるよ。ラスボスを倒して達成! という充実感が得られなかったもんね。
しかも本当のラスボスには殺気攻撃のみで瞬殺されてるしね。
「と言っても、僕は何もしてませんけどね」
ダンジョンでは何もさせてくれなかったので、ちょっと皮肉を込めて言ってみたけど、そうは取られなかった。
「そんな事無いわ! キズナは私達の苦手な料理や夜番をしてくれたじゃない! それは立派なサポートよ!」
「私達に魔法もご教授いただきました。私は……ブラッキーもだと思いますが、キズナの事を師匠だと思っています」
「このアクセサリーも無かったら六〇階層台は攻略できなかったしね」
「魔石やドロップ品の収集もしてくれました。本当に感謝しています」
皮肉を込めたからいけなかったのだろうか。本音で言われてるはずなのに、皮肉にしか聞こえない。一度も戦闘面での話が無いよ。
実際、戦ってないのだから話に上がるはずもないんだけど。
「それで、今後の【三叉槍の魔法使い】の活動だけど、一旦休止しようと思うの」
「活動休止ですか!?」
「ええ、キズナには悪いんだけど、私とホワイティは一度王都に戻ろうと思うの」
活動休止ぃぃぃぃ!? 僕、このパーティでほとんど何もしてないうちに終わっちゃうの!?
「ホワイティさんも!? バンさんはどうするの!?」
「キズナはソロでもやっていけるでしょ? ポーション関係でお金にも困ってないみたいだし、最近は魔道具にも手を出してるみたいじゃない」
なんで知ってんの? 道具屋のマジツさんとの契約だって迷宮に入る直前の話だよ?
「バンは、大丈夫よ」
「問題ありませんね」
なにが? なんで問題なくて大丈夫なの? 自領に戻るって意味かな? だってバンさんは吸血鬼族だから、人とは長く接触しない方がいいもんね。今更感が凄いけど。
という事は、二人はバンさんが吸血鬼族だと知ってる?
「バンは酒とバトルさえあればいいもの」
「今回と前回で相当稼ぎましたから酒代には困らないでしょうし、ここには迷宮も武術統括のアルガンさんもいらっしゃいますから」
そっち? 帰るんじゃないの?
「バンさん? そうなの?」
「いや? なーんも聞いてねーぞ? だが、ここは飯が美味いし居心地はいいんだが、ちっと物足りねーんだ。キズナ様、他に強ぇー奴がいるとこを知らねーか?」
飯? 酒の間違いじゃないの?
「ここより強い魔物なら自領に帰ればいいんじゃないの?」
「それは無ぇー! 大体、同族の城には酒が少ねーんだ、しかも不味い。肉はこっちよりゃ美味ぇーんだが、酒がなぁ」
やっぱ酒じゃん!
「だったら、収納袋も手に入れたんだから、酒を買い溜めして自領に戻ればいいんじゃないの? 今ならそれぐらいのお金はあるでしょ?」
「おおお! それだ! それだぜキズナ様! その案いただくぜ!」
マジか……少し考えれば分かるじゃん! どうして僕の周りには、こう脳筋が多いんだろ。
「それとよ、このペンダントはやっぱ返すぜ」
「私も返すわ」
「私も返します」
「え……?」
そんなに不評だった?
「そして改めて依頼します。明日までにデザインを考えますので、新たに作ってください」
「私の分もよ!」
「俺様は、そうだな……コウモリか……いやいやスケルトンヘッドで頼むぜ!」
そうだ、そんな話をしてたよね。ちょっとホッとしたよ。バンさんまで乗っかって来たけど、それって髑髏マークの事だよね?
でも、コウモリだったらまんま過ぎるから髑髏でいいと思うよ。
「話は逸れたけど、キズナも休止って事でいい?」
「は、はぁ…まだ何も活躍してないのでよくはないですけど、何か事情があるんですよね?」
言っても王女様だからね、何か事情があるんだろう。
「事情は…そうね、説明は必要ね。キズナには言ってなかったかもしれないけど、私が冒険者になった切っ掛けは嫁がされそうになったからなの。それで、ダンジョンを制覇する実力を示せばこちらの我が侭を聞いてくれると思って始めたの。ホワイティもその時誘ったのよ」
「はい、こちらは大迷惑でしたが」
「初めは全然ダメだったわ。ダンジョンに入る権利を獲得するのさえ凄く時間が掛かったもの」
僕と出会う前の話だね。あの時は確かに酷かった。攻撃はブラッキーさんだけで、そのブラッキーさんの魔法もてんでなってなかった。
ホワイティさんに至っては、何故いるの? ってレベルだったから、僕が二人に魔法を教えたんだよね。
「キズナと出会ってから私達は飛躍的に伸びた。そこにバンが加わり、更に伸びた。しかもお父様に恩まで売れたんだから、ダンジョンの制覇も加えると、何でも我が侭が通りそうよ!」
「今まで聖女候補だった私も聖女への道が見えてきました。これもキズナのお蔭です。ありがとう、感謝しています」
ブラッキーさんは何をするのか知らないけど、ホワイティさんは聖女になるんだね。
でも、嫁に行きたくないからダンジョン制覇を選ぶって意味が分からないんだけど。
そろそろ嫁に行かなきゃいけない時期じゃないの? って、そんな理由でよく王様の許しを得られたもんだね。
「ホワイティさんは聖女ですか。それじゃあ、もう冒険者はしないんですね」
「たぶん、そうなると思います。キズナ師匠、今までありがとうございました」
「師匠だなんて……えへへへ、頑張ってください」
最近、師匠とよく呼ばれるようになったけど、ホワイティさんに言われるとやっぱ照れるよな。
「私は国境砦に行くわ!」
「はい?」
「ローデンハルツ王国との国境にある砦に行って指揮を執る。そしたら無理な結婚を押し付けられなくて済むでしょ?」
無理な結婚からは回避できるかもしれないけど、望む結婚からも回避しちゃってない?
「キズナに比べればまだまだだし、小競り合いが続く国境砦で更に腕を磨くわ。国境砦付近にもダンジョンがあるって聞くしね」
「ほどほどにしてくださいね。そうだ、僕も王都に用があるんです。なんだかSランクの寄り合いに出ないといけないみたいで。バンさんも一緒に行きませんか? 王都ならお酒の種類も量もこっちよりあると思いますよ」
「マジかよ…ゴクリ……その話、乗ったぜ!」
「Sランクの寄り合い……たしか、王都であったわね」
「私達のランクはどうなるのでしょう」
結局、明後日に王都に向けて出発することになった。
たぶん、これが【三叉槍の魔法使い】の最後の行動になるだろう。
このパーティで何もやってないのにな。もし、次にパーティを組む事になったら、自分で率先して前に出るようにしよう。
ランクの件は解散届けと共に、次の日に確認した。
ブラッキーさんとホワイティさんはSランクでもいいみたいだったけど、Sランクになる条件として、年に一回の会合に出なければならないというのがあり、ブラッキーさんとホワイティさんはその条件が困難だとして辞退した。
バンさんは素行不良という事で、次回に機会があればという事になった。
素行不良と言っても、誰かに絡んだり、不当な暴力を振るうわけではなく、酒場で飲んだくれている姿を頻繁に目撃されたからのようだ。あと、言葉使いね。
このまま【三叉槍の魔法使い】としてやって行くのであれば、他の三人が抑止力としてあるから認められたかもしれないけど、解散となってソロだと認められないみたいだった。
僕の場合は、既に申請が通ったみたいだから問題ないらしい。
問題を起こせば、推薦したギルマスにも責任が及ぶらしいから、バンさんの場合は難しいようだ。
各支部からSランクを出す事は誉れだけど、それ以上に何か不祥事が起こった時の汚名は、どうやっても挽回できないぐらいのものだそうだ。
それだけハイリスクならと、Sランクを出さない支部もあるぐらいだ。
だけど、Sランクを一人出す毎に支部の格が上がり、ギルマスから受付嬢まで給料が倍になる。しかもSランクがいる事でギルマスの発言権も上がるとなれば、支部あげてSランクの発掘に力を入れている。
その日は別行動をし、メメジーさんの工房に少し顔を出し、クツール・マジツさんのところにも寄って魔道具の確認とバックマージンについて話し合った。
もうお金には困ってないんだけど、さすがにタダで譲るわけにも行かず、売上金の二割を僕が貰う事で折り合いが付いた。
そして王都に向かったんだけど、何故か大渋滞。
何故か、ではないな。理由は分かってる。
ブラッキーさんとホワイティさんの取り巻き達も合わせて全員で大移動になったためだ。
だから、馬車は普通の馬車だし、一日で王都には辿り着けなかった。
馬車五〇台って、多すぎんだよ!
昨日、気付いたんですが、一作目を書き始めてから三年が経ち、四年目に突入してました。
いやいや、あん時は乗ってたなぁ。疲れ知らずで没頭してたもんねぇ。




