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第08話 スキル【クロスオーバー】


 再び周りを見回し、危険が無いかを確認した。

 殺気だったら分かるんだけど、気配察知みたいな便利な能力は持ってないからね。こうやって視認して確認するしかないんだよ。目は結構いい方なんだけどね。

 友達に手伝ってもらおうか……そうだね、それがいい。母さんもいっぱい使った方がいいって言ってたし。

 『クロスオーバー』の世界以外で使うのは初めてだけど、ちゃんとできるだろうか。

 まずは試しだ。何事もやってみないと分からないもんね。


 では……


 【クロスオーバー】ピッピ!


 もちろん声は発さない。心の中で唱えるだけ。

 すると、いつも通り地面に魔法陣が浮かび上がり、その中から門がせり上がってきた。


 この魔法陣だけは消せないんだよな。他の魔法陣と違って光を発さないタイプだからなのか、スキルだからなのか分からないけど、この【クロスオーバー】の魔法陣だけは隠蔽できないんだよ。


 魔法陣から現れた門には扉は無い。だから、どちらかと言うとゲートに近いイメージかもしれない。

 現れたゲートの高さは五〇センチ程度の小さいものだ。幅も三〇センチぐらい。小さい者を喚んだ時は、それに合わせてゲートも小さい。


 消費する魔力は大きさに比例するわけでは無い、喚び出す者の格やレベルに相当する魔力ガ消費されるのだ。

 例えば体格だけは大きなオークを喚ぶのと、半分程度の大きさ――― 一般の人間程度の大きさでも上級の精霊であるヴァルキリーを喚ぶのとでは、遥かに後者の方が消費魔力が多いのだ。



 ゲートが完全に出現するとゲートの奥に動きがあった。

 ゲートの奥からパタパタと羽音を立てて飛び出してきた小さな女の子。

 風の妖精シルフのピッピだ。

 スキル【クロスオーバー】とは、ゲートを作り出して『クロスオーバーの世界』から友達を喚び出すスキルなんだ。


「キズナ様ー!」

「ピッピ! よく来てくれたね」

「もしかして、わたしが一番目?」

「そうだよ、こっちに来て初めて使ったんだ。だから旅ではピッピが一番目だね」

「やったー! 嬉しっ! だったらサービスにいーっぱいお手伝いするよ!」


 このピッピもたくさんいる友達の一人だ。

 ピッピは妖精族の風部族、森ではよく一緒に遊んだうちの一人だ。


「ホント!? それは助かるよ。今、薬草を探してるんだけど、この辺に多いんじゃないかと当たりはつけてるんだ。でもよく知らない場所だから、もし分かるんなら一緒に探してくれない? ピッピはそういうの得意だろ?」

「なーんだ、それぐらい簡単よ! 採取も手伝ってあげるわよ! ポーション百本分ぐらいでいい?」

「あ、それがね、薬草のまま持って行かなくっちゃいけないんだ。だからここで精製はしないよ」

「え? なんで?」

「そういう依頼なんだよ」

「ふ~ん、面倒な事をするんだね。ま、いいわ、薬草はあっちね。付いて来て」


 スキル【クロスオーバー】。『クロスオーバー』の世界にいる友達を喚ぶ事のできるスキルだ。

 そのメリットは言うまでもなく、喚び出してお手伝いをしてもらえるのだ。

 それが戦闘だったり、今回のように探索だったり、色々な事を手伝ってくれるのだ。

 ただ、デメリットもある。

 そのデメリットが問題で、本当はあまり使いたくないんだけど、母さんにたくさん使いなさいと言われたので今回も使う事にしたんだ。


 そのデメリットとはゲートを作る魔力の他に、友達がゲートを通る時に僕の経験値が取られるのだ。

 だから本来なら僕のレベルは最低でも10はあるはずなのに、【クロスオーバー】を使った時に取られる経験値のためにレベルが1になってたんだ。だから今までにも魔物を倒した経験はあったんだよ。ダンジョンがあったからね。

 あそこの魔物達はなぜだか凶暴で、友達にはなれなかったんだよね。


 今回も、まずホーンラビットを仕留めたのは、レベルが1だったから【クロスオーバー】が使えなかったんだよ。

 今後は加護のおかげでレベルの上がりも早いはずだから、少しは【クロスオーバー】が使えるかな。

 だって、レベルが一つ上がる所を三つ上がったんだ。今までより少しは多めに使っても問題ないよね。


 そんな見積もりの甘い事を思ってるキズナであった。

 実際はレベルは3ではなく30だ。しかも喚び出した友達に戦闘で手伝ってもらえれば経験値は更に倍。【クロスオーバー】一回の使用でレベルが1下がったとしても、何ら問題は無いのである。

 更に付け加えるのであれば、レベル1から2に上がる経験値と、レベル30から31に上がる経験値は同じではない。

 レベルが上がれば上がるほど、次のレベルに上がるための経験値は多く必要なのは誰もが知っている周知の事実である。

 【クロスオーバー】で取られるのは経験値であってレベルではない。レベルが下がるのはキズナのレベルが低かったからである。

 今回もレベル30になったキズナがピッピを喚び出した程度ではレベルが下がる事は無かったのである。

 もちろん、鑑定のできないキズナがそれを知る術は無い。



 ピッピに先導されるままに付いて行くキズナ。

 背中には丸篭を背負い、手には【スラ五郎】を持っている。キズナの荷物は服を除けばこの二つきりだ。


「この辺が比較的多いかな。キズナ様、どうかな?」

「あ、うん。いいんじゃない? 必要な分はこの篭いっぱいでいいだろうし、ここなら十分採れそうだよ」


 キズナも目利きはできるので、周囲を見渡し合格を告げた。


「ピッピも手伝ってくれるよね?」

「当たり前じゃない。今日は一番目に喚んでくれたからサービスするって言ったでしょ。その篭いっぱいでいいなら私一人でもすぐに終わっちゃうよ」

「それはさすがに悪いから僕も一緒に集めるよ」

「いいのいいの。キズナ様は食事は済んだの? まだなんでしょ。そのウサギで料理するつもりだったんじゃないの?」


 ピッピが指摘したのは篭に入れてるさっき倒したホーンラビットの事だ。


「たしかに……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 たしかにそろそろお腹は減ってきたんだけど、まずは解体をしないとね。そのためには解体用のナイフがいるか。

 鉄を【スラ五郎】から少し取ろうかと思ったけど、ナイフの分ぐらいならこの辺でも採れるだろうと思い、地面に手を当て集積するとまぁまぁの魔力を含んだ鉄が集まった。量的にもナイフを作るには十分だ。

 別に鉄に拘ってなかったんだけど、これだけあれば鉄製のナイフが作れるぞ。

 木でも凄く圧縮させて刃の部分をキチンと加工すれば解体ぐらいはできるナイフが作れる。

 でも、折角適量の鉄が集まったんだから、精製して解体用のナイフを作った。

 近くの樹の枝を折り、そちらでは精製してナイフの柄を作る。

 刃と柄を合体させ魔力を通す。完成前にこうする事で、木製の柄を握った状態でも金属の刃にロスする事無く魔力を伝えることができるんだ。


 解体ナイフが完成すると、後は解体するだけだ。

 ホーンラビットなら一分と掛からず解体できるな。あとは料理だけど、鍋やフライパンが無いから直火焼きしかできないな。

 塩はさっき血抜きした時に精製して僅かだけど確保したからね。ちゃんと香草に包んで持って来たんだ。

 この香草があれば塩は少量でもいい味になるんだよ。


 枯れ木を拾い集めて魔法で火を点ける。

 あとは解体した肉を木に刺して焼くだけ。焼けたら軽く塩をふって香草を巻いて軽くだけ炙って、食べるだけだね。


「ピッピも食べる?」

「そうねぇ……記念に少しだけもらおうかな」


 妖精のピッピは普段から物を食べる習慣は無い。

 でも、食べれなくはないんで、僕が食べてる時はこうやって一緒に食べる時もある。

 食べると言ってもほんの少しだけだからホーンラビット一匹でも二人で食べるには多いぐらいだ。


 ピッピと二人で食べてると、何やら殺気が膨らむのを感じた。

 ピッピも同様に感じたようで、二人で目を合わせて肯き合う。


「あっちの方だよ」

 ピッピの示す方向は、僕が感じた方向と同じだ。


「ハーゲィさんが向かった方向だよ。大丈夫かなぁ」

「ハゲって誰?」

「ハゲじゃなくてハーゲィさん。僕をここまで連れて来てくれた人だよ。とってもいい人なんだよ」


 確かにハゲてたけど、本人の前では言わないであげてね。気にしてるといけないからさ。


「ふ~ん、それは心配だね。急ぐ?」

「うん」

「だったら……」

「うん、お願い。【ユニオン】しよう!」

「オッケー!」

「合体魔法!」

「「【ユニオン】!」」


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