第72話 やっと戻れた
いつも誤字報告ありがとございます
ハナノエさんとラッチ・テイカウトさんとのおかしな出会いの後はスムーズだった。
鉱山の町マインをスルーして行ける所まで走ってみた。
街道には他の通行者や馬車が行き交うので、少しセーブ気味に走った。
それでも、森の前線の町フロントラインに夕方に辿り着けたので、フロントラインで一泊し、翌日にランガンの町に戻って来れた。
フロントラインの町では宿で一拍しただけ。山を降りる時もそうだったけど、街道でも魔物とは出会わなかったからだ。
本当は、行き掛けの駄賃で冒険者ギルドで何か依頼を受けようかとも思ってたんだけど、山頂で発覚したレベル5。
さすがにレベル5でAランクの依頼を受けちゃダメだろうと、冒険者ギルドには寄らなかった。
ホント、ただ泊まっただけで、朝早くには町を出た。
なので、ランガンの町には昼前には到着した。
ようやく戻って来れたよ。ラピリカさんは帰ってるのかな? さすがにまだだろうな。
往復だけならそう変わらないかもしれないけど、王都で用もあるって言ってたからな。
メメジーさんも一緒だし、メメジーさんだって用があるだろうしね。
ランガンの町に着くと、門の前には多少の列があり、少し並んで入門した。
いつも不思議に思うけど、この入門待ちで並んでる人達って何処から来たんだろうな。
冒険者なら分かるんだ。『初心者の森』とか『初心者の草原』で依頼を受けたりするだろう。別の依頼もあったりするだろう。
でも、こんなに冒険者はいないだろうし、今は昼前だ。冒険者はまだ仕事中だろうしな。
だったら何者なんだって思うんだけど、よく分からない。
商人は何人かいるみたいだけど、ボロい服を着た人達も結構見かけるんだよね。
今度ハーゲィさんにでも聞いてみよう。
で、僕の番になると、門兵さんにビシッと敬礼されて「おかえりなさいませ!」って言われた。
う~ん…この町での僕の扱いって、今どうなってるんだろう。
町に入ると、まずは冒険者ギルドへ。宿は後回しにした。
今までのハーゲィさんと同じ宿でもいいんだけど、バンさんが泊まってるところも知りたかったし、もしバンさんがブラッキーさん達と同じ宿に泊まってるんなら僕もそっちに行きたいもんな。
そうだよ、ハーゲィさんには悪いけど、僕は【三叉槍の魔法使い】の一員だからね!
そして、目当てはすぐに見つかった。
門から直行で向かった冒険者ギルドに入ると、ちょうどブラッキーさん達が納品をしている所だったのだ。
すぐに声を掛けようかと思ったんだけど、それが無理だと誰にでも分かった。
「取り巻きが増えてる!?」
納品受付の窓口には大勢の人でごった返していた。
本来なら、そこに誰が入るのかも分からないし、ただ冒険者ギルドが混雑して忙しいんだって思うんだろうけど、背が高く他より頭一個以上突出したバンさんの顔が目立ってたし、取り巻きも何か見覚えのある人達が混ざってたからすぐに分かった。
この人達って、あまり防具を着けてないんだよ。
最低限の防具しか着けてないし、人によっては何の防具も着けてない。たぶん、取り巻き役の業務が終わったら別の仕事にすぐに戻れるようにしてるのかもしれない。
この人達って王家関係の職場の人達らしいから、取り巻き(護衛と見張り)をする以外だとこの町の何らかの業務に携わってるはずだから。
生粋の冒険者も何人かはいるんだろうけど、本職は別だろうからね。
この状況だと挨拶もできそうもないし、先に依頼でも見てから達成報告でもしようかな。
一応、ラピリカさんとメメジーさんの護衛依頼の仕事は達成してるからね。途中で免除されちゃったけどね。
少し期待して見てみた依頼ボードには、見知った依頼ばかりだった。
もう昼時だし、普段からも目ぼしい依頼は朝早くに無くなってしまうから、常設依頼ぐらいしか残ってないんだけどね。薬草採取とか、ゴブリン討伐とか、薬草採取とか、スライム討伐とか、薬草採取とか。
でも、一つだけ何故か護衛依頼が残ってた。理由はたぶんCランク以上って条件なのに、達成金は一週間の拘束で金貨一枚。ちょっと安いかもしれない。
Cランクと言えばダンジョンに入れるランクだ。
ダンジョンに一週間も籠れば金貨四~五枚は平均して稼げるはず。
護衛もパーティ単位での受注になるはずだし、一週間拘束で金貨一枚は割に合わないと思う。
僕みたいにパーティから外れて一人で受けられればまだマシなんだろうけど、あれは特殊な依頼だったからね。普通の馬車なら日数も掛かるし、もっとスピードも遅いだろうから魔物や盗賊に襲われる危険度も上がる。
何より牽いてるのが馬だ。ラピリカさんの馬車のように走竜が牽いてるんじゃないから、雑魚でも寄って来る。ラピリカさんの馬車の場合は、走竜にビビッて雑魚は寄って来ないって話だったもんな。
だけど、なんでこんなに依頼料が安いんだろう。
達成報告ついでに聞いてみようかな。
もちろん、この町に帰って来た一番の目的はパーティ復帰だから聞くだけね。
「すいませーん」
「あっ! キズナ様ではありませんか! お戻りになられたのですね。おかえりなさいませ」
んん? 僕ってそんなに有名だった?
受付の女性って、冒険者に対して“様”付けで呼ぶんでそこはいいんだけど、門といい受付といい、何か僕に対する雰囲気が変わってるんだよね。
僕のいない間に何があったんだろう。
「すぐに呼んで参りますので少しお待ちください」
そう僕に告げて、受付のお姉さんは奥へと引っ込んで行った。
ん? 呼んで来る? 誰を?
待つ事二〇秒ぐらい。呼ばれた人がすぐにやって来た。
「あれ? ラピリカさん?」
「おかえりなさいませ、キズナ様」
ちょっと待って? 僕の記憶が確かならば、ラピリカさんと別れてから三日ほどなんだけど。
別れてからヴェルさんとトゥーラと一緒に山越えをして、アジトでノスフェラトゥさんやバイトリさん達と合流して、その足で砦町を攻めたんだよな。
その晩は僕が料理を作って、次の日に町に買出しに行って地龍を倒した。
それで、二日目の晩に方針を決めて三日目にノスフェラトゥさん達を見送って、フロントラインの町で一泊して帰って来た。
うん、ラピリカさんと別れてから今日で四日目だ。
ラピリカさんとメメジーさんは鉱山の町マインから王都に行って、何か仕事をして帰って来るって言ってたよね?
王都まで何日掛かるか知らないけど、一日だとしても往復するだけで四日掛かるよ?
行って一日、戻るのに三日。うん、最低でも四日掛かる。
「あの、ラピリカさん? なんで帰って来れてるんですか?」
「日程の事ですか? それならマインの町からだと王都まで一日掛かるのですが、王都からこのランガンの町まではショートカットできるのです。森に沿って大回りで行って、円の直径の部分を帰って来る感じです。この町から王都までは一日半ぐらいで行き来できるのです」
そういうからくりか。だから僕より早く帰って来れたんだね。でも、王都の滞在期間は一日で済んだんだ。
メメジーさんもだけど、ラピリカさんも仕事で王都に行ったんだよね? 僕のランクがどうのこうのと言ってたと思うんだけど。
「という事でキズナ様、冒険者カードをください」
何が、という事でかは分からないけど、言われるままに冒険者カードをラピリカさんに渡した。
普段ですと、腕輪の方も確認させて頂いてるのですが、キズナ様ですから結構です。なんて言われちゃった。
何が、キズナ様ですからなんだろ。
ラピリカさんが手元の水晶玉+魔道具で何やらゴソゴソする事、十数秒。
「はい、これでSランクカードになりました。預かり金もご確認ください」
冒険者カードを返してもらった。
この貯金システムもこの町の冒険者ギルドでしか下ろせないから不便なんだよね。でも、コインで大金を持ち歩かなくて良いから便利ではあるんだよ。
普通の冒険者はそんなに町の移動をしないからいいんだろうけどね。
護衛依頼で他所の町に行っても、一~二週間で帰って来るんだし、そのぐらいの期間のお金なら持っておけるだろうしね。
「つきましては年に一度、王都でSランク冒険者の集いがあります。今年は来月に催される予定ですので、それには必ずご参加ください」
「Sランク冒険者の集い…ですか?」
「はい、Sランクともなると長期依頼も多くあるのですが、この集いに参加は絶対ですので、依頼中でも参加して頂かなくてはいけません。もちろん、依頼の失敗にはなりませんし、依頼者側にも周知されていますので依頼中に抜けても問題ありません」
Sランクにもなると色々と大変なんだな。別になりたくてなったわけじゃないんだけど、やっぱり行かなきゃダメなのかなぁ。
「私も同行しますので絶対参加でお願いします」
釘刺されちゃった。今のところ別に用事は……あるじゃん! 僕は【三叉槍の魔法使い】に戻るために帰って来たのにまた別行動?
まだ一ヶ月先らしいから、少しは一緒にいられるか。と、その前に合流だね。
「ところで、ひとつ気になってるんですけど」
「はい、なんでしょうか」
「さっきの受付の女性もそうなんですけど、門の兵士さん達も僕に対する態度が変わってませんか?」
「それはそうでしょう。もうキズナ様がSランクの冒険者だと全員が知ってますし、どうやってSランクになったのかも知ってますから」
「はい!?」
えーと、どゆこと? なんで知ってんの?
「私がギルドマスターの権限で、王都の冒険者ギルド本部名義を使って国全域にアナウンスしましたから。どの町でも入門時は優先して入れます」
おお! それは凄い待遇だ。でも、僕の事だから並んじゃうんだろうな。
「これはSランク冒険者の義務でもあります。必ず使ってください」
Sランク冒険者がいち早く町に入ると、それだけ冒険者ギルドでの依頼も早まるという意味で、入門時に待たせるのは得策ではないのだから早く入門するのもSランク冒険者の義務らしい。
「わかりました……」
「それと、【三叉槍の魔法使い】についてですが……」
「キズナ!」
「え? あっ!」
ブラッキーさんが僕を見つけて声を掛けてくれた。
同じ受付カウンターには並んでたんだけど、取り巻きの数が多すぎて顔も見えなかったんだ。
でも、今はブラッキーさん達の買い取りも終わったようで、帰ろうとした時に気付いてくれたみたいだ。
「キズナのお蔭で【三叉槍の魔法使い】はAランク相当扱いになったよ。でも私達もBランクに上がったからなんだよ? キズナには及ばないけど、私達も凄くないかい?」
SとBの間を取ってパーティランクはAランクなんだって。
ブラッキーさん、ホワイティさん、バンさんの三人でダンジョンを探索してるとは思ってたけど、Bランクに上がったって事は、結構深い層まで行ったのかな?
そのあたりは、今からゆっくり話せばいいか。僕もようやく帰って来れたんだからさ。




