第07話 ホントに合ってる?
ハーゲィさんから渡された袋を見て、やっぱり『クロスオーバー』とは違うんだなと、別の世界に来たんだと実感させられた。
薬草採取するのに袋なんて用意するんだね。袋というか、入れ物は森で作るものだと思ってたから全く眼中に無かったよ。
だって今までやってきた採取作業は、ある程度採取を終えるとその場で抽出までやってたからね。
抽出の容器? それはやっぱり錬金術だよ。
木を伐って作ったり土から陶器を作ったり、中でも一番多く作ったのは石からガラス瓶をよく作ったね。
すべて錬金術で作れるんだよ。錬金術も幅が広いからね。
そこまで出来て、やっと半人前だったんだけど、この世界だと違ったみたいだ。
いや、この世界の勉強もしたんだよ? ただ、かなりザックリとした感じだったから細かい部分までは分からないんだよ。
今回の依頼は薬草採取。回復薬の納品じゃない。だから薬草を持ち帰らないといけないんだけど、薬草って意外と嵩張るんだよね。
だから『クロスオーバー』ではその場で精製してたんだけど、回復薬にしてしまったら薬草は無くなるし、依頼失敗になるんだろうなぁ。
まぁ、それでも薬草を入れるものを作ればいいんだ。
籐の丸篭でいいだろ。隙間は多少できるけど薬草だから落ちないだろうし、背負うバンド…背負い紐? ―――ショルダーストラップって言うんだっけ? それさえ付ければ持ち運びも楽だしね。
薬草なんて篭いっぱいにしても軽いもんだしな。
―――三〇分後、一応ハーゲィさんに教えてもらった薬草? 僕は雑草だと思うんだけど、それは篭いっぱいに集め終えた。予定の五〇株以上は入ってる。山盛りだからね。取りすぎてはいないよ? ちゃーんと、次にまた生えやすいように剪定して、これだけの数を採ったんだよ。
ま、雑草だしね。こういう感じの剪定をすれば、同じぐらいなら一週間も掛からずに生えてるよ。
でも、本当にこれでいいのかなぁ……こんな雑草ではある程度の効能の薬は作れそうだけど、大した効果は望めないと思うんだけどなぁ。本当に合ってるのかなぁ……
いやホント、この雑草から抽出して作った回復薬だったら、上手く抽出できても切り傷や捻挫程度しか治せないと思うよ。
もしも、もしもだよ? やっぱりこれは雑草でした、依頼失敗ですってなったら……ダメダメダメダメ! それだと達成料は勿論もらえないし、依頼失敗で違約金が発生するって言ってたよ! 僕は今まったくお金を持ってないんだ、そんなヤバい橋は渡れないよ!
だったらどうするか。そりゃ薬草のあるとこに行くしかないでしょ!
薬草でいっぱいになった籐の丸篭を目立たない木の陰に置き、もう一つ籐の丸篭を作成。
その篭を持って森の奥へと足を踏み入れた。
もうこの周辺は探しつくしたが薬草は見当たらなかったのだから仕方が無い。ハーゲィさんの言ってた雑草は確かに多くあったね。
ハーゲィさんと入れ違いになると困るので、ハーゲィさんが進んだ方向に進みながら薬草を探した。
やはり、奥に行くほど薬草が生えてるみたいだ。ここに来るまで五株見つけたよ。
こんなもんじゃ、全然足りないからまだまだだ。
で、さっきから気になってたんだけど、地面や樹から黒い湯気のようなものが立ってるんだ。
受付のラピリカさんや魔術統括のギルバートさんから出ていたアレだ。
こっちの方がやや濃いめだけど、視界を阻害するほどじゃない。ただ、湯気を出してる場所を見てみると、どうやら魔力じゃないかと思い当たった。
地面には魔石の欠片というか、欠片とも呼べないほど小さな粒があったり、樹は魔力を吸収した方がよく育つ種類のものだったりしたので、多分この黒い湯気のようなものは魔力じゃないかと思うんだ。
という事は、ギルバートさんは魔術師だけど、ラピリカさんも魔術師だったのかな?
そうなると、武術担当のアルガンさんから出ていた黄色い湯気は何だったんだろう。
そもそも僕には魔力を視認できる能力なんて無かったんだけどな。世界が変わった事で見えるようになったのかな?
まぁ、今はいいや。今は薬草だ。
さっきのとこで時間が掛かっちゃったし、折角だしアレを使っちゃおうか。母さんも沢山使えって言ってたしね。
でも、その前にやっておかないといけない事があるんだよね。
周囲を見渡し、何か獲物がいないかと探すキズナ。
「お! あれならいいかな?」
キズナの視線の先には一匹のウサギがいた。
しかし、普通とは違い、そのウサギには角が一本生えていた。ホーンラビット、魔物だった。
身体も一般のウサギに比べて二周りは大きいだろう、そのホーンラビットを見つけると、ちょうど向こうも気付いたようでキズナと目と目が合う。
そして、さっき修練場で作った鉄棒【スラ五郎】を構える。
自分としては土に還そうと思ってたのだが、今のところ武器も無いし持ってた方がいいだろうとハーゲィさんからアドバイスされ持ってきたのだ。
ホーンラビットの方はというと、キズナの事をカモだと思ったようだ。
レベル1とはいえ、体力・魔力・気力は相当あるキズナだが、普段は力を抑えていて見た目では弱そうにしか見えないのだ。
魔力制御もしっかりとできているので、魔力量で強さを判断するホーンラビットからしても、キズナの事は雑魚にしか見えてないのだ。
ザッ! っと地面を蹴りキズナに迫るホーンラビット。通常のウサギのそれとは大違いのスピードだ。
だが、キズナにとっては問題なく対処できるスピードでしかない。先ほどのアルガンさんの剣速に比べても1/10程度のスピードも無いだろう。
ヒュッ! っと【スラ五郎】を横薙ぎに一振りすると、バスッ! とホーンラビットに命中。ホーンラビットはそのまま吹き飛ばされ、近くの樹に激突した時には既に絶命していた。
「けっこう加護を付けてもらったから、これでレベル3ぐらいにはなったかな? いや、この感じだとレベル4ぐらいかな?」
キズナは旅立ちの三ヶ月ほど前あたりから母マリアの要望で、たくさんの精霊や龍などの亜神と呼ばれる人達から加護を受けていた。
その数なんと五〇(仮)。(現在は一つ)
加護が一つでも付けば、自分の能力が倍、若しくは倍以上になると言われている加護。
他にも毒無効や眠り耐性、水中呼吸などの加護もあるが、通常の者では与えられる事の無いものだ。が、それをキズナは五〇も付けてもらったのだ。
一応、本人の希望では無い事は付け加えさせて頂こう。母マリアの要望なのだ。
世界の頂点であるマリアの要請を断れる者など、『クロスオーバー』の世界にはいない。
要請を受けた者が皆、キズナに加護を与えた結果、五〇の加護を受ける身となってしまった。
だがそれも、最後にマリアが加護を与える時に操作して、色々と弄くり倒した上で『マリアの加護』に一纏めしてしまったのだ。
だから現在のキズナのステータスには加護が一つだけの状態になっている。
しかしキズナには鑑定能力が無い。自分のステータスも見る事ができない。だから現在のレベルも分からないのでホーンラビットを倒した時に漲る力を感じた感覚からレベルを想定したのだ。レベル2という事は無いだろうと。
加護の事は実際に各種族の長達に会ってもらっているので、キズナも加護を与えられている事は知っている。だから、レベルアップ時に感じた感覚の少し水増しした予想でレベル3~4だったのだが、キズナは母マリアを甘く見すぎていた。
経験値取得補正やレベルアップ率倍化の加護をいくつも重複して与えられた結果、現在のキズナのレベルは30に達していたのだ。
(現在はマリアの加護一つに纏められているが、重複する内容の加護は減らさずにそのまま与えられている)
魔物の中では雑魚に分類されるホーンラビットを一匹倒してレベル30。レベルの低い内は早くレベルが上がるというが、あまりにも規格外すぎる。マリアの過保護度合いが窺い知れると言うものだ。
倒したホーンラビットは血抜きのために一時放置しておいて、先に薬草採取に取り掛かろうか。
せっかく倒したんだからね、あとで美味しく食べてあげるよ。