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第60話 マスタールームにて


「まぁ、レベルの事は聞かなかった事にしとく。冒険者カードに嘘が記録された例も無いし、実際にこのキズナが達成した記録なんだろう。記録だけを見れば問題ない。薬草やポーションの知識もあるらしいからな」


 僕のレベルを聞いたギルマスのスミーさんが気を取り直して話を続けた。

 僕達に話してるというよりは、自分を納得させるように呟いているようにも見える。

 その言葉にはラピリカさんが嬉しそうに答えた。


「はい、でも先程見て頂いた腕輪アームレットからもキズナ様が優秀なのはお分かりかと」

「そうだな、基本ステータスがやたらと高いのかもしれない。しかも魔法も得意とくれば、俺が推薦人になりたいぐらいだ」

「ブラックスミス様?」

「わかったって! 取らねーから普通に呼んでくれ! 殺気も出すなって!」


 うんうん、今の殺気は凄かった。十歳頃の先生並みだったよ。僕もちょっと身構えちゃった。


「それぐらい羨ましいって話だろ! ったく…別にお前のお気に入りを取ったりせんわ!」


 スミーさんはプンプンしてるが、ラピリカさんは嬉しそうだ。『お気に入り……』って呟いて赤くなって俯いている。

 そこは普通に『察して頂きありがとう』でいいと思うんだけど。引き抜きっぽい話でしょ?


「このキズナが優秀なのは分かった。あと知りたいのは、こいつの戦闘スタイルだ。前衛なのか後衛なのか。こいつの職業ジョブは何なんだ?」

「スライム戦士です」

「スライム~!? なんだそのスライム戦士とは」

「スライム戦士です」


 ラピリカさん……全然答えになってないから。

 それに言っちゃうんだね、躊躇いもせず。

 でも普通は言うか。戦士とか剣士とか魔術士って紹介するね。うん、言うよ。

 でも、スライム戦士って何? って聞かれてスライム戦士ですって答えは無いと思うな。


「……戦士だから前衛って事でいいか?」

「さぁ、どうでしょう」

「……」

「スライムを冠してますし、未来ある職業ジョブという事でいいのでは無いでしょうか。メイン武器も棒ですし」

「棒……」


 ラピリカさんの返答に呆れて僕の方を見て来るけど、僕も知らないからね? 母さんにスライム戦士にしなさいって言われただけだから。

 それと『スラ五郎』は棒じゃないからね! 棍だから!


「スライムとは何でも吸収しますし最底辺の魔物と言う意味ではまだまだ成長の余地もあります。バブルスライムやキングスライムなど、進化先も潤沢にありますし、希望溢れる未来という意味でも素晴らしい職業ジョブ名ではありませんか」


 上手い事言ったとドヤ顔のラピリカさん。

 うん、確かに上手い事言ったと僕も思うけど、やっぱり答えになってないよ。


「そうではなく、何ができるのかを知りたいんだが……もういい、これだけの実績があれば推薦するのも吝かではない」


 ドヤ顔でニッコニコのラピリカさんに毒気を抜かれ、諦めたように推薦枠に署名をすると約束するスミーさんだった。


 そうだね、戦士職なのか魔法職なのか。戦士職なら得意武器は何なのか。魔法職なら得意属性は何なのか。そういうのが知りたかったんだと思うよ? ラピリカさんのスライム戦士に対する感想を聞きたかったんじゃないと思うな。


「まぁ、これでSランクも二〇名になるか。そうなると、アレだな」

「はい、アレですね」


 Sランクって二〇人もいるんだ。思ってたより多いんだな。

 分母が何人か分からないんで希少価値がどのぐらいか分からないけど、五人ぐらいかと思ってたよ。

 二人の言ってるアレが何かは分からないが、今気にする事でも無い気はする。僕に関係する事なら言ってくれるはずだし、言葉を濁すって事は僕が知らなくていい事柄なのだろうから。


「それで、お前さん達はこの後どうするんだ?」

「もちろん、この推薦状を持って王都に向かいます」

「そうか、そうだな。早い方がいいだろう」


 ん? 王都に向かう? こことの往復って話じゃなかったっけ?


「そこでキズナ様。今申し上げたように、私とメメジー様はこのまま王都に向かいます。本来ならキズナ様のお披露目をと思っていたのですが、キズナ様には何やらご用ができたご様子。私とメメジー様からの依頼はここまでとし、後は自由になさって頂いて結構です」


 はい? どゆ意味? ここで放逐って事?

 戸惑いが顔に出てしまっていたからか、ラピリカさんが補足してくれた。


「護衛依頼は達成です。こちらの都合での予定変更ですので、この後についてはキズナ様の自由意志にお任せします。私達について王都に向かうもよし、他の方の依頼を受けるもよしです」

「そうだな、途中の追加依頼の件も聞いている。盗賊の掃討に地龍の討伐か。もし依頼失敗だとしても釣りが来るほどだ、誇っていい。お嬢の言う通り、王都に観光に行くもいいし、別の依頼を受けてもいいだろう。お嬢が提案するぐらいだ、何かあるんじゃないのか?」


 スミーさんが足してくれた言葉で思い出した事がある。エルフのヴェルさん達の事だ。

 彼女達から助っ人の依頼を受けて承諾はした。

 でも、現在の僕は護衛依頼の遂行中だ。だけど、その護衛依頼が終了というのであれば、ヴェルさんの依頼を受けるのが筋だろう。と、その前に。


「あの、ラピリカさん。お気遣いありがとうございます。それって、ヴェルさん達の手助けをしろって事ですよね?」

「いいえ、こちらの都合で予定を変更して王都に向かいますので、ここで一旦依頼を終了するって言っただけです。ここからはキズナ様の自由になさってくださって結構です。本当なら王都へも同行して頂いて、王都観光も兼ねて色々と紹介して回りたかったのですが」


 初めから王都に向かう予定だったの? 僕にはこの町との往復って言ってたくせに。


「元々、ポーションなどで貢献頂いていますので十分な実績はあるのですが、冒険者ギルドとしては少々弱いのです。やはり討伐系が欲しかったのですが、それも地龍単独討伐でクリアできました。Sランクに推薦するにも十分です。あのままだと薬師ギルドに横槍を入れられそうでしたので」


 メメジーさんからも何度も勧誘はされてるからね。でも、ギルドなんて一つ入ってれば十分だし、ポーション作りは冒険者として活動するための補助としか考えてないから妙な束縛をされるのは困るんだよ。

 でも、地龍は単独討伐になってるんだね。ムルムルさんにも手伝ってもらったし、『クロスオーバー』でボコボコにされてたけど、致命傷になった一撃は『スラ五郎』による一撃だったみたいだし、間違っては無いのか。


「わかりました。ここからは別行動なんですね。でしたら聞いておきたいんですけど、ラピリカさんの持ってる収納バッグって、何処で売ってるんですか? 僕も欲しいんですけど」

「収納バッグですか。これは非常に高価で……キズナ様でしたら問題ありませんでしたね」


 冒険者ギルドに預けてるお金を思い出したのかな? メメジーさんとこからも定期的に入ってくるしね。


「本来、収納バッグは冒険者だとAランク以上、後は貴族の子爵以上でなければ所持できないのですが、キズナ様でしたら問題ないでしょう」


 そんなルールがあったんだね。でも、僕はBランクだよ?


「この後、キズナ様のランクをAにする予定でした。スミーさん、問題ありませんよね?」

「ああ、問題ない。俺がこの場で変更しよう。キズナ、冒険者カードを貸せ」


 冒険者カードを渡すと、スミーさんは自分のデスクに行き、何やらゴソゴソ始めた。

 その間に、ラピリカさんが僕に皮袋(小)を差し出してきた。ベルトに通して腰に下げると大して邪魔にならなくて丁度いい大きさだ。

 ポシェットと見るには、あまりお洒落でも無いから皮袋(小)としか呼べないな。


「これは?」

「はい、地龍を入れていた収納袋です。地龍がちょうど入るぐらいの収納能力があります」

「え? でも、それだとラピリカさんが困りますよね?」

「これは予備で持ってたものなんです。普段はこっちの収納バッグに入れて持ち歩いてるんですが、今回は地龍だけを入れるために使っていました」


 ラピリカさんがポンポンと持っていたバッグを叩いた。お洒落なハンドバッグ型だった。

 僕もそっちの方がいいなぁ。でも、女性物っぽいし、僕が持つと変だな。


「もちろんお金は頂きます。ランガンの町に戻ったら貯金から引いておきますから」

「はい、ありがとうございます」


 おお! これでいくらでも薬草を入れられるぞ! って、薬草基準で考えてちゃダメだろ! 冒険者なんだから、そこは魔物や鉱石の素材って考えないとだな。


 冒険者カードの変更も終わり、Aランクになったカードを返してもらった。あとは、ヴェルさん達と合流して話し合いだな。


「しかし、凄いな。この短期間にそれだけの討伐数。数も凄いが地龍を筆頭に質も高い。それに、それだけの貯金があるとは、本当に冒険者になって数ヶ月とは思えんな」

「え?」

「ブラックスミスさん?」


 ゾクッ! また殺気が。


「おいおい、率直な感想を言ったまでだ、口外したりせんよ」


 あー、僕の冒険者カードの履歴を読んだのか。


「当然です。ここで言葉にするのもどうかと思いますが」

「ここには事情を知るラピリカと本人しかいないんだ。感想ぐらい言っても罪にはならんよ」

「……」

「融通が利かんのも相変わらずか。それが長所でもあるんだが、行き過ぎると嫁の貰い手も無くなるぞ?」

「……どうやらブラックスミスさんは死にたいようですね」


 ゾクゾクッ! こ、これは、十二~三歳頃の先生レベルの殺気だ! ちょっとヤバイかもしれない。


「じょ、冗談じゃないか。それよりも、予定が変わったんなら出発の準備があるんじゃないのか?」

「はい、そうですね。準備は余裕をもってしていますが、折角鉱山の町に来ているのですから買いたい物もあります。当然、ブラックスミスさんが出してくれるのですよね?」

「んぐっ…チッ、わかったよ、こっちの経費で落としてやるさ。ったく、高くついちまったぜ。ちょっとした冗談なのによ」


 話題を変えようとして墓穴を掘ったって感じだね。

 うん、でも今のはスミーさんが悪いと思います。女性に言ってはいけない言葉ベストスリーに入ってると思います。

 こっちまでトバッチリを受けそうなので、そういう読めない言葉は辞めてほしい。


 最後にひと騒動あったが、思いもかけずにAランクに昇格してマスタールームを出てきた。

 冒険者ギルドのホールに戻ると、受付カウンターでヴェルさんが何やら揉めていた。


「何故、誰も紹介してくれないの!?」

「さっきから説明してますが、情報不足と相性の悪さです。そのあたりはご自分が一番分かってるのではないのですか?」

「だからその分依頼料を出してるではないですか」

「ドワーフはお金では無いのです。それも分かってらっしゃいますよね? 他の町なら受ける者もいるかもしれませんが、この町では無理です」

「ドワーフだけじゃないでしょ。この町にだって獣人や人族はいるはずよ」

「その者達も、この町で暮らす限り、エルフとは仕事をしませんよ。ドワーフから反感を受けますからね」

「それでも、これだけの依頼料があれば」

「この町では無理でしょう。お金では無いのです。他の町へ行けば、それだけ依頼料を積めば依頼を受ける冒険者もいるかもしれませんね」

「もう時間が無いのよ! 誰でもいいから紹介してください!」

「何度も説明していますが、この町に貴女からの依頼を受ける冒険者はいません。お引取りください」


 どうもヴェルさんの依頼は受けてもらえないように見える。

 そんなにエルフとドワーフは仲が悪かったか? 『クロスオーバー』のエルフとドワーフも仲はいいとは言えないけど、助け合うぐらいはしてたと思うけど。


「どうかしましたか?」

「パオラ、何を揉めている」


 ラピリカさんとスミーさんが同時に受付譲に尋ねる。ラピリカさんも冒険者ギルド側だから、まずは受付譲に声を掛けたようだ。

 ラピリカさんを送るためなのかスミーさんも付いて来てたけど、これはちょうど良かったかもしれない。


「っ! ギルマス! い、いえ、こちらの方が話を聞いてくださらないものですから」

「そちらこそ私の話を聞かないではないか。私は依頼を出してるだけだ!」

「ですから、この町の冒険者には貴女の依頼を受ける者がいないと何度も説明してるではありませんか」


 受付嬢はギルマスに聞こえるように言い訳がましく話している。チラチラとギルマスのスミーさんに視線をやるのだから、実際言い訳なんだろう。


「事情はわかった。二人の問答も聞こえていたから内容も分かっている。このパオラの言う通り、依頼人のお嬢さんには悪いが、この町の冒険者ギルドで貴女の依頼に答えられる冒険者はいないだろう」

「そ、そんな……」


 ギルマスの止めの一言で言葉を詰まらせるヴェルさん。


「しかし、キズナと約束をしたと聞いた。話し合ってみればいいのではないか? キズナが受けるというのであれば、ここで・・・指名依頼を受諾してやるぞ?」


 そんなにここって強調したらラピリカさんが……ほらぁ、凄く悔しがってるじゃん。


「キズナ様が? でも……」

「なんでも依頼は完了したそうだよ」

「本当ですか!?」

「本人もいるんだ、直接聞いてみればいい」


 みんなの視線が僕に集中する。受付のお姉さんまで……まぁそうなるのは当然なんだろうけど。


「キズナ様?」

「うん、さっきラピリカさんの護衛依頼はこの町までで完了となりました」

「では……」

「はい、もちろんヴェルさん達のお手伝いをさせてもらいます」

「!! ありがとうございます!」


 感激のあまり、ヴェルさんが泣いてしまった。

 断られ続けたんだろうから嬉しかったんだろうけど、僕が戦力になれればいいんだけどね。

 ある程度はやれる自信はあるけど、相手がどんなかも知らないし、何十人といる獣人の開放のはずだから一人でやれる事なんてしれてるはずだ。

 ここは……うん、友達をたくさん喚ぶべきだな。

 経験値も結構溜まって来たし、ここで少しぐらい使っちゃってもいいだろ。


 指名依頼としてスミーさんが処理してくれて、ヴェルさんからの指名依頼を受ける事になった。

 手続きだけを済ませ、宿に戻って依頼内容を煮詰める事になった。


 しかし、この町って聞いてた以上にドワーフが多い。もうドワーフの町と呼んでも過言では無いぐらい多い。

 恐らく、住民の八割はドワーフだと思う。他は獣人と人族が半々ぐらいか。

 獣人も大柄な種族が多い。鉱山の町だから荷運びや採掘などの力仕事が多いからだろうな。

 そう見ると、先日立ち寄ったフロントラインの町は、獣人の割合が多く、種族も様々だった。

 僕としては『クロスオーバー』の世界の方が種々雑多だったから目新しくも無いけど、普通の人から見れば珍しいのかもしれない。

 特に、人族が多くを占めてたランガンの町の人からすると見慣れない風景なんだろうな。


 宿に戻るとトゥーラが一目散に厩舎を目指してすっ飛んで行った。コガネマルに会いに行ったんだろう。


コガネマルの進化に関しては、昨夜の内にラピリカさんとメメジーさんから問い詰められている。

 一番の関係者であるトゥーラはコガネマルと厩舎にいたが、ヴェルさんは事の経緯を確認するため僕が追求されてる席に同席していた。

 結論として、コガネマルは一段階進化して新種になったという事で落着した。

 進化の方法も、地龍の上で寝そべっていた時に、何らかの作用があったのだろうと推測された。

 それも、僕が知らぬ存ぜぬを決め込んだからで、僕が進化させたとは報告していない。

 実際のコガネマルは、新種になったのは当たっているけど、二段階の進化の上に、本来の進化先であるストームタイガーとライトニングタイガーを掛け合わせたような存在に進化していた。

 足して二で割るでは無くて、足しただけみたいな良いとこ取りの進化を果たしていた。

 これも、自然進化ではなくて、僕の名付けに似た強烈な後押しがあったからみたいだ。


 でも、本人? 本魔獣? にとっては、より強くなったって事だからいい事だよね?


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