第71話 別れと出会い
いつも誤字報告ありがとうございます
今から妖精と必殺技を編み出す修行に行くというヴェルさんに、くれぐれもスラスマッシュの事は内密にと何度も念を押し、僕は洞窟へと戻った。
食材は足りてるし、後は料理のできる獣人さんに渡せばいいでしょ。
毎日毎日、僕が作る事は無いもんね。
ピッピ達を『クロスオーバー』に還して洞窟に戻ると、1/3ぐらいの獣人しかいなかった。ざっと見て三〇人ぐらいだ。
他の人達は何処に行ったのか聞いてみると、ノスフェラトゥさんを探しに行ったようだ。
弟子入り志願に行ったんだろうな。
残ってる獣人さん達は、どちらかというと戦闘にあまり向かない種族の方達で、食材を渡すと早速調理に取り掛かってくれた。
薪はもう必要なくなった、町でコンロの魔道具を買ったからそれを使ってもらうんだ。
町で買って来た鍋などの調理器具も一緒に渡し、大甕に大量の水を水魔法で補充しておく。
後は、普段皆がいる部屋に行き、町で買って来た武器・防具を始め、服や雑貨を出して並べておいた。
無駄に体力が有り余ってる連中だから、これぐらいは運べるだろ。
さて、これで獣人さん達も一段落するだろうから、後は僕の予定だな。
そろそろランガンの町に帰りたいと思ってるんだ。だって僕は【三叉槍の魔法使い】の一員なのに、全然一緒に行動してないんだよ。
ブラッキーさん達が、今後どうするかは知らないけど、せっかくパーティになったんだから一緒に行動しないとね。今はバンさんも増えてるのに一度も四人で一緒に行動してないもんな。
少し待つと獣人さん達が全員帰って来た。
食事もタイミングよくできたようで、そのまま夕食になった。
食後、ノスフェラトゥさんもいたので今後について相談してみた。
「ノスフェラトゥさん、ノスフェラトゥさんは獣人さん達とこのまま森の奥に行くんだよね」
「そうですな。余の居城となった城に向かい、その近くにある森が拓けた場所がある。そこを獣人に解放しようと考えておる。獣人は種族ごとに部落を作るそうだが、初めは一纏まりがよかろうと思い、広く拓けた場所を用意した。余の同族達は明るいところが苦手であるからちょうどいいのだ」
確かに樹の無い拓けた場所って、昼間は明るいからね。獣人さん達はそういう所の方がいいだろうし、吸血鬼達は苦手だと。確かにちょうどいいかもね。
「それでね、僕はそろそろ町に戻ろうと思ってるんだ。そっちに付いて行かなくていいよね?」
「なっ!? キズナ様は余の本拠地にて盛大に持て成そうと思っていたのだが、来てくださらんのか!?」
「僕はほら、バンさん…というよりブラッキーさん達とパーティ組んでるからさ。そろそろ戻ろうかと思ってるんだよ」
「むむむ…バンの下へと向かうという事ですな。余の下を離れバンの下へと向かうと」
「なんか偏った言い方だけど、そうなるね。僕は【三叉槍の魔法使い】のメンバーだから普通にそうなると思うけど。でも、ノスフェラトゥさんにはノスフェラトゥの仕事があるだろ? 吸血鬼一族を纏めたり獣人達の面倒を見たり。特に獣人達については僕も関わってるからノスフェラトゥにしか頼めないかなって思ってるんだ」
「キズナ様から余への頼み事……余にしか頼めないと……」
関わった以上、やりっ放しはね。でも、僕が行けなくてもこっち側の人が関わってると責任放棄してない気になるからノスフェラトゥにしっかりと面倒を見てもらえれば気が休まるしね。僕の勝手な都合ではあるけど。
「くっくっくっく…はーはっはっはっはー! キズナ様! 大船に乗ったつもりでおられよ! このノスフェラトゥが見事やりとげて見せましょうぞ!」はーはっはっはっはー!
何故か、逆に心配になって来るのは気のせいだろうか。
「う、うん…せっかく助けた獣人さん達だからね。移住場所も提供してくれるみたいだし、自立できるまで見てもらえると助かるよ」
「お任せアレ! 無敵の獣人軍団に仕上げて見せますぞ!」
何の軍団か知らないけど、僕の知らないところでならいいかな。森の奥を主戦場にするみたいだしね。
獣人さん達も強さを求める種族みたいだし、ちょうどいいかもね。
「ほどほどにね。で、いつ出発する? 買出しは済ませたから準備としてはいいと思うんだけど、皆の体調はどうなんだろうね」
「体調は問題無さそうであるな。何やら岩石龍と戦った後から調子がいいと言っておった。あの程度の龍にやられる雑魚の体調などどうでもいいのだが、次は負けぬと言っておった気概は褒めるところではあるな」
まだ救出されてから二日目だし、服もボロボロだから回復状態が分かりにくいんだよ。
「じゃあ、二~三日後ぐらい?」
「明日でよかろう。このような不毛な場所でいつまでおっても無駄なだけだ」
「明日? それは早すぎない?」
「もう体調も戻っておるし、余の取り巻きがガードもする。全く問題ない」
取り巻きって…そういやムルムルさん達と砦町の外壁を攻撃してた奴らがいるって言ってたな。
どんな人達かは知らないけど、これ以上脳筋が増えるのも勘弁なので会わないで済むんなら会いたくないね。
「そっか、じゃあ明日の朝で一旦お別れだね。本当に任せたからね」
(獣人さん達の保護的な意味で)
「お任せくだされ!」
(キズナ様の従者の子分の末端として相応しく仕上げて見せます!)
僕達は笑顔で握手を交わし、その夜はお開きとなった。
翌朝、やっぱり心配だったので、樹の精霊ドライアさんに来てもらって保護を頼んだ。結構山で魔物を倒したし、岩石龍も倒したから経験値もそこそこになってるだろうとの判断からだったのだが、ここで失敗したのがこの世界で長居すると精霊クラスでもこっち側の住民になってしまうと知らされたのだ。
妖精だと弱いからそうなるのかと思ってたんだけど、最上級クラスでも無い限りダメなんだそうだ。
だったらシャードルさんを喚べって? 経験値が全然足りねーよ。
それでも一応ドライアさんに頼んでみたら、それとなくバレないように獣人さん達全員に二~三日で解ける加護を付けてくれると言ってくれた。
簡易的な加護だけど、森にいる間は強力な効果を発揮して護ってくれるらしい。
加護系はあまり習ってないんだよね。たぶん意図的に母さんが教えないようにしてたと思う。
『マリアの加護』を知られないように目論んだんだろうね。
皆を見送った後、ドライアさんを送還し、また鉱山の町マインを目指し出発した。
ヴェルさんとトゥーラは最後まで悩んでたよ。僕と一緒に行こうとしてた。
最終的にヴェルさんは同胞のエルフを里に送るために、トゥーラはコガネマルが強制的に連れて行ってくれた。
昨夜の内にコガネマルに頼んでおいたからね。返事は丸っとノスフェラトゥのノリと同じだったけどね。
「さて、見送りも済んだし、僕は僕でランガンの町に向かうとするか」
ブラッキーさん達は今何階層なんだろうな、なんて思いながら山に登ると不穏な声が聞こえた。
「……見つけた」
「え? 彼なんですか? 彼の事を探してたんですか? 私、やっと解放されるのですか?」
見つけた? 何を? 一体どこから聞こえ……いた! 山頂に着いた僕を、更に上空から見下ろす二人の女性がいた。
僕よりも少し小さい女の子が、僕よりも大きな女性を抱えて空に浮かんでいた。
すぐに戦闘体勢に入った。
普段からすぐに迎撃できるようには訓練されてるけど、不意打ちされるより身構えた方が迎撃が楽になるのは当たり前の話だ。
彼女達は敵だ。だったら何を見つけたと言うのだ。それはさっき見送った獣人さん達の事だろう。
何故なら、抱えられている女性は、砦町で見た兵士と同じ制服だからだ。
救出した…彼女達からすれば逃げ出したになるか。その獣人を追いかけて来たんだろう。
ここを通してはならない。彼女達をここから移動させてはならない。
だけど、彼女達は人間だ。目も赤くない。だからといって討伐対象では無いとも言い切れない。必要があれば倒す必要もあるだろう。
ここは腹を括るしかないな。
スラ五郎を実体化させ、上空をジッと見据える。
目には自信があるが、瞬間移動などされてしまえば気配で追う事はできない。
ただ、短距離転移の場合は結構分かりやすい。転移先を見る場合が多いからだ。
あの二人の女性が転移魔法を使えるかどうかは分からないが、油断をしていい事態ではない。色んな展開に備えるべきだ。
「……ん? レベルが5? ……なんで下がってる?」
「ぐはっぁあ!」
やられた! 会心の一撃を決められてしまった。
何なんだよ、この娘は! レベル5って、僕のレベルの事だよね? 鑑定持ってるの? 羨ましい…じゃなくて、そんなに下がっちゃった? ドライアさんの往復にどんだけ経験値を使ったか分からないけど、それでも体感的にまだレベル30はあると思ってたよ。
5? 僕の現在のレベルはたったの5ですか……
「……キズナ様?」
「え?」
ダメージを食らって地面に両手を付いてる隙に、いつの間にか二人の女性が降りて来ていた。しかも僕の目の前に。
全然分からなかった。この二人って全然殺気を感じないんだ。敵じゃないのか?
「なんで僕の名前を知ってるんですか? 僕にはローデンハルツ王国に知り合いはいませんよ。しかも様付けで呼ばれるような間柄ではないと思うのですが。」
「……聞いたから」
「えっと…誰にですか?」
「……シオンヌ様」
「……だれ?」
「……大婆様」
「えーと……だれ?」
「……知らない?」
「はい」
シオンヌ様……うーん習ってない。誰だろう。大婆様ってぐらいだからお婆さんなんだろうけど、全然知らないよ。
でも、敵として探してたのとは違うようだね。
「……じゃあ、テレーズ様」
「ごめん、知らない…です」
それからも名前を出してくるけど、誰一人として知らない名前だった。
「あの、君の名前はなんていうのかな? 一応、僕の事は知ってるみたいだけど自己紹介するとキズナって言うんだけど」
「……ハナノエ」
十五歳にしては背も低い方の僕より低いから、年下かと思って敬語も崩してみた。
「……私の方が年上」
「えっ!? 僕の歳を知ってるの?」
「……キズナ様は十五歳。二つ年上」
「十七歳! ですか!? 失礼しました」
「……ん、失礼」
年上だったのか。十七歳には見えないけど、本人が言うのだからそうなのだろう。素直に謝っておく。
「ところで、僕に何かご用ですか? 僕も特にヒマではないのですが」
「……パーティ、組む」
「えっ!? 僕とあなたがですか?」
「……そう。あと名前」
「あ、ハナノエさんでしたね……ハナノエ様の方がいいですか?」
僕の事をキズナ様と呼ぶぐらいだから、どこかの貴族かもしれないしね。
でも、パーティを組む? 僕と? 獣人解放とは完全に別件と考えてよさそうだ。
「……呼び捨てでいい」
「それは逆に呼びにくいのでハナノエさんでいいですか?」
「……それでいい」
「では、僕の事も年下みたいなのでキズナと呼んでください」
「……キズナ様」
「いえいえ、様は無しで……」
「キズナ様」
「うっ」
早く話せるんじゃないか。食い気味に来たからちょっと意表をつかれちゃったよ。
「最近、様付けで呼ばれるのも慣れて来たというか、元々慣れてるので構いませんが、別に様付けでなくても構いませんからね」
「キズナ様」
「……わかりました。では、話を戻しますが、申し訳ないのですが、僕は既にパーティを組んでまして、あなた…ハナノエさんの期待には応えられません」
「……わかった。そこに入る」
「「えっ!?」」
もう一人いた女性が僕と一緒に驚いたので、それにも驚いてその女性を直視してしまった。
彼女の方はというと、僕の方よりハナノエさんの事が気になってる様子だ。
「……なに?」
「いえいえ、ハナノエ様は既にパーティに入ってらっしゃるじゃありませんか。二つのパーティを掛け持つのですか?」
「……それもいいかも」
「よくありません! 私は軍の人間ですからあまり詳しくはありませんが、それでも事務官ですからある程度は冒険者ギルドの仕組みについても知っています。パーティの掛け持ちはご法度なのですよ。二つのパーティに登録すると冒険者ギルドから強制脱退されられるのですよ」
「……それは困る。こっちに入る」
「それは、ウータエ様とテルーエ様は承知なさってるのでしょうか」
「……別にいい」
「承知なさってないのですね。パーティを移籍する場合は、まず現在のパーティを脱退の上で移籍しないといけません。このままではどちらのパーティにも加入できなくなりますよ」
「……それは困る」
ハナノエさんは別のパーティに所属してたんだ。
そのルールは僕も知っている。一応、上辺だけだけど冒険者ギルドについても習ってるからね。
ここの世界の冒険者ギルドは局地的にローカルルールが多いから知らない事も多いんだけどね。
「探索後の夜にはお二方ともご一緒させて頂いておりますので、ある程度の事情は存じ上げております。お三方はご親戚で、この国で力を合わせて修行をされておられるそうではないですか。同年代で気心も合っておられるようですし、ハナノエ様はリーダーなのですよね? きちんと話し合われた方がいいと思います」
しかもリーダーなんだね。このハナノエさんがリーダー……しかも同世代……幼女パーティなんだろうか……
「……むぅ、困った」
「あの…こちらの方は?」
「……ラチ」
「ラチではありません! ラッチ・テイカウトです!」
「ラッチさん、ですか」
「はい、申し遅れましたが、私はローデンハルツ王国ゼッターバルン辺境伯領軍所属砦町常駐兵の事務官です。階級は曹長です」
「テイカウトさんですね、僕はキズナと申します。こんな山深い山頂で何をされてたのかは聞きませんけど、二人で僕を探してたんですね? 僕を捕まえるためですか?」
この二人から殺気を感じないので違うとは思うけど、それ以外の理由が思い浮かばないので、ストレートに聞いてみた。
今は僕一人だし、逃げるぐらいならできるだろう。レベル5でも、足には自信があるんだ。
「いいえ! 違います! あ、違わないけど違うんです! その…私もさっきまで捕らえるために探してたんだと思ってたのですが、どうやらハナノエ様は本気で貴方のパーティに入るために探してたんだと今わかりました」
「そ、そうですか。でも、僕の事情も分かってもらえましたよね?」
「はい、もうパーティに加入済みなのですね。パーティ名をお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、それぐらいなら。【三叉槍の魔法使い】というパーティで、女性二人と組んでまして、最近男性が一人追加されました。四人になってからすぐに個人で別案件…護衛依頼なんですけどそれを受けまして、別行動をしてました」
「……【三叉槍の魔法使い】……格好いい」
これぐらいの情報なら言ってもいいかなぐらいの話をした。
国が違うし、こっちの国での冒険者ギルド事情は知らないけど、バルバライド王国の冒険者ギルドは支店は別管理みたいなところがあるからな。こっちの国で下手に探られる事も無いと思う。
「【三叉槍の魔法使い】ですか、覚えておきます。さ、ハナノエさん。もういいんじゃありませんか? 帰りましょう」
「……」
「まずは帰ってウータエさんとテルーエさんに話をしないと何も始まりませんよ?」
「……わかった」
最後まで渋っていたハナノエさんだったが、ようやく折れてくれたようだ。
少しフォローだけしておくかな。
「何故、僕の事を知ってるのかはよく分かりませんでしたが、パーティの件も含めてまずは仲間とよく話し合ってください。僕はバルバライド王国のランガンという町を拠点にしていますので、何かあったら尋ねて来ればいいです。パーティに加入する件も僕の一存では決められませんので、尋ねて来てくださればメンバーと会って頂く事もできますから」
これだけ助け舟を出しておけばいいだろう。
初見の人に名前を知られていて、更に知らない名前の人から聞いたと言われても不気味な印象しかない。
悪い人では無さそうなので邪険に扱うのも可哀想だと思うけど、ここまで対応しておけばしつこく食い下がって来ないんじゃないかな。
異様な執着心も感じるし、邪険にしすぎてストーカーになられても困るからね。
「……わかった。すぐに脱退して追い掛ける」
そう言い残し、ハナノエさんはラッチ・テイカウトさんを抱き上げ飛んで行った。
あれは間違いなく浮遊魔法だね。
鑑定といい浮遊魔法といい、羨ましい魔法を持ってる人だね。
もしランガンの町に来る事があれば、教えてくれないかな。
でも、来たら平和ではいられないと思えるのは気のせいだろうか。




