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第55話 なぜ登りたがる


「ヴェル様? いいと思うのにゃ」

「トゥーラ……分かりました。貴方たちは安全な人族のようなのでお話します」


 話によると、彼女達…自称トラ獣人のトゥーラが隣国であるローデンハルツ王国で奴隷として囚われていたそうだ。

 トゥーラは虎獣人村の村長の娘で、村を襲撃され壊滅状態にされた生き残りだったそうだ。

 村長共々囚われ、村から町までの護送中に地龍に襲われ、逃げ出したはいいが散り散りになってしまい、トゥーラは一人で逃げる事になってしまった。

村長である父は、皆を逃がすために殿を務めていたので、トゥーラとは離れ離れになってしまい、一緒に逃げていた者も地龍の登場で散り散りに。

 一人になってピンチの所をヴェルに助けられたそうだ。


「村が襲われた後の護送時に見つけました。エルフは肉を好んで食べませんが、中には私のように肉を普通に食べる者もおり、虎獣人の村とは肉と回復薬などのポーションとの交換をしていたのです。その交換にやってきた時に出食わしたのですが、私一人ではどうにもならず、後をつけている時に地龍が現れ、村長に加勢をしたのですが娘を頼むと言われ一緒に逃げておりました」


 バラバラで逃げてたのにこの達だけ地龍に追われてたのか。運が悪いんだな。


「他の者に目が行かぬよう、地龍を引き付けて逃げていたのですが、最後は不覚でした。逃げ切る自信もあったし油断はしてなかったのですが、気配を感じさせぬように地中深くから音も立てずに一気に来られた時には流石に逃げられませんでした」


 ヴェルさんは何か挑発するようなヘイトスキルを持ってるのかもしれないな。自信はあったのかもしれないけど、それでもトゥーラのような子供を連れての囮役は無謀だったと思う。


「私もエルフの村長の娘の一人です。王の威圧スキルを持ってますので地龍を誘き寄せたまでは良かったのですが、本当にしつこくて。もう三日は飲まず食わずで逃げていました」


 それでさっきの『食の快進撃やー』って感じになったんだね。

 あと王の威圧ね。地龍を惹き付けるだけで、逃げるほどのもんじゃないんだね。うちの先生達の威圧なら、地龍程度なら逃げるどころか気絶させちゃうんだけどね。


「私はまだ野草と樹の精気でマシだったのですが、トゥーラはほとんど食べられるものが無く、水と回復ポーションで凌いでました。本当に逃げるのに精一杯だったものですから」


 さっきの食の快進撃を見る限り、どっちも甲乙付け難い勢いだったけど?


「それは…その……お腹も空いていましたが、あまりにも美味しかったもので……」


 僕だけじゃなく、ラピリカさんやメメジーさんからも同様の疑問の視線を向けられ、顔を真っ赤にしながら言い訳をするヴェルさん。

 確かにどれも美味しかったよね。しかも、次、次、また次って思えちゃうんだよ。僕が作ってもこうはならないんだよな。味は似てるんだけどなぁ。


「ところで、地龍はどうなったのでしょうか。もう何処かへ行ってくれたのでしょうか」


 あー、地龍ね。さっきムルムルさんに持って来てもらったけど、あのまま放置だったよ。

 あれって、どうしたらいいんだろう。

 そう思って、地龍が放置された方を見ると、ラピリカさんが反応した。

 ここからは見えないはずなんだけど、何か思うところがあったんだろうか。


「キズナ様? 先ほど大きな揺れがありましたが、もしや地龍でも出ましたか?」


 ラピリカさんが聞いてくるが、地龍という言葉が出ている割に焦燥感は無い。

 実際、のんびりと食事をしているのだから今更だけどね。


「ええ、出ましたね」

「そうですか、でましたか」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「地龍が出た~!?」

「地龍! 地龍は何処なのです!」

「それは早く逃げんといかんじゃろ!」

「地龍! もううんざりなのにゃ~!」


 長げぇ~わ! タメが長すぎだって!


「それで!? それでキズナ様! 地龍は何処なのですか! 何故そんなに悠長にしてらっしゃるのですか!?」

「そうじゃ! どっちに逃げればいいのじゃ!」

「私には気配が感じられません! 何処に出たのか教えてください!」

「匂いはあっちから……んにゃ? この匂いは肉なのかにゃ?」


 トゥーラの言う匂いのする方向へ皆が視線を送ろうとした時に、トゥーラが肉の匂いに気付いた。

 さっきまでは料理の匂いが漂っていたから肉の匂いまで分からなかったのだろう。

 ポットちゃんとパンくんが解体した肉を一食分置いて行ってくれたんだ。

 実際の量としては、僕とラピリカさんとメメジーさんなら五食分ぐらいはありそうだけど、二人が加わったので一食分と見ている。

 防腐効果のある葉に巻いて、虎の魔物の毛皮でくるんでいる。保温効果を期待してのものだ。熱いものは熱いままに、冷たいものは冷たいままに、だね。


 地龍発言で慌てる三人をよそに、肉の匂いのする方へと視線を向けたトゥーラが視線の先にあるものを見て固まった。


「まさか……それは何なのニャ!!」


 視線の先にあるものは毛皮にくるまれた肉だ。なので答えは簡単、肉と答えるだけでいい。

 答えを知るキズナが答えた。


「それは余った肉を保存しています。もう一食分はありますよ」

「そんな事言ってないのにゃ! その毛皮の事を言ってるのニャ!」


 毛皮? さっきムルムルさんが狩って来た魔物の中から適当に選んだ皮なんだけど、虎系の魔物だったのがお気に召さなかったんだろうか。

 魔物もそうだけど、獣人も弱肉強食・実力至上主義は同じだったはず。

 だから同族系でも獣や魔物は食ったはず。虎の魔獣の毛皮があるからと言って怒るはずは無いのだけれど。


「この毛皮はさっき(友達が)狩って来た魔物の一つですね。保存用に取っておいたのですが、お気に召さなかったでしょうか」

「当たり前なのニャ! それは…その魔物は……」

「トゥーラ、仕方が無いわ。これも自然の掟。貴女も虎獣人の長の娘であるのなら飲み込まなければならないわ」


 ヴェルさんがトゥーラを慰めてるようだけど、トゥーラの村では違う考え方だったのかもしれない。

 一応、僕の中では『クロスオーバー』の世界の常識が初めに来て、日本の知識があって、そして学んだ各世界の知識がある。この世界の事も全般的な事は習ってるけど、局所的な事までは習ってない。村の掟や常識とか言われても分からない部分もある。これもそういう事なのかもしれない。

 食事で明るくなっていた雰囲気が暗くなってしまったが、ラピリカさんがハッと思い出し話題を変えた。


「そんな事より地龍です! 地龍は何処なのですか!」

「地龍! そうでした!」

「地龍……」

「地龍…じゃったな……」


 場は元の混沌とした雰囲気に戻り、「地龍は何処だ」「どっちに逃げる」「いや確認だ」「虎の毛皮」などなど、更に混沌となった。

 僕としても確認してもらわないといけないし、場所を教えてさっさと確認してもらおう。

 じゃないと場が収まらないしね。


「案内します、地鳴りがしたのはこちらです。間違いなく地龍でしょう」


 実際、さっきムルムルさんが出してくれたのを見てるからね。死体だったし気持ちも落ち着いている。

 と先頭に立って歩き出すが、皆からの視線がおかしい。


「キズナ様? 何故そんなに落ち着いてらっしゃるのですか?」

「そうじゃのぅ、さっきの盗賊の時とえらい違いじゃのぅ」

「Bランク冒険者というのは、地龍など簡単に倒せるのですか?」

「コガネマル……」


 やっぱりここは、演技でも狼狽えるフリをした方がよかったのかも。


「いや、あの、あれ一度っきりで、その後は無かったですから」


 ジトーという視線を背中に感じつつ、少し早歩きになって洞窟の裏手に向かった。


「あっ!」


 僕のあげた声に皆の緊張が高まる。

 地龍はいた。死体なのだから動く訳ないし、予定通りの場所に予定通り地龍の死体があったのは問題なかった。


「キズナ様ー! この子退いてくれないんだー!」

「そうなの! 何を言っても知らん振りなのー!」

「ちょっと強いから、ボクの影に入れても暴れて飛び出しちゃうんだ!」


 見張りを頼んでた妖精の三人が抗議の声を投げてくる。今は地龍の見張りをしてくれてたみたいだ。

 僕に対しての不満じゃないけど、僕に何とかして欲しいという声だろう。

 確かにアレを見れば、ね。気持ちは非常に分かるよ。あの火龍の上に居座ってるというか、寝そべってるトラ?

 トラにしては少し小さいけど、ネコにしたら大き過ぎるあの生き物。トラ系の獣魔の子供、かな?


「コガネマル……コガネマル!」


 いち早く反応したのはトゥーラだった。

 そう言えば、さっき肉をくるんでた虎革に似た色と模様だな。

 ! もしかして、僕があのコガネマルという虎の獣魔を倒して料理にしてしまったと勘違いされてたのか! 確かに模様は似てるよな。


「コガネマル! コガネマル! コガネマルー!」

「ちょ、ちょっとあなた! 待ちなさい!」

「おいおい! ネコの嬢ちゃん! 危ないじゃろ!」


 ラピリカさんとメメジーさんの制止も聞かず、地龍に向かって走り出すトゥーラ。

 地龍の鱗に手足をかけて、プロロッククライマーも真っ青な速さで駆け上がっていく。さすがネコ…いやネコ科の獣人だ。


「コガネマルー! 無事だったのね!」


 ボフン! っとトラ? に飛び込むトゥーラ。

 トゥーラの声を聞いた時から耳をピクピクさせていたコガネマルと呼ばれたトラ? も、トゥーラに抱きつかれると頭を上げてトゥーラをペロペロ舐め回している。舐めてる側なのに気持ち良さそうだ。

 やっぱネコなのかな? 僕の知ってる魔物でも見た目の形や色柄で判断が微妙なので足の大きさで判断したりするんだけど、それだとトラになるんだけどな。まだ子供なのかな?


「大丈夫そうね……」

「そう…じゃの」


 向こうは問題無さそうだな。だったらこっちを誰か助けて。

 今、僕は両肩をガッチリ掴まれて問い詰められ中だ。


「あなた! あなたは一体何者!? 早く答えて!」


 何故かエルフのヴェルさんから詰問中なのだ。それもガッチリと肩をホールドされた状態で。


「見えてるんでしょ!? あなた見えてるんでしょ! だってこの子、あなたの事キズナ様って!」


 この子達? あー、妖精達か。エルフだから妖精や精霊が姿を隠してても見えるのか。

 そういう情報は『クロスオーバー』では無かったから新しい発見だね。

 でも、この子? この子達じゃなくって?


「えと…この子?」

「ええ、そこにいる風の妖精よ! あなた見えてるんでしょ!?」


 ピッピの事だね。という事は、キラリちゃんとカゲールくんは見えてないのかな? 属性以外見えないとしたら、ヴェルさんは風属性なんだな。


「あー、ピッピの事だね」

「ピッピ!? あなた話も出来るの!? しかも名前が……もしかして使役してるの!?」


 もう、さっきの口調じゃなくなってるね。よっぽど興奮してるのか。でも、使役って。


「使役って、従者や下僕しもべじゃないんだから。友達だよ。ピッピだけじゃなくって、ここには光の妖精のキラリちゃんと、闇の妖精のカゲールくんもいるんだけど、二人の事は見えてない?」

「友達……でも、何故……」


 あー、自分が見えないものは信じられない人だったか。僕が三人も名前をあげたから、盛ってるって思われちゃったかな?


「なぜ風の妖精ピッピ様だけ呼び捨てなのですか!」


 えっ! そっち?


「いや、あの、ピッピは一番最初の友達で、小さい頃から一緒に育ったから……ねぇ」

「そうよ! ふふん! 私だけがキズナ様から呼び捨てされてるのよ!」


 ドヤァ! と腕を組んで僕の肩の横で飛びながら胸をそらすピッピ。

 他にも呼び捨ての友達っていた気がするけど、ピッピがいいならそれでいいや。

 語呂だけで呼び易いように言ってるだけだから、あまり気にしてなかったんだよね。キラリちゃんなんて見た目も『ちゃん』付けした方が似合ってるしね。


「妖精と幼馴染!? あなた一体何者?」

「何者って、さっき自己紹介したと思うけど、もう一度言いましょうか? Bランク冒険者のキズナです」

「そうじゃなくって! うぐ……秘密ってわけね。いいわ、今は助けてもらった恩もあるし詮索しないであげるわ」


 納得行かない顔をしてるけど、納得行かないのは僕の方だ。これ以上の自己紹介は無いんだからね!

 人を不快にするだけしといて、地龍に向かって歩いて行くヴェルさん。

 なんて人だ。助けたのも料理を用意したのも僕じゃないけど僕の仲間なんだよ? 実際に救助したのも僕じゃないし、その後も成り行きだし仕切ってるのはラピリカさんだ。それに、元々恩を売る気は無いけど、ちょっとぐらい納得が行かないからってあの態度は無いんじゃない?


 ヴェルさんの先に目を向けると、ラピリカさんとメメジーさんも地龍に登ろうと頑張っていた。


 えと……なんで登ってんの? 登る必要ある?

 四速歩行で頭の上まで十メートル弱だった地龍も、うつ伏せとはいえ倒れてしまえば五メートルほどだ。鱗を足場にすれば登れなくは無いだろう。

 登れなくないのは分かるけど、その登ってる理由が分からない。

 素材検証をするなら別に登らなくてもいいよね?


「ラピリカさーん! なんで登ってるんですかー?」

「今声を掛けないでください! 集中してるんです!」


 登ってる理由を尋ねたら、聞くな! って言われた。理不尽だー。

メメジーさんも背中で声を掛けるのではないぞ! と語ってる気がする。

 そこまでして何で登りたいのか分からない、僕も理由が知りたいので登ってみた。僕の場合はジャンプ一発だね。


 地龍の死体の上に飛び乗ると、ヴェルさんもふわーっとゆっくり浮かぶように飛んで来ているのが見えた。ラピリカさんとメメジーさんはもう少し時間が掛かりそうだ。

 おぉ、ヴェルさんのあれって、浮遊魔法? じゃないね。妖精に力を分けてもらって風魔法でゆっくり推進してるって感じか。

 無駄な力の使い方をするんだな。あれって全部妖精任せだろ。大して魔力を渡してないみたいだし、そんなんじゃ妖精に嫌われるぞ?

 なんで魔力を少ししか渡してないかは見れば分かるからね。何故かは知らないけど、この世界に来てから魔力と気力が薄っすら見えるようになったんだよね。


 飛んで来るからヴェルさんの方が早いかと思ったけど、ラピリカさんとメメジーさんも頑張って、着くのはほぼ同時だった。

ヴェルさんって見掛け倒しだよな。飛んで楽して来たくせに遅すぎるよ。


 地龍の背に五人が勢揃いした。一番頭側に虎の獣魔のコガネマル。そのコガネマルに抱きついたままのトゥーラ。そして僕とヴェルさんに息を荒げたラピリカさんとメメジーさん。

 これぐらいでも息があがるの? 運動不足すぎない? と言っても、メメジーさんは普段はポーション作りで高齢だし、ラピリカさんは事務職か。仕方が無いとは思うけど、ラピリカさんの場合はギルマスなんだからもうちょっと鍛えないといけないんじゃないかな。


「で、なんで登って来たんです?」


 皆に尋ねてみた。


「やっぱり登りたくなりませんか?」

「うむ、登るじゃろ」

「私はトゥーラがいたから来ただけです」

「いや、登りたくなるじゃろ」

「……いえ、別に」

「登りたくなりますよね?」

「いえ…あの……」

「自分の気持ちを偽らなくてもよいのじゃぞ?」

「……」


 なにその『山がそこにあるから』みたいな登山者的な考え! しかもヴェルさんまで仲間に引き入れようとしてるし。

 そう思う前に体力作りをした方がいいと思うけど?


 折角登ってきたので、ラピリカさんとメメジーさんとで素材検証をした。僕も重ねて見てみたけど、結構な傷がついていた。

 『クロスオーバー』に盛って行かれた時に、いつもの如く皆でタコ殴りにしたんじゃないかと思う。

 剣や槍の傷もあったし、殴られたのか鱗が割れている部分もあった。


 皆なにやってんの! とは思うけど、今回の死因にあたる僕の一撃を誤魔化せる意味では『グッジョブ!』と心の中で喜んでいた。


 検証中にトゥーラが寝てしまったので、ヴェルさんが抱えて降りて寝かしつけていた。

 ラピリカさんとメメジーさんも後は頭部だけだというので、一旦休憩する事にした。地龍を前にして皆でさっきの食事の時の果汁を飲むのだった。


誤字報告、『受け付けない』になってました。気付いてませんでした。

『受け付ける』にしましたので、あれば教えてください。

この作品に関してはワードからコピペしてるので、段落なんかがおかしくなってたりルビもおかしくなったりしてる場合があるので、気になるようでしたらご報告ください。

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