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第65話 久し振りの面々


 砦町からアジトの洞窟に戻ると、入り口である穴の前に獣人が沢山集まっていた。

 まともな服を着てる人がいないところを見ると、砦町で囚われてた獣人で間違いないだろう。


「本当にいた!」

「ほぉー…不思議だのー」

「……」


 獣人の集団を見つけると、大喜びで駆け寄って行くヴェルさん。

 その後ろをゆっくりと不思議そうに歩いていくヴァイトリさん達。

 ノスフェラトゥさんだけは機嫌が悪そうだ。


 獣人達は笑ってたり泣いてたりしていたが、どの顔にも悲壮感は無く喜びに満ち溢れていた。

 そんな集団の中心にいたのがトゥーラだった。

 トゥーラを抱き上げてるガタイのいい獣人の男性が中心にいて、大声を張り上げて泣き叫んでいた。


 ここって秘密のアジトだから静かにした方がいいんじゃないかな?


 盛り上がってる獣人達からふと視線をはずすと、少し離れた木の影から見知った顔が手招いていた。

 ドライヤさんだった。

 先日、ノスフェラトゥ達が起こしたスタンピードの時に来てもらった内の一人だ。

 横にはエンダーさんやシルフィーナさんの顔も見える。


 呼ばれているし、獣人達の盛り上がりにはテンションが違いすぎて入って行けそうに無いので、バレないように気配を隠しつつドライヤさんの下へと向かった。


「まだいたんだ……うわっ! みんなここにいたんだね」


 恒例の挨拶が始まると、獣人達の騒ぎにも負けないぐらい喧しかった。

 でも、ほとんどが精霊と妖精だから、聞こえてるのは僕だけなんだろうな。


「みんな、ありがとう。みんなのお蔭で解放する事ができたよ。誰がどんな風にして助け出したの?」


 聞いた途端、口々に自慢大会が始まった。

 誰かに代表して話してもらわないと全然分からない。煩すぎる!


「キズナ様」


 美しい熟年の女性が前に出て来ると、それまで騒がしかったのが嘘のように静かになった。僕から離れて距離も取って行く。


「シャードルさん、あなたも来てくれていたんですね」


 シャードルさんはカゲールくんのお母さんのお母さんのお母さんで、僕の先生を担当するまでは母さんの従者をしてた人だ。今はまた母さんの従者に戻ってるんじゃないかな。

 大精霊と言っても過言では無い人なんだ。って、おい! そんな人が来たんなら、代償が大き過ぎるって! 僕の経験値が無くなっちゃうって!


「ええ、キズナ様。シャイニーヌと二人で一番に手を挙げましたわ。久し振りの異界なんですもの」


 ええ!! シャイニーヌさんも来て……来てるわ。二人だけで、僕の経験値なんて吹っ飛んじゃったんじゃないの? 助かったけど、もうマジかって感じだよ。

 今名前の出たシャイニーヌさんもシャードルさんと同格だよね? もしかして、これって新手のイジメか!


「キズナ様、私達は壁しか壊しておりませぬ。家を壊したり人を吹き飛ばしたのはあそこにいる吸血鬼の手下です。勘違いせぬよう、お願いします」

「ムルムルさん! ムルムルさん達も来てくれてたんだ」


 ホント、一体どれだけ来てるんだよ。僕の経験値……


 家を壊したり人を吹っ飛ばしてたのを気にしてるんだな。僕は全然気にして無いのに。むしろ、無駄に扉を壊して回るノスフェラトゥさん達を吹き飛ばしてほしかったよ。


「ムルムルさん達は陽動側だったんだね。という事は、吸血鬼さん達と共闘してたの?」

「あのような足手まとい共とは共闘にもなりませぬ。ただ近くをうろついてただけですな」

「近くにいてたんだ。それで、その吸血鬼さん達が家を壊してたの?」

「左様に。あの足手まとい共は力の加減が上手く無いようで、兵士も何人かは死んだのでは無いでしょうか。我らに張り合ってるようにも見えましたが、力任せばかりで技というものを知らぬ雑魚でしたな」


 ふ~ん、なんとなく事情は分かったかな。でも、我ら? 我じゃなくって我らって……あー、いるよー、ムルムルさんの友達や弟子たちが。やりきった的なドヤ顔でこっちを見てるよ。


「キズナ様、奴隷にされてた獣人達の隷属化は解呪してますが、かなり衰弱はしていた様子。栄養の補給と休息は必要でしょう」


 ムルムルさんの説明が終わるとシャードルさんが奴隷になってた人達の説明をしてくれた。


「そこで、キズナ様が今まで溜めていた素材をこちらに運んで来たのですが、キズナ様は収納(小)しか持ってないとマリア様より伺っております。小分けにしてお渡しした方が……あら? いい物をお持ちですわね。でも、それだと少々小さいですね」

「では、私も協力させて頂きますわね」


 目敏く僕の腰に付けている収納袋に目をつけたシャードルさんの言葉に、協力を申し出るシャイニーヌさん。


「では、まずは我が強化致しましょう」


 ムルムルさんが前に出てきて収納袋に手を当てると、数秒間力を込めると下がって行った。


「あら、ムルムルも力を付けて来ましたね。これなら私が力を込めても壊れる事は無さそうですわね」


 そう言って今度はシャードルさんが収納袋に手を当て力を込める。


「シャードルは容量を拡げたのですね。では、私は時間を止める力を込めましょう」


 シャードルさんの次はシャイニーヌさんが収納袋に手を当て力を込めた。


「さぁ、皆も力を分けておあげなさい」


 シャイニーヌさんが声を上げると、精霊や妖精が次々に収納袋に力を込めていく。

 シャードルさんが収納袋の容量を拡大し、シャイニーヌさんが時間停止の能力を持たせた。精霊や妖精が次々に力を込めて行くが、どんな力が足されているのかも説明して戻って行った。

 ある妖精は更に少し容量を拡げたと言い、ある精霊は個人認証を付与したと言い、ある精霊は紛失防止機能を付けたと言い、ある妖精は名前を付けたと言った。ポリくんて名前にしたらしい……収納袋って男だったんだね。

 他にも有能な付与を付けてくれる妖精や、それって意味ある? っていう機能を付けてくれる精霊。色々な付与をしてくれた。


 それから上着の内ポケットの収納(小)の使い方も教えてくれた。

 起動させるためのパスワードが必要だったみたいだ。

 パスワードは『母さん大好き』と三回言えば起動し、後は何も言わずに使えるようになるそうだ。


 別に言うけどさぁ。作った本人が選択するパスワードじゃないよね? いや、本人だからこそ合ってるのか?

 でも、折角みんなが収納袋を超バージョンアップしてくれたんだから、内ポケットの収納(小)はお金の収納用に使おうかな。だったら、またランガンの町に戻ってお金をおろさないとな。

 今の手持ち金は地龍の取り分だけだからね。それでも大金ではあるんだけど。


 今まで倒した魔物、『クロスオーバー』の世界に持ち帰ってもらってたものは、僕専用の土地に置いてあり、時空魔法で時間も凍結させてあり、いつでも持って行った時の状態で来れるようになってるらしい。

 今回はその中でも解体済みの肉を中心に持って来てくれていた。


 奴隷になってた獣人さん達の栄養が足りてないって聞いたばかりだし、これは助かるね。


「あら、キズナ様の剣、結構育ってますね」


 言われて見てみると、確かに結構長くなっていた。

 母さんがロングソードにして見せてくれた時と思い比べてみても半分ぐらいにはなってるんじゃないだろうか。

 そりゃあね。これだけの人達が来たんだから、それぐらい伸びてくれないと、僕の経験値を犠牲にした甲斐がないよ。

 でも、このペースだと一年経たずに還れたりするんじゃない?


「ではそろそろおいとましましょうか。あら嫌だわ、このままでは還れませんね」

「確かにレベル18ではねぇ。今回は、キズナ様に協力して頂きましょう。ムルムル、分かってますね? 中級以上のトカゲを瀕死で連れてらっしゃい。何匹でも構いませんが、最低でも三匹以上ですね。他の者もムルムルに協力するのよ」


 シャイニーヌの声で一瞬にして全員が行動を開始した。ムルムルさん一行の姿はもう無い。精霊や妖精も次々にこの場から離れて行く。


「あの…18って?」


 この場に残っているのはシャイニーヌさんとシャードルさんの二人だけ。

 気になるワード『レベル18』って言ってたシャイニーヌさんに直接聞いてみた。


「やはり気になりますか?」

「はい…まぁ……」

「キズナ様の今のレベルです」


 ガ―――ン!! やっぱりか! でも待って? 僕のレベルって千を超えてたと思うんだ。それがレベル18?

 有り得ない、認めない、やってらんねー!

 かなり下がるとは思ってたけど、そんなに下がっちゃうの!? この二人によるところが大きいよね? もう絶対喚ばないから! ってか、僕が喚んだわけじゃないから!


 待つ事、数分。第一弾が帰って来た。


「ちょうど近くに手頃な地龍がおりました。ムルムル様は初撃のみ助太刀頂き、次の獲物に向かいました」


 ムルムルさんの部下の人だね。たしかペレペレさんだっけ。この人とは八歳の頃からは負けなしだったな。意外と僕って強いんだよ。

 でも、山菜や薬草を見つけるのが上手かったり、解体でもコツを教えてもらった覚えがあるな。


「キズナ様、止めの一撃を」

「え? いいの?」

「このままでは私達も帰れません。止めの一撃を入れてレベルを上げてください」


 マジー! うっひょ~! 超うれしーんですけど? これってこの前の地龍より大きいって事は、レベルも高いんだよね?

 その止めを僕が? めっちゃレベル上がっちゃうよ? 上げちゃうよ? いいの? ホントにいいの?

 でも、ちょっと待って? 帰れませんって……そっか、止めの一発を僕が入れる事で僕のレベルが上がり、シャードルさん達は僕の『クロスオーバー』のゲートを通って帰れるって事ね。


 ふ~~~~ん


 それって……そっか、そだったのか。ってか、そんなのやってられるかっての!

シャードルさん達が帰れるように僕のレベルを上げるつもりなんだよ。そして、シャードルさん達が『クロスオーバー』で還ったら、また僕のレベルが最低になっちゃうじゃないか!

 だいたい、勝手に来たんだから勝手に帰ればいいんだよ! それぐらいの力ぐらいありそうだよね? 


「キズナ様? キズナ様?」

「え? あ、ゴメン、何か言った?」

「何かお考えのようですが、ひとつ良い事を教えて差し上げましょう。キズナ様の加護のについてです」

「加護?」


 そういえば、母さんに色々と連れて行かれたっけ。三〇人ぐらいに挨拶に行って、『加護を授ける』って言われたけど、どんな加護をもらったか知らないんだ。

最後は母さんに『仕上げね』とか言って何かされたけど。あれって、何をしてたんだろ。ちゃんと教えてくれなかったんだよな。


「はい、キズナ様のお母様であるマリア様が部下達に付けさせた加護、その数三〇。それをマリア様が更に上乗せをし、上書きをして一つの加護としました。そのお蔭でキズナ様のレベルアップ時のステータス上昇率が莫大なものになりました。レベルアップに必要な経験値も大幅に減少させているため、少しの経験値でレベルアップできるようになっています。これの意図するところが分かりますか?」


 おお! そんな加護が付いてたんだ! 凄い! とは思う反面、母さんの超過保護が透けて見えるようで、ちょっと盛り下がるな。

 自分で頑張ってるつもりが母さんのお蔭で強くなってる気分だ。テンションが下がるなぁ。

 でも、加護の意図する所ね。さっさとレベルを上げて早く帰って来いってところかな?


「早くレベルを上げれば【クロスオーバー】が何度も使えるから早く帰って来てって事じゃないの?」

「もちろんそれも多分にあるでしょう。でも、キズナ様の成長のためでもあるのです」

「僕の成長? 高レベルになると上がりにくいから、上がりやすくしてくれたとか?」

「副次効果としてあるでしょうね。それよりも、レベルアップとレベルダウンを繰り返す事で誰よりも強くなれるようにされたのだと思います」


 ん?? 意味がわかんないな・


「レベルアップは分かるけど、レベルダウンで強くなる? ただレベルが上がったり下がったりするだけでしょ?」

「いいえ、違います。キズナ様は加護によりレベルアップ時は通常の何倍も上がり幅があります。例えば、通常であればレベル1上がると強さが2上がる所をキズナ様は10以上上がります。それなのにレベルダウン時は通常通り2しか下がりません。しかも低レベル時はレベルが上がりやすい。何度もレベルのアップダウンを繰り返す事で、キズナ様は同じレベル10の者とはステータスが何百倍、何千倍、何万倍も上なのです」


 おおおお! それは確かに凄い! レベル1なのに、HP1000とか有り得るんだ!

 それってカッコいいぞ! レベル1のSランク冒険者! 物語のタイトルになりそうじゃん!


「ですから、止めを差して私達を『クロスオーバー』に還してくださいね」

「はい! もちろんです!」


 うまく言いくるめられるキズナであった。

 しかし、キズナの予想であるレベル1でHP1000。

 これは『クロスオーバー』を旅立った時に既に半分は獲得していた。旅立ちの時のキズナのHPは588、一度レベル二〇〇〇を超えた後、レベルが下がってしまった現在は三桁上がってしまっている。

 現在のキズナのレベルは18。HPは131287、一般人の平均HPは80~100なのにだ。

他のステータスもHPと同程度だがMPは更に一桁上。更に技術はどのジャンルでも全てにおいて平均点で何でも卒なく熟す。

この時点で既にこのアナクライムの世界ではトップクラスである。姉弟の中でも中堅クラスに届く勢いだ。最終的な先生達には及ばないものの、中級精霊のやや下ぐらいのステータスであった。


「じゃあ、遠慮なく頂きまーす! やぁー!!」


 次々と持って来られるレベルの糧。それを次々と仕留めて行くキズナ。

 地龍を始めとし、炎龍、嵐龍、翠龍、蒼龍が持ち込まれた。いずれもキズナが仕留めた地龍と同ランクであり、レベルが高い龍達であった。


「これぐらいでよろしいですね。キズナ様、そろそろ送ってください」


 シャードルさんに言われゲートを開くと、友達が順にゲートを潜って還って行く。

 そして最後となったシャードルさんとシャイニーヌさんから別れの挨拶とお土産を渡された。


「今回のトカゲ達はいた者で解体は済ませています。容量が大きくなった収納袋に収めておくといいでしょう。肉は来る時に持って来た分も置いて行きます。トカゲの肉と一緒に食べてください。他にもキズナ様が向こうに送ったものは、誰でも持って来れますからね」

「そうそう、忘れてました。もう一つマリア様からの伝言がありました。キズナ様はもうこちらの世界で合体ユニオンされましたか? まだなら早々に試してくださいとの事でしたよ?」


 手紙にもあったね。でもさ、こっちで合体ユニオンしてくれそうな人っていないよね? ノスフェラトゥさん? 言えばしてくれそうだけど、なんか違うよね?

 それと二人が龍を嫌ってトカゲと言うのは、精霊って龍の事が嫌いらしいんだ。

 理由としてはガサツだし美しくないんだって。


「その辺の石とでも合体ユニオンできるそうですよ?」

「うっそ!!」


 いやいや有り得ないでしょ! 石と合体ユニオンして何がどうなるの? 固くなる? 固くなっても動けなくなるんじゃない? それに、【ユニオン】って一緒に言わなくちゃいけないのに、どうやって話すんだよ。


「試しにやってみればいいのではないですか?」


 もう、ゲートを潜るだけだから、二人とも余裕だ。ゲートは出しっぱなしだし、いつでも還れるもんね。

 やらないと還りそうもないから、言われるがまま試してみた。


「【ユニオン】!」


 おいおい、できちゃったよ。

 この世界のものと合体ユニオンできたのも驚きだけど、石と合体ユニオンできちゃったよ。

でもさ、これって何か上がってんの? 友達と合体ユニオンしたらステータスが上がるんだけど、今なにか上がってんの?

 防御力が上がってるとか?

 いやいや、石だよ、石っころだよ? 上がっても防御力が1とかだよ。これって誰得なんだよ。


「まぁ! やっぱりキズナ様は天才ですね! 何とでも合体ユニオンできてしまう人は見た事ありませんよ!」

「いいえ、マリア様が言うには称号のお蔭だそうですよ。スラ…ぷっ、スライム戦士という称号が合体ユニオンの幅を広げてるとか」

「スラ…ぷっ、スライム戦士…ぷぷっ、良い称号ではありませんか」


 ちくしょう……いつか上位のジョブになってやる!


「【リリース】!」


 このままだと笑われ続ける未来しか見えなかったので、さっさと解放リリースして二人を軽く睨んだ。


「申し訳ありません、あまりにも可愛らしい称号だったものですから」

「ええ、キズナ様によくお似合いの称号ですね」


 この二人、全然謝る気がないね。まだからかわれてるよ。


「そう怒らなくてもよろしいではありませんか」

「そうですよ、キズナ様。よろしければ武器も見せて頂けませんか?」


 まだ還らないのか。前からこうなんだよな、ずっとマイペースなんだ。授業でもこうすればいいのですよ、とか言って見本を見せてくれるんだけど、ハイレベルすぎて真似できない僕を置き去りにして、どんどん授業を進めるんだ。

 授業を受けてるのって僕だけなんだよ? その僕ができてないのに次々進んで行くんだ。まったく、誰のための授業なんだよ! それって、ただ二人が練習してるだけじゃん!

 まぁ、最後の先生達は、他の先生たちも似たり寄ったりだったけどね。


「これです」

「キズナ様? それは武器ではありませんよ?」

「ええ、棒ですね」


 そうだったー! この二人は術専門で武は専門外だった!

 折角、自慢のスラ五郎を見せたのに、棒って言われちゃったよ!


「これは八角鉄棍『スラ五郎』です!」

「すら……ぷっ。まぁ。可愛らしい」

「キズナ様は棒にも名前を付けられるのですね。お優しいままで大きくなられて」


 ダメだ! この二人に何を言っても伝わる気がしない!


「そうだわ、棒じゃなくなればいいのです」

「そうね、私も閃いたわ」

「私から行きますわね」


 シャードルさんが僕に寄って来ると、スラ五郎に触り、何かをした。

 スラ五郎が光ったから何かしたんだと思うんだけど、何をされたのか見当もつかない。

 続いてシャイニーヌさんもスラ五郎に触れ、何かをした。

 スラ五郎の見た目に変化は無い。


「これで『杖』になりました」

「あなたは杖にしたの? 私は『ステッキ』にしましたわ」


 どっちも杖じゃん! 僕のスラ五郎に何してくれてんの! でも、見た目は何も変わってないよ?


「魔法の始動が早く、威力も上がって同時発動できるように、杖の能力を付与しましたわ」

「私は、起動ボタンを押すと発動する便利機能を付けましたわ」


 はい? スラ五郎が杖? しかも便利機能付き? 僕のスラ五郎がどうなっちゃったの?


「起動ボタンを押してみてください」


 言われるがまま、いつの間にか付けられていた三つのボタンの内の一つを押した。


 ビューン!


 ズゴゴゴゴン!!


 伸びた……すっごく高速で伸びた。樹を何本も貫いて行った。

 もう僕のスラ五郎じゃなくなったんだね。

 別のボタンを押してみた。


 シューン!


 縮んだ。僕のスラ五郎が帰って来た。なぜか涙が出て来たよ。

 最後の一つも押してみた。


 シュンッ!


 スラ五郎があったところにハンカチが現れた。手には十センチほどの姿になったスラ五郎に三つのボタンが残ってた。

 先の部分はハンカチになってる。


 手品かよ! それでステッキかよ! 僕はマジシャンじゃねーし!


「とりあえず分かりやすいようにハンカチにしてみました。次からは鞭になりますわよ」


 押してみた。

 僕のスラ五郎が帰って来た。頬を涙が伝うのが分かる。

 シャイニーヌさんがもう一度押せと目で語る。

 この目をされると逆らえない。やるまでずっといつまでも見られるんだ。

 仕方が無いので、もう一度ボタンを押した。


 またスラ五郎がボタン部分だけの十センチの姿になった。今度は鞭だった。

 だからそんな仕掛けはいらねーって! 棍でいいんだよ、棍で! 伸びなくてもいいんだよ! 僕のスラ五郎を返せ!


 次はシャードルさんに急かされ魔法を放った。

 先生の前での魔法の披露は久し振りだったので、少し緊張したけど、物凄くスムーズに魔法を放てた。

 しかも五つの魔法を同時発動で。

 あまりにもスムーズに放てるので驚いてしまった。

 これが冒険者ギルドで杖も持たずに魔法を放って驚かれた意味が分かった。杖っていいな、優秀な杖だと魔法の使い勝手が上がるんだね。これはスラ五郎だけど。


「それでは名残惜しいですが、お別れです」

「色々と堪能させて頂きましたわ」


 満面の笑みでお別れの挨拶をくれたシャードルさんとシャイニーヌさんの二人。

 そうだろうさ、二人は満足だろうさ、これだけ僕をイジればね!

 また喚んでくださいね、と笑顔で還って行く二人。

 またレベルがガクっと落ちたんだろうな。と、憂鬱な顔で見送る僕。

 うん、たぶんもう喚ばないね。一人だけでも大幅なレベルダウンを食らうんだよ? それを二人なんて、もう喚べるわけないって。


 そろそろヴェルさん達も落ち着いた頃だろうから、向こうに行こうかな。なんだか疲れちゃったよ。


 嬉しかったのか残念だったのか分からない微妙な表情でアジトへと向かうキズナであった。


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