第69話 技名
いつも誤字報告ありがとうございます。
「キズナ様ー? 何かおかしいよー?」
「うんうん、あっちの方が何かおかしいね」
ピッピとキラリちゃんに言われた方角に目を向けると、大木が何本か飛び散るのが見えた。
飛び散るって、どゆこと? あれって五〇メートル級の大木だよね。あんなのが何本も吹っ飛んでるのっておかしくないか? さっきシルバーファングと戦ってたタイラント・ボアが吹っ飛ばした大木より大きいぞ?
「あ、これヤバイやつだよ。たぶん地龍クラスだ」
「マジマジ!? ホントだ! まだいたの?」
「でも、この感じ…他にも何かいるよね?」
「うん、いるいる」
「弱いのが沢山いるね」
「あれって、昨日助けた雑魚達じゃない?」
「そうかも! でも、大丈夫そう。大きな猫がいるから何とかなりそう」
「そうかなぁ。あの猫、誰かを護ってて攻撃に参加してないよ?」
むぅ…みんな何で分かるの? 樹が邪魔で僕には見えないんだけど。
派手に吹っ飛んでる樹のお蔭で戦闘があるのは分かるんだけど、誰と誰が戦ってるなんか分からないって!
ポットちゃんとパンくんが作ってくれた美味しい食事も済んだし、ウーリンにはポーションをもらったし、ノムヤンにはインゴットに加工済みの希少金属をもらった。
だからもう行ってもいいんだけど、食後すぐってあんまり動きたくないよね。
今は食休みも兼ねてみんなが担当してくれたものの確認中だし。
この山って、ホント手付かずだったんだな。薬草といい山菜といい鉱石といい、上級のものが豊富にあるよ。
ただノムヤンには、これはスラ五郎ではなくて、補助武器作成のために使って欲しいと言われた。
そうは言ってもさ、スラ五郎で地龍も倒せるし問題ないんだよ。その後も歪だってないしさ。もう、スラ五郎は相棒みたくなってて手放せなくなってるんだよ。
とりあえずで作った武器なのにさ。
昨日もシャードルさん達がバージョンアップしてくれて、益々手放せなくなったよ。
だからか? だから補助武器なのかな? でも、スラ五郎のバージョンアップのお蔭で長距離攻撃のための魔法も威力を増したし、死角無しって感じなんだけどな。
あとは……複数相手? それも魔法で何とかなりそう。
「キズナ様? 行かなくていいの?」
「え?」
「たぶん、昨日助けた人達が戦ってるよ? せっかく助けたのに死んじゃうよ?」
「ええ!?」
「相手は岩石龍みたい。あの人達って武器無しだから逃げ回ってるけど」
「えええ!?」
「岩石龍って動きは遅いけど硬いし岩を飛ばすでしょ? あ、今も岩石龍の飛ばした岩で何人か倒されちゃった」
「ええええ!」
本当に誰かが倒されたのか分からないけど、樹が何本か吹っ飛んだのが見えた。
これって妖精達が言ってるのが本当って事だよな。
岩石龍と戦ってる昨日助けたって……獣人達じゃん! なんでそんな大物と戦ってるんだよ! お前達武器無しで素手じゃん!
何人かは「武器なんかいらねー、拳で十分だ」とかほざいてたけど、岩石龍相手に通用する訳ないって!
「ヤバいじゃん! なんで逃げてないの? 岩石龍って動きが遅いから獣人達なら逃げられるでしょ!」
「知らなーい、バカなんじゃないの?」
そうだった…奴らアホだったわ。「ぐわっはっは! 俺の拳の威力を見せてやる!」ぐらい言ってそうだ。
「じゃあ、僕は助けに行くよ! みんなはどうする? 還るんなら先にゲート出すよ?」
「キズナ様が倒すんなら見てくー」
「うんうん、いつものあれって何て技なの?」
「あの頭にゴーン! ってやつだよね! キズナ様、なんて技なのー?」
「あれ格好いいよね! 私も技名知りたーい!」
「きっと格好いい名前なんだぞ!」
「必殺技だもんねー」
えーと……技名? なんの? ゴーンって地龍や、さっきのタイラント・ボアを倒したやつ?
技名なんて無いよ? 確かに一撃で倒したから必殺ではあるけど、ただの上段からの力任せの振り下ろしなんだけど。
わくわく爛々の瞳で見つめてくる妖精達。
これ…技名が無いって言えないぞ? 言える雰囲気じゃないぞ? どうする、僕。
大ピンチだ。
「えーと……」
わくわくわくわく
どきどきどきどき
うん、無理だ。何か言わないと……
「スラ……」
「「「スラ!!」」」
「スマッシュ?」
「「「スマッシュ!!!!」」」
「「「スラスマッシュー!!」」」
「格好いい! ねぇねぇどんな意味?」
「僕も真似るー!」
「す~ら~…」
「「「スマーッシュ!!!!」」」
キャハハハハハー
やってもうた。これアカンやつや。黒歴史を作った瞬間や。
ガックリと項垂れる僕にピッピとキラリちゃんが止めをさす。
「あそこの岩石龍にも使うんでしょ~?」
「当然よ! 技名も大声で言うんだから!」
言わねーよ!
「だったらみんなで一緒に言おうよ!」
「「「言おう言おう!」」」
だから言わねーって!
「「「す~ら~……」」」
「「「スマーッシュ!!」」」
きゃはははははー
……ノリノリだな。
やってしまった後悔で脱力状態になってしまったが、妖精達に引っ張られ助けに行く事になった。
うん、行かなきゃいけないと思うんだけど、まったくやる気が湧き出て来ない。
言うの? 大声で? 『スラスマッシュ!』って叫ぶの?
そんなの詠唱より恥ずいって! そんなの絶対ヤダ!
絶望の中、現場に着いてみると、妖精達の言ってた通り、そこには岩石龍がいた。
状況はすこぶる悪い、タイラント・ボア VS シルバーファングの初見の状況より酷いものがある。
吹き飛ばされ死屍累々とする獣人達に対し、対峙している岩石龍はほぼ無傷の状態だ。
周囲は岩石龍の仕業だろう、樹々は薙ぎ倒されていて更地のようになっている。当然、薙ぎ倒された樹々は途中から折れているから切り株部分は残っているが、視界が開けているから更地のような印象を受けた。
これって、何人か死んじゃってるんじゃ……
「へぇ~、獣人ってこっちも頑丈なのね。私達のとこの獣人は頑丈だけど、こっちはもっと弱いと思ってた」
「だね~。みんな一応生きてるね」
生きてるの!? だったら早く回復を!
「ウーリン! ポーションは!?」
「薬草があれば作れるけど……」
そうか! さっき作ってもらったから、収納袋に入ってる。これをみんなに配って……
「キズナ様ー! 先にやっつけちゃおうよ!」
「雑魚は大丈夫! まだまだ余裕がありそう!」
「今なら隙だらけだよー!」
雑魚雑魚って、最近口が悪くなってるよね。誰の影響だよ。可愛い見た目が台無しになってるよ。
でも、獣人さん達にまだ余裕があるんなら、もう少し辛抱してもらって先に岩石龍を倒した方が……いいのかな、怪我してるんなら辛くないか?
「雑魚は気絶してるから今のうちだよー」
「大きな猫も期待して待ってるみたいー」
「意識があるのはバカの王様だけだから問題ないよー」
「そうそう、この戦いを始めたのって、あのバカの王様だから自業自得だよー」
みんな何でも知ってるんだね。どこ情報なんだろ。一緒に食べてたよね?
「キズナ様ー!」
「「「キズナ様ー!」」」
「「「必殺技ー!」」」
ちっくしょう! やっぱりやらないとダメなのか。
はっ! そうじゃん!
ピコン! と、頭の上に60Wの白熱球が光った! 閃いたとも言う。
キラリちゃんが先導してるようだから、キラリちゃんを合体しちゃったらいいんじゃね?
ピッピもその片棒を担いでるようだけど、キラリちゃんさえ抑えちゃったら皆して言わないだろ。
よし! それで行こう!
「キラリちゃん、合体しよっか」
「ホント!? するするー! 久し振りかもー!」
「えー! キラリだけズルーい! 私もー!」
「僕もー!」
「私だってー!」
「……最近してもらってない」
キラリちゃんに合体を提案したらみんなが手を挙げた。
凄く嬉しいんだけど、一人しかできないからね? 今回はキラリちゃんに譲ってほしいなぁ。主に僕のために。
「キズナ様ー! みんなと合体すればいいじゃん!」
「そうだよそうだよ!」
「やろやろ!」
「それいいね!」
「……ひさしぶり」
え? できるの? いやいや、複数の相手と合体した事ないんだけど、できるの?
「できるよー」
僕の心を察したピッピが言って来る。
いや読むなよ。っていうか、なんで僕のスキルの事なのにみんなの方が詳しいの? おかしくない?
先日、還ってからシャードルさんとシャイニーヌさんに言われたそうだ。
「あなた達はよく喚ばれるみたいだから教えておくけど、もうキズナ様は複数と合体できるようになってます。次に行った時にはみんなで合体してもらいなさい」だって。
そういうのは、こっちにいたんだから直接僕に言ってよね! 自分のスキルの事なんだから、人から聞くのは恥かしいって!
でも、今は置いとこう。
「何人とできるか分からないから、いいっていう子だけね」
「「「ハーイ!!」」」
……全員返事しちゃったけど大丈夫だろうか……ま、やるだけやってみて、できなければ不発に終わるだけだろうしね。だよね? 爆発とかしないよね?
「行くよー」
「「「いいよー!!」」」
「合体魔法」
「「「【合体】!!!!」」」
おおおおおおおお!! なんだこれ!
全員と合体できちゃったのもビックリだけど、この溢れ出てくる力はなんだ。今ならデコピンで岩石龍が倒せそうだ。
ならさっさとやっちゃおう。初めての複数人との合体だし、どんな副作用があるかも確認しないと。【リリース】してみないと分からないからね。
念のためスラ五郎を出して、ジャンプに備えてタメを作った。
「す~ら~……」
ちょーっと待てい! 何故声が出る! 今、自分でスラスマッシュって言いかけたよね? 合体中はみんなは眠ってる状態になってるはずなんだけど。
っていか、そもそも僕の口から出てくるのがおかしくないか?
もう一度膝を曲げ溜めを作る。
「す~……【リリース】!」
合体が解除され僕の周りに妖精達が現れた。みんな特におかしなところは無さそうだ。
僕の方も体調に変化は無さそうだ。
「もう倒したの?」
「あれ? まだ岩石龍いるよ?」
「あれ~? だったらなんで【リリース】しちゃったの?」
あれあれと戸惑う妖精達だったけど、あのままだと思いっきり叫んじゃうところだったから【リリース】したんだ。
作戦失敗だな。
「キズナ様?」
「え、あー、やっぱりえーと、その…僕自身の力を、そう! 今の僕の力を試そうと思ってね。それで【リリース】したんだ」
「そうだったんだー」
でも、やっぱり合体中は意識が無いみたいだ。だったらなんで『スラスマッシュ』って言いそうになったんだ? 僕の願望? ないない! そんなのない!
妖精達の潜在意識に引っ張られた? その方が辻褄が合いそうだ。
でも、そうなると必殺技を叫ぶ対策が……ピコン!
今度は100Wの白熱球ぐらい閃いた!
そうだよ、みんなが言っても僕にしか聞こえないんだよ! だったら僕さえ黙ってれば誰にも聞こえないって!
よし! 今度こそそれで行こう! ノリノリで行って、みんなにだけ言ってもらえばいいんだよ!
「よし! みんな待たせたね。行くよ!」
「「「おおっ!!!!」」」
みんなを見て声を掛けた。
最高の返事が来た。やっぱり技名を叫ぶ気満々なんだね。
でも、こっちには作戦がある。僕が言わなければいいだけなんだ。そんな事はおくびにも出さず心の中だけでほくそ笑んで、岩石龍目掛けて地を蹴った。
「「「す~ら~」」」
やっぱり言うんだ。
僕は諦めの境地で、しかししっかりと止めを刺すべく岩石龍の頭にスラ五郎を振るった。
「「「スマーッシュ!!」」」
ゴ――――ン!!
きゃはははははー!
防御力頼りの岩石龍は元々鈍い。反射神経も鈍い。
同レベル帯の龍にだってダメージを負わないのだから、俊敏性などいらないのだ。
だから隙を突かずとも簡単に頭を叩けた。
ズズーン!
一撃だった。
「やったー!」
「さすがキズナ様ー!」
「必殺技~!」
「スラスマッシュ~!」
「すらすま~」
みんなご機嫌だね。あとは…誰も見て……たわ。しかも三人も!
トゥーラとトゥーラの親父と、それとヴェルさん。あんたもいたんだね。
トゥーラはコガネマルが護ってて、長はしぶとく気絶せずに頑張ってた。ヴェルさんはというと、木陰から少しだけ顔を出して戦況を見守ってたようだ。
三人ともキョトンとした表情で呆けていた。




