第57話 足の確保
走り出す馬車を見送っていると、後ろからツンツンとつつかれた。コガネマルだ。
どうやら背中に乗れと言ってるようだ。
う~ん、僕が乗るには少し小さくない? 乗れなくも無いけど、僕を乗せたら高速で走れないでしょ。
それにコガネマルって、さっきの毛皮と同じアジャイルタイガーだろ? アジャイルタイガーって俊敏さには定評があるけど、体力無いよね? さっきも寝てたし。
一つ上位種のスピードタイガーか、もう一つ上位に進化する時に枝分かれするライトニングタイガーかストームタイガーなら楽勝だろうけどね。
そこに至るまではまだまだだろうね。
「キズナ様ー! 私の力を使う?」
困っているとキラリちゃんが声を掛けてくれた。
「僕がキラリちゃんと【ユニオン】して逆にコガネマルを担ぐの?」
「それでもいいけど、私の力をこの子に分けてあげようか?」
「そんな事できるの!」
それって加護(小)……じゃないな。妖精が与えるのって加護だっけ。キラリちゃんは、もうそこまで成長してたのか。初めてこの世界に『クロスオーバー』で喚んだ時には、まだそこまでじゃなかったと思うんだけど。
加護(小)よりも頼りない加護で、数時間で自然消滅するやつ。でも、特定の能力を二倍に引き上げる効果があったっけ。
「うん、この子は風と雷の属性を持ってるから光の私の力を分けても力が上がるよ」
「それなら私の風の力の方がいいんじゃない?」
「それを言うならキズナ様が分けてあげればいいと思う。僕は絶対その方がいいと思うな」
まだ出発前で指示出ししてないから三人の妖精はこの場にいる。
その三人があれこれと解決策を提案してくれている。
僕の力かぁ……どうやって分けるんだろ。先日の吸血鬼達みたいなのでいいのかな?
「それなら僕がやってみるよ。先日、吸血鬼にもやった時にも全然余裕があったし。それよりもう出発みたいだから、みんなは見張りをお願い」
「「「わかったー!」」」
いい返事をして三人の妖精はそれぞれの担当へと散開して行った。
あっ、しまったなぁ。コツだけでも聞いておけばよかった。ま、なんとかなるか。
「キズナ様? 何か言いましたか?」
あ、また妖精達との会話に反応されてしまった。
少し遠いのと既に防壁のための風魔法を発動したお蔭で聞こえにくかったようで会話の内容までは聞かれなかったみたいだ。
ホント何か対策を考えないと。
「いいえ、なんでもありません! すぐに追いつきますので先に出発してください!」
返事をすると何の疑いも無しにあっさりと出発した馬車。
この世界って、あんな速い馬車に追いつくのは常識なんだろうか。普通に置いて行かれちゃったんだけど。僕の事、心配じゃないの?
ま、いいけどさぁ。さっさと、コガネマルに力を与えようか。吸血鬼に名付けをした時の感じでいいよな。
コガネマルは既に名前があるから、前の時とは違うのかな? その続きみたいな感じになるのかな?
キラリちゃんができるって言ってたのにコツを聞いときゃよかった。今更呼び戻すのもなんだし、一度やってみよう。ダメだったら仕方が無いから戻って来てもらおうかな。
コガネマルの額に手を当てて、コガネマルの魔力を感じてみる。うん、問題ない。これに僕の魔力を足せばいいんだな。
そう思って、前回の名付けの時の感じを思い出す。が、中々発動のイメージが浮かばない。
名前はあるんだし、コガネマルって呼んでからやってみるか。
「君の名前はコガネマルだよ」
名前を呼んだ事で、今まで全くイメージ出来なかった起動が簡単に発動した。
そこからはスムーズに魔力を譲渡して行く。
前回の吸血鬼達の名付けで、キズナはキュラでMP3000、バンでMP10000、ノスフェラトゥでMP50000の消費だった。
コガネマルはというと、いくらでも入って行く。
いや、実際はMP5000で一旦止まってから、再度魔力が流れ始め、キズナも少し違和感があった程度でそのまま続けて流していた。結局、最終的にMP200000を消費しているのだが、地龍を倒した事でまた飛躍的にレベルアップしたキズナにとっては大した消費ではなかった。
理由は、ちょっと時間が掛かってるけど負担も少ないし、強化に繋がるのならいいか、という安易な考えであった。
魔力が飽和状態になって来たのを感じたキズナは、コガネマルから手を離した。
「コガネマル? 気分はどうかな?」
「zzzzzzzz」
「寝てる!? コガネマル寝てんの? 今から追い掛けなきゃいけないんだから起きてよ!」
コガネマルを揺すぶってみるが起きる気配は無い。
先日の吸血鬼達の件を思い出すと、バンとノスフェラトゥが名付け後に気絶したのを思い出し、もしかしたらコガネマルも気絶してるのかと思って少し待つ事にした。
「zzzzzzz」
「いや、絶対寝てるよね!」
少しぐらいならいいかと、コガネマルに何か変化が無いか確認してみた。
「大っきくなりすぎてない? さっきまで体高一メートルぐらいだったのに、顔だけで一メールぐらいあるんだけど。いや、ちょっと顔が大きくなって来たとは思ってたんだよ。でも、身体も一緒に見てみると凄っごく大きくなってんだけど」
伏せの状態で一メートルは超えていた。立つと三メートルぐらいはありそうだ。長さも尻尾を入れずに五メートルぐらいある。
「いやぁ、大きくして乗れるようにと思ってやってみたんだけど、乗れるようになったのは計算通りだとしても、大きくしすぎちゃったかなぁ」
結局コガネマルは、キズナのお蔭でツーランク進化を遂げていた。
しかも、キズナの全属性魔力を注入されたため、元々持ってる風・雷属性が飛躍的にアップしてしまった。
本来ならスピードタイガーの上位種である雷光のライトニングタイガーか暴風のストームタイガーに進化するところ、両属性を持つレイジライガーへと至ったのだ。
【鑑定】を持たないキズナには分からない進化を遂げていたのだった。
「うーん、ストームタイガーにも似てるしライトニングタイガーにも似てるんだけど、なんか感じが違うんだよなぁ」
疑問を感じ、コガネマルを検証していると、コガネマルが目覚めた。キズナが額から手を離してから凡そ十分ほどだ。
「GAOHOOOOOOO!!!!」
起き抜けに力を持て余して咆哮するコガネマル。大気がビリビリと振るえる。
上級冒険者でも震え上がる咆哮だが、殺気を感じなかったキズナは気にする事なくコガネマルに声をかけた。
「お、起きた? すぐに行けそうかな?」
『キズナ様、この度はお力を頂きありがとうございます。このコガネマル、如何様にもお使いください』
「おー! 話せるようになったんだ。それはよかったね。僕もその方が便利でいいよ」
『はっ、いつでもご命令を』
話せる魔獣の友達も多いキズナは、コガネマルが話せるように進化したのも気にせず淡々と話を続けている。
「いやいや、君はトゥーラの友達だから僕にはちょっと協力してくれるだけでいいからね」
『そうは行きませぬ。トゥーラとは良き友ではありますが、キズナ様には進化をして頂いた恩があります。ご恩には我が全身全霊をかけ必ず報います、何なりとご命じください』
「ま、その話は後でいいや。まずは乗せてくれる?」
『御意!』
そのままの状態でもキズナなら簡単に乗れるのだが、コガネマルは伏せの状態になりキズナが乗りやすい体勢をとった。
それでも十分に高いのだが、キズナがヒラリと飛び乗るとスッと立ち上がり次の命令を待った。
「みんなを追ってくれる?」
『御意!』
音も無く動き始めたかと思うと、一気にトップスピードまで速度を上げるコガネマル。
「おお! 速い速い! 僕でも負けるんじゃない?」
口ではそう言ってても負ける気は全く無いキズナだった。
「ところで、コガネマルは何に進化したの? 僕の思ってる魔獣と少し違うようなんだけど」
『我は……レイジライガーになったようです』
「レイジライガー!? 聞いた事ないな。何ができるの? 得意な属性魔法は何?」
『風と雷のようです。光も使えるようです。あと、土…いえ、金も使えるようです』
コガネマル自身、確認しながら答えてるようだ。
ステータスを自分で見れるのかな? もしそうなら凄く羨ましいんだけど。
「体力はどう? 元々あまり体力が無さそうだったけど」
『問題ありません。このまま一日中でも走れそうです』
「それはよかった。体力はあった方がいいもんね」
『御意! 今なら地龍にも簡単に勝てそうです』
「うん、勝てるだろうね。次に現れたら頼むね」
『御意! 心得ました!』
快調に走るコガネマル。そんなコガネマルがジャンプして飛び上がった。
「おお! 高い高い! ジャンプ力も相当ついたね! 僕より高く跳べるかも」
そうは言っても負ける気は無いキズナであった。
『はっ! 障害物がありましたので飛び越えました。風魔法も使っていますので、このまま十キロは飛べます』
「十キロ? 僕ならもっと飛べるよ? まだまだだなぁ」
『むぐ…まだこの身体に慣れておりませんので』
コガネマルも中々の負けず嫌いなようだ。
「他には? 例えば風だと暴風かな?」
『御意! 上位では暴風、竜巻、雷光、雷走、錬金です。中位では……』
「あ、その上位から来る中位・下位の魔法なら分かるからいいよ。本当に地龍なら楽勝になったみたいだね。錬金は鉱物を作るだけ?」
『……御意、そのようです』
魔物ならそうだろうな。錬金は上位属性だから下位属性魔法のアースウォールやストーンバレットなんかも使えるんだろうね。
でも金でも生み出せるだろうから、ヴェルさんに出してあげたら喜ぶかも。でもダメだな、僕もできるけど金や銀は武具やアクセサリ製作以外はダメだって言われてるからね。
一応、コガネマルにも注意はしとこう。ヴェルさんやトゥーラに頼まれてもやっちゃいけないってね。
「ふふーん、色々と僕の勝ちみたいだね。ところで障害物って?」
『むぐぐぐ……馬車を飛び越しました』
えっ、ダメじゃん! おいおい、悔しがってる場合じゃないよ? その馬車が目標なんじゃないか! 抜いて置き去りにしてどうすんだよ!
「待って待って、その馬車にトゥーラ達が乗ってるんだよ。戻って戻って!」
『ぎょ、御意!』
そこからスタっと音も無く地面に降りると、Uターンして馬車を待った。
やっぱりネコ科だね。音も立てずに着地したし、身のこなしも滑らかだよ。




