第80話 踏破目前
いつも誤字報告ありがとうございます
落ち着きを取り戻したティアマトさんとの話も終わり、僕達は強制的に八二階層に放り出された。
何故ここにラスボス部屋があるのかも教えてくれた。
ダンジョンの階層を一つ増やして一〇四階層にし、新しい階層を仮の最終階層にして自分の居室である一〇三階層を自由に移動できるようにしたのだとか。
メイさんもジョンくんもダンジョン限定で能力が上がるようだったし、ダンジョン関係の人ってダンジョン内では何でもありなんだね。
で、ティアマトさんは八一階層に移動させたラスボス部屋に残った。僕達がダンジョンから出て行くまではラスボス部屋を移動させないとも言っていた。
他にも有益な情報を色々ともらったよ。ここにいる理由とか、この世界の事も少しね。
なんとなく濁しながらホンの触りしか教えてくれなかったけど、それでも僕の知らなかった事が聞けて有益だった。
「しかし……ホント何も出ないわね」
「ええ、見事なほどに」
「くあー! 暇すぎるぜ!」
意識を取り戻した三人が八二階層以降の探索でぼやく。
八二階層に放り出されはしたが、ティアマトさんの配慮で三人は身奇麗にされていた。
何故、記憶が無いのかは思い出せないみたいだけど、ボス部屋に入った事は覚えていて、どういう経緯でクリアできたのかと根掘り葉掘り聞いてきた。
僕が単独でボスを倒したと思われてたようだ。
確かに、三人が気絶してボス部屋の次に移ってるんだから当然だと思う。
だけど、倒したという結果は無くて、ただ通り過ぎただけ。長時間ずっと抱き付かれてたけど。
どんな魔物だったのか、大きさはどれぐらいなのか、どんな攻撃をしてきたのか、止めの攻撃は、などなど。
あやうくスラスマッシュと口に出そうになったのは内緒だ。
止めの一撃や必殺技という言葉で思い浮かんだのがそれだけだったのだから不可抗力だと思う。しかも思い止まったし。
で、三人がボヤいてる理由だけど……
「キズナ! さっさと行きましょうよ!」
「いくら安全だからと言っても限度があります。早く次の階層に向かいましょう」
「キズナ様よぉ、早くしてくれよぉ」
「ちょっと待って。もうちょっとだから!」
「なんでそんなに拘るの?」
「ダンジョンで薬草採取をしているのはキズナだけですよ?」
「さっきの階層もそうだったし、その前もそうだ。どうせ次にもあるんじゃねーのか?」
そう、八二階層からずっと薬草しか無い階層が続いているのだ。しかも魔物ゼロ。更に言うと、結構なレア薬草が沢山あるのだから、採取しないという選択肢は無い!
じゃんじゃん採取しては収納袋に詰めて行く。
初めは手伝ってくれてたブラッキーさんとホワイティさんも、もう飽きたようで手伝ってくれない。バンさんは初めから見張り役だと言って手伝ってくれてないけどね。
そんな階層が八九階層まで続き、九〇階層でようやく景色が変わった。
「おっ!? こんどは岩だらけじゃねーか。ボスがいる階層だし、ちっとは期待がもてるな」
「そうね、見える範囲に魔物はいないけど、警戒だけはしておくわよ」
「っ! キズナ!? どうしました?」
いきなり走り出した僕に、ホワイティさんが声を掛けてくる。でも、答えるのは後だ。まずは確認! って、もう分かってるんだけど!
ここって鉱石階層じゃん! さっきのレア薬草と合わせてポーション瓶を作れば、ポーションの完成じゃん! そりゃ走るって! だって鉱石なんだよ? これで上級ポーションどころか超級ポーションが完成するんだよ? 絶対、誰でも走るって!
スラ五郎を振りまくって鉱石を叩き割りまくる。
「バンさんも割りまくって!」
「お…おぉ……」
「なんなの!? ねぇ、一体なんなのよ!」
「さぁ…なんなのでしょうね」
呆れ顔のブラッキーとホワイティだったが、キズナは必死で岩を割りまくっている。
バンもよくは分からないが、ここまでヒマだった発散ができるとあって、嬉々として岩を割り出した。
結果、三時間かけてかなりの量の鉱石を確保した。
バンも大剣を振るって頑張ったのだが、キズナの掘削量には及ばず、半分程度の量だった。
それでも三時間も全力で発散できたとあり、清々しいほどの満足顔だった。
置いてけぼりだったのはブラッキーとホワイティ。話しかけても理由も話さず岩と格闘を続けるキズナとバンを放置して、二人で座って待っていたのだ。
「ふぅ~、これぐらいでいいかな。これで当分採掘しないで済むと思う」
「ああっ! 久し振りに汗かいたぜ! 偶にゃこういうのもいいもんだな」
満足して笑い合う二人。
「しかし、キズナ様は俺様の倍は行ったんじゃねーか? それでも汗をかかねーって、どんだけだ?」
「これぐらいはね。慣れてるから叩く狙い目も分かるし、僕の方が多いのは当然だよ」
「それでも汗ぐらいかくだろ」
「そうね、これだけ待たすんだから汗ぐらいかくわよね」
「「え……?」」
ふと見ると、腕組みをしたブラッキーさんとホワイティさんが仁王立ちしていた。
「そ、そんなに時間が経ってましたか?」
「お、おぅ、ちょっとだけだったぜ?」
「ほ~ん、三時間がちょっと、ね~」
「三時間!? いえいえ、そんなに経ってないですって!」
「そうだぜ、ちょっとだけのはずだ! ま、まぁ、三〇分ぐらいだな」
「いいえ、三時間でした。せっかくここまで順調に進んで来ましたのに、思わぬところで時間を取られました」
「罰としてキズナとバンで夜番ね」
「キズナは食事もお願いします」
「お、おう……」
「……はい」
っていうか、それっていつも通りじゃ……夜番にバンさんが増えて、僕としては負担が軽くなってる? いつも僕一人だったんだけど。
「さ、行くわよ」
「はい!」
「おお!」
「行きましょう」
再び怒られる前に僕とバンさんは言われた通り、次の階層を目指して先に歩き出した。
そこからも、薬草階層、鉱石階層が交互に続き、たまーに草原階層があったが、そこには美味しい肉をドロップする猪系や牛系の魔物と、野菜や果物をドロップする樹木系の魔物が現れただけだった。
ただ、現れる魔物は本当に深層の魔物かと思うぐらい弱かったが、落とすドロップ品は極上の素材だった。
ティアマトさん…やりすぎ。
絶対、ティアマトさんがやったのは分かってる。前回来た時はあまり周りの事を覚えてないけど、魔物がゼロなんて階層は無かった。
それが、八二階層からこっち、弱い魔物しか出て来てない。しかも、その弱い魔物すら出て来ない階層が多すぎる。
もう最後なのに、こんなんでダンジョン制覇と言ってもいいのかなぁ。
でも、最終階層は増設したと言ってたし、何かラスボス的な魔物がいるんだろうね。
九〇階層でも百階層目でも出て来なかったんだ。まだ、氷炎龍も出て来てないし、増設した最終階層にでもいるんだろうな。いてほしいな。
もうだいぶ前から「キズナ様~、氷炎龍はどこにいるんだ」ってずっとバンさんが言って来てて、凄く居心地が悪いんだよ。
どうか居て下さい!
最終階層と思われる豪華な一〇四階層の扉を開けるバンさんに向かって合唱した。
「……」
「……」
「……」
「……」
そこに魔物は居なかった。龍どころかゴブリンやスライムさえいなかった。
「宝箱ね……」
「四つありますね……」
「ちっ……」
「いや、でもほら、魔法陣もあるみたいだから、帰りは楽かなぁ……って」
みんなの視線が痛い。
ティアマトさん! もうちょっと普通にしてよね!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃……
「ごふ…もう…ダメ…みたい…です」
「な、何を…言ってる……の」
「…………むり」
「ま、まだまだ…こ、ここから……だ」
大婆様に鍛えられたカーシマシーの三人だったが、身体異常対策までは出来てなかった。
みっちりと濃厚な三ヶ月のしごきに耐えたお蔭で魔物と罠に対しては攻略できた。
その成果もあって、六〇階層まではスムーズにクリアできた。約一名、息が絶え絶えの同行者もいたが。
しかし、先日のキズナ達と同様に六一階層で躓いた。
「ハ、ハナノエさん……恨みます」
「……今…言われても…むり」
「テ、テルーエ……ラッチも…こんなんだし…帰らない?」
「……い、いいのか?」
「「「え……?」」」
「い、いや…我はてっきり…ハナノエが…拒むだろうと」
「いやいやいやいや、あんたが絶対に引かぬなんて言ってここまで来たんじゃない!」
「……元気」
「……」
「ウータエは……ま、まだ…行けそう…だな」
「む、無理に…決まってんでしょ! 戻るわよ!」
まだ六一階層に足を踏み入れて間も無い事もあって、四人はなんとか六〇階層に引き返せた。
「ぜぃぜぃぜぃぜぃ…だ、誰か解毒ポーション…持ってないの?」
「……ない」
「我も……ない」
「……」
「……ラッチ…あなた持ってるわね」
「ギクッ」
「寄こす…のよ」
「……ちょーだい」
「我にも…くれ」
「……ごくり」
「「「あ……」」」
「ふぅ~」
「まだ…あるでしょ」
「……ちょーだい」
「たのむ……」
「すみません、回復ポーションはまだひとつ残ってますが、解毒ポーションは一つしか持ってなくて」
「「「え……」」」
「そんな事より帰りましょう! そこに一階に戻れる魔法陣があるじゃないですか。皆さん行きますよ。ゴクリ」
「「「あ……」」」
「ふ~、このポーション、凄いです! レベルが上がったと思うんですけど、一気に全回復したみたいです!」
「「「……」」」
「さぁ! 元気になりましたし、行きますよ!」
「「「……」」」
カーシマシー・プラスワンの面々は息も絶え絶え一階に戻ったところで動けなくなった。一人を除いて。
その元気な一人がポーション類を買いに走り、パーティはなんとか全員回復できた。
ラッチがポーションを買いに走ってる時、大勢の取り巻きに囲まれた【三叉槍の魔法使い】が華やかに通り過ぎて行った。




