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第58話 母さんからの手紙


 合流時に攻撃されそうになったけど、無事合流を果たし、今は走竜の前をコガネマルに乗って先導している。前に上機嫌なちみっ子を乗せてね。

 進化したコガネマルを見て感激して、乗るの乗るのと駄々をこねまくって、結局乗せる羽目になった。

 トゥーラがこっちに来ても馬車には僕の乗るスペースは無く、結局二人乗りで馬車の前を走ってる。

 こんな魔物が街道を走ってても大丈夫なのか心配なんだけど、メメジーさんが『大丈夫じゃろ』と言ったら、他は何も言わなくなった。

 いや、言えよ! 絶対大丈夫じゃないだろ!


 街道には他にも馬車も通るし人も通る。そんな人達とすれ違ったり追い抜いたり。

 その度に、例外なく武器を向けられる、呪文を唱えられる。

 向こうの戦闘体勢が整う前に抜けてしまうから戦闘にはならないけど、凄く目立ってると思う。

 その度に僕は溜息をついてるのに、前に座ってるトゥーラは大喜び。後ろの馬車からも、ふぉっふぉっふぉっふぉって笑い声が聞こえてくる。

 いいのか? それでいいのか重鎮さん!


 鉱山の町マインには、陽が暮れてすぐに到着できたので門は開いていた。

 町に到着する前に、さすがにマズいと思ったラピリカさんが先頭を代わってくれた。

 当然だよね? 遅すぎるぐらいだよ!


 入門に関しては、フロントラインの町と同様に、すんなり入れた。なんと、コガネマルもノーチェックで入れたのだ。

 このあたりは流石ギルマスかと思ってしまった。


 そのまま冒険者ギルドに行くのかと思ったが、今日は宿に直行して明日冒険者ギルドに行くそうだ。

 これで護衛依頼の片道が終わったわけだけど、トゥーラとヴェルさんはここから逆方向になる。

 僕達はUターンして帰るけど、二人はローデンハルツ王国の一領地、ゼッターバルン辺境伯領の境界砦へと向かう予定になっている。

 その砦町に囚われている獣人を解放するためだ。あわよくば奴隷解放まで目論んでいる。

 何人の同胞がいるのか知らないが、千名の砦兵相手なら相当な数を集めても難しいと思う。

 しかもラピリカさん情報では囚われてるのは五〇人ほど。砦町で奴隷として使われてる者が百名ほど。どう考えても割が合わない。

 百五十名を助けるために千人以上が犠牲になるのは変だ。ヴェルさん達にどんな策があるんだろうか。


 そんな事を考えながら、本日取った宿の一室で寝そべっていた。

 食事はもう済ませた。妖精達ももう還した。明日の予定も聞いた。もう後は寝るだけ。

 因みに全員が個室だ。ヴェルさんもそうだし、トゥーラもそうだ。二人は文無しだから僕が宿代を払う事になっている。

 別にいいんだけど、手持ちはあんまり持って来てないんだよね。

 冒険者ギルドカードに貯金はあるけど、預けた冒険者ギルドじゃないと下ろせないらしいし、そうなると手持ち金は十数枚の金貨だけになる。

 本来なら十分なんだけど、足りなくなるような気がしてならない。

 最悪、薬草でも採って来て冒険者ギルドで売ればいいか。いや、ポーションにして売った方が高かったな。うん、困ったらそうしよう。


 それでようやく妖精達から預かった母さんからの手紙を読む事にした。

 どうせならゆっくり読みたかったからね。早く読みたかったけど我慢してたんだよ。

 で、封を開いてみてビックリ。


「ちっちゃ!」


 文字がビックリするほど小さい。もう虫眼鏡でもヤバいレベル。

 良く書けたなぁと思うけど、実際書かれてるからね。ってか、読めねーよ! ってぐらい小さな文字で余白も余す事なく書かれてある。

 もう真っ黒な紙って感じの手紙になっている。

 それが一枚。それだけ。


 いやいやいやいや、それなら二枚でも三枚でも分けて書こうよ! こんなの読めないって!


 それでも頑張って読めるとこだけでも読んだ。


 分かった事は五つ。それ以外は『愛してる』だの『頑張って』だの『寂しい』という内容が無いもの以外で分かるものは無かった。ってか読めなかった。

 一つは母さんが作ってくれた僕の服には色々隠されてる機能があるという事。

 二つ目に友達が『クロスオーバー』に持って還ったものは保管してるから、いつでも友達に言えば持ってきてくれるって事。

 三つ目にそろそろ短剣を確認しなさいって言われた事。

 四つ目が【ユニオン】を数多く熟しなさいって言われた事。

 最後が『てんしょくの塔』を目指しなさい。だった。


 一つ目の服の機能については大体分かった。内ポケットに収納(小)が付いてるのは有り難かった。他の機能は必要ないね。腕から火炎放射なんていつ使うんだよ!

 二つ目の件は知ってた。もう友達に教えてもらってたから。

 三つ目の短剣だけど、確かに初めから比べると五センチぐらい伸びてた。これって一センチ伸びるのに数年掛かるって話じゃなかった? もう五センチも伸びてるんなら、そう遠くない時期に帰れるんじゃない?

 目指せ、あと五〇センチ…ぐらい?


 四つ目の【ユニオン】だけど、こっちの友達とも【ユニオン】しなさいって……まだ人間しか友達、というか知り合いがいないから考えもしなかったけど、こっちで友達になった人ともできるんだね。

 今度、吸血鬼の人達に頼んでみようかな。

 どうやら、こっちの人と【ユニオン】すると短剣に良い影響を与えるみたいだ。

 もう少し伸びてくれたら武器としても使えそうだ。折れたら嫌だから使わないけどね。


 最後の『てんしょくの塔』、これは授業でも習ってない。文字から行くとスライム戦士を卒業できそうな場所の気がするけど、何処にあるんだろうね。

 スライム戦士ってタマネギ的なアレっぽいし、下位職だったら何にだって転職できるんだよね?


 僕からも返事を書いておこう。読めないところが多かったから、もう少し大きな文字で書いてって。

 あと、ピッピ達の特訓の内容も聞かないとね。


 収納(小)かぁ。買わずに済んだかな? どのぐらい入るんだろう。

 あれ? 今まで普通に内ポケット使ってたけど? 今の手紙も内ポケットに入れてたし。普通のポケットだったよ?


 手紙を再度確認してみた。

 読めねー。何か取扱説明書的な手順的な事を書いてるみたいなんだけど、小さすぎて読めねーって!

 これも手紙に書いておこ。先にラピリカさん達に何処で売ってるか聞いた方が早い気がする。



 翌朝、朝食を終えるとメメジーさんを除いた四人で冒険者ギルドへと向かった。

 メメジーさんは、この町の知り合いに会いに行くそうだ。今回、メメジーさんも同行した目的でもあるそうだ。


 僕とラピリカさん、それにヴェルさんとトゥーラで冒険者ギルドへ。コガネマルは宿の厩舎で留守番だ。

 宿では各自個室だったけど、トゥーラはコガネマルと厩舎で泊まったらしい。だから、てっきりトゥーラはコガネマルと留守番するのだと思ってたけど、ヴェルに何か言われて一緒について来た。

 二人は一緒には行くけど冒険者ギルドでは別行動をとると言っていた。個人的に冒険者ギルドに用があるみたいだ。

 ま、その前に地龍の分け前はキッチリ頂いてからだそうだけど。

 僕が言ったんだからいいんだけど、遠慮はしないんだね。大体の事情は聞いたけど、これでお金を持ってしまったら無謀な戦いに挑んでしまうんではないかと、余計なお世話をしてしまったかと少し後悔している。


 冒険者ギルドに着くと早速とばかりに買い取りカウンター……を通り過ぎて行くラピリカさん。

 なんで? とは思いつつ、ラピリカさんの後を追う僕達。

 ラピリカさんは買い取りカウンターの隣にある扉を開けて中へと入って行く。僕達も遅れずに付いて行く。

 入った先は大きな倉庫のような作業場だった。裏手側からは大扉があり、通常は裏から入る場所みたいだ。


 作業場では既に何人かが作業をしていて、色んな罵声も飛び交い、非常に活気に溢れていた。

 そんな中でも一際大きな声を発している大柄な獣人が一番目立っていた。


「ちょっとそこのデカい人」


 そんな見た目からして凶暴そうな大柄な獣人に声を掛けるラピリカさん。

 密かに尊敬してしまった。一緒に付いて来てるヴェルさんもラピリカさんの行動に驚いてるところを見ると、僕と同じ感情を持ったと思う。


「なんだ! ここは女子供の来る場所じゃねぇ! さっさと……うおっ! あっと……その、失礼しました! お嬢! 今日は、その…急にどうされました!?」


 初めの威勢はどこへやら。大男はラピリカさんを認識した辺りからしどろもどろになっていた。

 二人は初対面では無さそうだ。明らかにラピリカさん上位だね。


「どうされたって、ここに来る理由は一つしかありませんよね?」

「そそそそうですね」


 同意はしたが真意までは分かってないようで、返事の後の言葉が続かない。

 そんなしどろもどろの大男を放って、ラピリカさんが続ける。回りの作業員も気付き、作業の手を止めて二人に注目しだした。


「その中央に出しますから、あなたは邪魔です。お退きなさい」

「は、はい!」


 その身に似合わぬほどの素早い動きでラピリカさんの後ろへ高速移動する大男。どんだけビビってんだって思ってしまう。

 ラピリカさんの雰囲気も、いつもよりクールな感じがするし、二人の過去に何があったんだろうね。


 十分なスペースがある事を確認し、収納バッグから地龍を出すラピリカさん。

 注目を集めていた作業員達は驚き、声も出ないようだった。

 場がシーンと静まり返っている。


「早く検証しなさい。足と背中と尾の検証は終わっていますので、頭部の検証を重点的に!」

「イエス! マイ……」

「そういうのはいいですから早くなさい! 最重要事項です!」

「わ、わかりました!」


 イエス・マイ・何だったんだろう。『マイ・マム』なのか『マイ・ロード』なのか他に何かあったのか非常に気になるところだった。

 作業員達もラピリカさんの一喝で地龍の査定に加わる。

 さすがギルマスなのか、ただ単に無理を押し通してるだけなのかは分からないが、ここを仕切ってる大男だけはラピリカさんに頭が上がらない様子であった。


「キズナ様、来て下さい」


 粗方査定も終わり、地龍の顔の前に呼び出される。ヴェルさんもトゥーラもヒマで他の解体されてる魔物などを見て回っていたが、僕が呼ばれたので一緒に寄って来た。


「これが致命傷となった一撃のようです」


 ラピリカさんがそう言って説明したくれたのは、頭部が陥没するような一撃の痕だった。


「それで、キズナ様がいつも使ってる棒を見せて頂きたいのですが」


 棒って! 棍だよ、スラ五郎だよ!

 心の中で悪態をつきながら愛棍の『スラ五郎』を実体化させ、出して見せた。

 ダンジョンの戦利品である腕輪の効果で、普段は腕輪の中に収納しているのだ。


 ラピリカさんと大男が『スラ五郎』をマジマジと検証する。重たくて持てない様なので、検証中は僕が持っていて、指示されるままに角度を変えたりしている。

 結論はすぐに出たようだ。


「やはり、致命傷となった止めの一撃はキズナ様だったのですね」


 隣で大男もウンウンと肯いている。

 何故バレた!? 他にも傷はたくさんあったでしょ? それに、頭頂部への一撃もどんな武器を使ったかなんて分からないでしょ。


「ここを見てください」


 ラピリカさんが地龍の頭頂部にある陥没してる部分を指す。


「この陥没部分に細長い凹んだ部分があります。更に、その端を見てください。模様がありますよね? それが決め手となりました」


 あっ! その模様というか凹みは、『スラ五郎』の端部分に小さな鋲が丸だと味気ないので、模様として頭の部分をスライム型にシャレのつもりで装飾した部分だ。

 『スラ五郎』は一本物だから鋲なんていらなかったんだけど、味気なかったんで付けてみたんだけど、あんなにクッキリと痕が残るなんて……

 突きだと大きめのスライムが、叩くと小さな二匹のスライムがアクセントになると思って洒落てみたんだけど、まさか証拠になってしまうとは。


「それと冒険者カードを見せて頂けますか?」

「冒険者カードですか? えーと、はいどうぞ」


 ラピリカさんが僕の冒険者カードを確認すると、やはり、と溜息をついた。


「キズナ様? 前回の時も言いましたが、報告はキチンとお願いしますと申し上げましたよね? ふむふむ、やはり盗賊の履歴もありましたか。あれもキズナ様の仕業だったのですね」


 そうだった! 冒険者カードに履歴が残るんだった! でもピッピ達が倒した分までは残っちゃうの? 【クロスオーバー】で召喚する時に、僕の経験値だったり魔力を持って行くから?

 これって、どうやっても誤魔化せないんだね。


 それから、地龍の解体を始めた作業員さん達の横で、正座を強要されラピリカさんから説教をされた。なぜか、大男の獣人も一緒に正座をしていた。なんで?


 因みに、地龍はここで買い取ってもらうそうだ。

 この鉱山の町マインでは鉱石が良く採れる。という事は、鉱石を扱う鍛冶師も多く住んでいる。

 特に、優秀な鍛冶師の代名詞ともいうドワーフが多く住んでいるのだそうだ。


「……キズナ様もご苦労されているのですね」


 ラピリカさんの説教から解放される頃には、解体も大まかな部位分けまでが終わっていた。ここから細かな素材取りに移って行くのだが、説教が終わった事をヴェルさんが労ってくれた。

 ラピリカさん? ラピリカさんは説教を終えるとスッキリした表情で作業員達に指示出ししてるよ。


「はは…そうですね、ラピリカさんには初めからお世話になっていますから頭が上がりません。あ、そういえば、ヴェルさんはエルフでしたね」

「はい、キズナ様が言わんとしているのはドワーフの事ですね?」


 『クロスオーバー』の世界でも、エルフ族とドワーフ族は仲が悪かった。

 戦闘になる事は稀だったけど、会えばいつも口喧嘩を始めるのだ。もう風物詩と言ってもいいぐらい、会えば罵り合っていた。

 それはこの世界でも同様だったように記憶してるんだけど。


「私達エルフとドワーフは仲が悪いですね。ですから、地龍に追われていた時には態々この町を迂回しました。助けを受けるのも癪ですし、巻き込んでしまったら後で何を言われるか分かったものではありませんから」


 やっぱり仲が悪いんだ。


「じゃあ、今は……」

「はい、なるべく会わないように目を配っています。あいつらは鍛冶と酒以外に興味がありませんから鍛冶場街か鉱山に行かなければ殆んど会う事もありません。酒は酒場でより自宅で飲む事の方が多いですしね。冒険者をやってる者もいるようですが、この倉庫に来るような大物討伐できるような腕がある者もいませんしね」


 辛辣な言い方だけど、会いたくないってのは凄く伝わったよ。


「それに、この場にいないと分け前がもらえませんから」


 そっちが本命だったか。ドワーフと出会うかもしれないリスクより、お金を選んだんだね。いっそ清々しい性格してるよね。


「やっぱり……」

「はい、砦町にはこの町で戦士を探して雇おうと思います」


 そんな無謀な仕事を請ける人なんていないと思うけど。


「因みに、ヴェルさんの仲間は何人いるんですか?」

「……言えません。何処から情報が漏れるか分かりませんから。こうやって、計画を話しているのもキズナ様が恩人だからです。これ以上の情報についてはご勘弁ください」


 まぁ、いつ決行とは聞いてないからね。そういう計画があるって話だけだし、エルフ一人で砦を襲撃するなんて誰も思わないから、話が漏れても忍び込まれる方を警戒するだろうな。

 でも、仲間は少ないんだろうな。

 この護衛依頼が終わったら助っ人をするって言っちゃったけど、やっぱ早まったかなぁ。

 母さんのアドバイスからすると、ここはBETするべし! なんだけど、無謀な賭けだったんじゃないかなぁ。大穴でもいいんだけど、掛け金が命ってのは惹くよね。


「僕も手伝いたいのは山々ですが、依頼中ですからね。一応、この町までの往復と言われてますので、ランガンの町まで帰れば依頼完了です。その後、急いで戻って来る予定ですが、何日掛かるか分かりません。この町の滞在期間も聞いてませんしね」


 手助けしたいという思いもあるし、一度口に出した事は実行しようとは思う。

 でも、考えれば考えるほど分の悪い仕事だ。内情も不透明な部分が多すぎるしね。

できれば僕の依頼が完了するまでに計画を実行してくれれば、僕が関わる事は無くなるのではないかと密かに思っている。

 それぐらいは誰だって思うよね? ここで地龍の分け前も渡すんだし、それぐらい許されるよね?


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