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第68話 森の中の決闘


 翌朝も朝食は僕が担当した。

だって昨夜の話で獣人さん達にやってもらう事にはなったけど、食材は僕しか持ってないからね。


 朝食を済ませると、参謀さんが獣人さん達に説明をし、僕を除いた全員で狩りや採集に出掛ける事になった。

 皆さん体調はすこぶる良いみたいだ。

 長も全体の流れと狩りについては理解したようで、狩りと聞いて張り切って先頭になって出て行った。

 僕が何者か、僕が今日なぜ別行動なのかも参謀さんが説明してたようだけど、そこまではキャパオーバーだったみたいだ。

 だって目が死んでたもん。あんな濁った目を見たのは初めてかもしれない。


 でも、狩りなら獣人達に任せればある程度数は揃うかもね。

 『クロスオーバー』の世界でもそうだったけど、獣人って魔法を使う人達がほぼいなかったけど、その分体術に優れた種族だったんだ。

 気力使いも多くて、種族特有のスキルを持った獣人も多かった。

 ここにいる獣人さん達のレベルがどれぐらいか分からないけど、あれだけ自信があるんだ、食い扶持ぐらいは確保してくれるでしょ。

 ノスフェラトゥさんもいるし、少し実力不足かもしれないけどヴェルさんもいるしね。

 あと、コガネマルも周辺警戒をしてくれてたから、高ランクの魔物もいないだろ? 先日も近場の龍はムルムルさん達にタコ殴りにされた挙句、僕の経験値になってくれたしね。

 フラグのように聞こえるかもしれないけど、フラグじゃないからね! って言うと余計にフラグっぽくなるからこれぐらいにしておこう。


 さて、僕はその間に買い出しだね。

 今回は一人だし、普通に走って行けばいいかな。たぶん、一時間ぐらいで行けると思うし。

 獣人さん達を見送ったその足で、そのまま山越えを敢行。三〇分ほどでマインの町に着いた。

 ちょっと張り切りすぎちゃったか。だって山越えなんて頂上まで一足飛びで、麓までも一歩で跳べたんだから後は街道を走るだけだもん。

 レベルは下がったはずだけど、これぐらいはレベル一〇にも満たない『クロスオーバー』時代からできてたからね。ちょっと魔法を併用するとこれぐらいはレベルが低くてもできるんだよ。

早い分には問題ないでしょ。


 入門チェックはすんなりと通され、冒険者ギルドへ。

 まずは依頼達成報告と、龍素材を買い取ってもらおう。

 依頼達成分で買い出し分には十分だけど、今は収納袋があるからね。お金の分はジャケットの内ポケットに入れられるようになったし、手持ち金も持っていたいと思ってたところなんだよ。


 ヴェルさんからの依頼達成分である白金貨十二枚を受け取り…十二枚? 多くない?

 これって、あの時僕とラピリカさんとメメジーさんとヴェルさんとトゥーラで分けた分で一人白金貨六枚だったけど、ヴェルさんとトゥーラの二人分の全額じゃないか。

 ヴェルさん……分け前を寄越せって言ってたのは本当に手持ちが無かっただけで、自分に必要な分じゃなくて依頼金のためだけだったんだね。

 だったらその分で、沢山買って行くよ。


 先日、僕の経験値になってくれた龍素材を冒険者ギルドに預け、査定をしてくれる間に買い物を済ませに待ちに出た。

 この町は、今回の買い出しに非常に適していた。

 鉱山の町である事と鍛冶職人であるドワーフが多い事で、必要なものはすぐに揃った。しかも大量に。

 欲を言えば、もうちょっと衣類が欲しかった。それでも一人あたり二~三着分の衣類と、上下四~五組の肌着を買い揃えられたから何とか行けるだろ。

 ドワーフってちっちゃくてズンぐりしてる体形だから、今いる身体の大きな獣人のサイズを探すのに苦労したんだ。


 ナックル・剣・槍・弓矢の武器や盾・籠手・胸当て・ブーツなどの防具に、鍋やフライパンの生活用具、斧・鉈・鋸・ハンマー・大量の釘などの建築道具など、必要だと思ったものは金に糸目をつけず、大量に買い集めた。

 食器、テーブル・椅子などの雑貨も大量に購入。凄いよね、収納袋があるだけで、こんなに持ち運びが楽だとは。

 今まで一人分でよかったから、ここまでとは思わなかったよ。


 服以外は百人分以上の買い物をしてしまった。

 それでも白金貨一枚程度。まだまだお金にも余裕があるし、収納袋にも余裕がある。もう町ごと買えるんじゃないかと錯覚してしまうよ。


 満足な買い物を終え、冒険者ギルドに戻ると精算も終わっていた。白金貨一六〇枚だそうだ。

 今回の買い物では一番苦労した白金貨の両替。何処に行っても受け付けてもらえなかったのだ。

 金貨ですら受け付けてくれない店もあったので、白金貨六〇枚は金貨に両替してもらった。

 金貨なら八割ぐらいの店なら受けてくれたから銀貨にまでする必要は無いと考えた結果だ。

 量は嵩むが内ポケットに収納するだけだからね。全然問題なしだ。


 冒険者ギルドでは受付窓口だけで事が終わり、マスタールームに連れて行かれる事も無く、テンプレに出食わす事も無くスムーズに終わった。

 そして、町を出たのは、まだ昼を少し回った頃だった。


「いや~、予想よりも早く終わったな。帰りには薬草を少し採取して、できればレベルも少し上げておきたいな。このままだと誰も喚べないしね」


 まず街道には魔物が少ないし、いたとしてもレベルが低いので一気に駆け抜けスルーした。

 山の麓まで魔物に会わずに(会ってたとしても速すぎてスルーして)来たので、そのまま山に入った。

 ここからは薬草採取しながら(赤目の)魔物を倒して行く予定。


 山に入って驚いた。そこは山菜の宝庫だったのだ。

 街道は山に突き当たり、森と逆側の西へと向かって延びている。山を迂回するように街道が作られていた。

 昨日は、街道を無視してコガネマルに乗って山越えをしたわけなんだけど、麓付近に町や村は無かった。

 という事は、この付近の山中は人の手付かずで放置されていたのだと、普通に思い至った。僕は獣人とはデキが違うのだ。


 キノコや山菜の種類も雑多で、山頂に向かうほど希少なものが見つかった。

 薬草も山頂付近の方が効果の高い物があった。

 あれもこれもと採取して行く内に、いつの間にか山頂を越えていた事に気付いた。

 採取に夢中になっている内に、アジトを眼下に捉えられる位置まで来ていたのだ。


「夢中になって採ってたな。途中でオーガがいたけどメッチャ弱かったし、山菜や薬草も豊富な山だから、ここにはまた来たいね。と言っても、山頂付近だけだね。中腹より下は『初心者の森』の浅い部分と同程度のものしか無かったしね」


 そう、何度かオーガに襲われたんだ。でも、僕のスラ五郎の敵では無かったよ。

 山頂近くに集落でもあったのか、最後は結構な数の群れで襲って来たけど、危なげなく返り討ちにしてやったよ。

 これも、もしかしたら討伐達成になるかもしれないと思って収納袋に収めている。

 どこが達成部位か分からないから仕方が無い。冒険者ギルドルールは上辺しか分かって無くて、細かいところまでは覚えてないんだ。というか、聞いてない。

 でも、収納袋にはまだまだ余裕がありそうだし(どのぐらい入るようになったのか予想もつかない)、冒険者ギルドで出して見てもらえばいいと思うんだよね。

 だって、黙ってても冒険者カードの履歴でバレるんだもん。だったら素材として売った方が得だよね。


 元々、薬草採取メインで考えてたし、ダンジョンなんかは魔石採取だけだからね。覚える必要が無いと思ってたんだよ。

 でもこれで妖精ぐらいなら喚べるようになったはずだし、久々に喚んでみよう。


「『クロスオーバー』ピッピ! キラリ! ウーリン! テン! ノムヤン! カゲール! ポット! パン!


 むふ~、一気に八人も喚んじゃった。

 オーガ一体で一人喚べる計算として、軽く百以上は倒したから余裕じゃないかと思ったんだけど、思った通りまだまだ余裕があるような気がする。

 還す分もあるから、これぐらいに留めておくけどね。


「「「キズナ様ー!!!!」」」


「うん、昨日ぶりだね。もうシャードルさんクラスの人は喚ばないでね」


 これを伝えるためによく喚ぶ子達を喚んだんだ。

 お任せにしてしまったとはいえ、さすがにあのクラスを喚ばれると僕の経験値がもたない。


「どうして~? 大婆様クラスをもっと喚びなさーいって言われてるよー」

「そうそう、マリア様が言ってたよー」


 また母さんか…そりゃ、大物クラスを喚べばそれだけ腰にある短剣が早く成長する。

 だから言ってるのだろうけど、僕のレベルがねぇ。

 何度も低レベルにされるのは勘弁して欲しいんだよ。

 まだこの世界に来て三ヶ月ほどなのに、短剣だった母さんの剣は、既に七〇センチぐらいある。もう短剣とは呼べないほど成長していた。

 片手剣、ショートソードぐらいかな?

短剣を直訳するとショートソードなのに、長さも用途も違うよね。

 短剣は補助武器とか儀礼用なんかで用いられるけど、ショートソードは片手に盾を持って、利き腕で剣を持つ場合に使われるよね。

 短剣は片刃のものが多いし、ショートソードは両刃が多い。同じ言葉なのに使われ方が違うって不思議だ。


「母さんの言葉はこっちでは聞かなくていいからね。じゃないともう喚ばないからね」


「「「わかった!!」」」


 この喚ばないって言葉、卑怯だけどよく効くね。

 でも、こうでも言っとかないと、また喚ばれちゃうじゃん。僕のレベルのためにも引けないところなんだよ。


「お願いする時は僕が喚ぶから、みんなが喚ばなくてもいいんだよ」


 と、フォローを入れておく。


「「「わかったー!!」」」


 いい返事だけど、母さんの前でもいい返事をしてるんだろうな。


「じゃあ、この話はもう終わり。折角来てもらったんだから、みんなで素材採取して、みんなで料理を作ってたべよう」


「「「やったー!」」」


 する事が分かれば行動は早い。みんなは役割分担して散って行った。

 ピッピとキラリちゃんとテンくんは山菜と薬草採取へ。

 ノムヤンは鉱石関係の素材採取へ。

 カゲールくんは四人の荷物持ち係。

 ウーリンは採取された薬草を精製する準備。さっき採取した薬草も渡しておく。

 ポットちゃんとパンくんも料理のための準備。こちらもさっき採取した山菜と、保険のために龍肉の在庫を渡しておく。

 僕は肉系担当だ。鹿か猪でもいれば全員に行き渡る量が確保できるんだけどなぁ。


 一度、山頂に戻り周辺を見渡す。大物狙いだから、樹を揺らすほどの奴を見つけたい。

 気配は分からないけど(殺気は分かる)目には自信があるんだ。しかも、こっちの世界に来てから魔力と気力が視認できるようになった。

 視界を阻害させるほどではないんだけど、魔力が多いほど濃い黒になり、気力が多いほど濃い黄色になる。たぶん、黄色を通り越えると赤になってる気がする。

 逆に、黒が薄くなると青になって行くようだ。

 色の三原色みたいだよ。だったら真ん中は白ってか。さすがに白はまだ見た事は無い。

 気力も魔力も無ければ白になるのかもしれないね。


「おっ! 見つけた! あんな大樹を揺らせるほどの大物か。これは…ジュル…期待できそうだ」


 魔物も食べられるけど、もちろん野生動物だって食べられる。というか、食べるのは動物を食べる事の方が多い。

 それは、魔物の方が危険で倒せる人が少ないからだ。

 魔物を多く討伐する町、例えばフロントラインの町では食堂でも魔物肉が出されていた。

 拠点としているランガンの町では魔物二割、動物八割ぐらいだった。魔物肉の方が美味しいけど、その分高かった。

 魔物肉は討伐も難しいけど、解体も難しい。でも、今日はポットちゃんとパンくんがいるから解体から料理まで任せればいい。僕は魔物を倒して運べばいい。


 早速、確認した場所に来て見ると、大きな猪の魔物がいた。体高二メートルを軽くオーバーしている。

 長さも同じぐらい、猪って短いからね。

 たぶん、ボア系の上位種だと思う。ビッグボアより上で、種族名は確かタイラント・ボア。かなり凶暴な奴だったはず。

 でも、攻撃は直進しかできないし視界も狭い。パワーは凄いけど融通が利かなくてバカ。ある意味、獣人みたいな魔物だね。


 で、なんでこいつは樹に突撃してるんだ? と思って見てみると、狼の魔物との戦闘中だったみたいだ。

 何匹かは吹っ飛ばされて倒れてるやつもいる。

 大型犬ぐらいの大きさの方は、種族名はシルバーファングだ。

 群れの仲間を吹っ飛ばされてボスがタイラント・ボアと対峙しているところか、これならどっちが勝とうともそう長くは掛からないかな。


 周囲の樹々は折れまくっていて、小さな空き地みたいになっている。さっき見た木が飛んでいたのはタイラント・ボアのせいで間違いないね。

 直系五〇センチ以下の木々は全部折れちゃってるよ。


 対するシルバーファングだけど、正面から対峙しているのはボスだ。

ボスと確信したのはその体躯。他のシルバーファングより二まわりほど大きい。

 それにしてもあのボスの毛並みって綺麗だな。

グレーってほどくすんでるわけじゃなく真っ白でもないので、銀色と表現するのが正しいと思う。光の加減でキラキラ光る時もあるから。


 シルバーファングのボスも大きいけど、タイラント・ボアの半分ぐらいだ。だけど、シルバーファングは俊敏性に定評のある魔物だから、そのボスなら一対一でも引けをとらないはずだ。


「参ったな、先客か。これは別の獲物を探した方がいいね」


 そう思ってまた山頂に戻ろうとした時、戦闘に動きがあった。

 タイラント・ボアが仕掛けた。ボスには目もくれず、取り巻きの群れの方を目掛けて突進したのだ。

 ボスが出たからと油断してたのだろう、一匹のシルバーファングが直撃を受け、両サイドにいた二匹も巻き込まれて吹っ飛んだ。


 ドーン! とそのままの勢いで大樹で突進を止めたタイラント・ボアはノーダメージとばかりに、そのまま横に進路を変え、シルバーファングの群れの中へ突進を再開した。

 タイラント・ボアが突撃した大樹は、メキメキメキと倒れていき、その場には潰されたシルバーファングが残されていた。


 凄いな。今の大樹は直系一メートル近くあったぞ? あれを倒してしまうのか、しかもトップスピードに至るまでの加速力、シルバーファングには歩が悪いかもな。


 タイラント・ボアの突進力は凄く、巨大な体躯だというのにトップスピードまでの加速力が速い。そんなタイラント・ボアの中でも、こいつは群を抜いてるな。

 ボスの周りに並んでいた一番近いシルバーファング達の下まで五メートルほどだったのだが、到達するまで一秒と掛からなかった。まるでカタパルトから放たれたジェット機のようだ。

 シルバーファングたちはボスの横へ並んでいたのが不運だった。直線の突進力と頑丈さで定評のあるタイラント・ボアの格好の餌食になってしまった。


 それでも、仲間が吹き飛ばされるのを黙ってみているボスでは無かった。果敢に横合いから飛びつき牙を立てる。

 しかし、ボスの牙もタイラント・ボアの厚い皮の前では掠り傷を負わせるまでしか行かない。

 ボスは一度飛び退き、タイラント・ボアを追走、止まったところを狙う作戦に変更したようだ。その間も次々と吹き飛ばされるシルバーファング。

 一直線に横並びしていたのでタイラント・ボアからすれば格好の的だった。

 最後の一匹が弾き飛ばされ、そのままの勢いで大樹への突進をしたタイラント・ボア。

 ようやく止まったタイラント・ボアの横からワンステップで方向を変えそのままタイラント・ボアの首筋に牙を突き立てたボス。

 だが、やはり薄皮一枚しか牙が通らない。

 しかし、ボスは諦めず捻りを加えていく。捻じれる皮から血が滴り落ちるが、タイラント・ボアは気に止める素振りも見せずボスを下げたまま方向転換を始めた。

 シルバーファング達は吹き飛ばされたダメージで起き上がれないものが十数匹。立ち上がったものでも未だにふら付いている。

 倒れている中には大量の血を流しているものもいる。タイラント・ボアの口角部分から生える大きな二本の牙の餌食になったようだ。

 運良く別の位置取りをしていて吹き飛ばされなかったものが数匹。ここからシルバーファング側の逆転は難しいと思われた。


「あ~あ、相手が悪かったね」

「これはシルバーファングの負けね」

「あ、二人も見てたんだ」

「そりゃあね、これだけ激しい音がしてればね」

「そうそう、採取も終わったもんね」


 ピッピとキラリちゃんだった。

 もう終わったんだ。今いる分だけだから見つけてしまえばすぐに終わっちゃうか。

 でも、僕の担当分はまだなんだけどな。


「でも、美味しそうじゃない?」

「うん、アリよね、アリアリ」


 この二人、というか妖精は食べなくてもいいはずなんだけど、美味しそうって……


「待つの?」

「もう結果は分かってるからキズナ様が横取りしてもいいんじゃない?」

「え?」

「だーかーらー、あの猪をキズナ様が倒せばいいのにって」

「そのために来たんだよね?」


 まぁ、そうなんだけど、これって介入してもいいの? よくないよね?


「やっぱダメだろ。こういうのって最後まで終わってからじゃないと入っちゃダメだって教わったけど」

「問題ないでしょ? ここまで決まってれば大丈夫だって」

「それに三つ巴なんてよくある話しだし」


 微妙なとこなんだよね。あのボスが倒されてれば子分達は逃げてただろうから戦いも終わったと思うんだけど、先に子分達が倒されちゃってボスが最後まで残ってるからタイマンになっちゃってて入り辛いんだよ。

ここまで来たら最後まで見届けなきゃいけないと気にもなってるんだ。


「でも、結局あの猪はキズナ様に倒されちゃうんでしょ?」

「うん、まぁ、その予定だけど」

「だったら、あの大きな犬が生きてる間に助けて恩を売るってどう? 犬って律儀なのが多いって言うしね」


 犬って……シルバーファングは狼だよ。それに律儀って、よくそんな言葉を知ってたね。妖精が使う言葉としては違和感があるよ。


「あー、もう時間の問題みたいね。キズナ様、もういいでしょ?」

「そうだよ、後はキズナ様待ちなんだから早くしようよ」


 えっ!? もうみんな担当分を終えたの? 後は僕だけ? そりゃマズいな。でも、あれに参入するのは気が引けるんだよな。


「キズナ様ー、早くー」

「悩むぐらいなら両方やっつけちゃえばいいじゃない。どっちも赤目なんだしさ」


 そう言われればそうか。どっちも倒しちゃえばいいのか。

 時間も押してるみたいだし、そうするか。


「わかった。ちょっと行って来る」

「やったー! ガンバってー!」

「キズナ様ー! 一撃だよー!」


 応援されてるのに、力が湧いて来ないってあるんだね。


 タイラント・ボアはボスを首に下げたまま、残っていたフラフラの数匹のシルバーファングに目掛けて突進した。シルバーファングの子分達は、今ので全滅だ。

突撃が終わったばかりのタイラント・ボアは勝利を確信して隙だらけ。そんな好機を見逃すのも勿体無いので、タイラント・ボア目掛けて跳躍した。

 目指すは地龍をも倒した頭部への一撃。跳躍中にスラ五郎も実体化させ準備は万端。

 ここでダッシュに入られると目標から逸れてしまうけど、何かタイラント・ボアの様子がおかしい。その場から動かない。

 僕にとっては好都合なので目標目指して思い切り振りかぶる。


 ゴ―――――ン!!!!


 スラ五郎の会心の一撃を頭部に受け、白目を剥いて崩れ落ちるタイラント・ボア。


 ズズーン!


 よしっ! 目標達成!

 後は運ぶだけだね。今は収納袋もあるし、さっと収納すれば簡単に運べるもんな。あー助かるなぁ。


 ついでとばかりにタイラント・ボアに倒されたシルバーファングも収納する。

 食べるかどうかは置いといて、冒険者ギルドに納品すれば何かいい事あるかもしれないからね。

 二十数匹のシルバーファングが一体のタイラント・ボアに倒されていた。

 たぶん、このタイラント・ボアは同種の中でもレベルの高い個体だったんだと思う。

 このボスなら普通にタイラント・ボアと同等か、それ以上の実力があったように思う。通常レベルのタイラント・ボアだったらの話だけどね。運が悪かったね。


 後はこのタイラント・ボアを収納したら終わりだねって、あれ? 収納できないぞ?

 あっ! ボスがまだ食い付いたまんまだ! このボス、まだ生きてるぞ!

 このボスが食いついてるから収納できなかったのか。

 どうする? 生きてるから収納できないけど、ボスも倒してしまえば収納でき……それは野暮だね。ここまで必死に頑張ったんだ、殺す事はないよ。

 群れのためなのか、それとも自分のためなのか分からないけど、気を失ってまで食らい付いてたんだ。このタイラント・ボアはこいつにやってもいいか。

 群れはもう無くなっちゃったけどね。


 【ハイヒール】


 まだそんなにレベルが上がってないから中位魔法だけど、この程度の傷なら十分回復するだろ。

 群れは無くなっちゃったけど、こいつならまた群れを再結成させるんじゃないかな。そんな気がするよ。

 うん、まだ気を失ったままだけど、傷は治ったみたいだね。


「キズナ様? どうしたの?」

「うんうん、なんで治しちゃったの?」

「うん、こいつの頑張りに感動しちゃってさ、このタイラント・ボアは諦めるよ。次を探そう」

「そうなの? 勿体無~い」

「でも次かー。だったらあっちにいたよ! こっちこっちー!」


 タイラント・ボアの死骸とシルバーファングのボスをそのままにして、僕達は次の獲物に向かった。

 次の獲物はすぐに見つかり、さっさと収納してポットちゃんとパンくんの待つ集合場所に戻った。

 獲物はやっぱりタイラント・ボアだったよ。さっきより少し小振りだったけど、みんなで美味しく頂きました。


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