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第63話 不穏な少女達


「では、行きますかの」

「ようやく余の出番というわけだな」

「皆さん、初めは固まって行きましょう。保護した順にキズナ様が解呪して、その間にヴァイトリさんとノスフェラトゥさんが先行して保護、解呪した人は残りの三人が一箇所に集めて確保。お願いします!」

「「「おお!」」」


 ヴェルさんの指示に返事をすると、ヴァイトリさんとノスフェラトゥさんが先行して走り出した。僕達も後に続く。

 ノスフェラトゥさんは詳しくないかもしれないけど、ヴァイトリさんはこの砦町が初めてじゃない。目星はつけているのだろう。


 周囲では兵士や平民が右往左往と走り回っている。怒号も飛び交っている。爆音も未だに鳴り響いている。

 砦町の中は収集がつかない状況だ。防衛に走る者、逃げ惑う者、何処へ行けば安全なのか、何処へ行けば護れるのか、町の外なのか、町の中なのか。

 行き先も分からず走り回っている者も多く、混乱状態に拍車をかける。


 そんな状況の町中を、誰にも疑われる事なく奴隷解放のために目的地を目指す僕達。


「まずはここかの」

「うむ、お任せあれ! キズナ様! 余の活躍をとくとご覧じろ!」

「救出目的ですから過剰な攻撃は控えてください。怪我無く救出しなければ意味がありません」


 砦町の塀沿いにある、端の建物から虱潰しに潜入していく作戦のようだ。

 これって潜入になるの? しかも端からって、ローラー作戦? たった七人で?

 ある程度、目星を付けてるわけじゃ無かったんだね。それって作戦って言わないと思うよ。


 ドガンッ! とノスフェラトゥさんが扉を壊して中へと入る。

 ……たぶん、その扉、鍵はかかってなかったよ。態々扉を壊す意味あるの? 逆に目立ってしょうがないよ。


「むぅ、ここに余の活躍の場は無いようだ」

「ここでは無かったようだの」

「次に行きましょう」

「……」


 これをあと何軒するつもり? それまで陽動と言う名の砦攻撃を続けるの?

 砦が滅ぼされちゃうよ!


 ドガッ!

 ダダダダダダダ


「次!」


 バキッ!

 ズカズカズカズカ


「次!」


 バキャ!

 ドドドドドドド


「いないではないか!」

「誰もおらんの」

「いませんね」

「……」


 本当に、このまま全部の家を回る気だよ、この人達。わかってたけど、計画は無かったんだな。でもね、扉の鍵は全部開いてたみたいだよ? なんで毎回壊してんの?


 移動のたびに見える砦の壁もあちこちが決壊してるし、本当にこの砦町が滅ぼされそうなんだけど。砦兵も吹っ飛ばされて、何人も宙を舞ってたのを見たよ。


「次はどっちだ」

「隣でいいんではないかの」

「そこにはいるのであろうな」

「どうだろうの」

「……」

「……」

「……」

「……」


 ダメだ、この脳筋達。


 どこまで行っても奴隷がいない。ノープランすぎだけど、これだけ回っても奴隷どころか誰もいない。という事は、全員避難したのか。奴隷も連れて避難したのだろうか。

 逃げるにもしても荷物持ちは必要だし、弾除けにもなる。ならば、奴隷を連れて避難したのかもしれない。

 全員がこの付近の住民が避難したのだろうと思い始めた時、僕には別の懸念が生まれていた。


 友達を一人として見ないのだ。

 手柄を立てると絶対に自慢してくるちょっと鬱陶しい友達ばかりなのに、誰とも出会わない。

 これは絶対に何かある、と不安に駆られ始めた時、キラリちゃんが帰って来た。


「キズナ様ー! ムルムルさん達はもういいかなー? これ以上やっちゃうと町が無くなっちゃいそうだよー!」


 マジで町を滅ぼす気だったの? そこまでする事無いと思うけど、僕には馴染みのない町だし、奴隷には反対だから奴隷の避難が済んだら別にいいんだけどって思いだ。

 態々滅ぼす気は無いけど、成り行きで滅んでしまっても全然心は痛まない。

 偶々町の中にいるだけで、全く知らない人達の事などどうでもいい。薄情なようだけど、この砦町の人達って取捨選択で選択する中にも入ってないんだもの。

 奴隷を黙認どころか進んで捕らえるとか、奴隷は普通だと思ってこき使ってたんなら、友達が大事で大好きな僕とは真逆にいる人達だし、どうなっても気にならないね。自分から敢えて潰そうとは思わないけど、潰れて行くのを助ける気は無いよ。


 とはいえ、どうする? ここまで破壊されてるんなら、今更止めても遅くない? もう外壁がちょっとしか残ってないよ? 無関係と割り切ろうにも、実際に行動してるのは関係者だしね。ってか、友達だしね。

 ここまで来たら僕も参加しちゃう? いやいや、本来なら止めるべき立場だし、止めたくないから止めないのは自分の中でギリギリ許せるけど、僕に敵対してるわけじゃない人達に手を出すのは違うだろ。

 奴隷解放をしてる事がバレると敵確定なんだけど、まだバレてないから敵じゃない。ヴェルさん達からしたらここの人達は敵なんだろうけどね。


 町中の建物には殆んど被害は出てないようだ。でも、兵士に動きは見えない。生死は不明だけど、もう邪魔はできないだろうね。もう吹っ飛んでる人も見ないもの。


「キズナ様ー! って、聞いてるー?」

「あ、ごめん、聞いてなかった」

「もう! さっきから言ってるのにー! 奴隷になってた人達はもう連れてったよって!」

「えっ!? 連れてったって何処へ!? だって奴隷にされてただろ?」

「カゲールくんの大母様が解呪したよ。囚われてた人達は奴隷にされてなかったけど凄く衰弱してたから、そっちはウーリンの大母様たちが回復させたし、見張りや主人格の人達もテンちゃんの大父様やピッピの大母様達が無力化したよ」


 おーい! 一体何人の上位精霊が来てるんだよ! 僕の経験値がー!


「あっ! みんな戻って来た!」


 キラリちゃんが言った方向を見てみると、【クロスオーバー】で来てくれた友達達がこっちに向かって来る。

 僕の横を通り過ぎて行くが、皆ひと声掛けてから過ぎ去って行く。


 何処へ行くの?


「キズナ様ー! 全員解放したよー!」

「また喚んでくださいね」

「はいこれ。またお手紙を預かって来ましたよ」

「キズナ様の現在のレベルは……ぷっ」

「全員洞窟へ運び終わってますよ」

「この町の人間は無力化してますからね」

「ここにいたって何も無いよー」

「先に行ってまーす」

「早く来てねー」

「もうここでやる事は何も無いよー」

「ぜーんぶ終わったよー」

「やっぱり大母様達って凄いねー」

「僕も手伝ったんだよー」

「褒めて褒めてー!」

………………

…………

……


 通りがかりに言うだけ言って、そして行ってしまった。

 もう終わったの? そして何この手紙。母さんから? 僕のレベルが笑われた気がしたけど、どうなったの? 千ぐらいあったよね?

 みんな何処へ向かったの? アジトの洞窟? なんで知ってんの?

 ねぇ! 置いてかないでよ!


 皆を追いかけようとして、キラリちゃんに止められた。


「キズナ様ー! ムルムルさん達をどうするのよ!」


 あ、そうだった。町を壊滅させてしまうところだった。


「救出が終わったみたいだし、もう陽動は必要ないよね。終わるように言ってきて」


 っていうかさ。僕が始めろって頼んだわけじゃないし、勝手に始めたんなら勝手に止めればいいのに。

 ヴェルさん達にも伝えないとね。まだ突撃を繰り返してるみたいだし。


「キズナ様! なにをサボってるんですか! 次に行きますよ!」

「あー、あの、言いにくいんですけど、もう終わったみたいですよ」

「終わった? 何がですか?」

「その…救出が終わって、全員洞窟に戻ってるみたいです。なので、撤収ですね」

「はぁ~?」


 ヴェルさんが立ち止まると、先行して突撃してたノスフェラトゥさん達が突撃後に戻って来て道の真ん中で揉め出した。

 その間に町中を確認すると、ほぼ砦町を護っていた外壁が消失していた。

 その割りに建物への被害が少ないのが少々異様に見えた。

 ノスフェラトゥさん達が壊して回った扉の被害の方が大きいぐらいだ。


 納得が行かないノスフェラトゥさん達だったが、ここまで成果が無く、周囲の静けさと見通しの良くなった町の外の風景に気がつき、渋々だったが撤収に同意をしてくれた。

 砦町からの撤収は非常に簡単なものだった。だって誰もいないんだもの。

 入る時にはどうやって撤収しようかと悩んでたのが馬鹿らしくなったほどだ。

 それでも、砦町からある程度離れるまで走って行き、五分ほど走った後はゆっくり歩いてアジトへと帰った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 キズナ達が町から出ようと揉めていた頃、三人の女性が町に辿り着いた。


「なになになにー!? 門兵がいないからおかしいと思ってたけど、こっち側の外壁が無くなってるじゃない!」

「不思議ですね。兵士の姿どころか、町の人も見えませんね」

「……あそこ」


 冒険者風の装備をした三人の女性。

 年齢は十五歳前後の少女に見える。

 薄緑色の軽装備で弓装備の騒がしい少女に、白をメインに赤い装飾ラインが施された装備の少女剣士と、背の低い黒っぽいグレーの魔道士ローブの口数の少なめな少女。

 背の低い魔道士ローブの少女だけは、背格好から十歳前後に見えるかもしれないが、彼女達は同世代だ。

 ここだけの話、彼女達は全員成人していた。剣士と狩人装備の二人は十六歳、背の低い魔道士ローブの少女だけは誕生日が来ていて十七歳になっていた。


 その魔道士ローブの少女が目敏く見つけたのがキズナ達一行。ちょうど、ノスフェラトゥが活躍できずに町を出るのをゴネているところだった。


「あれがそうなの?」

「それっぽいですね」

「……当たり」

「うっそ! あれを見て来いって…大婆様も耄碌したんじゃない?」

「あの黒髪の男の子ですよね? 確かに強そうには見えません。もしかしたら頭脳派なのかもしれませんね」

「……レベルは……18」

「低っ! 嘘でしょ!? っていうか、この距離で鑑定できたの!?」

「……名前とレベルだけ」

「やはり頭脳派なのでしょうか、魔法が得意なのかもしれませんね」

「その割には周囲に精霊も見当たらないし、レベルも18なんでしょ? 得意だったとしても雑魚よ雑魚」

「……大婆様」

「大婆様が見ておくようにと仰ってたとしても、レベル18の雑魚の何を見ろって言うのよ」

「うむ、見るべきところは無いか」

「……でも直系。大婆様と同じ」

「私達からしたら大爺様になるって事? ありえないわよ! どうせ温々と箱入りで育てらてたんじゃないの?」

「ふむ、レベル18ならそうかもしれん。直系と言っても末席であろうしな。あれでは一生かかっても帰れそうに無いな」

「……おおじじ……ぽっ」


 どうやら三人の少女はキズナの事を評論しているようだ。魔道士ローブの少女は何か壷に嵌まったようだが。


「でも、この砦町って、最近あったスタンピードを退けたって話でしょ? 外壁がこうなってるのって、その時のせいなのかしら」

「そのような報告は受けていませんね。それに兵士が見当たらないのも気になります」

「……どうする? おおじじ……?」

「あんなちんちくりんを見たって参考にならないでしょ? だったら、大婆様には悪いけど町の様子の確認が先ね」

「同意します。お母様を崇拝する大神殿がある、このローデンハルツ王国に何かあっては一大事ですから」

「……わかった」


 三人の少女達はキズナ達一行には目もくれず、兵士が詰める兵舎へと向かって行った。

 見切ったとはいえまだ気になるのか、町の様子を確認しながらもキズナの話を続けていた。


「でも聖母様の直系でも末子になるとアレね、全然大した事ないのね」

「男子は初めてだという話だ。そのあたりにも問題があったのかもしれん」

「……」

「私達も、もうすぐ二年。まだまだ帰れそうもないけど、それでもあんな雑魚が一人でなんて絶対帰れないわよ」

「百年は掛かりそうではあった」

「……」

「百年でも無理よ。私達もレベルは300を超えたけど、まだ全然先が見えないもの。あんな弱っちいのが一人だったら一生かかっても帰れない。もし帰れたとしたら、それは絶対ズルしてるのよ」

「さて、私達も何年掛かるのやら」

「……やっぱり行く」

「え?」

「何処へ行くのだ」

「……おおじじのところ」


「「はぁ~?」」


 魔道士少女の意表をつく言葉に呆気に取られる二人。

 そんな事はお構い無しにツカツカとキズナ達がいた場所へと進路変更する魔道士少女。

 ふいに魔法陣が現れ、光出したので二人が大慌てで魔道士少女を押さえにかかる。


「ちょ、ちょっと何処に行こうってのよ! 行って何する気よ!」

「拘束する」

「……もが」


 魔道士の杖ごと剣士少女に取り押さえられ、狩人少女に口を塞がれた。

 魔道士少女は魔法発動に詠唱が必要なようだ。


「ふい~、危なかったよ。この浮遊魔法を使おうとしてたよ」

「うむ、このまま兵舎に向かうとしよう」

「……もが」

「見て来いって言われたけど、干渉するなとも言われたでしょ?」

「今はまだ、とも言われたがな」

「…………もが」


 二人の言葉に魔道士少女は抵抗をやめて、残念そうに目を瞑って身体の力を抜いた。

 そのまま剣士少女に担がれてドナドナされる魔道士少女であった。



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