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第64話 ダンジョンにて side三人娘


 ダンジョン最深部。ようやく彼女達三人が辿り着いたのは、ダンジョンに入ってから三ヵ月後だった。


「ようやくね! やーっと着いたわ!」

「ただ着いただけだ。本番はこれからだ」

「……お腹空いた」


 緑の狩人装備のウータエ、白い剣士装備のテルーエ、黒ローブ魔道士装備のハナノエ。

 成人後、すぐに三人で冒険者ギルドに登録し、一年で頭角を現した若手のホープだった。

 彼女達が登録し、本拠地として活動しているローデンハルツ王国の王都の冒険者ギルドでは新星ニュービーの愛称で呼ばれていた。


 パーティ名はカーシマシー。リーダーは背は最小だが最年長の魔術士ハナノエ、遊撃と斥候の弓と短剣使いのウータエ、正攻法で正面を担当するテルーエの三人パーティだ。

 年齢はハナノエが十七歳、後の二人は十六歳だった。


「本番前に休憩ね」

「うむ、食事と睡眠だな」

「……食う寝る」

「いいから早く出してよ。私も腹が減ってんだから」


 ウータエに言われハナノエが収納魔法で収納している食料を出した。


「……虚無の部屋へと続く扉よ、セシリアが娘ハナノエの問いに応じ、我が世界と結ぶ扉を開け放て~【ボックス】」

「やっぱりハナノエの時空魔法って便利よね、時間停止ができればもっと便利なんだけど。あと何ができるんだっけ? 脱出魔法と支援魔法のクイックとスロウだっけ?」

「……クリーンも」

「うむ、助かっている。が、クリーンは時空魔法ではない。ハナノエは重力魔法も使えたな」

「そうそう、浮遊魔法なんかも使えたわね。確かに優秀なのは分かってるし助かってもいるんだけど、それで何で基本の四属性魔法が使えないのよ」

「いいではないか。その分ウータエが水魔法を使えるし、我も魔力が少なく頻繁には使えないが生活魔法を使える。いいバランスだ」

「……干し肉最後」

「そうね、こういうダンジョン攻略や長距離移動で荷物が多くなる時は三人いれば便利よねって、干し肉最後なの!? ちょっちょっと、最後なのに何でそんなに取ってるのよ! こっちにも分けなさいよ!」

「我にも頼む」


 出した干し肉の八割を確保していたハナノエだったが、渋々その半分をそーっと差し出した。その途中で何度か手が止まる。


「どんだけ出したくないのよ! 一番小さいんだから大きい私達にさっさと出しなさいって!」

「……勝ってる」

「むぐっ……」

「はははは、ウータエは(胸が)小さいからな。一本取られたな」

「(胸が)小さいのは今は関係ないでしょ! 身体の事を言ってるのよ、か・ら・だ・の事を!」


 差し出された干し肉を取りながら、冷静にテルーエの言葉に、ムキーとなってるウータエ。怒りながらも手は干し肉をしっかり確保している。


「ホント口数は少ないくせに、言う事はしっかりツボをついてくるんだから」

「……認めた」

「ふむ、確かに小さいと認めた事になるか」

「認めてなーい!」


 和気藹々に見えるが、ここはダンジョン最下層。普通の冒険者ならもっとピリピリとした緊張感があるのだろうが、それだけの余裕を裏付ける実力が彼女達にあるのだろう。


「大体いつも思ってたんだけど、なんでハナノエがリーダーなのよ。リーダーなら私でしょ!」

「……最年長」

「それは初めにも話し合ったし、今までも何度か話し合ったではないか。年上のハナノエがリーダーになると」

「年上って、たった数ヶ月じゃない! 同級生なんだし、年齢差はないわよ!」

「……十七歳」

「むぐぐ、私だってあと二ヶ月で十七になるわよ! ったく、指示出しもしない、予定も作戦も立てないリーダーなんていないんだから!」

「それは皆でフォローすればいいとなっただろ。それより、ここのボス戦はどうするのだ」

「……まかせた」

「……」


 間髪いれずに任せたと言うハナノエに呆れて言葉も出ないウータエ。

 場が静かになったのでテルーエが作戦を提案した。


「では、こういうのはどうだ。ここのボスは叔母上のシオンヌ様だ。正攻法で行って勝てる相手では無い。だが、今回は腕を見るという試練なので我らの実力を見せればいい、勝つ必要は無い。もちろんどう足掻いても勝てぬ相手がな。だが、腕を見せると言っても初撃でやられてしまっては我らの実力が見せられぬ。だから扉を入ると我が叔母上に正面から突撃するから、その間に二人が散開し遊撃に入るというのはどうだろう」


 敵わぬ相手に正面攻撃を提案するテルーエに目を剥くウータエ。


「そ、そんなのダメ! テルーエが犠牲になっちゃうじゃない! 私達は三人で試練を突破するのよ!」

「……当然」

「正面突撃というのは陽動だ。まずは叔母上の気を引くのが最善なのだから正面から突撃すると見せかけて惹きつけた後は左へ散開する。だから二人は左以外の方向へ散ってほしい」

「……それいい……かも?」

「それはいいかもね。だったら私は右ね。ハナノエ、あなたも左に……」

「……上に行く」


 干し肉を齧りながら三人で作戦を立て、一息睡眠を取ってからボス部屋の扉を開いた。




「ようやく来ましたか。待ちくたびれました、貴女達はいつまで待たせるのですか」

「結構、早かったと思うんですけど?」

「うむ、最速記録であった」

「……寝足りない」


 ボス部屋の玉座には長い青髪で妙齢の女性が鎮座していた。

 髪色に合わせた薄手の青いドレスは、彼女の艶やかさを更に引き立てていた。


「早い……? どの口が言うのでしょうか」

「だってここのダンジョンって魔物のレベルは高いは、ひと階層がだだっ広いわで超面倒すぎだって!」

「ふむ、王都の冒険者ギルドの最速記録を塗り替えたはずだ」

「……ねむい」


 彼女達が気軽に話すダンジョンボスは彼女達の叔母にあたるシオンヌという女性だ。

 アナクライムの世界を司っている女神テレーズの姪という事もあり、彼女達三人の顔見知りでもあった。


「貴女達はよほど箱入りに育てられたのでしょうね。我が一族でここに辿り着くのに三ヶ月も掛かった者はおりませぬ。ここに来る者は修行中の者ばかりではあるので今までの記録にも不満はありますが、最短は五日です。一番遅かった者でも三週間で辿り着いていました。しかも三人もいてたった五階層のダンジョンにいつまで掛かってるのですか」

「五日ー!? そうは言うけど、五日なんて絶対無理よ! たかがゴブリンだと思ってたら凄く高ランクでヤバかったりしたんだから! スライムだって毒のやつとか弾けるやつとか合体するやつなんかがいて苦労したし、ウルフだって空中で方向変えたりしてたんだよ? その人、絶対ズルしたのよ、きっとそうよ!」

「最速が五日……ありえぬ」

「……負けた」


 シオンヌから明かされた驚愕の事実を受け入れられないウータエ。信じられないテルーエ。認めて落ち込むハナノエ。


「ティアマトさんのダンジョンを一日で踏破した彼とは大違いですね(さすがは本家という事でしょうか)。やはり血が薄くなると形骸化してしまうのでしょうか。嘆かわしいものですね」

「うっそー! 原初の海の女神ティアマトダンジョンって百階層以上じゃなかった!? そんなの一日で行けるわけ無いって! 間違いなくその人ズルしてるよ!」

「我には不可能だ。しかし、世にはそのような強者つわものがいるのか……気になる」

「……百三階層」


 更なる驚愕の言葉に黙っていられないウータエ。早急に諦めるテルーエ。正確な階層を答えながらもシオンヌの呟きを聞き逃さなかったハナノエ。


「信じる信じないは貴女達の自由です。ですが、貴女達が一族の底辺にいる事は自覚なさい」


「「「……」」」


「さぁ始めましょう。貴女達の力を見せなさい」


 シオンヌの開始の声で試練が始まり、三人は事前の作戦通りの行動に出た。戦闘開始だ。

 中央突破をテルーエに任せ、ウータエとハナノエが散開する。ウータエは右へ、ハナノエは浮遊魔法を使い上へと飛んだ。


「【突風】」


 シオンヌの風魔法により、真正面を突撃していたテルーエの勢いが殺され、逆にバックしてしまっている。

 ハナノエも突風で周囲の気流を乱され有り得ない方向に飛ばされていた。残るウータエだけは風の影響で大回りを余儀なくされたがシオンヌの側面への移動ができた。

 ウータエはそのままシオンヌの背後に回り込もうと走ったが、そんな事はシオンヌもお見通し。ウータエに向かっても風魔法が放たれた。


「【突風】」


 剣士であるテルーエより小柄なウータエに耐えられるはずもなく、吹き飛ばされ壁に打ち据えられるウータエ。


「ぐはっ!」

「「ウータエ!」」


 ウータエの様子が心配で声を掛けるテルーエとハナノエ。


「貴女方はやる気があるのですか? 私はまだ小手調べほどの力も出していないのですよ」

「くっ、叔母様、それは言いすぎでしょ。そんな術名だけの超短縮詠唱を使って小手調べでも無いって盛りすぎ」


「「ウータエ!!」」


 立ち上がったウータエに安堵して声を上げるテルーエとハナノエ。


「あら、まさかとは思いますが、貴女方はあの恥かしい詠唱を嗜むのですか? 私は普段は無詠唱ですよ? 今日は新人の試練だから敢えて術名だけでも声にしているだけです。それに、一人が傷を負っただけで私から視線をはずすとは、舐められてるのでしょうか…違いますね、未熟なだけのようですね。【突風】」


 今度は天井まで飛ばされていたハナノエに向かって風魔法が放たれた。

 シオンヌは、敢えて一番遠くにいるハナノエに魔法を放った。


「……ふぇぇなんで」

「「ハナノエ!!」」


 今度はハナノエに向かって叫ぶウータエとテルーエ。

 ウータエもテルーエもシオンヌから視線を外しハナノエに注目している。テルーエなどシオンヌに背中まで向けてしまっていた。


「……情け無い。これほどとは……」


 戦闘中とは思えない行動と、こちらの攻撃に対してのあまりにも無力さにシオンヌは溜息をく。


「止めましょう……」

「え?」

「む?」


 シオンヌの言葉に近くにいたウータエが素早く反応し、ハナノエに気を取られていたテルーエが遅れて反応した。ハナノエは吹き飛ばされたままだ。


「貴女方には試練は早すぎたようです。ここで私が最低限見られるぐらいまで鍛えてあげるしかないようです」

「「え?」」


 今度は一緒に反応した。ハナノエはまだ戻って来ない。


「今までどれだけ箱入りとして育てられて来たか後悔する事になるでしょうけど、貴女方が選んだ道です。今日からここで修行に励んでもらいます」

「えー! でも試練が不合格でも再チャレンジでいいんじゃないんですか?」

「うむ、何度でも挑もう」

「……やっと来れた」


 ウータエ達が話していると、ようやくハナノエが再合流を果たした。


「私もそれほど暇ではありません。貴女方は弱すぎるにも程があります。体術剣術は未熟すぎますし、長々と詠唱を唱える。罠を見抜く目も無ければ、魔物に何度も先制攻撃を許す。どういう教育を受けて来たのでしょう。貴女方の母親も、よくもそれで試練を受けさせる気になったものです。後で、嫌味のひとつでも言っておきましょう」

「ええ!? それって決定ですか?」

「修行か」

「……にんにん?」


「それでは、それぞれ自己紹介をしてください。私の弟子になるわけですからね、今後は言葉使いも教育をして行きます」

「えー! 質問はスルー?」

「【ふう】」


 風弾と呼ぶには小さく弱々しい風の塊がウータエの額を捕らえ、ビシっと音が鳴りウータエの首が仰け反る。額も赤くなっていた。


「ってー!! なに今の!」

「師匠に対しては必ず敬語を使いなさい。それと、質問に質問で返す場合はクッション言葉を添えなさい」

「……」

「【ふう】」


 ビシッ!


「ってー! 今のはなんで?」

「【ふう】」


 ビシッ!


「痛いって! いや、あの、何でですか?」

「貴女は言葉使いから直さないといけないようですね。それで、いつになったら自己紹介をしてくださるのかしら」

「え? あ、はい! 私はアグネスの娘のウータエです! こちらの世界に来てもうすぐ二年になります!」

「はい。では、次の方は?」

「我は……」

「【ふう】」


 ビシッ!


「痛ぅ……」

「淑女は我とは申しません」

「……わ、わたしはカタリナの娘でテルーエと申す。こちらには……」

「【ふう】」


 ビシッ!


「痛ぅ……申します…同じくもうすぐで二年になります」

「はい、では次の方」

「……セシリアのハナノエ」

「【ふう】」


 ビシッ!


「……いたい」

「貴女方は挨拶すらまともにできないのですね。修行の前に言葉使いの修行からですか。貴女達の母親は何をしてたのでしょうね」

「……ワタシはセシリアの娘ハナノエ…です。もうすぐ二年…です」


「仮にも貴女方は修行を選んだのですからここにいるのです。他の道への選択肢があったにも関わらず自ら選んだから修行に出されているのです。なのに貴女方は弱すぎる。年々弱くなってきているのは血が薄くなるせいもあるでしょうが、言葉遣いを聞く限り、甘やかされているのが一番の原因だと考えます。ここではスタートラインに立てるように一から鍛えて差し上げます。感謝なさい」

「えー、鍛えるの? い、いや、鍛えるのですか?」

「そうです。まずは体力作りからですね。あと、座学や礼儀作法も一からのようですし、時間も有限です。今から執り行いましょう」


 こうして、三人の地獄の修行が始まった。

 結局、ギッチリと詰まりに詰まった濃厚な三ヶ月の修行となるのだが、三人のオデコには毎日赤い痣が消える事は無かった。


 その修行だが、毎日必ず一時間は走る。その後、午前中に体術の座学、体術の訓練を行ない、午後からは魔法の座学の後、魔法の実技訓練を行なう。夕食後にはマナー全般の授業を受け、一日の終わりとなる。

 これを毎日欠かさず続けて、シオンヌの合格を得られたのは三ヶ月後だった。


 その中でも度々出てくるキズナという名前。

 彼女達もキズナという名前には覚えがあった。

 それぞれの世界で育てられてきたが、自分達の世界でも時折身内の話で出てくる名前だった。

 直系で初の男子。しかし、母から溺愛されているという事しか聞かされなかった。

 直系の姉達でさえ会わせてもらえず、その実力も不明。さながら『箱入り息子』などと噂されていた。

 そして噂が噂を呼び、レベルが一〇も行ってないだとか、未だに夜は母親と寝ているだとか、事ある毎に母親が心配して駆けつけるだとか、十歳を過ぎても母親と風呂に入っているだとか。

 過保護に育てられていると噂されていた。

 全て事実だったのだが。



「やっと解放されたー!」

「うむ、免許皆伝だな」

「……ギリ赤点回避なだけ」

「むむむ、それでも合格は合格! もう二度とこんなとこへなんか来ないんだからー!」

「わた……ウォッホン、我もそれには賛成だ」

「……口調は戻すんだ」

「ハナノエだって戻ってるじゃん! 何が淑女の嗜みよ! 言葉なんて通じればいいのよ!」


 シオンヌのいたダンジョンから出ると、早々にはしゃぐ三人娘。


「それより、私のおでこ、まだ赤いかな?」

「さっきの分もある、もう暫く引かぬであろうな」

「……ウータエは余計な一言が多い」

「そういうあなた達だって、まだ赤いわよ!」

「むっ、毎日何度も食らえば、中々引かぬものなのだな」

「……すりすり」


 どうやら三ヶ月の間、毎日おでこに【ふう】を食らっていたようだ。


「では、辺境の砦町を目指すとしよう」

「あの糞ババの言いなりになるのは癪だけど、これで最後だから面倒だけど行ってやるかな」

「……大婆様」


 彼女達は叔母のシオンヌからしごかれ糞ババと裏では言っていたのだが、面と向かって言えるはずもないので、大婆様と言い換えていた。

 言われているシオンヌも世代的には大婆様という敬称は、一族の中の尊敬対象を呼ぶ呼び名でもあったため、彼女達の内心を知らないため認めていた。


「でも何があるのかな? 結局、見て来いとしか言われなかったけど」

「大婆様が態々言うのだから、何かあるのだろう。手伝えとも言われたが」

「……久しぶりの依頼」


 彼女達にしたら三ヶ月振りの地上であり、三ヶ月振りの冒険者活動だ。

 非常に濃厚な三ヶ月だったため、もう何年振りかという錯覚に陥るほどだ。

 毎日二十四時間、ほぼ寝る間も無い地獄のような三ヶ月の修行から、やっとの事で解放された三人だった。

 依頼主はシオンヌ、依頼内容は砦町の様子を見てくるだけ。依頼書には記載していないが、自国のためになる行動をとるように手伝えとも口頭では言われていた。

 依頼達成条件は、砦町の兵舎に行き、サインをもらうだけ。サインをもらった依頼書を最寄の冒険者ギルドに持って行けば依頼の完了となる、簡単なお仕事だった。


「これって、最寄の冒険者ギルドに出せばいいんだよね?」

「そうだな、ここに戻る必要はない」

「……楽勝」

「だったらさ、今までの恨みを込めてアッカンベーってしてやろうよ!」

「ふむ…あまり気は進まぬが、アリではあるな」

「……たまにはいいこと言う」


 三人はダンジョンの入り口の方に向き、口を揃えてアッカンベーをした。


「「「アッカンベー」」」


 ビシッ! ビシッ! ビシッ!


「ってー!」

「痛ーっ!」

「……いたい」


 彼女達は額に赤痣を残す風の衝撃を受けた。


「見てたの!? 今までのやり取りを見られてたの!?」

「むむ、それはマズい。早々に逃げるとしよう」

「……てったい」


 猛ダッシュで辺境の砦町を目指す三人娘であった。


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